怖っ!(書くのをためらうほどシリーズ)
これは俺が小四の夏休みに群馬にあるおばあちゃんの家に、泊まりにいった時の話。
おばあちゃん一人で暮らしててさ。お袋の母方だったんだ。
「東京だけど、私達がいるから安心だから、一緒に暮らしましょう?」
って、お袋が誘ったんだけど。
「住み慣れた田舎だがらあたしゃ、でんっ!」
って、おばあちゃん断ったんだ。
俺、当時、小学生ながらに思ったよ。おばあちゃん一人で暮らしで寂しいだろうな~、って。
けど、何年経ってもおばあちゃん、都会で俺のお袋の家族と暮らさなかった。だけど、どんどん身体も痩せて、会う度、衰えていくわけよ。
さすがに歳だなって思ってた。だけど、様子がおかしいのよ。
なんか、会う時に頻度が増えていた妙なことがあってさ。
たま~に、おばあちゃんが小さな声で、ふすまや和室の奥に向かってぶつぶつ言ってるの。耳をかたむけて聞いてみると
「……今は……(聞き取れない)め……じゃ……」
とか言っててさ、今? めじゃ? よく分からんけど、子供ながらに怖かったことだけ覚えてる。
おばあちゃんは好きだったけど、なんかおばあちゃんの家は嫌だなって思ってた。
そんな矢先、夏休みに、お袋と親父が、群馬にある親戚の葬儀に行くから、俺もおばあちゃんの家に泊まることになった。
田舎の夏の夜ってじめじめしててさ、クーラーもなくて、全然寝付けないのよ。それで、深夜三時頃にトイレ行きたくなってさ。
凄く嫌な予感はあったんだよ。だけど、トイレは行かなきゃしょうがないからさ、薄暗い木造りの廊下を歩いてトイレに向かった。
電気つくけど、昔の電球って、暖色系でなんか暗いのよ。端の方見えない感じでさ。
で、トイレついたんだけど、田舎はさ、トイレとお風呂近くて、トイレからお風呂見えるのよ。
それで用をたしながら、お風呂見てたら、なんかお風呂のふたが少し開いてるわけよ。
ひのきの浴槽でさ、大人一人がゆったり入れるくらいあるの。それで、ちょうど握りこぶし二つ分くらい開いてた。
普段からお袋に「水かさ減るからお風呂のふたは閉めなさい」って言われてたから、あぁ、閉めなきゃって、思って閉めにいったわけ。
今なら、ほっときゃいいじゃん、って思うけど、おばあちゃん好きだったから、お風呂の水かさ減らしちゃだめだと思って、閉めにいった。
ホント純粋だったと今でも思う。
田舎の夏の深夜三時の浴室はさ、じめ~っとして、なんか水とひのきの匂いもしてるんよ。
そんで、お袋と親父、おばあちゃんも寝静まってるから、夜の虫の鳴く音だけがしててさ、凄く心細くなるのよ。
子供ながらにビビりながらも、近づいていったのよ。
ふた閉めようと手を、伸ばすと浴槽の隙間から……
じーっと、青白い顔の男が薄ら笑いを浮かべこっち見てるのよ。
俺、もう何も言えずに、音も立てず、腰に力入らなくてさ。後ろに後退りするだけ。
泣きそうになりながら廊下を、壁に手をかけて歩いて、部屋にたどり着いたよ。
もう、怖くってさ、布団被って無理矢理寝たよ。
翌日、お袋と親父にそのこと言ったら、
「夢でも見たんでしょ?」って、言われるだけでさ、信じてくれない。
それからすぐに、おばあちゃん亡くなってさ、真相分からないけどさ、今でも俺はあの家に、なんか居たんじゃないかって思ってる。
ほら、おばあちゃん何か言ってたし……
「……今は……め……じゃ……」
「……今は……めじゃ……」
「……今は……めじゃ……」
「今は、だめじゃ」