02.クラスメイト
学園の大講堂に集まった入学者達。その中には真尋と愁夜の姿もある。
とても大きな大講堂だがその席は半分も埋まっていなかった。
これが今年の学園の入学者と思うと少し少ない気がする。
一人の男性がステージに上がっていくとそれまでザワザワしていた講堂内が静まる。
その男性は講堂内が静まったのを確認し軽く一礼してから話し始めた。
「ようこそ、12星座学園へ。私は全天88星座開発研究機関日本支部の支部長補佐の天竹和人です。今日は多忙な支部長の代わりに私が君達に言葉を贈ろうと思う」
そこで一端言葉を切り、ゆっくりと入学者達を見回す。
「今ここに居る者は全員が、全人類の二割にも満たない黄道12星座の加護を受けている。言ってしまえば君達は選ばれた人間なんです。――――でも、そのことを傲らないで下さい。使い方次第によっては他の星座が黄道12星座を上回ることだってあります。慢心は正しい判断力を低下させます。自分の力量をしっかり把握し、互いをカバーし合える良好な関係を築けることを願っています」
また一礼してステージ袖へ向かう。
静まりかえった講堂内に和人の靴の音だけが静かに響いていた。
その後何事もなく入学式は終了した。
今期の入学者数は200名40人ずつ5つのクラスに分けられる。偶然にも真尋と愁夜は同じAクラスだった。
割り当てられた教室に向かうとすでに30人程集まっていて賑やかな話し声が聞こえる。
席は特に指定されてないようなので二人は定番の窓際の一番後ろへ座った。
途中、いくつかのグループが出来ておりそのうちの何人かと目が合った。
年が近い者同士で固まっているらしく少年少女組と成人組とで綺麗に分かれている。(目測だが)
「なかなか厳しいこと言ってたな、あの支部長補佐。言いたいことは分かるんだけど難しいな」
先程行われた入学式について愁夜が話し出す。
「その為の学園なんじゃないのか?黄道12星座が特別じゃないって教え込む為の」
「さっきの支部長補佐、彼はオリオン座であって黄道12星座の加護を受けていない」
愁夜は星座の特性もあって情報収集に長けていて博識だ。
七年前、真尋を外の世界に連れ出せたのもこの能力あっての事だ。
愁夜が居なければ今の真尋は居ない。
「本当、何でも知ってるな」
改めて真尋は感心した。
「へー! あの支部長補佐オリオン座なんだー」
突然第三者の声が二人の耳に届いた。
「ごめんね、なんか盗み聞きみたいなことして!」
声のした方をみると三人の男女がいた。
話しかけてきたのが一番手前に居る活発そうな金髪の女の子。
その奥に居るのが薄い水色の長い髪がよく目立つ女の子。
そしてその隣に黒髪でいかにも運動系男子ですといった形の男がいた。
「あたしは新延茜、17歳。魚座の加護を受けてる。で、後ろに居るのは――――」
「謝花透子です。17歳です。加護は水瓶座」
「俺は橘優斗だ。18歳、見たまんま獅子座だ」
三人はそれぞれ名乗った。
昔の日本には黒髪の人種しか存在しなかったが星の加護を受けるようになってからはその星に合わせて髪や瞳の色が変わる人間が増えた。
新延透子の様に水色は水瓶座の典型的な色だ。
「あたしと透子は幼馴染みで、優斗とは入学式で初めて会ったの。あなたたちは?」
相手がわざわざ名乗って星座まで教えてくれて、此方が名乗らない訳にはいかない。
「俺達も幼馴染みだよ。俺は十束愁夜。加護は双子座。で、こっちの愛想のないのが高宮真尋」
そう言って笑いながら真尋の方を見る。
「別に愛想無くなんかない。加護は蠍座」
少しふて腐れながら言った。
「なんか二人は幼馴染みってより……」
「兄弟みたいですね」
茜の言葉を引き継いで透子が言った。
それに優斗もウンウンと頷いている。
「よく言われる」
ニッコリと。そんな表現が合うようなとても綺麗な笑みで愁夜が返す。
「よく言われない。年は17歳で一緒だ」
それに対して真尋はばっさりと切り捨てる。
先に述べたとおりこの学園は15歳から25歳まで入学可能なのだ。
全課程が四年間で終了するため上は最高29歳まで在籍している事になる。
「で、さっきの話なんだけどさ。あの支部長補佐オリオン座ってホントなの?」
「ああ……本当だがどうかしたのか」
「いやー純粋にすごいなって思っただけだよ。支部長補佐ってことは実質日本支部のNo.2じゃん。黄道12星座じゃないのによくやるなーって」
全天88星座ある中でも極めて黄道12星座から受ける加護は大きい。
だから政治、芸能界、医療業界それぞれトップは黄道12星座の加護を受けた者だ。
力の差もあって黄道12星座とその他の星座では諍いが絶えない。
いつの時代でも権力者は踏ん反り返っている。それは今も変わらない。
入学式で挨拶をした天竹和人はそうした星座同士の衝突を十二分に知っていた。
だからこれから自分の星座について学び社会に出て行く学生達にはその事を知って欲しいと言う思いで和人は挨拶をした。
「ねぇ、授業は明日からだよね?午後する事なかったら親睦を深めるために皆でお昼食べない?」
特に用事の無かった5人は茜のその言葉で学校を出て町へ繰り出した。