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第六話 学園探索~終点・そして始まり~

「さて、ここで終点な訳だが……」


 屋上を後にして小一時間、学園見学のスタート地点である学園長室の前に戻ってきていた。

 見学と言っても判ったのは、精々学園の概要と規模くらいだ。東京にある某テーマパーク並みに広いとは流石に予想外、そしてそれを数時間で周り切ろうというのも無茶な話だ。


「ヒビキ、実は君に嘘を付いていた」


「は? 嘘?」


 じ、実は異世界云々は嘘の、壮大なドッキリだったとか? いや、まさか……でも、木葉さんなら嬉々としてやりかねない?


「食堂と屋上でのことだ。あの時は報告と別件だと言って君を一人にしたが、本当はそんなものはなく君を彼女達に引き合わせる為の方便だったのだ」


 彼女達って……ネルとシルフィオナの事か? あと高笑い(印象が強くて名前が出てこない)。


「どうしてそんな事したんだ?」


 特に何か有った訳でもないし、可愛い女の子との出会いは嬉しいものではあったが、やはり騙されたとなればいい気はしない。


「その返答は首謀者に直接してもらうとしよう」


 そう言うと扉をノックして返事も待たずに入ってしまった。

 慌てて後に続いた俺は、目を丸くして固まってしまった。端から見れば滑稽な格好だったと思う。


 奥の机に学園長が居たのは予想通りだが、驚いたのは今日の見学で出会った全員が其処に居た事だった。

 

 学園長を中心に、ハイドの妹で魔族のサラと食堂で出会った獣人族の少女ネル。

 右側に屋上で一緒に探し物をした神族のシルフィオナと高わら……ええと、神族でシルフィオナの双子の弟の……


「なんでみんなが此処に?」


「ふははははははははっ! なにやら激しくスルーされた気がするぞ!?」


 ちっ、鋭い奴め。一々高笑いを上げるイルを部屋にいる全員が黙殺する。これは慣れというか、諦めの境地なのかもしれない。


「さーて、ヒイラギ。学園見学は楽しかったかい?」


 未だ混乱が抜け切れていない中、学園長が口火を切った。


「え? ああ、楽しかったですよ。見たこと無い物も多かったし、驚くことばかりでしたけど新鮮でした」


 これは正直な感想だ。異世界の学校や風景を見る機会なんてまず有り得ないし、それだけでも貴重な時間だった。


「そうかそうか、それは良い事だな。そんな君に一つ教えてやろう。実は君の留学を強制しないと言う話、あれは嘘だ」



…………………………な・ん・で・す・と???


「実は、もう君のご両親には木葉を通じて事情を説明し、許可を貰っていたのさ。学校の方も留学ということで手続きはほぼ完了していてな」


 ぽかん、と口を開けたまま間抜けな表情で固まっている俺に構わず、学園長はドンドン話を進めていく。


「だが、留学生が本決まりじゃないというのも本当でな? 正確には、留学生を決定するのは君の意思ではなく、こちら側の代表の認可が必要だったのさ」


「代表の認可? いや、学園長……待って、話の流れからして、もしかして……」


 少しづつ頭が回り始める。つまり俺は最初から、両親や木葉さんによって外堀を埋められていた訳だ。

 ふふふっ、どうしてくれよう……、いや俺がどうこう出来る人達じゃないんだけどね。


 とりあえず胸に去来する不条理は置いといて、学園長の台詞から察するにこの部屋にいる人物達がその代表とやらなのか?


「察したみたいだな、ヒイラギ。この部屋に集まってもらったのは留学生選考の決定権を持つ者達だ。正確には委任されているのだがな~」


「はぁ~……」


「ああ、この子らを責めるなよ? お互い素の状態で会った方が人柄もわかるだろうと思ってな。ハイドとイズルートを協力者にしてスケジュールや行動を把握し、偶然を装って出会わせたというわけだ」


 なるほど、言い分は分からなくもない。格式ばって会うよりも、よほど相手の内面を知ることが出来るだろう。

 ……出来ると思うのだが、やはり心情面では些か納得いかない。


 それはどうやら彼女達も一緒だったようで、


「此処で会うって聞いていたのにビックリしました。ボク、色々挨拶とか考えてきたのに、無駄になっちゃいました……」


「わたしもです。しかも、探し物まで手伝わせてしまいました……」


 若干落ち込む二名を尻目に、サラだけはなにやら憤慨している。


「かあさ……いえ、学園長! 兄様がそんなことに関わっているだなんて聞いてないわ。どうして黙っていたんですか!?」


 そう言えば彼女は途中で合流しかけただけだ。アレも学園長の思惑通りだったのか?


「すまんすまん、連絡忘れただけだ。本当ならハイドのフォローをお願いしようと思ってたんだがなぁ~。ハイドには言付けていたんだが、まさか合流してすぐ走り去るとは予想外でな? あっははははははっ!」


 腹を抱えて笑う学園長に向けるサラの顔は、羞恥と怒りで真っ赤に染まっている。

 ちょっと割って入るのが躊躇われるほどの怒気を感じるが、このままにしておくと話が進まない。


「サラ、ちょっと落ち着いてくれ。気持ちは分かるけど色々と聞きたいことがあるんだよ」


 その紅い瞳を真っ直ぐ見詰めながら訴えると、サラは不承不承といった感じで引いてくれた。


「ありがとう、サラ。それで学園長、彼女達が決定権を持つのはわかりましたが、どうして彼女達なんですか? 学園生なんですよね?」


 学園長ならともかく、一生徒が決定権を持つというのもおかしな話だ。


「もっともな疑問だな。理由はこの学園が王立であるからだ。この学園が大陸のほぼ中心に位置していることはハイドから聞いたな? 更に付け加えるなら、大陸はそれぞれの種族の長を頂点とした三つの国により治められている」


 そりゃまた分かりやすい構成だ。


「この学園は三国の国境に位置していて、学園長こそ魔族のうちがやっているが運営そのもの三国共同で行っている訳だ。この子らが決定権を持っているのは、本国で動きの取れない王によりその権利を委任されたからなんだよ」


 ……理由はわかったが、俺と同世代の相手に異世界らの留学生を受け入れる決定権なんて、普通は与えるか?

 余程、国や王様から強い信頼と立場を持ってるんだろうが……


 何だろう? 何が、という訳でもないのに、嫌な予感がまりません。


「ふふっ、その顔だと薄々察しはついたようだね? 顔を合わせは済んでいる様だが、改めてうちの方から紹介させてもらおうか」


 悪どい笑みを貼り付けて学園長が続ける。


「ハイド・ベルリアスとサラ・ベルリアス。我らが魔族の国『ベルリアス王国』の第一王子と第一王女だ」


 お、王子に王女ーーッ!?


「次にシルフィオナ・エル・ローカスとイズルート・エル・ローカス。神族の国『ローカス王国』のこれまた第一王子と第一王女だ。双子というのは知っているな?」


 知っているな、じゃあないって!? むしろそれぐらいしか知り様がなかったわ!


「最後にネル・ローラス・ガーディアル。獣人族の国『ガーディアル王国』の第一王女だ。良かったなヒイラギ。三国の王族と一度に知り合える機会なんぞ、そうそう無いぞ?」


 出会い頭にナンパ紛いの言葉を投げかけ、偉そうに説教をし、押し付けがましく手伝い、全員とタメ口きいちゃってるなんてもっとないだろう。


「すいませんでしたー! 不敬罪で斬首とかは平にご容赦をーーっ!」


 叫びながら土下座を敢行し今までの非礼を詫びたが、むしろ彼女達の方こそ慌てて今まで通り接して欲しいと言って来た。

 普段敬語も使い慣れていないし自分でも今更だと思ったので、あまり深く考えないようにしながらその提案を受け入れた。


 と、そこで新たな疑問が浮上する。


「あの、学園長? ハイドとサラの苗字、じゃなくて家名? ベルリアスって確か……」


「ああ、ハイドとサラはうちの息子と娘だ。ちなみにうちがベルリアス王国の女王だ」


 お、親子!? マジで!? と、とても子持ちには見えないって……それよりも!


「あんたが女王かよ!!」


 最早敬語も忘れて叩きつける様に叫ぶ。


「あっはははははははっ! 良いリアクションだな、二人に口止めしておいた甲斐あったよ」


 腹を掲げて笑う学園長に力尽きて膝から崩れ落ちる俺、動じずに成り行きを見守るハイドとサラ、どうしたら良いか分からずおろおろするネルとシルフィオナ、なぜか高笑いするイル。


 確かなカオスがそこにあった。


「学園長、そろそろ本題に戻ったほうがいいと思いますが?」


 学園長が笑いを収め俺がどうにか立ち直ったのを見はらかって、今まで沈黙を通してきたハイドが口を開いた。

 どうやら学園では例え母親でも、公私のケジメをつけて学園長と呼んでいるようだ。


「ふむ、そうだな。では王立グラントリス学園、学園長でありベルリアス王国女王サフィーネ・ベルリアスとして、この者が我らが学園に相応しいか是非を問う」


 そこには先程まで笑い転げていた姿はなく、漲る自信と風格を漂わせる王女の姿があった。

 その視線に気圧されて、気が付くと直立不動で話を聞いてる自分が居る。


 先陣を切ったのはハイドだった。


「ベルリアス王国第一王子ハイド・ベルリアスの名において、この者の学園留学を許可します」


 世間話程度しかしてないはずのハイドから、まさかの肯定。


「ちょ……、ハイド、いいのかよ?」


「構わない。オレなりの益・不益を考慮した結果だ」


 むしろ益の部分があるのか激しく問い正したい。


「ガーディナル王国第一王女ネル・ローラス・ガーディアルの名において、この者の学園留学を許可します。これからよろしくお願いしますね、せ・ん・ぱ・い」


 続けてネルが厳かに告げた後、イタズラっ子のような笑みを浮かべて言った。


 いやいや、まだ決まった訳じゃ……


「ローカス王国第一王女シルフィオナ・エル・ローカスの名において、この者の学園留学を許可します。困ったことがあったらいつでも言ってくださいね? わたしは先輩で、お姉さんですから」


 天使のような笑みを満面に浮かべて言われると、もう何も言えなくなってしまう。あと胸を張らないで欲しい、目が行っちゃうから。


「ローカス王国第一王子イズルート・エル・ローカスの名において、この者の学園留学を許可しよう。姉が許可を出したなら我が言うことは何も無い。楽しくなりそうだな、ふはははははははははははははっ!」


 もうこいつは心底どうでもいい。


 なぜだか五人中四人の同意を得られてしまった。となると、自然と最後の一人に視線が集中する。


 そんな視線の集中砲火の中でもサラは動じることなく、不機嫌そうにしている。

 

 思えばサラとは、ネルやシルフォオナほども話していないし、喋った内容もナンパ紛いの台詞で赤面させただけだし、その経緯を母親にからかわれたばかりだ。

 普通に考えて許可をくれる筈が無い。


 今朝から短い人生で類を見ないほどの驚きの連続だったが、それもこれで終わりだろう。後は学園長に元の世界に戻してもらえば……



 あれ、なんだろ? これで良いはずなのに、なんでか寂しい気が…………


「……ベルリアス王国第一王女サーフィラ・ベルリアスの名において、この者の学園留学を許可します」


 許可……これで、この世界―学園とも……って、


「え、ちょ、なんで!?」


「ここで私だけ反対なんてしたら、まるで悪者じゃない」


 確かにその通りだけど、気が強そうなサラがそれだけの理由で許可するのが意外というか、納得出来ない。

 そもそも、そんな感情論で決断する人物なら、いくら学園長でも判断を委ねないはずだ。


「兄様が良いって言うのなら、信用はできるでしょうしね。それに……」


 なぜか、俺の顔を凝視した後、寂しさと懐かしさをない交ぜにしたような遠い目をした。


「……なんでもないわ、精々頑張りなさい。まぁ、困ったことがあったら相談くらいは乗ってあげるから」


 やっぱりツンデレ? まさか異世界にまで根付いていたとは。他に誰かいなければ思わず抱きしめたくなるほどの破壊力だ。


「済まないなヒビキ、サラは少々ファザコンでな……」


「ちょ、兄様っ!?」


 ファザコン?


「それが俺と関係あるの?」


「いずれわかるさ」


 そう言ってハイドは会話を終わらしてしまった。個人的には追求したいが、ハイドはもう話さないだろうし、サラは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


 学園長は……止めとこう。


「うむ、これで全員の了承を貰えた訳だな。これでヒイラギは正式に留学生に決定した訳だ」


「ちょ、ちょっと待ってください、本当に俺でいいんですか?」


「良いから許可を出したんだろう? 何か問題でも有るのか?」


 学園長の言葉に咄嗟に二の句が繋げない。此処に来て直ぐならお断りだと言えた筈なのに。


「ふむ……、ヒイラギ。君はまだ留学を断りたいと思っているのかい? なら、ここでハッキリ意思表示するといい。うちはともかく、五人のいずれかは許可を取り消してくれるだろうさ」


 まるで俺の内面全てを見透かすようなその瞳に、反射的に目を逸らす。だが、言わんとすることは分かった。最後はお前の意思で決めろと言っているのだ。


 ……迷うことは無い。一言『嫌だ』と言えばいい。そうすれば、面倒事に惑わされない日常が帰ってくる。

 両親に振り回されない、木葉さんに襲撃を受けることも無い平和な日常……可も無く不可も無く、波風の立たない平凡な毎日。


 子供の頃から両親に振り回された俺が、ずっと欲しかったもの筈だ。


「……退屈、なんだよな」


 そう、子供の頃から両親に連れまわされていた俺は、山に海に川に街にと絶えず新しい驚きの中にいた。料理でもスポーツでもゲームでも、新しい事をするのが楽しくて仕方が無かった。


 結局、蛙の子は蛙。俺も両親と同じく好奇心の虫だったようだ。それも一年鳴りを潜めていたようだが、こんな面白そうなものを魅せられては限界だ。


「(ま、なるようになるか……)」


それが俺の正義ジャスティス……って事にしておこう。


「柊響、留学生の件謹んでお受けいたします……どーなっても知りませんからね?」


 俺がそう言った瞬間、ネルとシルフィオナが歓声を上げイルが高笑い。

 ハイドは無言で俺の肩を叩き、サラはため息をついてそれを眺め、学園長は満足そうに何度も頷いていた



 この日から、俺の異世界での学園生活が幕を開ける。


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