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第五話 学園探索~屋上・実った果実と高笑い~

 さてさて、お城見学もとい学園見学は続くどこまでも……って、今度は屋上を見せてくれると言うので階段を昇ってるんだけど結構キッツイ。


「天井が高いおかげで、階段も多いね」


 普通の学校の倍近くはあるんじゃないか?


「慣れればどうということもない」


 軽快に昇っていくハイドに溜め息を吐き、足に力をこめてついていく。

 キツイといっても校舎は五階建てなので、親に登山に行くぞと拉致されるより遥かにましだ。。


 階段を昇りきって鉄製の大きな扉の前に立った時、ハイドは振り返ってこれからの事を告げた。


「さて、済まないがしばらく此処で時間を潰してもらえるかな?」


「ええっ~、そりゃまた何で?」


 ついさっき食堂で放置プレイされかけたのに。


「先程学園長に報告に言った際に、別の用件を頼まれてしまってな。生憎と断れなかった。そう時間は掛からないから、疲れた足でも休めていてくれ」


 それだけ言うと、サッサと階段を降りて行ってしまった。

 校舎を勝手に歩き回る訳にもいかないので、仕方なく扉に手を掛けて押し開く。


 建物が城っぽかったので屋上も同じようなものと無骨な印象を持っていたが、良い意味で裏切られた。

 屋上庭園とも言うのか、マス目上に花壇が配置されており、色とりどりの花が屋上を極彩色に飾り立てていた。


「なるほどな、これなら見る価値もあるし時間も潰せそうだ」


 満足感を覚えながら今度は手すりの向こう側に目を向ける。学園長室でも見た……いや、窓という制限がない分より雄大な景色が目に入った。



 突き抜けるように蒼い空、世界を見守るかの様に大空に鎮座する三つの月、中世の城や施設を連想させる堀に囲まれた学園、

 堀の外側に広がる水路が張り巡らされた美しい町並み、遠景にその姿を見せる山々。


 幻想的……陳腐な言い回しかもしれないが、一番しっくり来るのは間違いない。


「これだけで異世界も悪くないって思えるから不思議だ……んっ?」


 なにやら背後で物音が聞こえた気がして、振り返り庭園に目を向ける。特に先程見たときと違いは……あれ?


「あれって人か?」


 結構離れた花壇の一角にキラキラと光を反射しながら動く影一つ。

 気になったしやることもないので、此処はひとつ近づいて正体を確かめてみることにする。


 歩を進めるたびに謎の人影の全容が見えてきた。


 キラキラしていたのは花壇に座り込んだ人物の髪で、輝く白銀ののポニーテールが動く度に光を反射していたようだ。


「……どうしよう、どうしよう。早く返さなきゃいけないのに」


 もう、直ぐ後ろまで来ているのだが、余程慌てているのか鈍いだけか気が付く兆候はない。

 何やら困っているようだし、後ろに立ってるだけだと単なる不審者だし、とりあえず声を掛けてみるか。


「あの~何かお困り――」


「は、はい!」


「ギャアースっ!!」


 目になんか当たった!? 勢い良く振り返ったせいで、長いポニーテールが思いの外強くあたった!?


「あ、あわわわわわっっ……、大丈夫ですか!? ごめんなさい!ごめんなさい!」


 謝罪の声が聞こえてるがそれに応えるどころではない。しばし心配の声をBGMに花壇脇を蹲ったが、痛みが引いたて来たのを確認してゆっくり目を開ける。


 瞳が写した先には、パッチリとした蒼い目が印象的な端正な顔立ちの少女。新雪のように白い肌。

 そして何より目を引いたのが、


「メロン……いや、スイカ?」


 制服の包まれていても自己主張の激しい、たわわに実った自女性の象徴に、思わず口から煩悩が……あれ? なんか既視感デジャブ


「メロン? スイカ?」


「いや、何でもない。大丈夫だから、ちょっと離れて」


 幸い口から漏れた煩悩の意味は悟られなかったようで、ちょっと離れるようお願いする。

 出ないと色々刺激が強すぎて、また自分でもナニを言うか……まだなんかおかしい気がする。


「あの、本当にすいませんでした、ごめんなさい、許してくださいっ!」


「いやいや、こちらこそ急に声を掛けてごめん。驚かすつもりは無かったんだけどね。

ところで何か探していたようだけど、落し物かなにか?」


 そういえばさっきもこんな遣り取りあったなぁ~っと思いつつ、謝り続ける少女に先を促す。

 あ、耳が細長くて漫画で見る様なエルフみたいだ。ハイドに聞いた髪の色の特徴を合わせて考えるに、彼女は神族とやらかな?


「は、はい。実はわたく、用事があって学園に来たんですけど、時間があるので此処でお花を眺めて回っていたら、学生証を落としてしまったみたいで……」


「学生証?」


 ふむ、そういうのはあまり日本の高校とかと変わらないんだな。


「第一階級二位のミスリル製の学生証です。今度階位が上がるので、古いのを返却しないといけないんです」


 訂正。伝説の金属で出来た学生証ってなんだそれ。


「……あれ? 階位が上がるって事は、もしかして年上?」


 第一階級一位になるのなら高校三年生に相当するはず。背丈や巨乳はともかく、喋り方や雰囲気が幼い感じなので、自分以下の年齢と勝手に思ってしまっていた。

 

 すると……あ、やっべ。


「年下なのにタメ口きいちゃって、すいませんでしたっ!」


 息子にとっては困った親ではあるが、目上に対する礼儀は厳しく躾けられたのでやっちまったと少し青くなる。


「気にしないで下さい。それにわたしも普通に話し掛けて貰う方が嬉しいです」


 満面の笑みで本当に気にしてないように言ってくれる彼女に、なんだか胸の奥が暖かくなるような感覚を覚える。


「……わかった、それじゃあ普通に喋らせてもらうよ。それで学生証の色とか大きさは? 俺、この学園の生徒じゃないからわからなくてさ」


 生徒どころかこの世界の人間じゃないから、ミスリルってどんなものか知らないし。漫画とかだと大抵銀色とかだけど、ここだとピンク色の金属かも知れない。


「あ、そうなんですか? えーとですね、これ位の薄い白銀色で盾と三本の剣が交差する模様が彫られています」


 両手でテレホンカードみたいな形を作りながら教えてくれる。


「へぇ、なるほど。落としたのは此処で間違いないの?」


「はい、それは間違いありません。屋上に来る前に二人で確認しましたから」


 二人?


「弟と来ていたんですけど、用事があるとかで何処かへ行っちゃって……」


 俺の表情から疑問を察したのか、過不足無く答えてくれる。ちょっとトロ……のんびり屋っぽく見えたけど、案外鋭いのかも。


「じゃあ、俺も探すの手伝うよ。通ったルート教えてくれる?」


「ええっ!? そんなご迷惑ですよ!」


「迷惑と言うほどの手間でもないだろ? 俺も此処で人待ちでね、連れが来るまでの暇潰しみたいなもんだよ。だから遠慮する必要もないよ」


 実際、ハイドが戻ってくるまで手持ち無沙汰だし、庭園を見て廻るにしても探し物の横で精神衛生上よろしくない。


 その後、数回の問答の後に渋々ながら手伝いを承諾させ、二人で手分けして捜索が始まった。


 …………が、なかなか見つからない。捜索範囲はそこまで広くないから、二人ならすぐ見つかると踏んでいたんだけど……。


 そうこうしているうちに、三十分ほど経過してしまう。


「もう……探さなくていいですよ。後はわたしだけで探しますから。これ以上ご迷惑は掛けられません」


 時間の経過に比例して罪悪感も増したようで、そんな事を言い出してきた。

 俺としては気持ちは分かるけど、半端に手伝ったまま退場するのも後味悪い。もそもハイドがまだ戻らないのでどうしようもない。


「見つかるまでどれだけ時間が掛かるかわかりませんし、これ以上わたしの為にご迷惑は……」


「あ、それダウト」


「ほえっ?」


「別に君の為にやってる訳じゃないんだよね~」


 花を傷つけない様に掻き分けつつ、彼女の視線を背中に感じるが振り返らずに作業を続ける。


「あ、あの……じゃあ、なんで?」


「百%自己満足? なんていうか、誰かの為って押し付けがましい気がして嫌いなんだよね。だからさ、君を手伝うことで俺に不利益が有ったとしても、それは手伝うって決めた瞬間から自己責任なんだよ。故に君が気にする必要ないし、ここまで手伝わせて梯子を下ろす方がよほど迷惑だよ」


 ここで手伝うのを止めて、後になってどうなったか気になって眠れなくなったらどうしてくれる。


「……そんな考え方、したことなんて一度ももありませんでした」


「俺が捻くれているだけかも知れないけどね。で、手伝ってもいいのかな?」


「……はい、もう何も言いません。よろしくお願いしますっ!」


「了解。それじゃあ、俺は入り口の方から探すから、君は奥の方からお願いしていいかな?」


 なぜか元気を取り戻して奥に駆けていく彼女に苦笑し、入り口に近い花壇から探していく。

 とはいえ、ハイドが来てしまえばゲームオーバー、時間切れだ。いや、あいつも手伝わせるか?


 得体の知れない料理を食わされそうになった、復讐じゃーっ! と黒い事を考えていたら、ポトッっとなにか軽いものが土に落ちるような音が聞こえた。

 すぐ近く、音のした方に視線を向けると、花壇の中に磨きぬかれた金属の光が目に入った。


「これって……なぁ、これが学生証ってやつかな?」


 名刺やポイントカードの様に財布に入る大きさの、盾とその前面に三本の剣が交錯した意匠が彫られた金属のカード。

 そして大きさの割りに結構重いのはともかく、個人情報は何も書かれていない。まさかIDカードじゃあるまいし、どうやって持ち主を特定するんだろうか。


「いや、さっき調べたときはなかったはず。どこから来たんだ……?」


 周囲を見回してみても、出入り口と花壇と彼女以外には特に何も見当たらない。


「……ま、いっか」


腑に落ちない物はあるけど。


「はい、これです! 良かった、本当に良かったぁ~。本当に助かりました、ありがとうございます!」


「うん、良かった。なんとなく釈然としないけど、見つかって良かったよ」


 彼女に学生証を手渡すと、彼女の手に乗った瞬間カードの表面に光が走り文字を形作る。

 なにあれ、もしかして持ち主が触れている時だけ出るとか? 科学みたいに、本人認証の魔法とかあるのかも知れん。


 まぁそれはともかく、喜ぶ彼女を見ると素直に良かったと思える。疑問点はあるが、終わり良ければ全て……


「ふはははははははははっ!!」


 良し、と思った所で響き渡る高笑い。何だ何だ、今だかつてを聞いたことが無い、ここまで絵に書いたような高笑いの主は!?。


 屋上の入り口に目を向けると、銀髪で長身の男が高笑いしながら此方へと歩いて来る所だった。

 近づいてくると良く分かるが、耳も長いし肌も白いので神族で間違いないだろう。目鼻整った貴公子然とした美形で、何処となく宝塚の俳優を彷彿とさせる。


「ふはははははははははっ! 待たせて済まなかったな、フィー! 学生証の方は見つかったかな?」


「もう~、遅いですよイルぅ! こちらの方が手伝って下さったおかげで、見つけることができました」


「ふむ、そうか。そこの君ぃ! どうやら我が姉が世話になったようだ。(われ)からも礼を言わしてくれ。手を貸して頂いたこと、感謝するぞ。ふはははははははっ!」


 一々芝居がかっているが、その言葉に嘘は無いように思えるので素直に受け取ることにした。

 ノリが付いて行けない感じなので、正直あまり関わり合いたいとは……あれ? 姉って言ったか?


「えーと、今更ながらヒビキ・ヒイラギです。成り行きで手伝っただけなんで、大した事じゃないです……あの、もしかしてお二人は姉弟で?」


 見た目はともかく、性格が似て無さ過ぎるにも程がある。


「イズルート・エル・ローカス。フィーの弟をやっている。まあ、双子だから差などあってないようなものだがな。ああ、我のことはイルと呼んでくれたまえ、敬語も不要だ。以後、お見知りおき願おう。ふはははははははっ!」


 とりあえず高笑いに持って行きたいらしい。それに自分のことをワレなんて呼ぶ奴も初めてだ。これも異世界クオリティー?


「あああーっ! す。すいませんすいません! 手伝ってもらったのにまだ自己紹介もしてませんでした!」


 俺もしてなかったので別に慌てる必要はないのだが……と思っていたら、彼女の慌てた様子がピタリと鳴りを潜め、スカートの両端を摘まんで優雅にお辞儀した。


「シルフィオナ・エル・ローカスです、お優しい方。このご恩はいずれ必ず、お返しいたします」


「…………あ、ああ」


 先程までの慌てぶりや幼い雰囲気は何処へやら。

 まるで教本の様な完璧な仕草と深い知性を感じさせる声に、なんとか一言しか返せなかった。


「フィー、そろそろ時間だ。舞台は整ったようなのでな」


「ええっ! でも、ヒビキ君にまだ何もお礼出来ていません!」


 ……と思ったら、すぐにさっきまでの調子に戻る彼女ことシルフィオナ。どっちが本当の彼女なんだろうか?


 イルが近づいて何やら耳打ちすると、シルフィオナは目を見開いて固まった。


「え……それじゃ…………ヒビ…君…………今日……生……ですか…」


「うむ……まり…………計画……この後…………ふはははははははっ!」


 あの~、人の前で内緒話されると余り良い気分ではないんだけど。それと最後の高笑い、関係あるのか?


「うむ、それではヒビキ! 我々はこれから重要な案件が控えているのでな、これにて失礼させてもらおう。では、さらばだ。ふはははははははっ!」


「満足にお礼もしないうちに、ごめんなさいヒビキ君。どうしても行かなきゃ行けないんです。今日は本当にありがとうございました。それでは、またあとで会いましょう」


 片方が高笑い、片方は丁寧に礼を言いながら屋上から去っていった。


 急な展開に思考の処理が追いつかず、取り合えず手だけは振って見送った後にふと我に返る。


…………またあとで?


 ほどなくハイドが迎えに来て屋上を後にするまで、その言葉が頭を巡って止まないのであった。


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