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第三話 学園探索~通路・ツンデレ魔族ッ娘?~

「うっは~、広いな~~……」


 学園長の部屋を出てからハイドの先導で歩いているが、俺は只々その規模に驚かされるばかりだ。


 だだっ広い廊下には赤い絨毯が敷かれているわ、高い天井にはシャンデリアのような照明が吊るされているわで挙げたらキリがない程だ。


「この学園は大陸でも最大規模のものだからな、君でなくても驚くだろう」


 ハイドの説明によればアルターには大陸が一つしかなく、この学園は大陸のほぼ中心位置に建てられているのだとか。


 ハイドには地球の知識も少しあるらしく、お互いの世界にあるものないものを例に挙げて教えてくれるので、非常に判りやすくて助かった。

 ちなみに言葉や文字も、木葉さんが俺を送り込むのに使った魔方陣に翻訳魔法とやらが組み込まれていたおかげで、俺も問題なく喋るのも読むのも出来る。便利だね、魔法。


 そのハイドから教えられたことは、この世界には魔法が存在すること、地球には存在しない生き物や魔獣ドラゴンとかが居る事、文明レベルは大きく遅れをとっている事などだ。


 説明を聞きながらふと疑問に思ったことを口にした。


「ハイド、ちょっと質問」


「どうした、ヒビキ?」


「いや、ハイドも瞳が紅いなって。学園長も紅かったから親戚か何かなってさ……あと、その角本物?」


 もし学園長の身内だとしたら、警戒しなければと言わざるを得ない。


「そういえば学園長は言ってないようだったな。この目が紅いのはオレも学園長も魔族だからだ。角も本物で魔族特有の物だ」


 へぇ~~~、魔族ねぇ。


 …………………………………はい?


「ま、魔族?」


 なにそれそこはかとなく不吉な響き。


「そうだ。オレ達魔族は体毛の色に差はあれど、種族共通の特徴としてこの紅い目と角をがある。目は魔眼と称されることもあるがな……そんな目で見なくとも、食生活もヒビキ達と変わらなければ、生贄を使った闇の儀式なんてものもない」


 怯えが顔に出ていたのか、ハイドがやや呆れた様に言った。


 漫画やアニメのイメージが先行してしまったせいか、あまり良い印象が浮かばなかったが、嘘ではないだろうと思う。


 そうでなければ、いくら豪放快楽主義の木葉さんでも、可愛がっている(おもちゃとしてだが)友人の息子を死地にやったりはしないだろう……


……し、信じていいよね、木葉さん?


 俺の心中を知ってか知らずか、ハイドの説明は続く。


「オレ達魔族の他にも神族、獣人族が存在している。この三種族がこの大陸を統べる三大種族だ。神族の体毛は金や銀といった明るい色が多いな、魔族にはない色だ。瞳の色も碧色や蒼色がほとんどで、あとは肌が他二つの種族に比べてずっと白い。他には耳が特徴的だが……ふむ、ところでヒビキ、君は猫耳萌えだったりするか?」


「……ごめん、もう一回」


「君は猫耳萌えか? ああ、総称してケモナーだったか、そっちに萌えたりするのか?」


「とりあえず違うと言わせて貰おう、そしてなんで萌えなんて言葉がある!?」


「学園長が広めたんだ。オレも正確にはわからんが、特定の格好や関係に恋にも似た感情を覚えることだと言われた」


 うん、それ木葉さんが黒幕だね、以前俺も教えられたことあるし。

 木葉さんがファーストコンタクトされた異世界人(っか日本人)だったことが、この世界の汚点にならなければいいけど……


「聞かなかった事にしよう。それで、猫耳と話にどんな関係が?」


「ふむ。獣人族というのは、獣の耳と尻尾を持つ我々と同じ人型の種族だ。並外れた身体能力を持っている」


「そいつは凄いね」


 なるほど、リアル猫耳とかいるワケだ。その手の趣味の人には天国かもな、俺には関係ない…………はずだ、多分。


「……ちょっと思ったんだけどさ、さっきから誰も居なくない?」


 種族の説明を聞いている時に気になって前や後ろを注意していたが、誰も通りかからないし、人がいる気配もない。


 そもそも先程から通りかかる教室はどれも無人だし、窓から外を覗いても堀の向うの町に人影は見えるけど、内側――つまり学園内に人影は見当たらない。


「今日は休日だからな、生徒はほんどいない」


 よし、ちょっと待て。


「工場見学でもあるまいし、授業とか見なくていいのか?」


「今は新階位前の冬季休暇中でな、授業はやっていない。そもそも留学の案自体急な話だったからな、調整がうまくいかなかったのだ」


 眉間に皺を寄せて唸る姿は、なかなかに苦労していそうだなと思わせるには充分だった。

 案内役を任されているから信頼はされているのだろうが、同時に面倒事も押し付けられているだろうことは想像に難くない。


「だが悪い面だけでもない。この世界で地球の情報が公式に発表されたのは僅か一年前だ。あちらの住人と接触した者となれば、片手で足りるほどしかいない。そんな中を生徒がいる際に練り歩けば、とんだ客寄せドラゴンになるだろう。落ち着いた見学など叶う筈もない」


「あ~、それは確かに遠慮したいかな」


 目立つのはそんなに嫌いじゃないが、珍獣扱いは勘弁して欲しい。


「この学園は広大だからな、歩き回るだけでも時間がかかる。生徒に関しては休日でも来ている者もいるだろうから、そのうち見掛けることもあるだろう」


「了解、ありがとう。ところで、さっき言っていた階位ってなに?」


「ふむ、君達の言うところの学年分けと言ったところだ。全三階級三位、つまり九つの学年に分けられている。一つの階級で三つの位に分けられ、一年で一つずつ上がっていく訳だ。オレは第一階級二位になる」


 小学校≒第三階級、中学校≒第二階級、高校≒第一階級みたいなものらしい。


 つまり、これに当て嵌めると俺は第一階きゅ……


「兄様っ!」


 ん? 俺に妹は居ない筈だけど?


 背後から響いた声に体ごと向けて振り返ると、赤い上着と黒のスカートを着た(ハイドの服と同じような刺繍がしてあるから学生服か?)少女が、 早足で距離を詰めてくる所だった。


 歳は同じが少し下くらいかな? 濡れたように艶やかな黒髪は腰まで伸ばされ、赤いリボンでまとめられていて、側頭部からは小さな角が左右に一本ずつ出ている。


 遠目に見てもなかなかの美少女かと・・・・・・


「兄様、こんなところにいたの?」


 前言撤回、かなりの美少女だ。アイドル並み……いや、下手なアイドルぶっちぎるぞこれは。


「学園長室で待ち合わせじゃなかったの? 時間通りに行ったのに誰もいなかったわ」


「昨晩予定変更の連絡を貰ったのだが、その様子だとお前には伝え忘れていたようだな」


「はぁ~~……、そうみたいね。あの人は身内相手だと、どうしてこう……」


「サラ。気持ちは分かるが、まずは挨拶だ」


「え? ああ、ごめんなさい。私は――」


「超可愛い……」


「え!?」


 生まれて初めて至近距離で見る超アイドルクラスの美少女に、脊椎反射で口から煩悩っぽいものが流れ出てしまった。


 ……じゃなくて!? 初対面の相手になに言ってんの俺!?


「え、えと、あの、その……あ、ありがとう?」


 顔をその瞳と同じく真っ赤にさせて、もじもじとお礼をいう姿はまた別次元の可愛さいやそろそろ正気に戻れ俺。


「ど、どういたしまして? ひいら…ヒビキ・ヒイラギです、いきなりおかしな事言ってすいません」


「さ、サーフィラ・ベルリアス……魔族よ。サラで構わないわ。それにお世辞の一つや二つで、謝る必要もないわね」


 まだ若干頬が赤かったが、向こうも落ち着きを取り戻したようでしっかりと挨拶を返してきた。


 お世辞というか本音が漏れ出ただけなんだけど、そこを言うとまたひと悶着ありそうだったので黙っていた。


「オレからも紹介しよう、妹のサラだ。器量は良いのだが勝気な所が玉に傷だな」


「余計なお世話よ、兄様」


「兄妹兄弟なのか? なるほどね」


 言われてみれば顔の造詣とか、どっちも似通った美形だ。


「まったく……あなたも、異世界だかニホンだか知らないけど、学園内で騒ぎとか起こさないでね?」


 整った顔で言われると、なかなか迫力がある。騒ぎなんて起こすつもりはないんだけど、いきなりあんなこと言われたら仕方ないのか?


「……ま、まぁ、そんなことにならないように私が見ててあげるから、安心しなさい」


 ツンデレ魔族?


「それにしてもヒビキ、正直意外だ。出会い頭に口説き文句が出るとは、予想を超えていたな」


 ハイドが無表情に――だが目で笑って――こちらに向かって言った。


「そんな大層なものじゃないって。そもそも、女の子に面と向かって可愛いなんて言ったの生まれて初めてだし」


 言っていて虚しくなる気がする。こんなだから年齢=彼女いない暦なのかもしれない。


「は、初めて? わ、私が可愛いなんて……」


 なぜか再び顔を赤らめて俯くサラ。その仕草に胸がちょっと高鳴るが、なんとか自制してその理由を考えてみるが、よく考えなくともナンパ紛いの台詞です本当にありがとうございます。


「あ、ごめ、じゃなくてすいません、今のはナン……」


「よ、用事が有るのを思い出したわ! 申し訳ないけどこれで失礼するわ! ま、また後で会いましょう!」


 どうにもこちらの声は聞こえていないようで、急に顔を上げるとこちらの言葉も聞かずに走り去ってしまった。


「……………………白か」


 スカートで全力疾走は止めましょう。いや、個人的には嬉しいけどね?


「なんか、やっちゃった感があるんだけど」


「スカートの中を食い入るように見てた者が言う台詞か?」


 ですよねー。でも、しょうがないじゃない、男の子だもん。


「だが、今回に関しては良くやったと言うべきだろうな」


 そう言って右手でグッとサムズアップを突き出してくるハイド。心なしか表情が明るい気がする。


「どういう意味だよ?」


「なに、サラが家族以外の前で素の感情を出すのは珍しいからな。良い事だと思っただけだ」


「思いっ切り引かれたかも知れないけどね」


 と言うか、あれぐらい可愛かったらお世辞抜きで可愛いなんて言われ慣れてるはずだけどな?


「気にする必要はないと思うがな。嫌われてもいないだろうし、それでも気になるのなら、後で謝罪するといい。どちらにしろ合流する手筈だ」


「……分かった、今は見学を続けよう」


 彼女のことは気になるけど、今はどうしようもない。もう追いつけないだろうし、追いかけても間違いなく迷子になる自信がある。


 ハイドに導かれ俺は再び園内見学の為に歩を進めた。

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