第十六話 学生ギルドと男の娘
今更ながらアルターは地球と同じく週七日制だ。
曜日の名前まで一緒になのは翻訳魔法のおかげなのか、はたまたご都合主義なのか。
更に言うなら学園の週末の土日は休みで授業は無いのだが、少なからず教師もいるし教室や施設も申請の必要はあるが一部を除いては開放されている。
魔法の訓練や武器の練習、図書室で勉強する者も居れば、錬金室で得体の知れない実験に耽ったり、工作室で日曜大工に勤しむ者もいるとか。
つまり、休みの学園を俺が歩き回っても全然問題は無い訳だが……
「うん、道に迷った」
「キュ~……」
別の意味での問題はあったようだ。
ハイドやサラから聞いた話を確かめる為にある場所に向かっていたが、地図を忘れたのは痛かった。
取りに戻るのも面倒だし、案内板でもあれば大丈夫だろうと高をくくっていた結果が現状である。
今は迷路にも似た校舎内を探索中で、似たような景色ばかりで一度通ったかどうかすら定かじゃない。
「ギン、道分かるか?」
「キュッキュッ」
素早く首を横に振るギンを頭に乗せ、これからどうしようかと考える。
休みで人が少ない所為か、誰も通りがからないから聞くに聞けない。
「こういう時、日本だったら携帯でヘルプ呼ぶんだけどな」
持ってる携帯で呼べそうなのは木葉さんと学園長だが、二人とも立場上休日でも仕事が余っている可能性がある。
そんな立派な社会人を、情けない私用で呼び出す訳にはいかない。
……ではなく。
「あの二人に借り作るのは恐ろしいからな、絶対に避けるべきだ」
木葉さんに借りを作ると闇金も真っ青の利子が増えていくのだ、お金じゃなくて無理難題の危険度が。
学園長からも似た匂いがするから生活や学園が関わることならともかく、私的な借りは作らずに済むに越したことはない。
「あら、ヒビキ君じゃない?」
もうこうなったら窓から外に出ようかと思っていたところ、後ろから聞き慣れぬ声で呼び止められた。
「あ、ええっと……どちらさんだっけ?」
呼ばれた声に振り返ると、目に付いたのは鮮やかな紅白。
赤は女子用制服の上着の色で、白は彼女の背中まであるその髪の色。
その雪のような清廉とした白に見覚えはあったが、悪戯っぽく笑ってる艶やかな笑顔の美少女に見覚えが無かったので、思考を挟んだ分反応が遅れてしまった。
「あ、酷いなぁー。クラスメイトの顔忘れるなんて」
ああ、それなら髪も見覚えがある筈だ。
金・銀・黒・赤・青といったカラフルな髪の人は多いが、真っ白な人は珍しい。
「ごめん、それなら確かに俺が悪い」
謝罪して頭を下げると、頭上から『ふふふっ』と小さく笑う声が聞こえた。
「なーんてね、別に気にしてないから頭を上げてよ。そもそも自己紹介したわけじゃないんだし、私の事知らなくても不思議じゃないでしょ?」
確かに自己紹介された覚えも無いし、移動教室などでクラスにいる時間も少ない所為かまだ名前も知らないクラスメイトがほとんどだ。
「そう言って貰えると助かる。これからは気を付けるよ」
クラスメイトの顔だけでも覚えるようにしないと、もし留学生として評判が悪くなったら木葉さんや学園長になにされるかわからない。
「うん、そうだね。みんな君と仲良くしたいと思っているから喜ぶよ。あ、私も自己紹介しないとね。私はアイラ・アーリア、猫の獣人族。よろしくね」
スカートの端を摘んで少し上げ優雅に一礼する彼女を観察すると、三角の小さい耳に白くて長い尻尾がピコピコ揺れている。
ネルみたいに一見ネコミミなのにフェイントで獅子とかあったから、猫科ぐらいに思っていたがまんま猫だったとは。
第一印象は悪戯好きの白猫、かな。
なんか笑顔なのに、目がオモチャを見つけた子供みたいに輝いている。
「それじゃ俺も改めて。ヒビキ・ヒイラギ、よろしく。それで、こいつは使い魔のギン」
「キューーッ!」
「ふふっ、よろしく。ところで、ヒビキ君はこんなところでなにしてるの?」
「ああ、ちょっと道に迷って……良かったら、道教えてくれないか?」
「構わないよ。それで行き先は?」
「学生ギルド。こっちで使えるお金を稼ぎにね」
この世界には俺が漫画で知るような冒険者や何でも屋のギルド等は無い。
ならば学生ギルドとは何かと言うと、一言で言えば学園内でのアルバイト斡旋所だ。
教師、学生、あるいは街の住人が学園側に依頼を出して、それを学園側が審査して通ったものを学生が受け報酬を受け取る仕組みだ。
学園側が直接依頼を出している物も有る。
ただその内容は多岐に渡る。
教師なら教材の調達や研究の手伝い(この学園の講師は大学の教授のように研究者の一面も持っている)、街の住人なら子守りや飲食店の給仕、学生なら勉強や模擬戦の手伝い等々。
この学園や町で買い物してみたくともこちらの通貨が無い俺には、この学生ギルドが収入を得るのに一番手っ取り早い訳だ。
……まぁ、その学生ギルドを探して迷子になってれば世話ないが。
「いいよ、此処からそんなに遠くないし案内してあげる」
「ああ、助かる。ありがとう」
本当は『教えてくれるだけで良いよ』言いたかったが、この学園の広大さはそんな見栄を張る気力さえ削いでしまう。
アイラの先導に従いながら廊下を進む。
彼女の足取りには全く迷いは無いが、俺もその内迷わずに歩き回れるようになるのかね。
「あはは、君はいい仔だね~」
「キュッキューッ!」
可愛い物好きらしくギンを物欲しそうに見てたので渡したら、ご機嫌になって腕の中で撫で回している。
そんな彼女を横目で見ていると、確かにその髪の色も顔も見覚えがある……あるんだけども、なんだろう?
記憶と現在の彼女に妙な食い違いを感じるのは?
食い違いは違和感となって、歯に何か挟まったような落ち着かない気分にさせる。
その原因を探るべく、まだ僅かだがこの世界に来てからの記憶を探っていく。
彼女を見た覚えのある場所は……白い髪、白い髪と言うと、教室、移動中の廊下、更衣室、模擬戦の時の闘技場。
「ん? 更衣室?」
これまで更衣室を使ったのは模擬戦の前に一回きり、勿論男女別で彼女が居た筈はないんだが、白い髪を見た覚えがある。
一応言っておくが、覗きなんて断じてやっていない。
「ヒビキ君、何か言った?」
知らず内に呟いていたらしい。
「ああ、この前の合同模擬戦の前に着替えただろ? その時にアイラの事見た様な気がしてな。あはは、そんな訳ないのにな」
「あはは、見間違えなんかじゃないよぉー。一緒の部屋で着替えたじゃない」
「だよなぁ~、そんな訳な……は?」
いま、なんて言った?
「……ごめん、ちょっと聞き間違えたみたいだ。もう一回言ってくれるか?」
「いいよ・一緒の更衣室でお着替えしたねって、は・な・し」
…………
………
……
…
「はあ!!??」
いや、え、ちょっと待て、落ち着いてみよう俺。女子と同じ部屋で着替えなんてうれしげふげふ、素敵な光景いや違う異常事態が有ったら気が付かないはずがない!
他の男子だって当然騒ぎ立てるはずだ。
「いやいや、それは冗談キツイ。アイラが男子更衣室にいるわけないだろう?」
「男子だから、男子更衣室で着替えるのって普通じゃないかな?」
「だろ? アイラは男子なんだから男子更衣室で着替え……男子?」
い、男子と仰いましたか?
「うん、ほら」
俺の右手を持って自分の胸に当てる。
「うわ、ちょ! ……あれ?」
ない、女性に有って然るべき御山がない。
真っ平らの草原だ。
「……マジで? 本当に男?」
「うん、見ての通りだよ」
見て分からねえよ!
「え、えええぇぇぇぇぇーーーーーーっ!?」
□
「……オーケー、理解した。アイラは男、そういうことだな?」
「もう、さっきからいってるじゃない~」
思いがけない衝撃からなんとか我を取り戻し、冷静に状況確認。
なにやら拗ねた様な声が聞こえるが、こいつ目が笑ってやがる……俺が勘違いしてることに気が付いてたな?
でもしょうがないだろ? 顔は美少女で女子の制服着てスカート履いてるし、凄い撫で肩で線も細い。
肌も一見して解るほど白くきめ細かい上に喉仏もほとんど見えず、声も高くてとてもじゃないが男には見えない。
「なんで女子の制服なんて着てるんだよ!?」
「可愛いし、似合うからだよ?」
おおう、当然の様に言い切りやがった!?
いやま、そこは否定しないし出来ないけどね?
「でも学園に着てくるのは拙いだろ?」
「学園長の許可は貰ってるよ? 駄目元で聞いてみたら『似合うからいいぞ』だって。流石に今週は新学期で初めての人も多かったから、最初は男子の制服着てたけどね」
学園長、本音は似合うからじゃなくて面白いからだろう、きっと。
そして違和感の正体がわかった。記憶の中のアイラは男子の制服を着ていた、だから目の前のスカートを履いた姿と一致しなかったわけだ。
ふと思ったのだが、アイラって世に言うオカマなのだろうか?
「言っておくけど、恋愛対象はちゃんと女の子だからね?」
もう多少心を読まれても驚かない俺、慣れって恐ろしい。
「今までだって、ちゃんと女の子に告白だってした事あるし」
「…………結果は?」
「…………全敗。やっぱり、スカート履いてたのがいけなかったのかな?」
それだと只の百合だと思う。
「それに告白した子はみんな同じ事言うんだ」
「なんて?」
「『自分より女の子らしい男の子とは付き合えない』、だって」
女子にそこまで言われるって相当だな。
いや待て……そうか、わかったぞ! アイラの正体、それは……
「これが噂の『男の娘』って奴か!?」
俺の驚愕の叫びを、アイラは良く分からず首を傾げて受け止めた。
と、そんなやり取りをしている間に学生ギルド到着である。
アイラはとりあえず性別を深く考えなければ、話し上手で話題も豊富、なかなかに楽しい相手だ。
愉快な友人が出来たと思う事にしよう。
「ここが学生ギルドか」
映画館の券販売所みたいな窓ガラスの受付のある部屋に案内されると、アイラが口を開いた。
「良かったら、仕事選ぶの手伝ってあげようか?」
「助かるけど、良いのか?」
「うん、散歩してただけだからね。特に用事もないから大丈夫だよ」
その申し出を素直に受けさせてもらう事にした。
アイラの案内で仕事の一覧がある大きな掲示板に行くと、掲示板には項目別に様々な依頼内容が書かれた紙製のカードが張り出されていた。
「色々あるな~…」
『街:短期』という項目を見ると、引越しの手伝いやネズミ退治、食堂の給仕や力仕事等々。
特別な技術は要らないが中々大変そうで、その分給金は良いみたいだ。
『学園:長期』なんて項目では、ある教師の研究補助や新薬の実験台、花壇の世話や学園全体の清掃業務などがある。
これらは給金は安いが、学園側に内申点のようなものが付くらしい。
「ヒビキ君はどんな襲毎が良いのかな?」
「んー、実はアルバイトとかした事ないからな。無難なところで学園の清掃でもやって……ん? これなんだ?」
ふと『学園』の項目に貼られた一枚の紙が目に留まる。
書いてある内容は『宝石加工技術向上の為、契約石の加工に協力させてください』と言うものだ。
「ああ、これはこの時期に多いんだよね。使い魔を召喚するのに契約石をみんながもらうでしょ? 宝石職人を目指す生徒がタダで加工する代わりに、練習台になってくれって依頼を出してるの」
「そんな依頼までって言うか、宝石職人目指す生徒までいるのか、ここ」
「それはそうだよ、この学園は色んな目標を持つ人が集まるからね。その為に色んな最新の設備もあるし、今は異世界の技術も少しづつ入ってきてるし」
「まるでびっくり箱だな、この学園は。知らない事が次から次へと出てくる……ところで、契約石ってこれだよな? ギンとのだけど、加工なんて出来るのか?」
「キュ?」
呼ばれたと思ったのかこちらを剥くギンの前に、ポケットから契約石を出して見せる。
貰った時は透明だった契約石だが、契約してからは透き通った赤と青のマーブル模様になっていた。
「うん、みんな指輪やネックレス、ブレスレットとかにしてるけど……うわぁ、凄く綺麗だね、この契約石。普通の契約石は一色の筈なんだけど」
「そうなのか? もしかしたら、ギンが複数の属性を持つ星竜なのも関係しているのかもな」
言われて見れば、俺の直前に契約したサラの契約石は真っ黒だった。
あれは多分、ブラックドラゴンが闇属性だったからだが、だとすればギンは……
「それでヒビキ君。お仕事はどうするの?」
「ん? ああ、そうだな」
思考を中断し再び仕事を探そうと思うが、どうも『契約石加工』の紙が気になってしょうがない。
この契約石を加工して身に着けてみたいし、宝石職人の仕事って言うのも興味がある。
好奇心を抑えられないのは、親に似たのかね。
「別に急いで仕事探してるわけじゃないし、今日は契約石を加工してもらおうかな」
「ヒビキ君が良いんなら、それで良いと思うよ。加工してもらうのはその人で良いの?」
「他にも加工しますの依頼はあるか……いや、最初に手に取ったのも何かの縁だろう。このカードにお願いするよ」
依頼人の名はキルケ・ソル・シードと言う名の生徒で、第二階級第二位らしい。
受付にカードを持って行くと学生証の提示を求められ、渡すと何やらカードと学生証を小さな魔方陣の上に置いて手をかざすと、学生証とカードの文字が浮かび上がり分厚い本の中に吸い込まれていった。
転写の魔法らしい、便利な物があるもんだ。
後はここで待っていれば、学園側が生徒の学生証にメッセージを送って依頼を受けてくれた事を伝えてくれるらしい。
この学生証、メール機能まであるのか。
しばしアイラと雑談して暇をつぶしていると、一人の女子生徒が受付から俺達の所にやって来た。
「初めまして、依頼を受けて下さってありがとうございます。私はキルケ・ソル・シード、第一階級二位の獅子クラスに在籍しております。以後お見知りおきを」
銀髪のポニーテールに尖った耳、神族だろうが特徴はシルフィオナに近い。
しかしシルフィオナと違って、鋭い目つきと雰囲気を持った知性を感じさせる人だ。
「ご丁寧にどうも、俺はヒイラギ・ヒビキ。こっちは……」
「やっほー、キルケちゃん。久しぶり」
「お久しぶりです、アイラさん」
互いに知っているらしい。
一学年の数はそう多くないし、第三階級からいるなら学園八年目だ、むしろ面識が無い方が珍しいのかも知れない。
「留学生の方ですね? 存じております。模擬戦も拝見しましたので」
獅子クラスは模擬戦の時のクラス、それなら知っているだろう。
俺の電撃びりびり気絶シーンも知っている訳だ、恥ずかしい。
「よろしく。出来れば敬語とかは止してくれると嬉しいんだけど」
「仕様ですので無理です」
仕様ですか、それならしょうがない……のか?
「まぁいいや。これを加工してもらえるって聞いたんだけど」
契約石を見せるとキルケは興味深げに観察し始めた。
「二色の契約石、初めてお目にかかりました。これ程の物の加工を任せて頂けるとは光栄ですね。どのような形にしたいか希望はありますか?」
「そうだな、着けっぱなしに出来るような……指輪とか出来るか? あ、台座とかお金掛ったりするのか?」
契約石加工の技術料は依頼だからタダだろうが、それを付ける台座が手出しではお金の無い俺には無理だ。
「大丈夫です、契約石の加工ならば学園の補助で備品を使えますので」
「それは良かった。あ、良かったら加工する時の一部でも見学させて貰いたいんだけど、良いかな?」
「構いません、サイズ等も測らせて頂きたいので。お時間があるなら、これから如何でしょうか?」
時間は空いてるので了解し、キルケの案内にしたがって学生ギルドを後にする。
「キルケちゃんて目指してるのは宝石職人なんだけど、凄く強いんだよ。学年でも上位に入るんじゃないかな?」
「マジか」
後から聞いたころによると、先日対戦したカナリアは戦闘に関しては下から数えた方が早い部類だったらしい。
そんな彼女とギリギリの勝負になった俺は、学年上位の実力とやらが全く想像できなかった。
しばらく歩くと、やや物が乱雑に置かれた一角にやって来た。
アイラ曰く職人関係の部屋が集まった、通称『職人通り』と呼ばれる区画らしい。
「はぁ~、ここで作業するのか」
木製のシステムデスクの数々には様々な工具類が置かれ、資料や素材となる鉱石、金属などが山の様に部屋を占領している。
散乱している訳ではなくキチンと分類されているが、それでもちょっと圧倒されてしまう。
「では契約石をお貸しください」
キルケに言われるまま契約石を渡すと、キルケは机の一つに座って金属の薄い板を一つ引っ張り出す。
銀色の板には薄ら魔方陣が描かれていて、その魔方陣の中央に契約石を置いた。
そして、キルケが魔方陣の端に両手を置き魔力を流すと、魔法陣が光り輝き……特に何事も無く消えた。
「何をしたんだ?」
「ふふ、触ってみれば分かるよ」
アイラに言われ、目線でキルケに了解を取ると契約石にゆっくりと触れてみる。
「おおぅ、柔らかい!」
固かったはずの契約石は、まるでべたつかないスライムの様に柔らかくなっていた。
「軟化の魔法陣です、これを使えば加工が楽なので。ではヒビキさん、お好きな台座を選んで下さい」
キルケが持ち出した見本の台座の中から一つを選び、その上でデザインに簡単な希望を伝えて指のサイズを測ってもらう。
そしてキルケは柔らかい契約石を台座の上に乗せ、真剣な表情で幾つかの道具を準備し始めた。
軟化の魔法が解けるまでにある程度形を整え、そこからは陣で形を整えていくらしい。
当初は一部始終見学するつもりだったのだが、その真剣な表所を見ると邪魔する気になれず、適当な言い訳をして部屋を出た。
「ふふ、ヒビキ君。見なくて良かったの?」
「まぁ、どうしてもって訳じゃなかったからな。出来上がりは見てのお楽しみにとっておくさ。ギン、家に帰っておやつでも食べるか?」
「キュ!」
「あ。ちょっと良いかな、ヒビキ君。」
元気よく相槌を打つ相棒と共にその場を去ろうとすると、アイラに引き止められた。
「ん?」
「明日の予定、空いてないかな?」
明日は日曜、特に用事は無い。
「大丈夫だけど?」
「そっかそっか。もし良かったら、ちょっと付き合って貰えないかな?」
小首を傾げて訪ねてくるアイラは可愛いのだが、これはあくまで男だ。
故にデートなどのお誘いで無い事は間違いないだろう。
「別に構わないが、何をするんだ?」
「ふふ、それは明日のお楽しみだよ。それじゃ、また明日ね~」
ヒラヒラと手を振って去っていくアイラ。
良く分からないが、別に校舎裏に呼び出して生意気な新入生を締める! なんて話ではないだろう。
まぁ、今はそれよりも……だ。
「ギン、道分かるか?」
「キュッキュッ」
しまった、アイラを行かすんじゃなかった。
作業中のキルケに尋ねるのは邪魔しそうだし、何となくバツが悪い。
「地道にさまよいますか……」
俺がこの学園を迷わず歩けるようになるのは、まだまだ先の話の様だった。