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第十五話 決着と合成魔法

「――ぅはっ!?」


 無理矢理吐き出された空気を肺に補充しながら、胸に奔る痛みに思わず片膝を着く。


 痛たた……くそ、まるで金槌で胸を叩かれたような痛みだ。

 この戦闘服と身体強化の魔法が無ければ、骨が折れてもおかしくない衝撃……だけど、一体何処か?

 胸に手を当てると、しっとりと濡れた感触が。


「まさかっ!?」


 慌ててカナリアの方に視線を戻すと、ボウガンを構えて今にも引き金を引こうとしていた。


「くっ!」


 嫌な予感に身を任せ転がる様に動くと、直ぐ横を風切り音が薙ぐ。

 今度は薄らとだが見えた。半透明で非常に分かり辛かったが、透明の液体の様だった。


「水の矢って事か。怖いな……」


 ボウガンから水の矢を射出する、これが彼女の魔具の能力に違いない。

 カナリアの魔力属性が水なのか、関係なく水だけを射出するのか不明だが、視認し辛い上にセットするタイムラグが少ないので非常に厄介だ。


 魔具のボウガンを普通の武器と同じに考えた俺の落ち度、しかし落ち込む暇は無い。

 この間にも彼女は新たな水の矢を作りだし、俺に向けて放とうとしている。


 気持ちを切り替えると、再び彼女との距離を詰めにかかる。

 以前として矢は見えづらいのだが、矢ではなく引き金を絞る指の動きを見て、放たれた瞬間を見定めれば回避できなくはない。


 一射、二射……脚や肩を掠めながらも、次第に距離を詰めていく。

 いける、そう思った俺は銀月でボウガンをその手から弾き飛ばそうと振るう。

 

 だが、カナレアはその一撃を後ろに跳んで避け、ボウガンの引き金を引く。

 それをギリギリで回避し、追撃を仕掛けようとして――


「爆ぜてっ!!」


 体の前面に重い衝撃を感じた次の瞬間、吹っ飛ばされてリングに叩きつけられた。


「ぐっ!?」


 何が起こったか分からず、体中に鈍い痛みが走る。

 そして、視界の端にこちらにむけてボウガンを構えるカナリア。


「っ!?」


 俺は反射的に銀月を大きな盾に変えて彼女へと向けると、重い衝撃が手に伝わってきた。

 なんとか追撃を逃れたようで、銀月をカナリアに向けたまま痛む体を鞭打って距離を取る。


「ビックリしました、剣かと思っていたら盾にもなるんですね」


「ごほっごほっ……驚いたのはこっちだって。まるで爆弾じゃないか」


 ……そう、至近距離で放たれ回避したと思った水の矢は、通り過ぎるギリギリのところで破裂してその衝撃で俺を叩いたのだ。

 まるで爆弾だ、おかげさまで頭からびっしょり濡れている。


 どうやら俺は、大事な事を忘れていたようだ。

 俺の戦闘能力は学園でも底辺、相手が小柄な女の子だからって無意識に格下と思い込んでいたのかも知れない。

 今思えば始めに矢を乱射してきたのも、牽制に魔法を使わなかったのも、油断させて確実に当てる為の段取りだろう。


「おかげで、キツイ一撃もらったな」


 まだちょっと体を動かすのが辛いくらいほどに。


「私もお嬢様の従者として無様な真似は見せられませんから……いきますよっ!」


 カナリアは片手でボウガンを放ち俺の足を止め、空いた手を頭上にかざした。


「流麗たる水よ、我が意を解し、敵を辛く槍となれ。《アクアランス(水槍)》!」


 げ、水属性の中級の攻撃魔法かっ!?


 この世界の魔法は威力や魔力の消費量、制御の難度などでランク分けされている。

 初級、中級、上級、最上級だ。俺が使えるのは習いたての初級のみなのだが、中級はこんな急ごしらえの盾で防げるような威力じゃない。

 カナリアは頭上に水で象られた、三メートルはある槍をこちらに向けて言った。


「これで終わりですっ!」


 そしてこちらに振りかぶろうとする。


やばいやばいやばいっ! まだ痛みで上手く動けないし、盾で受けると言うのも論外だ。避けるのも防ぐのも無理、俺の魔法じゃ迎撃だって…………ん? 迎撃?


 ふと思いついた方法。まだ実験段階だが、上手く行けば相殺とはいかなくとも威力を軽減するぐらいは出来るはず。


 ……このまま一方的にやられて終わるぐらいなら、やってやる!


 使いたい魔法の魔力の流れをイメージし、ブレが無いように魔力を流す……これだけなら詠唱破棄と変わらない。

 その間にカナリアが水槍をこちらに放ってきたのだが、投擲の動作が加わっている所為か結構速い。


 俺は銀月を左手に持ち替えると、右手を水槍に向けて唱えた。


「《ファイヤボール(火球)》と《エアーエッジ(風刃)》、合わせて《フレイムエッジ(炎刃)》!」


 赤い魔方陣の周りに緑色の円環が出現し、二つが重なり一つの魔方陣となってそこから《アクアランス(水槍)》に劣らぬサイズの炎の刃が撃ち出された。


 水の槍と炎の刃、二つが空中でぶつかり合い大きな爆発を起こす。

 盾で庇いながらその衝撃に耐えると、収まった後には呆然とするカナリアの姿が見えた。


「……相殺?」


 驚いた。銀月で防げる程度に威力を弱められれば御の字と思ったが、まさか中級の魔法を相殺出来るとは。

 駄目元でもやってみるもんだな……


 そんな俺の感想はともかく、カナリアが口を大きく開けて呆然とし、後ろにいるキアグリス嬢も似たような表情をしている。

 いや、それどころが試合を見ていた全員が口を大きく開けて固まっている。


 何だ、どうしたんだ?


「あの、ヒビキさん? ……今の魔法はなんでしょう?」


 いち早く復活したのは対戦相手であるカナリアだった。


「今のって、《フレイムエッジ(炎刃)》の事? 火球と風刃を同時に発動・合体させてみた。実戦で試すのは初めてだけど、まさか中級魔法を相殺出来るとは」


 構想は最初に魔法を習った時からあった。

 魔力の流れを二種類、正確にイメージして同時に流す事が出来れば同時に二つの魔法を使えるのではないかと。

 多少コツを覚えるのに苦労したが、何とか成功したところ同時と言うか合体してしまったのだ。


 所詮は初級魔法二回分、中級には及ばないと思っていたが、どうやら相乗効果のようなものがあるみたいだ。

 教科書とかパラ読みしたけどこういった魔法の使い方の記述がなかったので、合成魔法と勝手に名付けた。


 ま、誰かもう見つけて使ってるんだろうと思うけど。


「そ、そんな事が可能なんですか……?」


 ……と、思っていたが、カナリアや周囲の反応を見るに前代未聞の使用方法らしい。

 魔法合体ってファンタジーだと割とポピュラーな物だと思っていたが、現代人ならではの発想だったのかも。

 あるいは人間は魔力のコントロールに優れた種族なのかも知れない。


 それはそれとして。


「悪いけどそろそろいくぞ、《ファイヤボール(火球)》!」


「え、あ、……あれ?」


 先手必勝とばかりに火球だが、カナリアは慌ててボウガンを構えるもちょっと間の抜けた声を上げた。

 原因は出した火球をカナリアに向かって放たず、ボールのように頭上に高く放り投げたからだ。


 《ファイヤボール(火球)》はただ撃ち出すだけが能じゃない!

 魔法を覚えたのが嬉しくて、魔力の流量やイメージによる状態の変化を試しまくった中二患者の成果を見せる時!


 魔力で制御された火球は消滅せず手元に落ちてくる。

 それを目で追うカナリア。

 

 俺は落ちてきた火球を、


「ジャストミートォォーーッ!」


 バットの形に変えた銀月で、カナリアに向かい思いっきりぶっ叩いた。


「え? きゃああああぁぁぁぁぁ!!?」


 先程の水槍を遥かに越える豪速球に、カナリアは咄嗟にボウガンで防御するのが精一杯。

 火球はボウガンと接触すると爆発、彼女をリング間際まで弾き飛ばした。


「惜しい、もうちょっとでリングアウトだったのに」


 あれ? リングアウトって勝敗の規定に関係あったっけ?


「あ、貴方、なんですの、その戦い方は!」


 目の前まで吹っ飛ばされてきた自分の従者に動揺してか、キアグリス嬢が口を挟んできた。


「強いて言うなら、野球殺法?」


 この世界に野球はないっぽいし、説明しても理解出来ないだろう。

 まあ二度目は通用しそうにない、一発芸みたいなものだし。


「俺が独自に考えた魔法戦法の一つ、としか言えないな」


「…す、凄いですね、ヒビキさん。正直甘く見てました」


「いやいや、それは俺の台詞だよ」


 ヨロヨロと立ち上がるカナリアに俺は苦笑いを返す。

 小柄な彼女にとって今のは結構なダメージの筈だ、降参してくれるとありがたいんだけどな。

 俺も水爆弾の痛みがまだ尾を引いてるし。


「そんなヒビキさんの為に、私の最高の魔法をお見せします!」


 ……え?


「形なき水よ、流れいる者よ、無形を持って有形と為せ。《アクアクリエイト(水創造)》!」


 言葉を終えると同時に彼女の頭上に大きな青い魔方陣が展開、そこから大量の水が出現し俺も知るある形となった。


「……シャチ?」


 イルカに姿形は似ているがやや太めで、なにより体長が十メートル近くある。

 そんな水で出来たシャチが宙を泳いでいるのは圧巻としか言えない。


「水の上級魔法で想像した形に水を変形させ動かすものです。対象をよく知っていればいるほど綺麗に形造り、動きも滑らかになります」


 俺の銀月に近い魔法か……いや、つまり彼女はシャチの事を良く知っているって事か?


「これはペットのしーちゃんをイメージしています」


「ペットかよっ!?」


「あ、私の実家は漁師なので」


 ああ、納得……なのか?


「雷光よ、我が手の内で、彼のものを討ち取る槍となれ!《サンダーランス(雷槍)》 」


 懲りずに思考に耽っている隙に新たな魔法を唱え、バチバチと雷光で形成された槍を出すカナリア。

 確か雷の中級攻撃魔法のはずだが、サイズが水槍に比べ明らかに小さい。


 恐らく彼女は雷属性を持っていないのだろうが、だとすればなんで半端な魔法を?

 まるで俺の疑問に答えるように、カナリアは雷槍を投擲した。

 

 シャチに向かって。


 バチッと一瞬だけ爆ぜるような音がしたが、直ぐにシャチに飲み込まれる雷槍。

 表面上はなんら変わる事は無いが……


「おいおい、まさか帯電?」


「はい、お察しの……通り、です……」


 答えるカナリアの声に力は無い。

 上級魔法を維持したまま適性の無い魔法を発動させたから、魔力の消耗が激しいのかも知れない。


 しかし人の心配をしてる余裕はない。


 恐らくあのシャチをぶつけるつもりなんだろうが、手持ちの魔法であれを破る方法がちょっと思いつかない。

 まだ防御魔法なんて覚えてないし、盾であんな質量の物体を止めるなんて無理だ。

 そもそも、帯電しているから触れた時点でアウトだし、もしカナリアの制御で追尾してくるとしたら回避も無理くさい。


 だとすれば、俺に出来る選択肢は……


「今度こそ決着を着けましょう……行って、しーちゃん!」


 その声に従って俺に一直線に飛んでくるシャチ。

 それを見て俺が取った行動は、


「ああもう、やけくそだーーっ!」


 迫り来るシャチに向かって、全力で走り出した。

 そして迫るシャチを目前に、既にイメージを終え魔力を流した魔法を発動させる。


「《エアクッション(風緩衝)》!」


 《エアクッション(風緩衝)》。風属性の初級魔法で、本来高い所から落ちた際に弾力のある空気の塊を出現させ、衝撃を和らげるクッションとして使う魔法。

 だが俺はそれを自分の進行方向に出現させる。


 シャチとの距離は瞬く間に近付き、俺はタイミングを見て跳躍した。


「「「「「ええぇぇーーーっ!?」」」」」


 周囲一同驚愕の声。


 《エアクッション(風緩衝)》をバネにして大きく跳び、シャチの頭上を越すことに成功しからだ。

 跳躍した先に発動させた《エアクッション(風緩衝)》、実は魔力量を制御する事でトランポリンのような弾力を生む事を発見していたのだ!


 ……まぁギンと飛び跳ねて遊んでいただけで、まさか役に立つとは露にも思わなかったが。


 頭上を越えた俺は転がる様に受け身を取りつつ、そのままカナリアに向かって走る。

 後ろをチラリと見るとシャチがカーブを描いて方向転換を図っている、一気にケリつけないとヤバイ。


 我に返ったカナリアが慌ててボウガンを構えて散弾を打ち込んでくるが、盾状の銀月を前面に構えたまま釜構わず突き進む。

 盾に感じる衝撃は思いの他弱い、矢の乱射や中級・上級の魔法の使用で魔力の限界が近いのかも知れない。


 シャチが戻るより早く彼女に近づけた俺は銀月を変形させた。

 木刀ではなく、ただの長い棒に。スティックとかバーとか言う方が正しいのかもしれない。

 リーチの伸びたその棒で、思いっきりボウガンを掬い上げる様な一撃を放った。


「きゃ!?」


 急にリーチが伸びた銀月に対応出来ず、狙い通りボウガンは彼女の手を離れ宙を舞う。

 そのまま銀月を放り投げ一気に懐に潜り込み彼女の手を引いて、


「せいやぁぁぁぁ!!」

「きゃあぁぁぁぁ!!」


 一本背負い!


 見慣れぬ技に対応できなかった彼女は背中からリングに叩きつけられた。

 あ、勿論途中で勢いは殺して加減したけど、思いの外軽くて勢い出たから結構痛かったかもしれない。


 後は拳の一つでも突きつければ多分俺の勝ちで……と思ったら、何やら大量の水がぶちまけられる音が。


「へ?」


 顔を上げるとこちらに向かっていたシャチの形が崩れて、形成に使われていた水が勢いのままこっちにぶちまけらる。


 あー、彼女の集中が切れた所為で魔法を維持出来なくなったとか?


「ってそんな場合じゃねえ!」


 ほとんど無意識の内にカナリアを抱き上げて、そのままリングの外に放り投げる。

 確かキアグリス嬢が居た辺りがだから、あとは何とかしてくれるだろう。


「ーーーーーーっ!!??」


 瞬間、水が触れる感触と指す様な刺激を感じたと思ったら、目の前が真っ白の染まっていった……



 最初に目に映ったのは白い天井。

 見慣れぬ風景に眠気を抑えて半身を起こす。


「……どこだ、ここ?」


 学校の保健室のような雰囲気だが、あまり薬品の匂いがしないし、俺の高校の保健室とて違って西洋風のアンティークとかが置かれて……


「あ、グラントリス学園だったか」


 そうだそうだ、高校じゃなかった。

 ……それはともかく、俺はどうして此処で寝てるんだっけ?


「カナリアの魔法……正確には、その残滓を受けて気絶したのですわ」


 ああ、朧気ながら思い出した。

 模擬戦やって……あれ、俺声に出してないよな?


「この世界の奴はどいつもこいつも読心術でも……」


 視線の先にはキアグリス嬢が仁王立ち。


「キャーーーーーーーー!」


 あ、これは俺の悲鳴。


「ちょ、ちょっとなんですの急に!」


「殿方が絹を裂く様な悲鳴を……」


 あ、後ろにカナリアもいた。

 小柄な所為かキアグリス嬢に隠れて見えなかった。


「カナリア、怪我無かった? 咄嗟に投げちゃったけど」


 悲鳴から一転、素に戻った俺に二人は目を白黒させて状況に付いてこれない。

 ちょっとしたイタズラなんだけどな~、多少驚いたのは本当だが。


「え、ええ……お嬢様が受け止めて下さったので。ヒビキさんこそ御体は何ともありませんか?」


 どうやら悲鳴についてはスルーしてくれるようだ。

 うん、下手に突っ込まれても勢いでやったことだから説明に困るしな。


「うん、特に問題ないな。精々あっても打ち身くらい。あぁ、敢えて言うならもう少し寝たい」


 冗談めかして言うとカナリアは微笑みを浮かべ、キアグリス嬢は呆れた顔をした。


「あ、養護教諭の先生呼んできますね? 丁度、書類を職員室へ持っていかれたところですから」


 俺に向かって優雅に一礼したカナリアは、そのまま保健室を出た。

 と思ったら、顔だけ扉の向こうから出して前に出して


「私、魚料理には自信あるんです! 今度、ご馳走しますね」


「え?……あ、ああうん、楽しみにしておくよ」


 俺の言葉に嬉しそうに頷いて、今度こそ彼女は出て行った。


「……俺、なんかしたっけ?」


「最後に助けてもらったのが嬉しかったのでしょう。あの子は義理堅い性格だからですわ」


 なるほどね、それなら心置きなく魚料理を楽しみにしていよう。女の子の手料理なんて心躍るイベントだ。


 ……それはともかく、また決闘を申し込まれたらどうしよう?

 キアグリス嬢と二人きりってちょっと怖いんだけど。

「ええと、そういえば二人はどうしてここに? ええっと、プロードさん?」


 プロード侯爵令嬢とかの方が良かったか、呼び方。


「キア、それで結構ですわ。ワタクシにだけさん付けされると、逆に馬鹿にされてるようですわ」


 呼び捨てオーケーってこと?

 何だ昨日とは偉い違いだな、雰囲気もどことなく柔らかいというか……昨日の昼食や授業中と違って鬼気迫るような圧力がない。


「カナリアが目を覚ますまでいると言うものですから、付き合っただけですわ。模擬戦の最中の事とは言え、あの子は優しいですから」


「それは何となく分かる……あ、そうだ。模擬戦の事なんだけど、また次の機会って事でいいか?」


 本当はなし崩し的に無かった事にしたいが、下手に誤魔化そうとすると烈火の如く怒るだろうし、決闘申し込まれるよりかは模擬戦でボロボロになる方がなんぼかまし……


「当分は結構ですわ」


「へ? なんで?」


「今の貴方ではワタクシの相手は務まりませんわ。技も、体力も、なにより経験が圧倒的に不足していますから」


 そりゃあ、此れまで人生で魔法使った模擬戦なんて経験した事ないから、というかありえないし。


「ワタクシと戦うのなら、もっと強くなって貰わなければ困りますわ」


 ……自分から決闘とか言い出してきたくせに。


「それに、貴方が只の粗野なだけの人物では無いという事もわかりましたし」


「どういうこと?」


「貴方が眠っている間にサーフィラ様やハイド様を始め、何人も貴方の様子を見に来ましたわ。それも学年・種族問わずに……貴方が只の粗野で粗暴な人間なら、この僅かな在学期間にこれほど人は来ないでしょうから」


 粗暴って増えてるぞおい。


 見舞客ね……ネルにフィー、イル辺りかな?

 もしかしたら、一緒に授業受けた下級生辺りも来てくれたのかも知れない。


 まだこの世界に来て僅かな時間しか過していないけど、自分を心配してくれる人がいると言うのは嬉しいもんだ。

 知らず知らずの内に笑顔になっていた俺に向けて、なぜかキアグリス嬢――キアが嫌そうに付け加えた。


「まあ、カナリアを助けた事から多少なりとも紳士である事もわかりましたから。侮辱された事については胸に仕舞って置きますわ」


いや、それはキアの勘違い……とは今更言わない。

流してくれると言ってるのだから、余計な波風立てないでもいいだろう。


「わかった、これからは気をつけるよ」


「是非そうして貰いたいものですわね」


 キアは踵を返すとドアへと向かうが、カナリアを待たずに戻るつもりだろうか。


 ちょっと融通の利かない偉そうな貴族。

 それが第一印象だったが、今は思いのほか話しやすいと感じている。彼女はちょっと生真面目過ぎるだけなのかも知れない。


 そう思ったら知らず内に声を掛けていた。


「またな、キア」


 早速呼んでみたのだが、キアは鋭い瞳でキッと振り返って俺を睨む。

 ええ、結局呼んじゃ駄目な訳っ!? ……と思ったら、ほんの少し口元を緩ませ小さな笑みを作り言った。


「ええ、またですわ……ヒビキ」


 その後は振り返らずに部屋を出て行ってしまった。。


「……なんだ、案外付き合いやすそうじゃないの」


 言いながらもう一眠りでもしようかと、ベッドに体を委ねる。


 今日は色々あって本当に大変だったが、どうやら新しい友人達が出来たようだった。

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