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第十二話 魔具生成

 妙に疲れた昼食を終え、弁当を教室の鞄に仕舞うと闘技場まできた。

 屋根の無い円形の建物で、学園生全員を収容してもまだ有り余るほどの広さを持っている。

 その壮大さはさながら古代ローマの決闘場を髣髴とさせた。


 闘技場に入ると既に生徒が集まっていて、近づくとふと見覚えのある姿が目に留まった。

 同時に相手もこちらに気が付いたらしく、素早く、しかし優雅さすら感じられる歩き方でやってきた。


「こんなところでどうしたの、ヒビキ」


「使い魔だか魔具だがを一緒にやるように言われたんだよ、サラ」


 そう、魔族の王女サーフィラ(ファンクラブ有り)だ。

 彼女は確か第一階級の三位と聞いていたから、いても不思議じゃない。


“魔具生成”と“使い魔召喚”は第一階級に入って最初に行う授業だから、彼女がいても不思議じゃない。

 なぜなら第一階級からは、この二つに魔法を合わせた授業も入ってくるからだ。


 俺はしばらく免除される予定だったんだけど……やらされる可能性あるな。

 それはともかく、ここに来た経緯を軽く説明する。


「へぇ、魔法に触れた事も無いはずなのに……随分優秀なのね?」


「コツ掴むのだけは得意なんだよ。ま、自分でもステップ飛ばし過ぎだと思うけどな」


「そんな事無いと思うわ。異例とはいえ貴方も第一階級なんだから、早いに越した事は無いはずよ。授業や模擬戦の為にも、早めに慣れておかないとね」


「そうなんだよな、やるしかないんだが……正直ちょっと鬱かな」


 学園では生徒同士の実戦的な訓練も多いらしい。


「努力なしに結果は出ないわ、頑張りなさい……手助け位はしてあげるから」


「ありがと、期待しておくよ」


 二人でそんな事を話しているところへ、女子生徒が一人小走りに近づいてきた。


「あ、あああ、あの、サーフィラ様? 先生がそろそろ始めるそうですけど……」


「ええ、わかったわ」


 伝えてくれた生徒に向けてやや冷淡ともいえる態度と表情で答えるサラ。

 ちゃんと礼を言った方がと思ったが、当の女子生徒はなぜか嬉しそうに頬を染めて戻ってしまった。


 まるで憧れのアイドルとようやく話せたファンのようだ。


「流石はファンクラブ持ち。でも言い方ちょっと冷たくないか?」


「ファンクラブって何のことかは分からないけど……冷たいかしら? いつもと同じだと思うけど。それより行きましょう、始まるわ」


 歩き出すサラの背を見ながらふと思い出す。

 ハイドとアンは、サラが素で話す相手は珍しいと言っていた。


 なるほど、確かに俺や他の王族以外とでは接し方に差が有るようだ、本人に自覚は無いようだが。

 でもそれが、逆に自分はその他大勢よりは特別言われてるようで、ちょっとだけ嬉しかった。


「なに気持ち悪い顔してるの? 早くきなさい」


 締まらない自分がちょっとだけ悲しかった。



 三十人ほどの生徒で構成される第一階級三位の竜のクラス。

 サラが在籍するクラスだが、魔具の生成と使い魔を喚び出す前で興奮しているのか、教師と思われる男性が立っていてもなかなか静まらない。


 眼鏡を掛けた黒い長髪の男性教師は、酷く小さく……けれど全員に聞こえるように言った。


「……黙れ」


 ピタッ、そんな擬音が相応しいくらい一斉に静まり返る生徒たち。

 かくいう俺も男性の放つ得体の知れない迫力に身動きひとつ取れない。


 生徒の様子にひとつ頷き、魔族特有の紅い瞳で見回して自己紹介を始めた。

 ……怖いってあの人の目ぇ! まるで人斬り時代の剣○ぐらい怖いって!


「……魔法講師のゼブラだ。お前たちはこれから魔具と使い魔を出してもらう。魔具の方から作る、順番に取りに来い」


 碌な説明もされなかったが取りあえず先生の元に行き、拳大の紫色の水晶みたいな物を貰う。

 渡されたそれを試すすがめつ観察しながら戻る。


「……これ、どうするんだ? そもそも魔具って何だ……?」


 マグ……マグカップ? んな馬鹿な。


「ヒビキ、もしかして何も知らないで来たの?」


 同じく水晶らしき物を貰って来たサラが、呆れた様な視線を向けてくる。


「いやま、名称だけは予定の確認とかで聞いた気がするけど、具体的な内容は聞いてないと思うんだ」


「……確かに詰め込むのも良くないから、ヒビキの魔法の習得に合わせて段階的に教えていく予定だったわ。そうね、それなら私が説明するわ」


 サラの俺に見える様に水晶を伸ばした手の先に持つと、その水晶の内側に仄かな光が宿る。


「魔具は魔錬石(まれんせき)と呼ばれるこの水晶に、魔力を通す事で生成させれる道具の事よ。持ち主の魔力によって姿も能力も違う、千差万別の形態を取るの。第一階級の模擬戦には魔具の使用も認められてるから、武器なんかを欲しがる人も多いわね」


「個人用の装備って事か……武器なんかもって事は、武器以外の形も?」


「ええ。言ったでしょう、千差万別。剣や槍、盾は基本だけど、中には服やメガネ、本と言った変わった形態の魔具になる者もいるわね。前例は少ないけど、生き物の姿になった者もいるわ」


 生き物って……何でも有りだな

 こうして話している間にも、サラが手に持った水晶――魔錬石の輝きはだんだん強くなる。


「二つ魔錬石を使ったら、二つとも同じ形や能力の魔具になるのか?」


「さぁ? 二つ目を生成出来た例が無いから分からないわね。魔錬石は魔力を与える事で持ち主と魔力のリンクを作るのだけれど、そのリンクは一つしか作れないのよね。その辺りは使い魔と一緒ね……ほら、出来るわよ」


 いよいよもって輝きが強くなり、一瞬閃光を放ったと思ったら唐突に収まった。

 光の後には、サラの身の丈よりも大きさそうな、柄も刃も漆黒の大鎌がその手に握られていた。


「面白い形ね……そうね、名前は『鴉の(レイヴン・フェザー)』が良いわね」


 サラがそう言うと大鎌が一瞬暗褐色の光を放つ。

 それを満足そうに見たサラが軽く大鎌を振ると、大鎌の姿が忽然と消えてしまった。


「え、何処にやったんだ?」


「魔具は名付をする事で持ち主とちゃんとしたリンクが確立するの。リンクした魔具は持ち主の魔力と一体化出来るから、いつでも自分の中に出し入れ出来るのよ」


 お、おおぅ、それは便利と言うか凄いな。

 正直良く分からないけど……まぁ、やって覚えてみるか。


 多少距離を取り魔錬石を指輪が嵌った右手に持って、魔力が流れるイメージを思い浮かべる。

 すると魔錬石がサラと同じように光輝き、更に調子の乗って魔力の流量を増やすと視界を染めるほどの閃光を放った。


「ん、眩しい。お、出来た…か……なんだこれ?」


 光が収まった手の平には銀色の正立方体。

 手の中で回して色んな角度から見る、触る、舐め……は流石にしない。


 いやこ、れどう見てもただの金属の塊にしか見えない。


「何だろう、失敗作?」


「まずは名前を付けたらどうかしら? 名付けしてレンクを繋ぐ事で、魔具の持つ能力が分かるわ。もっとも、特段能力のない形だけの魔具も多いけど」


 夢も希望も無くなる事言うなよ!

 これで特別な能力が無かったら、タダの重しにしかならないだろうがっ!?


 模擬戦とかにも役に立ちそうにないし……いや、これぶつけられて角が当たったら相当痛そうだけどね?


「ええと、名前名前……」


 見た目は銀色だから『銀』……はあんまりか。

 捻った名前とか別に良いけど、もうちょい何か加えて……


 ふと、空に浮かぶ二つの月が目に入る。


「……『銀月』。これでどうだ」


 瞬間、正立方体が白い光を放ち、同時に何となくこれ――銀月の使い方が思い浮かぶ。


「イメージイメージ……包丁でどうだ」


 いつも食事の支度に使っている包丁をイメージすると、手の中の銀月がスライムの様に動き瞬く間に形を変える。

 すると、俺が使っている包丁と瓜二つの形状になった!


 ……見た目だけで、刃も柄も銀色の漢族の塊みたいだけど。


「へぇ、貴方の思う通りの形になる能力なのね。面白いわ」


「そうだけど、良く知ってるもんじゃないと形にならないっぽい」


 包丁は出来たので、試しに昔剣術の道場に通っていた頃(はまったのは両親ですぐ辞めたが)に一度だけ持たせてもらった模擬刀を思い浮かべる。

 しかし、記憶が古い上に一回だけなのでイメージが固まらず、銀月は変形しない。


 逆に家に置いてある剣道用の竹刀をイメージすると、驚くほど早く再現された。

 ……全体が銀色だとセラミック製の竹刀みたいで違和感あるけど。


「それはヒビキの世界の道具?」


「ああ、剣道――剣を練習するための道具だ。こっちにも木刀とかあるけど、怪我する事もあるしな」


 学園を見学した際に木刀や刃を間引いた鉄剣など見つけたが、あんなので練習してたら大怪我する気がする。

 俺の何気ない説明だったが、何やらサラは機嫌が良さそうに微笑んだ。


 ……何だろう、見とれるくらい綺麗な笑みなのに、ちょっと背筋が凍えた様な気が。


「つまりヒビキには武道の心得があるのよね? 良く知った物じゃないとイメージできないのに、そんなにスムーズに形を変えられるんだもの。日頃から使っているという証拠だわ」


「まぁ、親につき合わされたし、学校の選択授業は剣道だったし。何となく忘れるのが勿体なくて、型通りの稽古はしてるけど……」


 何となく、嫌な流れの様な気が。 


「そう、それは良い事ね。それじゃ、いつでも手合せ出来ると言う事ね、楽しみだわ」


 手合わせ? 俺とサラが?


「……か、考えておくよ」


 普通な一つ下の女の子に早々負けるとは思わないんだけど、相手は魔族の王女でこの学園では実戦形式の授業が第三階級の頃からある。

 ネルもそうだがおそらくサラもエリート教育を受けているとしたら、魔法も武術も俺の想像を超える実力を持っていても不思議じゃない。


 よし、なるべく逃げる方向で一つ。


「あら、目が泳いでるわよ?」


「き、気のせい気のせい……」


 サラに悟られないよう、俺は次の使い魔召喚に向かうのだった。 

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