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第十一話 突撃、留学生のお昼ご飯

 はい、所変わって屋上です。


 魔法の授業が終わった後、一旦教室に戻った俺は弁当の包みを持って屋上へ向った。

 昨日も結局食堂で目立ったからな、今日の昼食は静かに取ろうと思ったからだ。

 屋上は初めて来た時と同じく整備された花壇に彩られ、春の穏やかな日差しがポカポカと降り注いでいる。


 俺以外にも屋上にもチラホラ生徒が居るが、こちらには気が付いていないし、これぐらいの人数ならバレてもいいだろう。

 食堂中の視線を集めるよりはだいぶマシだ。


 適当なベンチを見つけて座ると、弁当の包みを開く。

 割り箸を取り出し手を合わせ『いただきます』と一言いうと、花壇を見ながら食事を始めた。


 弁当は昨夜の夕飯の残りものだが、この花に溢れた景色を見ながらだと悪くない。


「突撃っ! 隣のお昼ごはん!」


「ブファッ!!」


 と思ってたら何か来たっ!?

 真後ろから大声を出されて驚き咽たが、ちょうど飲み込んだ所だったので噴出すなんて醜態晒さずに済んだけど。


「ごほっ……ええっと、君たちって確か……」


「あ~、何ですかその目! まるで一人穏やかにお昼を食べていたのに、いきなり大声を掛けられ台無しにされたシャイボーイの様な目じゃないですか」


「概ね合ってるけど誰がシャイボーイだ。ってか、年上にそれはないだろう…」


 突然の来訪者は午前中魔法の授業で一緒になった班員の内二人、魔族と獣人の女子だった。

 ネルの友人でもあったはずだが、何故ここに……と思ったが、二人はそんな俺の様子など気にせず素早く両隣に座る。


「あは、 ごめんなさ~い。でもこんなところでお一人だなんて説得力ないですよ? 昨日も授業中も自己紹介出来ませんでしたね。私はアン・ネフティ、見ての通りの魔族でーす。スリーサイズは必要ですか?」


「要らないからっ!」


「もう、我慢しちゃって。今日はそういう事にしておいてあげます」


 何だろうこの娘、ちょっとイラッとするのだが、明るい笑顔と朗らかな雰囲気の所為か怒る気になれない。


「そんでもって、そっちの子はミレーユ・フルムーン。説明するまでもないけど狐の獣人族です。ちょっと無口なのはご愛嬌と言う事で」


「――初めまして」


 我が道を行く黒髪ショートカットの魔族少女がアン、亜麻色ロングの無口な狐っ娘がミレーユと言う訳か。

 ミレーユはともかくアンは押しが強い……学園長と言い、魔族には押しが強くと言う方針でもあるのか?


「それで、君たちは何しに此処へ? 何か用?」


「いえいえ、用って程のことじゃないんですけどね。食堂に行く途中でお兄様見かけたんで、どこ行くのかなーって付いてきちゃいました♪」


「――(うんうん)」


 口数の多いアンと頷くというジェスチャーだけのミレーユ。何とも対照的な二人だ。


「なるほど。いや、だったら早く食堂行った方が良いんじゃないの? 行く途中って事はまだお昼食べてないんでしょ?」


 この際、驚かされた事と憑いてきた事は不問にしとこう。


「あ、大丈夫ですよ? パン持ってきましたから」


「それ確信犯だろ!?」


「おお、鋭い突っ込み。お兄様ってやっぱり面白いな。ね、ミレーユ」


 アンの言葉に笑顔で頷くミレーユ。

 駄目だ、この手のタイプは苦手というか暖簾に腕押しというか、勝てる気がまったくしない。


「えーっと、アンさん? さっきからお兄様って言ってるけどなんで?」


「アンさんだなんて、呼び捨てで良いですよ! ミレーユもそれで良いよね?」


「――(うん)」


「まぁ、俺もそっちの方が気楽だから良いけど」


「王女のネル様を呼び捨てにしているんですから、今更ですよ♪」


 あ、それもそうか……じゃなくて、何でお兄様って呼ぶのか聞いてるんだけど。


「私がお兄様って呼んでる理由でしたっけ? 前にネル様の事、妹みたいだって言ってたそうじゃないですか。ネル様もお兄様がいたらあんな感じなのかなって言ってましたので、親しみを込めてネル様の『お兄様』って呼ぶ事にしましたっ!」


 凄いこじつけだな!


「改める気は?」


「木っ端微塵もないです♪」


 意味分かんないけど、普通に呼ぶ気はないってのは伝わった。


「はいはい、もうそれでいいよ。取り合えず、昼飯にしよう。休み時間終わってしまう」


「はーいっ!」


 ようやく食事を続けられると、箸を動かそうとしたら右隣に座ったアンが弁当箱を覗き込んできた。

  気が付くと反対側からミレーユも覗き込んでいる。


「これ、ひょっとしてひょっとすると、全部お兄様が作ったんですか?」


「そうだけど? まあ、一人暮らしだからね……と言っても、大半は昨日の晩御飯の残り物だし、大した事じゃないよ」


「――(パチパチ)」


 野菜炒めやから揚げの残りだから本気で大した事ないんだけど、アンは感心したように頷きミレーユは手の平を叩いて賞賛する。


「そんな事ありませんよ、これだけ作れれば大した物です……そういう訳で、そのから揚げ一つと私のコロッケパンのコロッケを交換してくださいね」


 メイントレードしてどうすんの!? 


「勝手に入れるな取ろうとするな! って、そっちはタマゴサンドのタマゴをご飯に掛けようとするなー! そんなことしなくて一品ずつやるから、じっとしてろ~!」


 ギリギリの所で暴挙を食い止め、アンとミレーユの口に箸で直接唐揚げを放り込む。

 傍から見れば、あの『アーン』な体勢なのだが、なぜか少しもときめかない。

 むしろ気分は餌付け、これで間違いない。


「んぐんぐ……!? なにこれ美味しい!」


「――!」


 放り込まれた唐揚げを咀嚼する二人が驚きの声を上げた。


「お兄様っ、これ凄く美味しいじゃないですか! 味付けも変わってるけどサッパリして食べやすいですし」


「――美味」


 大袈裟すぎる驚きだが、こっちもミレーユが声を出したからちょっと驚いた。

 鈴の鳴るような、凛とした物静かで綺麗な声だ。


「褒めすぎだろうそれは……まあ、昔から料理はちょこちょこやっていたし、この一年はずっと自炊だったから腕も少しは上がったかな?」


 この子達には日本の味付けが珍しい、っていうのもあるんだろうが。


「うーん、でもこれじゃあ何かお返し考えた方がいいですね。半端な味なら略取するだけだったんですけど~」


「――(おいおい)」


 最後の一言余計だぞ? 後ミレーユが漫才の相方の様に突っ込んでいる。


「はぁ……別にいいけどな、たかだが唐揚げだし。可愛い子達とお昼一緒に出来たと思えば腹も立たない」


 アンは目がクリッとしていて愛嬌のある顔立ちしてるし、ミレーユも目鼻ラインが綺麗で二人とも美少女といっても遜色ない。


 いや、そもそも基本的にこの世界って俺基準だと美形が多い。

 王族を筆頭に今まで見た学生・教師・街人は美男美女美男子美少女が多かった。

 ……俺のような日本でありふれた顔立ちのフツメンは、一体どうしたら良いのだろうか?


 なんて馬鹿な事を考えている間、ふと先程まで五月蝿いほど騒いでいた二人が静かになってるのに気付いて左右を見た。

 なぜか頬を薄っすら赤く染めてる二人……風邪でもひいたか?


「……さすがお兄様ですね。不覚にもちょっとトキメキました、メモリアルです」


「――(テレテレ)」


 いや、それぐらい可愛ければ褒められ慣れてると思うんだが。 そしてなんでそんなゲームネタ知ってるの?


「さすがは学園三大美少女ファンクラブから目をつけられているだけありますね……」


「はっ? ファンクラブ? 目をって……何でっ!?」


 何だその一昔前の漫画の設定みたいなクラブはっ!? 

 目を付けられるような覚え以前に、三大美少女って誰だよっ!


「留学生のお兄様がご存知ないのも無理はないですね。この場合、三大美少女ファンクラブとはそれぞれネル様、サーフィラ様、シルフィオナ様のファンクラブの事を指します」


「あーっ、確かに人気が出てもおかしくないメンツだよな~~……でも、それで何で俺が目をつけられる訳?」


「自覚無いですね~。顔良し、性格良し、成績良し、家柄良しと非の打ち所が無いんですよ? 学園の生徒ですら容易く声が掛けられない御三方と仲が良いとくれば、目をつけられてもしょうがないじゃないですか~」


「――(うん)」


「そ、そうなのか?」


 俺からすればみんな最初から、人当たりも良くて話し易かったけど。


「そうなんです! ネル様が懐く異性なんて初めてだし、人にも自分にも厳しいサーフィラ様が普通に会話できる数少ない人だし、シルフィオナ様はクラスでお兄様の事ばっかり言ってるそうですよ?」


 シルフィオナ、何やってんの……


「でも、まだ二日目だぞ? ファンクラブに目を付けられる様な事なんて…」


「昨日はネル様と仲良く昼食、街ではシルフィオナ様とお茶をして、寮ではサーフィラ様と談笑していたとか」


 ああ、どれこれも生徒の目につきますね、コンチクショウォー!

 

「はぁ……とにかく気をつけるさ。いまさら友達辞めるつもりもないし」


「あはっ、 それでこそお兄様です。 応援していますから頑張って下さい。個人的にはネル様がお勧めですよ? 友達贔屓を承知で言いますけど」


「いやいやいや、そんなんじゃないから」


「あ、それとも私達の方が好みとか? これは困りましたね」


「――(おぉ)」


 人の話を聞かない子達だな、おい。


「そもそも俺、ロ○コンじゃないし」


 …………多分、メイビー。


「ん~、それは聞き捨てなりませんね。では私達が子供ではない証拠を体感させてみせましょう!」


 体感ってなに? ――と、そう聞き返す前にアンが俺の片腕を抱えるようにギュウと抱きしめた。

 瞬間、制服の上からでも柔らかいふにゅうとして感触が。


(うおぉ!? この感触はおっぱ…マシュマロ!? そ、それなりにある? この歳で此処まであるなんて、なんて潜在能力だ!?)


 その女性特有の柔らかな感触に弱冠壊れ気味な俺。

 だが所詮は子供っ! 確かになかなかの破壊力だが、屈する程では……


 だがそこに更なる攻撃の手が加えられる。


「ミレーユっ!」


「――了解」


 反対側からはアンと比較にならない、むにゅうとした感触が。


(おわああぁぁ!? 先程よりも遥かにあるだと!? あ、アルターの獣人は化け物かっ!?)


 両腕に感じる柔らかくも気持ちよい弾力に意識を持っていかれそうになる、こんな人目があるところで醜態をさらせるかという意地で色々と踏む留まる。

 ……もう遅い? そこはスルーして欲しい。


「分かった! 参りました、降参っ! 子供じゃないよ、立派な女性! だから離せえぇぇーー!!」


 もはや恥も外聞もない敗北宣言、じゃないと道を踏み外しそう。


「分かれば良いんですよ、分かれば~」


 言いつつ体を離すも、二人の顔は赤い。恥ずかしいならやらなきゃいいのに。

 まぁ……俺はそれ以上に真っ赤になってるだろうけど。あまり縁が無かったとは言え、年下の女の子に言い様におちょくられるなんて我ながら情け無い。


「はぁ~、俺はそろそろ行くよ。二人とも遅れないようにな」


 馬鹿な事やっている内に昼休みも残り少なくなってきた。

 俺は弁当箱を片付け、今だ赤いであろう顔を押さえて立ち上がる。


「抜かりはありません。それではまた今度です、お兄様」


「――ばいばい」


 俺は手を振る二人に片手を振って答えると、鉄製の扉を開いて屋上を後にした。

 ……休み時間の筈なのに、どっと疲れたような気が……

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