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第十話 魔法を使おう

 さて、始業式も終わり今日からいよいよ授業開始だ。

 この世界の事を知ってから一週間とチョイしか経っていないが、随分と長く感じたような気がする。


 いつも通り不快感を与えない程度に身嗜みを整え、予め渡された時間割に沿って教科書を準備。

 居間の異世界扉を使ってアルターへ行くと今日も談話室には生徒達が居たが、心構えは出来ていたので昨日ほど焦る事はなかった。


 ハイドと合流、珍獣を見るような視線に苦笑を浮かべ、教室でもまた質問攻めに会うのかな思いながら目的地へ到着。


 しかし今朝の教室は予想と違って、質問しに来たクラスメイトはいたものの、常に一人か二人で一言二言答えただけで満足してくれた。

 どうやら昨日俺がテンパっていたのを見て反省し、自主的に制限を設けてくれたようだ。


 有り難い上にその心遣いが温かく感じられ、この後の授業もなんとなく上手く行きそうな気がした。


 …………が、


「おい、ヒイラギ、なんでお前此処にいるんだ?」


 ホームルームの為に教室に来たグラント先生の台詞に嫌な予感がした。


「なんでって……ホームルームですよね?」


「いや、お前は魔法発動の基礎を学ぶ為に、第二階級二位の獅子クラスに臨時で入れてもらうんだろうが。第二階級第二位は今日から魔法の訓練実習に入るから、お前も入れてもらうって説明しただろ?」


 いや、説明しただろって、されてないよっ!?


「お前は魔法関係は全然だから、こちらの世界より進んでいる数学や化学の時間を、他階級の魔法関係の授業に潜り込ませるのに使うと……言わなかったか?」


「キレイさっぱり聞いておりません!」


「そうかそうか、じゃあ今すぐ第六魔訓練場に向かってくれ。獅子クラスの生徒は現地集合だから、急がないと授業始まるぞ?」


 ちょ、何一方的に……え~と、第六魔訓練場はっと……うげ、メチャクチャ遠い!

 頑張って走っても十分はかかりそうだから、今から行ってぎりぎり間に合うかどうかといったところだ。


「急げよヒイラギ? それじゃあ、HR始めるぞ~」


 この鳥頭、もとい熊頭め! ……しょうがない、少々大人気ないが。


 俺はポケットから携帯を出すと、短縮に入れておいた人物に掛ける。

 都合が良い事に相手は直ぐに出てくれた。


「あ、学園長? 実はうちの担任のグラント先生が今日の俺の予定について伝えるの、サッパリ忘れてて。しかも悪びれずに今から対魔訓練場に急げだって。え、いやいや別に俺はペナルティだなんてそんなつもりじゃ……でも、学園長がそう言うんじゃしょうがないですね、よろしくお願いします」


ピッ、と通話を切ると自然と口元に笑みが浮かぶ。


「ひ、ヒイラギ……? お前、今一体何を……?」


「え? ちょっと学園長に遅れるかもと言う旨を連絡しただけですよ? それはそれとして、何やら楽しそうに笑ってましたけどね、学園長。それでは!」


 シュタっと片手を挙げて、俺は教室を飛び出て全力疾走の体勢に入る。

 頑張れ先生、学園長Sっぽいから辛いかも知れないけど、自業自得だから恨まないで!


「ま、待て、待ってくれヒイラギぃ~~~~っ!」


 後ろから悲痛な叫び声が聞こえてくるが、聞こえない振りして足に力を込める。

 最初の授業で遅刻するわけには行かないと、あらん限りの力を振り絞って走り始めた。



ゴォーン……  ゴォーン……


「…ぜぇ…ぜぇ、す、すいません。遅れ、ました………はぁはぁ」


 はい、結局遅刻しました!


「ああ、うん。グラント先生から連絡入ったから事情は知っているけど……大丈夫かい?」


 連絡? 電話の様な道具は無いと思っていたけど……いや、電話の様な効果の魔法とかあるかも知れない。

 ……ああくそ、それはそれとして脇腹痛い。


「ふぅ……大丈夫です、大分落ち着いてきました。お騒がせしてすいませんでした」


 目の前の金髪の若い男性に頭を下げる。神族らしいこの人しか大人は居ないみたいだから、先生で間違いないだろう。


「いえいえ、気にしてませんよ。むしろ、感心したぐらいです……誰か、彼にタオルを 」


 春先とは言え全力疾走すればすぐ汗だくだ、このまま生徒に混じるのはちょっとした嫌ガラセだろう。

 そんな俺の横合いから、冷たいタオルが差し出された。


「よかったら使ってください、先輩」


「あれ、ネル?」


 タオルを持つのは年下の友人、獣人族の王女ネル。

 貰ったタオルで顔を拭きながら集まった生徒を見ると、昨日食事を一緒に摂ったネルの友達もいる。

 なるほど、ここはどうやらネルの在籍するクラスのようだ。学園長が気を遣ってくれたのだろう。


「おや、ネルさんのお知り合いでしたか。では、今日はネルさんの班に入れてもらって下さい」


 俺がネルに促されて生徒の群れに混じるのを確認してから、神族の男性教師はポンッと手を叩いて言った。


「では皆さん、揃いましたね? では初めまして、僕は第二階級魔法科講師のカイル・ハーネットです。皆さんの魔法実技を担当することになります。早速授業に入りたいところですが、留学生のヒイラギ君がいるので簡単にですが復習しておきましょう」


 こちらをチラッと見てから笑顔で続ける。


「学園では折り返しの時期、第二階級の第二位より魔法関係の実習が始まります。これはある程度身体が成長して魔力が安定していないと危険が伴うためです。ですからヒイラギ君もスタートラインは一緒なので気負う必要はありませんよ」


 へぇ、魔法を覚えるのにもそんな決まりがあるのか。

 このリスクはもしかしたら異世界人の俺に当て嵌まるかも知れないし、気を付けておこう。 


「皆さんには初級魔法の放出系を使って頂きます。放出系の魔法はもっと簡単で低リスクですからね、初心者の練習用にピッタリですので。使ってもらう属性に関してはこちら、このクリスタルに触れて属性検査し、最も適正のある属性の魔法を使って頂きます」


 背後に置いてある、二メートル弱の八角錐のクリスタルを指さして言った。


 その後は細々とした注意事項(班はなるべく離れるとか、前方に人が居ないことを確認して唱えるとか)続き、ようやく属性検査となった。

 生徒が一列に並んでクリスタルに触れていく中、新名も中で予め予習しておいた内容を反芻する。


 確か属性は火・水・風・土・雷・氷・光・闇の全八属性。

 クリスタルで調べるのはあくまで適正が高い属性であって、得て不得手があっても全属性使うことは出来るらしい。

 クリスタルに触れると各属性に対応した色の光を放つのだが、同程度適性が高いものが重なると、交互に点滅するらしい。


「先輩? 前空きましたよ?」


 ネルの声で思考の淵から引き上げられる。

 考え事をしている間にも列は進み、順番を消化してクリスタルは目の前だ。


「悪い、ボーっとしてた……先生、触れるだけで良いんですよね?」


「はい、それだけでクリスタルが貴方体内の魔力を検知してくれます」


「それじゃ、失礼して……」


 そ~と手を伸ばしてクリスタルに触れる。

 なんとなく冷たい物と思っていたが、手の平には仄かな温かみを感じた。


 同時にクリスタルの最奥で小さな光が生まれ、徐々に大きくなるその光は緑色だった。


「緑って……確か風属性でしたっけ?」


 「ええ、その通りです」


 先生からの同意を貰いながら『風ねぇ~』と呟く。

 自分に合っているのかいないのかは分からないが、取り合えず手を離そうとして……


「おっ?」


 クリスタルの光が、緑から赤へと変わった。


「おや、火とも相性が良いようですね。ふむ、彼は二属性持ちっと……」


 何やら用紙に書き込むと俺の方へ笑顔を向けて、『はい、結構ですよ』と言って終わりを告げた。

 俺がそこから離れると、後ろにいたネルがクリスタルに触れる。


 クリスタルは白・黄の順に輝いた。つまりネルは光属性と雷属性に適性が高いということだ。

 ちなみに普通は適性が高い属性は一つで、二つでも学年に十数人しかいないらしい。


 極稀に三、四つの属性と相性が良い者も居るらしいが……


 ふとネルの様子を見て気になった。

 他の生徒が『よっしゃ水だ~!』とか『闇がよかった』とか一喜一憂しているのに比べ、特に驚いてもいないというか、淡々としているというか…


「ネルは自分の結果について驚いたりしないのな」


 俺がそう言うと、ネルは少しトーンを落として言った。


「実は……知ってたんです。こう見えても王女ですから、早いうちに検査しておくんです。魔法の実技も始めてますし……」


 へぇ、英才教育の一環って言ったところか?

 この世界の治安とか情勢は分からないけど、王女ともなれば身を守る術の一つや二つ必要になるのかも知れない。


「あれ? じゃあどうして検査を受け……いや、すまん、聞かなかった事にしてくれ」


「にゃにゃにゃ!」


 言葉の途中でネルの表情に陰りが射したのを見て、俺は自分の馬鹿さ加減に呆れつつネルの頭を強引に撫でて誤魔化した。

 他人と進みが違うってことは、周囲から浮くって事と同義だ。只でさえ王女なんて立場なんだから、何かの切っ掛けでいじめ……はないだろうが孤立することはあるかもしれない。


 俺も小・中学時代は出席日数が少ないせいで距離を取られると言うか、なじめない事があったもんな……


 あれ? ちょっと違うか?


 まぁそれは置いといて、検査の終わったネルと一緒に数人のグループの中に入れられた。

 内訳は魔族男子1、魔族女子1、神族男子1、獣人族女子2、そんでもって人間男子の俺の計六人。

 この班の女子はネルの友達で昨日のお昼一緒だったから、俺とも顔見知りで幾分気が楽だった。


「みんな知ってるだろうけど、一応自己紹介。ヒビキ・ヒイラギ、よろしく」


 シュタッっと片手を挙げて挨拶すると、それぞれ挨拶を返してくれる。

 魔族の男子は興味深げで、メガネを掛けた神族男子はちょっとおどおどしながら、女子達はニコニコしながらと反応はマチマチだった。


「皆さん、自分の属性はわかりましたね? それでは各班ごとに距離を取って始めてください。先程の注意事項を忘れないようにして下さいね」


 先生のその一言を合図に、それぞれ班毎に距離を取って準備を始める。


 この第六魔法訓練場はドーム状の建物で、ぶっちゃけ野球が出来そうなくらい広い。

 しかも建物の内側には堅牢な結界が二重三重に張られているらしく、強力な魔法を使っても建物の外に影響が出る事はないとか。


 つまり初心者がいくら魔法を使っても無問題って事だ。


 適当な距離を取った俺達の班が、誰から順番にするかと話し始める……俺、放出器官とやらが無いから魔法使えない筈なんだけど、どうするんだろうねえぇ?

 ……と思っていたところに、ハーネット先生がやってきた。


「ヒイラギ君、君に渡すものがあります。受け取ってください」


「……これは、指輪ですか?」


「はい、その通りです。君は魔力は持っていても、それを体外に出す術がありません。この指輪はあなたの体内の魔力を放出する為の仲立ちをするものです。魔法を使う手……利き手に嵌めておくと良いですよ。」


 渡された銀色の飾りっ気のない指輪を、右手の中指に適当に通す。

 指輪は特に抵抗する事もなくピッタリと嵌った。


「では、体内の魔力を感じる手助けをしましょう。じっとしてて下さいね?」


言葉と共に俺の背後に回ると、ハーネット先生は俺の両肩に手を置いた。


「学園長の話によると、君の種族にも魔力の発生器官と感知器官があるそうです。感知器官は長らく使っていないせいでその機能が退化してしまいましたが、外部から魔力を流して刺激する事で再びその機能を取り戻すのだそうです」


 説明するハーネット先生のその手が、段々と熱を持ち熱くなってくる。


「使わなくなったので機能が退化していましたが、君の世界でもずっと昔には魔法を使っていた者が居たのかも知れませんね。あるいは私達とは違う形で、その魔力を行使する者が居たのかも知れません」


 それは西洋の魔女だったり、東洋の陰陽師だったり、あるいは超能力者なんて類の人種だったりするのだろうか?

 ハーネット先生の手からもたらされた熱が、まるで俺の血流に乗る様にして全身を巡り循環して行くのが、徐々にではあるが分かった。


「わかりますか? 君の体内を循環する僕の魔力が。僕の魔力の残滓は直ぐに消えますが、一度魔力を知覚したことで自分自身の魔力にも敏感になった筈です。意識を集中させて見て下さい、わかりますか?」


 ハーネット先生に言われるまま、目を瞑って意識を集中させてみる。


 ……確かに、先程の暖かな感覚――先生の魔力は無くなったが、それとは別の熱が俺の中を循環して流れているのが感じられた。

 これが俺の魔力なのか? なるほど、これは面白い。


 目を開く、もう特別意識しなくとも体内の魔力を感じられるようになっていた。


「ええ、わかります。面白いですね、これ」


「上手く行ったようですね、良かった。それでは、実際に魔法を唱えてみましょうか? 火か風の初級の詠唱はご存知ですか?」


「はい、それくらいなら暗記してきました」


 呪文を暗記するって新鮮な感覚だった。

 勉強の暗記と云えば社会の用語か数学の公式ぐらいしかなかったからなぁ~…まぁ、留学が終わった時、これが日本の実社会で役に立つとは思えないけど。


「それは感心ですね。では、火の初級呪文で試してみましょうか。指輪を嵌めた手の平をあちらに向けて、体内の魔力が体から手、手から指輪、指輪から外へ出るのをイメージしながら呪文を唱えてみてください」


 人が居ない方向に体を向けられ、言われるままに右手を開いて突き出す。

 言われた通り、体内の魔力が血潮に乗って指輪から外に出るのをイメージして……


「万物の素、猛る火よ、この手に集え、《ファイヤボール(火球)》」


 呪文の節毎に体内の魔力が脈動、指輪へと向かい最後の詠唱で体から力が抜ける感覚。

 すると右手の先から小さな赤い魔方陣が出現。その魔方陣から拳大の火の玉が飛び出し、十メートル程進んでから小さな爆発を起こし消えた。


 ……やっべぇ~、俺超格好良いっ!テンション上がるわーーーっ!

 

 厨二病ですね、わかります。


「威力・精度共に申し分ないですし、予備知識なしでこれなら上出来でしょう。では心配ないようなので他の生徒の様子を見に行きますが、魔力切れだけには注意してくださいね」


「魔力切れ、ですか?」


「はい、魔力切れです。魔力は言ってみれば精神エネルギーの様な物。そして精神は肉体と密接に結びついています。魔力を消費すれば体から力が抜けたり、意識が朦朧とすることもあります。体内の魔力を使い切ってしまうと、気を失って倒れ一日目を覚まさない事もあるので気を付けて下さい」


 人がストレスで体調を崩したりするのを、もっと即座に引き起こすようなものだろうか?

 本での知識しかないが、強いショックを受けて気を失うって事もあるからな、俺も気を付けないと駄目か。


「わかりました、ありがとうございます」


「いえいえ、教師として当然の事ですよ……ではネルさん、班の事はお任せしましたよ?」


 ハーネット先生はネルに念押し(ネルは班長だった)すると、既に練習を始めた他の班の生徒の監督に行ってしまった。


「スゲェな、兄ちゃん。今まで魔法とか知らなかったんだろ!?」


 魔族の男子がなにやらキラキラとした目で俺を見る。いやいや、初歩の初歩みたいだしそこまで言われるもんでもないだろ?

 そう思って周りを見回してみると、意外と失敗してる生徒もいる。魔法が発動しなかったり、前に飛んで行かなかったり、進んだと思ったらすぐ落ちたり。


「さすが先輩です、ボク達も負けていられませんね……じゃあみんな、さっき決めた通りの順番でやろう?」


 ネルの仕切りでそれぞれが順番に呪文を唱え、魔法を発動させていく。


 水が、風が、火がそれぞれ飛んでいく。

 見ていると魔法を出す際に水だと青の、風で緑、火が赤の魔方陣を作りそこから魔法を出していた。

 魔法を使う際には属性に応じた色の魔方陣が出るのか、面白な。


 それはそれとして、俺は別に気になる事がるのでちょっと試してみる事にする。

 まず意識を体内の魔力に集中させてその流れを正確に捉え、その流れに更に意識を集中させてイメージに沿って動かしてみる。


 ………………


「……うん、いける。思った通りだ」


 魔力の動きというのは波のようなもので、例えるなら心電図に描かれる線だ。

 そして魔法を発動させる際には、その線が特定の波長を描く事だと俺は仮定した。

 

 他のメンバーが魔法を飛ばしている間に、口の中で《ファイヤボール(火球)》の呪文を反芻すると、やはり唱える度に体内の魔力が特定の動きをしている事が分かった。


 そして、この魔力の動き。これは呪文を唱えなくとも意識を集中させれば、動かす事が出来るようなのだ。

 ……つまり、呪文っていらなくね?


 『火球』の魔力の動きを入念にイメージし、それに沿って魔力を流す。

 魔力の波がイメージ通りに動かず多少ぶれたが、数回流し直すと何とか安定したのでそのまま行く。


「……『ファイヤボール(火球)』」


 詠唱無しの魔法名だけで発動。

 先程と同じように手の平の先に赤い魔方陣が現れ、そこから火の玉が出現・直進して小さな爆発音と共に消滅した。


 また体から力が抜ける感覚。これがハーネット先生の言っていた事か。


 ……っと、そこでやけに周りが静かになっている事に気が付く。

 見ると班の全員が呆然と俺を見ていた。


「えっと……なんでございましょう?」


 なぜかおかしな言葉遣いになる俺。

 それが切っ掛けになった訳でもないだろうが、我を取り戻したメンバーが猛烈な勢いで問い詰めてきた。


「ちょ、兄ちゃん! 今の詠唱破棄だろ!? なんでいきなりできんだよ!?」


「せ、せ、せ、先輩っ!? 本当に魔法使ったことないんですか!?」


「うわ~、さすがネル様のお兄様ですね~」


「す、凄いですね……」


「…………凄い」


 いやちょっと待って、そんな一気に言われても……


「どうかしましたか、騒がしいようですが」


 ちょい騒がしくし過ぎたようで、ハーネット先生が戻ってきた。


「あ、えーっと、実はい――」


「お兄様がいきなり詠唱破棄成功させてました~」


「お兄様って何さ?」


「ほうっ、詠唱破棄ですか? ……ヒイラギ君、お手数ですが見せてもらっても構わないでしょうか?」


 あれ? 俺の疑問スルー?

 ……今更蒸し返せる雰囲気でもないので、仕方なく魔力に意識を向ける。


 ついでにさっきとは少し趣向を変えて、手の先で火の玉が留まるのをイメージしながらやってみる。

 先程同様、詠唱無しで魔法を発動――――狙い通り手の先、魔方陣の上三十センチぐらいのところで動きが止まった……が、ちょっと熱い。


「これはこれは驚きました。詠唱破棄の上、コントロールまで。ふむ、これは第二階級第一位卒業レベルでも良いかも知れませんね」


 マジで?…………あ、火の玉が消滅した。


「数回基礎授業を受けた後は、第一階級三位の授業に編入出来る様申請してみましょう。恐らく君なら初級呪文は問題ないはずですからね」


 いきなり二学年飛び級か、良いのかなそれ。

 まぁ、中学生相当の彼等に混ざるのはちょいと恥ずかしかったから、好都合と言えば好都合か。


 俺が物思いに耽っている間にハーネット先生は再び他の生徒の下へ、代わりにネルが傍まで寄ってきた。

 …………なんだか拗ねた様な表情で。


「先輩、ズルイです。ボクだって、ようやく出来るようになったばっかりなのに……」


 凄いのか? 実感ないが、そう言われるからにはそうなんだろう。


 親に似てしまったのか、色々とコツを掴むのだけは何事も早いんだけどね。

 でも一定以上は上達しなくて、本職には負けてしまう悲しい器用貧乏。


 経験上、ネルのような努力型にはそのうち抜かされてしまうだろう。

 哀しいけど、これって現実なのよね。


「だーいじょーぶっ! ネルが頑張り屋って俺は知ってるし、気にすることないって。それに俺のほうが年上なんだから、少しぐらい良いトコあってもいいだろ?」


 言いながらネルの頭に手を置いて優しく撫でてやると、頬をほんのり赤く染めてコクンと頷いた。


 その後、初めての魔法発動で持ったより疲労した俺はイメトレだけで残り時間を過ごし、ハーネット先生に魔法使用に関わる心得などを再度聞かされて授業は終了となった。


 …………が、


「ああ、ヒイラギ君。君は午後の授業は『使い魔召喚』と『魔具生成』に出てください。本当はもう少し先の予定でしたが、それほど魔力の扱いに長けているのなら問題無いでしょう。他の先生方には連絡しておきますので」


 と、何やら言われた。


『使い魔召喚』は予想着くけど、『魔具生成』って何の事か分からないが……いよいよもっと、異世界ファンタジー染みてきた感じがした。

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