こども
まるで空が泣いているかのように、しとしと雨が降る午後のことだった。
いつもなら、遊んでくる、と言って雨も気にせずに出て行く彼は、私の膝に必死にしがみついて泣いていた。くしゃり、私のシフォンスカートの裾が彼が強く握ったことで音を立てる。ああ、シワになっちゃう。
淡いピンク色の髪の毛を撫でてあげると、ゆっくりとした動作で顔をあげた。瞳にはたっぷりの涙で溢れかえっている。顔をあげる動作で、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
「なんでひとりで、でていこうと、するの」
顔をくしゃくしゃにして泣きわめく彼を、何度子どもっぽいと思ったことか。
事実彼はまだ17歳で子どもといえば子どもなのだけれども。
それにしても幼すぎる。
まるで赤子だ。
お母さんに泣きつく赤ちゃんのよう。
と言っても私もまだ17歳。
私はお母さんでもなんでもない。
そんなに母性があるタイプではないのでいささか間違っているような気はする。
どこにも行かないよ。今私はここにいるでしょう?ほら泣き止んでよ。とかなんとか言いながら、くしゃくしゃと少し乱暴に頭を撫でてやる。かなり変わった淡いピンク色の髪が目にかかると、彼はうっとおしそうにうなった。
「ほんと?どこにもいかない?ここにいる?」
「うん、いる。今日はどこにも行かない」
「ほんとうに?」
「うん、本当」
何回も聞いてくるのを根気よく返事する。
ここで彼を邪険に扱ってしまえばヒステリーを起こしてしまうに違いない。一回暴れ出すと止まらないのだ。そのときの傷は、いまだ消えずに首筋に残っている。今度、流血沙汰になれば私は彼とは一緒にはいられなくなってしまうかもしれない。そうなると、彼は一人でなんて生きていけない。私が、いなきゃ。
そもそも今日は私が悪かった。
彼が寝ている間に、部屋から抜け出して外へ出ようとしたのが間違いだった。
ベットから降りただけだった。
その瞬間彼の目が覚め、抱きつかれてベットに戻れされて泣きつかれた。
嫌だあ。一人は寂しいよう。なんでだまって出て行こうとするのお。といつもの言葉を何倍も吐いて甘えてくる彼を見て罪悪感が湧いたのも仕方がない。
でも彼はいつも私に黙って出て行ってしまう。
私がそんな甘えた言葉を言ったとしても、へらりと笑って、ごめん、の一言で終わってしまうのだろう。彼はそういうやつだ。
少し理不尽な気もしたけれども、目の前の彼は徐々に起源を取り戻してきたようだ。淡いピンク色の髪を手に絡めて、額にキスを落とすと笑顔を見えてきた。まあ、いっか。
「一緒に行こうか」
「いっしょに?」
「うん、外に」
「……そと、」
私の手に頬ずりをしながら、うーん、と唸る。
この提案は何回目になるかはもう分からない。
一人で出てはいけないのなら一緒に出て行けばいい。
彼は少し考える素振りをして、いつもと同じ言葉を紡ぐ。
「だめ、そとは、あぶないから。あめ、ふってるし。ぬれちゃうよ」
しかし、その提案が受け入れられることはない。
ベットしかない真っ白な部屋から見えた空はもう晴れていた。
保護者な女の子もなんだかんだ駄々っ子に依存してるとおいしい。