第9話「秋の南瓜-2」
「ふっ、はっ、とう!」
俺はひたすらに特定の色の燐光を生み出す事を念じながら踊り続ける。
どうやら、色の変化には特定動作を行いつつ念じるのが一番良いらしく、また体の強化と同じように慣れれば慣れただけ効率が良くなる性質を持っているらしい。
と言うわけで傍目に見れば奇声を上げつつ南瓜が踊り狂っていると言う奇妙な光景になっていることを理解しつつも修練を重ねる。
「よしっ!成功!」
そしてその結果として今度は青緑色っぽい燐光を生み出す事に成功する。
ただ、その量は黄緑色と同じようにとても少ない。まあ、量については初めてだからしょうがないか。
「うし、どんどんやってやる!」
で、その後も他の色を生み出せないか試したところ、黄緑、青緑、薄緑、深緑と通常の緑色以外にも4色の色を出すことに成功した。
どれも緑系統の色じゃないかって?
いや、一瞬なら赤系統以外の色限定でもう少し緑色から離れた色も出せたんだよ。ただ、修行不足なのか一瞬で散っちゃったし、量も前述の4色と比較してもさらに少なかったんだよ。
これはきっとあれだ。色彩の表があるだろ。アレで表したときに元の色の隣の色は2の光で1の光を生み出せるけど、その隣は3や4以上の光で1しか生み出せないとかそう言う法則があるんだと思う。
だからこそ緑色の正反対の位置にある赤系の光はそもそも光の絶対量が少なくて生み出せないとかそんな感じなんだろう。
……。ええそうですとも、最終結論はやっぱり修行不足の四文字ですよ。
「だが諦めん!諦めんぞおおぉぉ!!」
そうしてこの日から俺の修行メニューに色の変化が追加されたとさ。
てか、基本的に水と光だけで生きていける身体じゃなかったら確実に死んでるような生活をしてるよなー俺。
多少は気分転換とかもしないと精神まで植物になりそうだわ。
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「うし」
と言うわけで数日後、いつも通りの修行を終えた所で今日はちょっと偵察に出かける。
目標は以前見たパワースポットと思しき湖。
樹の方を選ばなかったのは溢れ出てる燐光の総量的にこっちの方が少なかったので、万が一何かがあった際に逃げられる可能性が少しでも高いかもしれないと判断したためである。
後、あれだけ燐光溢れる湖の水を飲んだら俺のパワーアップに繋がるかもしれ無いと言う打算も有る。
「じゃあ行くか。ヒュロロロォォ」
俺は猪の胃袋を加工して作った袋モドキを手に取って拠点を勢いよく飛び立つと湖に向かって樹上を高速で飛んでいく。
今更ながらに思うが俺が空を飛ぶ原理も謎だよなぁ。羽も翼もプロペラすらも無いってのに何で飛べるんだか。
まあ、便利だからその内改良の為に調べるのは有りかもしれない。
「と、見えてきた見えてきた」
そしてしばらく飛んだところで湖が見えてきたので、減速し、一先ず湖の様子を窺うために木陰に身を隠してゆっくりと地上から接近していく。
予想通りと言うべきなのかこの湖は複数の沢と繋がっているようで、湖周辺の植物はその沢から水を得ているためなのか他の場所の植物に比べると生き生きとしている気がする。
いやまあ、今は秋だから落葉し始めてる木も結構多いんだけどさ。
ああそれとだ。語る機会が無かったので今の内に語ってしまうが、色を変化させる修業を始めてから俺の燐光を見る能力がちょっとだけ強化された。具体的に言うと以前よりも細かく色を見極められるようになったし、感知するために必要な光量の閾値も低くなった。
おかげで最近は出している燐光の色の違いから動物や植物の種族違いを見極められるようになってきたので色々と便利である。
「ふむ……こうして見ると色々な光が混じってるな」
でだ。森を抜けて直接湖が見える位置まで来て強化された眼で湖を見てみると、樹の方はほぼ完全に単色だったのに対して、湖の方は青を主体としつつも多様な色が混じっていることが分かる。
恐らくは湖に生息している魚や水草が出しているのだろうが、正に塵も積もれば山となると言った感じである。
「ただ、やっぱり主は居るっぽいなぁ」
ただ、これだけ広くて栄養がありそうな場所なら当然の様に縄張り争いも有るようで、湖から漏れてくる光にも濃淡や強さなどが場所ごとに違っており、中には周りと比較して圧倒的と評すしかない様な光が出ている場所もある。
恐らくだが、あの圧倒的な光を出している主がこの湖の主だろう。
俺の様に常時外に光を漏らさないように強化しているなら話は別だが。
「まあ、とりあえず光的にも視覚的にも直接的に脅威になりそうなものは無さそうだしもう少し近づいてみますかね」
俺は周囲を見渡して安全を確認すると、湖岸から3m程の距離にまで近づく。
で、そこから袋モドキを持った手を伸ばして湖の水を袋一杯分回収するとすぐさま森の中に逃げ込む。
一瞬主が出していると思しき光に動きがあったのでビビったがまあ大丈夫だろう。
あれだけの光を出しているなら沢を伝って湖の外に出れるようなサイズとは思えん。
「ふう。さて肝心の水はっと」
俺は青色の燐光を大量に放出している袋の中に根の一本を付けて吸い上げてみる。
「!!?」
最初に感じたのは今まで飲んでいたのは水ではなかったのかとまで思わせる味の濃さ。
そして続けて体全体に気力が漲る感じと様々な栄養が混ざったことによる複雑な味わいを感じ取り、最後にそれほどまでの味をしていたにも関わらずすっきりとした後味を残す。
簡潔に言ってしまえばだ……
美味い。
ただその一言に尽きるだろう。
ああ……これは何としてでも毎日飲みたいな。既にタイムスケジュールはパンパンだけど毎日湖まで往復するのを修行に加えてもいいかもしれない。
「いや、いくらなんでもたかが水に感動しすぎでしょう」
「んだとごらぁ!こちとら普通のもんは食えねえからこういうのが生き甲斐になんだよ!」
と、感動に浸っていたら後ろから突然身も蓋もないような言葉を背後からかけられたため、多少の怒りを露わにしつつ俺は振り返る。
「っつ!?」
「あ、飛べるんだ」
そして相手の姿を視認すると同時に気が付かない内に背後を取られていたことを察して俺は宙に飛び上がって戦闘態勢を取る。
確かに湖の水に感動していて注意を多少疎かにしていたが、それでも警戒網代わりに周囲に蔓を敷き詰める事で俺以外の生物の接近に気づけるようには俺はしていた。
「お前何者だ?」
だがこいつは……水を人の形に押し込めて固定化したような姿を持つこの生物は俺の警戒網を難なくすり抜けた。
それはこいつを十二分に警戒するべきという判断を下すには十分な事柄だ。
「人に物を尋ねる時は自分からって言われなかった?」
そして、そいつは笑い声でそう言った。
踊る南瓜は水が美味いと言う