第89話「南瓜とセンコ国-19」
「誰かと思ったらロウィッチか」
「おっ、来たか」
リーン様から受け賜った杖を片手に持って元の世界に戻ると普段とは違う衣装に身を包んだロウィッチが破壊神の腕による攻撃を防いでいた。
どうやらロウィッチがリーン様の言う所のある方だったらしい。
「依頼でお前を助けるように言われてるんだけど何をすればいいよ?」
「そうだな……」
俺は一度周囲を見渡し、手に持った杖を見る。
正面には破壊神の腕があり、ロウィッチに防がれてはいるが何度も俺たちの方に殴り掛かって来ている。
そしてそれ以外は分厚い雨雲に覆われて、下にあるはずのセンコノトの状況も、時刻的に上で輝いているはずの月や星も見えない。
リーン様から貰った杖には相変わらず強大で凶悪な魔力が秘められている。
「念のために俺だって分からないようにするのと、戦いの余波で下に被害が出ないようにしてもらえるか?」
「分かった。下については防御魔法を張っておいて、隠蔽の方は変身魔法を使っておく」
「頼む」
ロウィッチはそう言うと俺の頼みを果たすために何度か空中に指で記号を描いたり、指を鳴らしたりし、それに伴って俺の頭に帽子が被せられる感触や蔓の手に白い手袋がはめられたりする。
雲で隠れて魔力しか見えないがセンコノトの方にも防御魔法が張られたようだ。
これならこれから何が起きても俺に追及が行ったり、余計な被害が出る事も無いだろう。
杖関連で何か追及されるのは俺にとっては非常に困るしな。
『ぐぬぬぬぬ……』
「さて、奴さんもいい加減にお怒りのようだし後は任せたぞ」
「分かった」
箒で俺の後ろに移動しながらロウィッチは今まで破壊神の攻撃を防いでいた防御魔法を消す。
そしてそれに合わせて今まで無視されていたのが癪に障ったのか破壊神の腕が大量の魔力を拳に込めて殴り掛かってくる。
『ぬおおおおぉぉぉ!!』
「さて、一体どう変化するのやら……【共鳴魔法・結界桜・滅】」
俺は破壊神の攻撃に対して杖に魔力を込めると同時に周囲へ結界桜の花びらをバラ撒く。
すると杖の力に依って増幅された俺の魔力が結界桜へと供給されて【共鳴魔法・結界桜・滅】が発動し、俺とロウィッチの周囲に赤い稲妻を纏った桜色の防壁が瞬時に展開される。
『こんなもので我が攻撃が防げると……ぬぐおおおぉぉぉ!?』
そして破壊神の拳が防壁に触れた瞬間、防壁に触れた箇所から破壊神の腕の表面が弾け飛び、そのダメージによって破壊神の腕も大きく仰け反る。
それに対して防壁内部に居る俺とロウィッチの周囲にはそよ風一つ吹いていないことからして破壊神の攻撃が完全に防がれていることが分かる。
『ぐぬぬぬぬ……これは一体……』
破壊神の腕は何が起こったのか分からない様子で拳から煙を上げた状態で佇んでいる。
それにしてもリーン様の力はとんでもないな……。
意思一つで発動可能な上に、消費魔力は最小限かつ発動スピードと効果は今までの数倍から数十倍か。桁違いにも程がある。
尤も、その根底にあるのが『滅び』なんて言う明らかに危険な力である以上、扱いには細心の注意を払う必要があるが。
「とりあえず上に向かって撃つようにするべきだな」
「やべっ、強度上げとこ」
『ぬっ……』
俺は杖を通して周囲の空気に球を形成するように魔力を込め始める。
するとその魔力球を中心に大気が収束していき、特別な目を通さなくても見えるほどの風がそこで吹き荒れるようになる。
「まだだ……まだ足りない……」
「げっ……」
『させるかああぁぁぁ!!』
だが、俺はその魔力球に向かって更に大量の魔力を送り込む。
するとどのような反応が起きたのか詳しくは分からないが、魔力球は少しずつ光り輝きだし、更に周辺の空間を僅かにではあるが歪ませ始める。
やがて、魔力球が十分に輝いたところで破壊神が集まっている魔力に恐れを為したのか今までで一番多くの魔力を込めた状態で勢いよく殴り掛かってくるがもう遅い。
「行くぞ破壊神……【レゾナンス】……【共鳴魔法・滅天-範囲指定】」
俺が名を告げると共にその一部が開放された魔力球は最初に一筋の光を照射して狙いを付けると、続けてその線を囲う様に円柱状に境界線が引かれる。
「滅びるがいい。【共鳴魔法・滅天-解放】」
『!?』
「うおいっ!?」
そして俺が杖に完全開放の意思を込めた状態で魔力を流し込んだ瞬間に魔力球が弾け飛び、事前に指定した範囲に存在していた物質を空間ごと文字通りに跡形も無く消滅させて行き、範囲内にあった破壊神の腕の肘から先の部分と空を覆っていた雨雲、それから射線上に微かに入っていた山の一部が消滅する。
『バカ……な……』
残った部分で呻くように破壊神がそう呟くと、身体の維持が行えなくなったのか残った部分もゆっくりと消え去っていく。
「ふう。何とかなったな」
「何とかじゃねえよ……第三級とかポンポン撃つんじゃねえよ……ああ、後の報告書が恐ろしい……」
「うん?」
ロウィッチが何かを呟いているが、俺としてはやれるだけの事をやっただけである。
何かを言われる覚えは無い。
「とりあえず姿を隠すか。ビュロロロォォ!?」
さて、ロウィッチの隠蔽が何時まで続くかとかは俺には分からないしな。今の魔法を見た人間も多いだろうし、早急に姿を眩ませるとしよう。
そうして俺は杖の力によって普段の数倍になっていた飛行スピードに驚きつつ人の目に触れない場所にまで飛んで行くとリーン様に杖を返し、怪しまれない程度に傷を負った状態でセンコノト近くの森に飛ばして貰った。
隠蔽をするなら徹底的にである。
長かった「南瓜とセンコ国」も決着です
04/24誤字訂正




