第87話「南瓜とセンコ国-17」
「…………」
「だんまりですか。まあいいです。私は彼を急いで治さなければ」
パンプキンの姿をした何ものかはそう言うと自分の周囲に一度雨雲を生み出してその姿を隠す。
『何故潰れぬのだああぁぁぁ!』
「うおっ!?」
『ぐぬぬぬぬ……』
破壊神の腕は雨雲を握りつぶそうとするがやはり膜のようなものに防がれてそれ以上拳を握りしめることが出来ない。
どうやらこの中級神は防御や回復に関する何かを権能として持っているらしい。
「一つお聞きします」
雨雲の中から恐らくだがこちらに向かって声が掛けられる。
「何だ?俺に答えられる事なら……っと、『シームーンバリア』」
『ぬぐおおおぉぉぉ!』
破壊神の腕はこの中級神が潰せないと見るや今度は俺に向かってその拳を突き上げてくるが、俺は水色の膜を張ってその攻撃を防ぐ。
うーん。意外と一撃が重いな。腐っても神か。普段の装備なら割と拙かったかもな。
「貴方は多次元間貿易会社コンプレックスの社員であり、何かしらの指令や依頼を受けない限りは絶対中立という事でよろしいのですね」
「ああ。それで構わない。支払うものさえ支払ってくれれば何でもする。と言っても上に相談や報告はさせてもらうけどな。ああそれと流石に交渉する時ぐらいは顔を見せてくれ」
『我を無視するなああぁぁ!!』
破壊神の腕が喚き散らしながら俺と中級神を攻撃するが、その攻撃は悉く何の問題も無く防がれる。
そう言えばコイツって腕だけなのにどうやって喋ってるんだ?皮膚上で微細振動を起こして音にしているのか、念話なのか、それとも未知の原理なのか……うーん。謎だ。
まあ、どうでもいい話か。
「いいでしょう」
「!?」
そう言うと雨雲の中から中級神がその姿を現す。
その女性は蘇芳色を基本としてアクセントに若草色の紐や赤い花の刺繍がされた豪勢なドレスを身に付けており、腰にはバラをモチーフとした王族が身に付けていそうなレイピアを佩いていた。
「その顔はまさか……」
「まあ、神々の世界に生きる貴方たちならそう言う反応でしょうね」
だが、何よりも驚いたのはその顔。
美女と言っても問題は無い顔だが元々神には美女が多いのでそれは驚く点ではない。問題は彼女の目の瞳孔がまるで爬虫類の様に縦長であり、虹彩は禍々しい金色であったことだ。
そして、多次元間貿易会社コンプレックスにおいてこの瞳を持つ者に関しては一つの指令を与えられている。
「私の名前はリコリス=R=インサニティ。貴方たちもよく知る『塔』の主と根源を同じくする者であり、今はこの地にて彼女の目から逃れつつ輪廻神として活動しています。この世界の世間的にはリーンと言う名で通っていますね」
「…………」
仮に出会った場合はすぐにその子細を社長に伝えろと。
そして万が一にも敵対した場合は一目散に逃げろとも。
……。
大物なんて次元じゃねえっすよ……。俺みたいな下っ端神から見たら完璧に殿上人じゃないっすか。何でこんなのがここに居るんですか。と言うか俺みたいな魔法少女が好きなだけの木端役人に一体何を求める気ですか……何にしてもだ。
「人生オワタ」
「……。えーと、大丈夫ですか?それと私に敵対する気はありませんよ」
「えッ!?ああはい。大丈夫ですとも。と言うかうん。敵対しないなら何の問題もねえっす。本当に何の問題もねえっすよ。ええそうですとも。寮に残してある撮り溜めた魔法少女のアニメを見るまでは死ねませんとも。と言うわけで協力させてもらいます!」
「あー、はい。よろしくお願いします」
そう言って彼女は少々呆れつつも俺に頭を下げてくれる。
幸いと言うべきかどうやら彼女に敵対の意思は無いらしい。
「で、依頼と言うのは?」
『我を無視をするなと言っておろうがああぁぁ!!』
「私から貴方に依頼するのは今私の作った亜空間で彼を治療していて、それが終わり次第こちらに戻す予定なので、そしたら貴方には彼と一緒にこの人々の想像と魔力によって出来た愚物を倒してもらいたいのです」
『だから無視をするなと……』
「ふうむ。貴方自身が戦った方が早いのでは?それと報酬は?」
『言って……』
「あまり強い力を使うとアレに感知されてしまいますので私が戦うわけにはいきません。報酬については彼を通して渡させてもらいますが、危険かつ面倒なお役目ですから当然それ相応の物をお渡しするつもりです」
『いる……』
「ん。分かりました。それなら交渉は成立とさせていただきます」
『いい加減にしろオオオォォォ!!』
彼女は一度何処かへと視線を向けるが交渉が完了したことを理解して軽く頭を下げる。
と、ここまで防御魔法の膜を殴られてもずっと無視してきたのだが、俺たちの交渉がまとまったところでついに破壊神がブチ切れて今までにないレベルの魔力を込めて殴り掛かってくる。
「【リフレクション】」
『ぬぐおおおぉぉ!?』
が、彼女が右手を上げて一言呟くとそれだけで破壊神の腕が大きく弾き飛ばされる。
うーん。流石の実力ですな。偽神程度の実力じゃどう足掻いても敵わんな。
破壊神が哀れに思えてくるくらいだ。実際は何とも思わんが。
「あ、スパイン?聞こえるか?ちょっといくつかデータを送るから許可とかその辺よろしく」
『あいよー。って、おいいいぃぃ!?何だこのおおも……』
「その辺の事情はまた後でなー」
で、この間に俺はスパインに連絡を取って諸々の報告や各種許可を得ておく。
勝手に戦って後で罰を受けるのはゴメンだしな。
「それでは、彼の治療が終わりましたので後はよろしくお願いします」
「あいよー」
そして彼女が再び雨雲の中にその姿を隠すとその気配は異相空間へと消え去っていき、代わりにパンプキンの魔力が表に出てくる。
さて、パンプキンの実力や如何にと言ったところだな。
リーン様が腰にレイピアでは無く牛蒡を佩いているのを想像した人は居ないよね。
居ないよねー?
居ませんよねー?
想像しちゃだめですよー……ハッ!殺気が!?




