第83話「南瓜とセンコ国-13」
「…………」
「どうなされましたかな?」
あー、うん。考えてみればリーン様って一般どころか人間にはほぼ知られて無い神様だったね。何も言わなければ創造神に仕えている何かとしか見られないか。
まあ、言っても何の意味も無いから口を閉ざすけど。
「いや、お前の目的はここに溜まっている魔力を利用した破壊神の召喚って事でいいのか?」
「ほう。どうしてそう思いで?」
「昔知り合いから首都の近くで破壊神の召喚をしようとしていたって言う話を聞いててな。その時は阻止出来たらしいが、話を聞く限りでは一度や二度の失敗で諦めるような連中だとは思えなかったし……」
俺は足場の下でだいぶ黒くはなっているが、光り輝いている魔力の塊を指差して神官のやろうとしている事について言う。
「これだけの魔力があれば大抵のことは出来るだろうしな」
「ははははは。よくお分かりで」
神官は俺の言葉を受けて高らかに笑い声を上げる。
そして、まるで演説をするかのように両手を大きく広げ、頼んでもいないのに自らの考えを言い始める。
「そう!私の目的はこの場の魔力を利用して破壊神様をこの世に御降臨させること!今日この日この時を境に既存の社会制度は崩壊し、我々がこの世の覇者となる日が来るのです!」
「……」
「ここまで来るのは本当に長かったですよ……なにせ十年以上前の時には流れの冒険者に妨害されたそうですし、四年前には多くの金と人脈を駆使して側室を一人こちら側に引き込んだと言うのに爆発事故で全てが水泡に帰しましたからねぇ……おかげで今回はその息子を引き込んでクーデターを起こすなどと言う強引な手法を採らざるを得なくなりましたし、本当に貴方たち創造神の走狗共には手を焼かせられますよ」
「…………」
話が長いなぁ……まあ、その間にしっかりと準備はさせてもらうけど。
それにしてもこの神官の魔力……珍しい闇属性ではあるが、それ以上に人間としては形が妙な気がする。
「ですが、今回はそうはいきませんよ……なにせここにやってきたのは貴方一人だけであり、他の者が儀式が完了するまでにやってくることは万に一つも有り得ません。つまり貴方さえ葬り去れば我々の悲願である破壊神様の御降臨は必ず叶うわけです!」
「俺に阻止されるとは考えていないのか?」
「くっくっく……それは本気で言っているのですか?」
「これは…………」
その言葉と共に神官の魔力に変化が生じ、それに合わせる様にシルエットにも変化が生じ始める。
「なるほどな……モノキオたちに使っていたのと同じ魔法か」
「よくお分かりで……」
まず両手両足が大きく膨らみ上がると、皮膚から黒い鱗がいくつも生えてくると共に手足の爪が鉤爪になるほど長く伸びる。
「これこそ我等が誇る破壊神様の御業が一つ……」
続けて胴体部分も同じように大きく膨らみ、逆立った鱗によって身に付けていた法衣が破れ落ちると同時に背中には黒と赤を基本とした翼が生え、臀部からは黒い鱗と赤い棘が生えた尻尾が伸びてくる。
「人の器を破壊してその魂に相応しき姿と力を得る魔法……』
やがて頭も皮膚が泡立つようにして体に合う大きさになるまで膨れ上がると全体が黒い鱗に覆われ、顔の右半分を覆う様に大量の赤い目が生じ、左半分からは複数の赤い角が伸び、それに伴って神官の声質もどちらかと言えば聞きづらいものへと変化していく。
『その名を『ディザスカス』と申します』
そして神官の変化が終わり、3mを越えるその体躯に似つかわしくない小さな口から黒い呼気を漏らしながら神官は己に使った魔法の名を告げる。
「随分と気持ち悪い姿だな。反吐が出そうだ」
『気持ち悪い……ですか。いやはや、感性の差ですから致し方ないとはいえ随分とつれない言葉ですねぇ……尤も元々貴方に理解してもらいたいなどとは思っていませんが』
神官は変化した己の姿とその力を確かめる様に身体を動かし、体中の骨を軽快に鳴らしてみせる。
俺の目で見る限りではあるが、変身の定番として魔力量は大きく増えているようだな。
「それにしても理解できないな。何故そこまで破壊神と破壊に力を注ぐ?そんな姿になってまで何故この世を壊したい?」
『聞く気も無いくせによく言いますね……その懐に隠している物を私に叩き込もうと虎視眈々と隙を窺っているくせに……』
ちっ、バレてたか。
俺は懐で準備が完了していた【共鳴魔法・胡瓜刀】に込めていた魔力を発散させて準備を解除する。あの魔力量だと不意打ちでなければ効果は薄いだろうしな。
と言うか、どうやら変身に伴って単純に魔力の量が増えただけじゃなくて、色々と面倒な能力が追加されているようだな。厄介な。
『それにしても素晴らしい力だ……流石は破壊神様です……』
神官が脚に力を込め、力が込められた結果として鉤爪が床に食い込む。
『では行きますよ竜殺し。間違っても一撃で死んだりしないでください……ね!』
「……がっ!?」
そして次の瞬間。
神官の姿が俺の視界から消えたタイミングで咄嗟に俺は魔力を込めた左手を上げて防御をし、そうして防御をした次の瞬間には俺は壁に叩きつけられ、盾代わりとした左腕は僅かな繊維を残してぶら下がり、今にも切れそうになっていた。
「これは……ヤバいかもな……」
壁に体が半分ほど埋まった状態で思わず俺はそう呟いていた。
つまり全ての元凶は破壊神の信者たちだったんだよ!
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