第80話「南瓜とセンコ国-10」
「何がリーン様だぁ!」
「ぐっ……」
モノキオが俺に向かって拳を握りしめた状態で駆け寄り、右手で殴りかかってくる。
俺はそれを魔法で強化した蔓の腕でガードするが、見た目以上にモノキオの拳に魔力が込められていた為に俺は衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされる。
「焼き南瓜にしてや……ちっ!」
「【ガストブロー】!」
そして吹き飛ばされた俺を狙う様にカラムジが何処からともなく石突から穂先まで全てが真っ赤な槍を取り出して突き出すが、俺はその槍の穂先に向かって【ガストブロー】を放つことで俺に刺さらないように軌道を逸らす。
俺はカラムジの槍を見る。どうやら何かしらの魔法を使って形成された物のようで、赤い粉のような物と微かにだが熱が槍の周囲から漂っている。
「隙ありッキュ!」
「面倒な連中だなっ!くそっ!!」
と、カラムジの槍を観察していたところで周囲から何十匹もの毛並み一つに至るまですべて同じトリリスたちが前歯に大量の魔力を込めた状態で俺に向かって飛びかかってくる。
流石にこの数に噛まれればただでは済まないと判断して俺はトリリスたちの攻撃が届かないドームの天井付近にまで飛び上がる事によって攻撃を回避する。
「なるほど。個体差は有れど切り札だけあって実力はきちんとあるわけか」
「ちっ、まだ死んでねぇ」
「空を飛べるとか流石はチート野郎だな」
「キュッキュッキュ。でも、時間の問題だキュ」
俺はドームの天井で下に居る三人を見る。
今までの動きを見る限りではモノキオが身体強化魔法による直接攻撃を行う近接型。カラムジが熱を纏った武器を生成して戦う中距離型。トリリスが分身……いや、サイズが変動していることから察するに分裂魔法だな。とにかく数の利を用いる集団戦闘型か。
俺の【共鳴魔法・牛蒡細剣】を避けた時点で理解はしていたが、他の連中に比べて反応スピードが明らかに早い事も考えるとやはり一筋縄ではいかなさそうではあるな……。
「さて、いっちょやりますかね」
「グガガガガ、死ぬ準備が出来たみてえだな……」
「いいぜえ、焼き尽くしてやるよ……」
「キュッキュッキュ、その蔓を噛み切ってやるでやんすよ」
天井付近から床にまで降りつつ俺はマントの中で仕込みを始め、三人はそんな俺の行動に気づいているのか気づいていないかは分からないが三方から俺を取り囲んだ状態で不敵な笑みを浮かべる。
「笑ってられるのも今の内だ。【リッパーアーム】」
「ああん?」
俺は内部を空洞にする形で作った両腕に城内で回収した剣やナイフを絡ませるように設置すると、腕全体を魔力で覆って強化する。
「そんな貧相な武器で俺の身体を切れるとでも?」
「そんなチンケなもので俺の粉塵武器をどうにかできるとでも?」
「所詮は一。あっしの数相手では何も出来ないッキュ」
そんな俺に対してモノキオは魔力による身体強化の度合いを更に上げて全身の筋肉を膨らませ、カラムジは槍を二本の刀に変形させた後に構えを取る。
トリリスも普通の人間の目で見れば一見何もしていないように見えるが、俺の目にはドーム中を徘徊する小さな魔力が見えるので、既に分裂を済ませているらしい。
それにしてもこいつらの使っている力は魔法と言うよりは能力と言った方が正しい気がしてきたな。この世界の一般的な魔法とは俺の共鳴魔法以上に離れている気がする。
「やってみれば分かるだろうさ。化け物ども」
「「ほざけ!」」
俺の挑発に反応してモノキオとカラムジが攻撃を仕掛けてくる。
「ぐっ!?」
「なっ!?」
「分かったか?」
俺は二人の攻撃を【リッパーアーム】で受け止めて防ぎ、モノキオに至っては素手で攻撃していた為に逆にナイフや剣がその手に突き刺さって苦悶の表情を浮かべる。
「だったら燃やして……」
「【リッパーアーム・リリース】」
と、ここでカラムジが武器の周りに漂っている粉塵に対して何かをしようとするが、その前に俺は腕の中の空洞にしてある部分で【ガストブロー】を多重起動する。
腕の中で解放された風は大きな圧力を腕の中に発生させ、そうして発生した圧力は腕の中で出口を求めて駆け回る。
ここでいう出口とは詰まる所最も圧力がかかると同時に何かしらの形で解放されやすい部分である。つまりだ……
「グワッ!?」
「ギャア!!」
「キュッ!?」
「ヒュロロロォォ!」
身体強化が施されて鉄以上の強度を持つ蔓よりもただ蔓に絡ませてあるだけの剣やナイフの方が出口としては相応しく、また、多大な圧力がかかった結果として蔓に絡まっていた剣やナイフは猛烈な勢いで射出されることとなる。
そして射出された武器群は勢いそのままにモノキオたちに突き刺さって少なくないダメージを与える。
「この野郎!」
「おっと」
「ふざけた真似をしやがって!弾け飛べ!」
「ヒュロロロっと」
モノキオが剣が突き刺さったままの拳を振り上げて殴り掛かり、カラムジが周囲に漂わせていた粉塵に火をつけて辺り一帯を炎の海にするが、俺はそれを悉く回避する。
それどころかだ。
「カラムジぃ!テメエ、俺様になにしやがる!」
「うるせぇ!!俺の攻撃範囲に居るお前が悪いんだよ!」
同士討ちから仲違いまで始める始末である。
ヒュロロロ。いやー、こいつら本当に協調性の欠片もねえな。どんな力を手に入れようが三馬鹿はやっぱり三馬鹿って事か。
ま、相手をする分には楽でいいけどな。
「二人とも落ち着くでやんすよ。今大切なのはアイツを殺す事でやんす。ほら、急がないと今度は何をしてくるか分からないでやんすし……その怒りをぶつけるのにもちょうどいい相手じゃないでやんすか」
「ああそう言えば……」
「確かになぁ……」
「ちっ」
で、そうして仲違いを続けてくれていればよかったのだが、トリリスが二人の肩に止まってそう囁くと二人とも無精無精ながらも仲違いを止めてこちらに対して再び敵意を向けてくる。
ちっ、やはりと言うべきか実質的なリーダーはあの二人じゃなくてトリリスだったか。
となればまず始末するべき相手は決まったかもな。
まだ次回に続きます




