第71話「南瓜とセンコ国-1」
「おー、やっと着いたか」
「お、パンプキンか」
三精霊に対価の話をしてやった翌日の夕方。
俺は山を下りてクヌキハッピィへとやってきた。
「どうもっす。ゴヘイさん。あっ、入場料はこれで」
「あいよ。よく北の山脈に行って帰って来れたもんだ」
「ま、準備は入念に整えていたんで」
「なるほどな。流石はB級冒険者だけはあるな」
三年経った今でも門衛を務めているゴヘイさんに大量の荷物を持っているがために必要なお金を渡すと、俺はクヌキハッピィの中に入って行く。
なお、この三年間主にサンサーラエッグ村やマウンピール村で採れた作物や毛皮、蜂蜜を運んでいたらいつの間にか冒険者ランクがBに上がっていた。
何と言うか実力に関してもきちんと評価されているのだとは思うが、主にやっていた仕事が討伐じゃなくて荷運びと護衛だから冒険者としてのランクと言うよりは商人としてのランクな気がしてしょうがない。
まあ、何かと便利だから気にしないけど。
「依頼達成手続きと買い取りお願いしまーす」
「お疲れ様ですパンプキンさん」
そんな事はさておいて、クヌキハッピィ冒険者協会にやってきたので俺は回収した素材をカウンターの上に乗せて今回の依頼(クヌキハッピィ北の山脈での素材回収依頼だった)の達成報告をする。
「随分と数が多いですね……あっ、サテンちゃん査定よろしくね」
「了解でーす」
「俺だからって色は付けんなよ」
「当たり前ですよー」
と、ここで一体のスパルプキンがカウンターの向こうからやって来てカウンター上の素材を奥へと持っていく。
さて、何故スパルプキンがここに居るかだが、まあ簡単に言っちゃえば普通の人たちにもスパルプキンに慣れていただくためです。
なにせスパルプキンは普通の人間とは多少どころでなく趣が違うからなぁ……加えてこの世界に突然現れた種族だから何の対策も無しに放流したら絶対に各地で軋轢を生むに決まっている。
そんなわけで現在、スパルプキンたちは種族交流の名目の元、クヌキハッピィ冒険者協会に2名、クヌキ領の領主軍に10名ほど送り込んでいる。
経過の方は……まあ、話を聞く限りでは特に問題はなさそうだったな。おおむね仲良くやっているぽかった。
「ぬっ、パンプキンか」
「おっ、爺さんか」
コウゾー爺さんが奥の方からゆっくりと歩いて出てくる。
その顔は何かに悩んでいる感じだった。と言ってもコウゾー爺さんは立場上、大抵何かしら悩んでいるわけだけど。
あの三馬鹿が未だに逃げてたりとか、スパルプキンと他の種族の間で起きた摩擦を解消したりとかな。本当にコウゾー爺さんには感謝です。
「今日はどういう理由でそんな顔なんだ?」
「むっ、そんなに分かり易いかの?」
「これでももう三年分の付き合いがあるしな」
と言うわけで恩を返す意味でも話だけは聞いておいて、俺に解決できそうな問題なら解決の手伝いぐらいはしようと思う。
「まあ、お主なら実力的にも信頼も充分かの」
「ん?」
「ここではなんじゃな。少し奥へと来てくれ」
「あいよ。あっ、報酬の支払いに関してはいつもの口座によろしく」
「分かりました。そのように処理させていただきます」
コウゾー爺さんは一度周囲を見渡してから俺を奥へと誘い、俺はそれに応えるために受付員のお姉さんに一声かけてからコウゾー爺さんの後に続く形でギルド奥の部屋へと向かう。
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「また随分と奥まった部屋で」
「多少ではあるが特殊な事情があっての」
コウゾー爺さんに案内されてやってきたのはギルドの中でも特に奥の方にある小部屋の前。
と言うか奥に有り過ぎる上に視覚的に隠されている通路や、何かしらの魔法がかけられた特殊な通路を経由していたし、正式な案内無しだと絶対に辿り着けないな。
「儂じゃ。連れて来たぞ」
「ん。入ってくれ」
「失礼する」
「入らせてもらいますよっと」
コウゾー爺さんは一度ノックをして中から返事が来てから部屋の中に入り、俺もコウゾー爺さんに続いて部屋の中に入る。
「ふむ。パンプキンか。確かに適任と言えるな」
部屋に入って最初に目に入ったのは俺もこの三年間でだいぶ付き合いが増えたクヌキ伯爵。
「この者が竜殺しだと……」
次に目に入ったのは俺ほどではないが一流と呼べそうな程度には魔力を持っている騎士風の礼服に身を包み、腰にレイピアをさげた男性。
ただ、その目には明らかに疑心に満ちている。
まあ、分からんでもないけどな。南瓜頭に三つの穴が開いて顔になっているような輩だし。
確かに見た目だけだとあまり強そうには見えないだろう。加えて今は魔力放出もだいぶ抑えているしな。
「信頼できるのかな?クヌキ伯爵。コウゾー協会長」
「見た目に騙されぬ方がよろしいかと。依頼をこなした数や他の責務がありますゆえランクはBですが、実力はこの場に居る誰よりも上です」
「口も堅い上に、何かあった時の手札も並の者よりも多いですからのう」
そして部屋の一番奥に座っていた青年が口を開き、放った質問に対してクヌキ伯爵とコウゾー爺さんはそう答える。
信頼されているのは嬉しいけど……なんか面倒事の匂いがしてきたな。
「……」
俺は部屋の奥に居る青年に視線を向ける。
詳しい姿は青年が暗がりに隠れているため分からない。
が、体表からは薄く白い魔力が漂っており、その総量は普通の人間よりは多そうだ。
それと言葉に含まれている感じからして身分が高そうでもある。
「分かった。二人が言うならそうなのだろう。それでは話をさせてもらおう」
そして青年は事情を話し始めた。
勿論、厄介事です




