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南瓜の魔法使い  作者: 栗木下


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第70話「南瓜と風精霊-2」

ちょっとストックが貯まって来たので不意打ち更新

「私たちが知っているのは噂」

「誰かが話していただけ」

「本当かどうかも分からない」

「それでも構わないさ」

 三人の精霊が発した確証が無いと言う言葉にとにかく情報量が少ない俺はそれでも構わないと思って了承の意を返す。


「「「なら話そう」」」

 三人の精霊は異口同音にそう言うと俺の周りを囲う。


「此処にはかつて一面に広がる森があった」

「此処にはかつて人類の栄華を示す都市があった」

「此処にはかつて偉大なる神に祈りを捧げる神殿があった」

 精霊たちはまるで歌う様に語り始め、俺はその言葉を静かに聞く。

 傍から今の俺を見る者が居たらトランス状態に入っているように見えるかもしれない。


「其処では多くの木々が葉を広げ、獣が駆け、鳥が歌い、精霊が舞っていた」

「其処では多くの人々が友と盃を交わし、親を讃え、子を愛し、伴侶と慈しみあっていた」

「其処では多くの信者が祈りを捧げ、神官が説法をし、咎人は罪を贖い、巫女は神の声を聴いていた」

 それぞれの口から出てくる言葉の音は違う。

 けれど、音は違えど意味することは同じだと感じていた。


「この地に生きる者は願った。この営みが何時までも続くようにと」

「この地に生きる者は願った。我等の栄光が続くことを」

「この地に生きる者は願った。神の威光が遍く世界を照らし出す事を」

 三精霊の声に感化されたのか周囲の空気中に含まれている魔力が光を屈折させ、微かにだが俺の視界にかつてこの地で生きていた者たちの営みを映し出していく。


「「「けれど、その願いはたった一夜で願うものが居なくなった」」」

「…………!?」

 彼らの言葉に含まれている感情がその一瞬で大きく変化し、今までの明るく楽しげなものから、悲しみに塗れて陰鬱としたものに変化する。


「天には血のように赤く、如何なる魔よりも禍々しき力を放つ物が浮かんでいた」

「地には金剛石よりも固く、如何なる者も通ることが出来ない力を秘めし壁が建てられた」

「星々は昏き帳が降りてその輝きを隠し、如何なる命にも一寸先すら見通せぬ闇に覆われた」

 精霊たちの言葉に合わせてゆっくりと俺の前で魔力によって作り出された幻影が消えていき、気が付けば日も落ちて辺りは月と星の光だけになっていた。


「黒き槍が降り注いだ」

「冥府の門が開いた」

「全ての影が呑みこまれる」

「ゴクッ……」

 俺は思わず息を呑んでいた。

 それだけの思いと力が精霊たちの言葉には含まれていた。


「後には何も残らない。人も獣も草木も大地すらも」

「後には何も残らない。想いも知も記憶も心すらも」

「後には何も残らない。信仰も願いも罪も魂すらも」

 下から強い海風が吹き上げてその場の空気を掻き乱していく。


「「「けれどそれで終わりにはならない」」」

 三精霊は風に乗って俺の周囲を飛び回り、彼らの言葉が少しずれて届くことによって不思議な重厚感を持つ言葉になって俺の耳に届く。


「彼らは己に連なる肉を喰らった」

「彼らは自らに連なる知を喰らった」

「彼らは我らの神だけ喰らうことが出来なかった」

「ん?」

 下から吹く風が止み、それと同時に彼らの言葉の調和が僅かに乱れる。


「肉を喰らわれ、血は途切れかけた」

「知を喰らわれ、技は失われかけた」

「神は大地を癒し、命を廻し、知識を与え、世界を救おうとした」

 明らかに一人だけ放つ言葉が違い始める。


「けれど、神が彼らを退けたから血は続いた」

「けれど、神が彼らを退けたから技は継がれた」

「されど世界を救うことは出来なかった」

「…………」

 俺は彼らの言葉を聞きながらその意味をゆっくりと噛み締める。

 捻りなく受け取るならば神はこの地を襲った何かを退けることは出来たが、打倒する事は出来なかったと考えるべきなのだろう。

 そして三精霊は俺の前に並ぶと違う顔で同じように、けれど違う言葉を紡ぎ始める。


「神は休まれた。次に来る時を知っていたがために」

「神は隠れられた。次に来る時に勝つために」

「神は求められた。世界を救う力を」

 再び俺たちの周りを風が吹き抜けていく。


「「「これが世界を巡りし風の精霊たちがする『陰落ち』の噂」」」

「なるほどな……」

 そしてどうやらこれで文字通りの風の噂は終わりらしい。


「分かった?」

「役に立てた?」

「これで十分?」

「うん。なんて言うかな……分らん」

 俺の言葉にAAとか効果音とかが付きそうな感じで三人の精霊が器用にも空中で同時にこける。

 いやね、この場所が『陰落ち』のせいでこうなって、しかもその時に起きた惨劇が並大抵の物じゃないってのは分かったんだけどさ、それが具体的にどういう物なのかって言うのはまるで語られて無いじゃない。

 例えば『黒き槍が降り注いだ』の一文にしても正直に文面を読んで具体的に何が起きたのか分かるのは、黒い何かが落ちたぐらいなもので、槍と言うのは恐らくは何かしらの攻撃を比喩した物なんだろうけど具体的にどういう攻撃なのかはまるで分からないし。


「まあ、参考にはなったけどな」

「なら良かった」

「それなら良し」

「良いって事よー」

 ま、多少の手掛かりにはなったし良いとしよう。


「とりあえずなんか礼とかいるか?」

「人の話を聞きたい」

「大地の話を聞きたい」

「神の話を聞きたい」

「要するに何かしらの話を聞きたいって事な。よし、それなら朝までじっくりと語り合おうじゃないか」

 そして俺は野営用のテントの中で俺が今までに経験したことを彼らに話の対価として聞かせるのであった。

歌っぽい感じで風精霊たちは喋ってます


そして初投稿から丸一年でございます。

これからもよろしくお願いしますね。

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