第56話「南瓜の村-3」
「だー!」
「ああうん。将来は大魔法使い候補かもなー」
俺はウリコを抱きかかえてあやしながらそう語りかける。
そしてついでにウリコの前で魔力を放出したり、収束したり、球体状にしてからお手玉をやって見せたりする。
これは赤子+ヒューマンなので魔力は見えないが、見えないからこそ鋭敏に感じ取ることが出来ると考えての事である。
「ごめんなさいね。パンプキン君」
「いえいえ」
と、ここでキミコさんが声をかけてくる。
ちなみにキミコさんだが、ウリコの魔力自然放出に適応した結果なのか以前見た時よりも魔力量が増えている気がする。
ああ、もしかしなくても英雄の周りに英雄または英雄に準じた存在が集まるのって一人の突出した存在に合わせて周りの人のレベルが引き上げられるのが原因の一端にあるのかも。
実際、父親はともかく母親が子供の放射魔力に耐えられないのって色々と致命的な問題が起きるし。
「それにしてもすごい魔力量ですね」
「オドロキー」
「モモノキー」
「サンショノキー」
「ええ、この前村に来たクレイヴ君だったかしら。彼も驚いていたわ」
クレイヴの奴もウリコに会ったのか。
まあ、あいつなら下手な相手には伝えないか。
いやしかし、ウリコの可愛さに見惚れる可能性は十分にあるな。もうそうなったのならばクヌキハッピィごと【共鳴魔法・核南瓜】で吹き飛ばす覚悟も……
「スマッシュ!」
「だああぁぁ!」
「オウフ!?」
と、俺の思考が妙な方向に行きかけた所でウリコが騒ぎ出し、ウリコが騒ぎ出した事で一瞬俺の身体強化が乱れた所にゴーリキィのチョップが後頭部に入る。
「いきなり何を……」
「チャームチューイデス」
「へ?ああすまん」
で、ゴーリキィに何をしたのかを問い詰めようとしたらレイギからこんな事を言われてしまった。
どうやらウリコの天然チャームを喰らっていたらしい。うーむ。この年でもう兄を惑わすとは……我が妹ながら末恐ろしい。
「うりこミロー」
「きゃっきゃっ!」
「なっ!?カケル!?」
そして俺がゴーリキィとレイギの方に注目を向けている間にいつの間にかカケルが俺の身体を這い上がってウリコにいないいないばぁを仕掛けていた。
しかも魔力操作を伴う事で怖さを出しつつも面白くもすると言う無駄に技術が凝らされたいないいないばぁを。
まあ、ウリコが喜んでるからいいけど。
と言うか、やっぱりと言うべきか俺よりもレイギたちの方が精神年齢がウリコに近いから親近感を得られてる気がするなぁ……うらやましい。
「ん。と言うかだ」
と、ここで俺はレイギたちがウリコをあやすついでに魔力操作を覚えさせればいいんじゃないかと言う考えに至る。
実を言えばスパルプキンたちの魔力操作訓練と言うのは追いかけっこやかくれんぼ等の遊びをする際に全力で魔力を用いる事だったりするわけだし。クヌキハッピィの子供たちにしても遊びの時は無意識的に魔力を利用していた気がするので、この考え方は決して間違っていないだろう。
ちなみに、スパルプキン同士のかくれんぼはただ視覚的な意味で隠れるだけでなく、如何に魔力放出を抑えるか、または漏れる魔力を周囲の植物や地面と同化させるかと言う、非常に高度なものになっている。
もちろん、そんな事になっている原因は俺たちスパルプキンが魔力を視認できてしまうためであるが、ただ考えてみればこれほどの隠蔽技術であっても自然界では一流の狩人ならこれぐらいは出来て当然の技術だったりもする。
ま、その辺はさておいて本題に戻ろう。
「よし。お前ら三人でウリコの遊び相手になって魔力操作を教えてやれ」
「「「アイサー!」」」
「あら?大丈夫なの?」
「倫理教育はそれなりにもうしていますし。一応、近くで見守っておくんで大丈夫です」
「それなら大丈夫そうね」
俺は三人にウリコの世話を任せると、その様子を見守りながらキミコさんと話をする。
考えてみればキミコさんとはあまり話をしてないんだよなぁ……
「それにしてもタンゴサックは父と呼ぶのに、私は母とは呼ばないのね」
「あー、その話ですか……」
ただまあ、キミコさんとの話題が出づらいのはやっぱりタンゴサック程繋がりが明確でないからかもしれない。
いまいち、母親と呼んでいいのかそれとも義母と呼ぶべきなのかが分からないんだよなぁ……
で、その辺を話したら。
「それは確かに悩むわね……」
「ですよね」
キミコさんもやっぱり悩みだした。
まあ、ここは悩むよねぇ。キミコさんにしてみれば夫が突然何処からか「私の子供だ」と言って連れてきたのに近いものがある気もするし。
「でも、貴方さえよければお母さんと呼んで欲しくはあるわね。私としては息子も欲しかったわけだし」
ただそれでも、やっぱりあのタンゴサックの奥さんだけあって、最終結論は俺を受け入れることになったらしい。
「あー、そう言う事なら……その、気が向けばで」
「ええ、気長に待っているわ」
ただすみません。俺の心情の方がまだ追いついてないです。なので、実際にそう呼ぶのはまだ待ってください。
「ゾクチョー!」
「どした?」
と、ここでカケルが声をかけてきたのでウリコの方を向いてみる。
「コノコ、スゴーイ」
「ビックリー」
「テンサーイ」
「ばぶだぁ」
「うわぁ……流石俺の妹……」
「あらあら……」
するとウリコの魔力は……見事に収束して漏れ出る量が抑えられ、ついでに纏められた魔力は軽めではあるが防護障壁の様になっていた。
感覚的なものって赤子の方が覚えやすいのか……いや、多分だけどウリコ自身が凄いんだろうな。これが一般的なレベルとは思えない。と言うか一般的なレベルだったら困る。
「とりあえず、今後とも遊び相手として末永く付き合わせていただきます」
「そうね。その方が良いかもしれないわね」
そして、俺は内心で多少の冷や汗を流しつつそう言った。
とりあえず倫理教育はしっかりしないとな……
天然チャームってある意味戦略兵器ですよね




