第5話「森の中の南瓜-4」
「あー、日差しがまぶしい……」
異世界3日目である。
一先ず今日も拠点探しをするわけなのだが、今日は趣向を変えて出来る限り上から探してみようと思う。
具体的には俺がどこまで空を飛べるのかを試してみるのも兼ねてこの樹海でも目立つ物が無いかを探してみようと思っている。
「と言うわけで早速出発しますか」
俺は蔓をまとめ上げて昨日と同じような状態になると寝床にしていた樹から勢いよく空に向かって飛びだす。
「ヒュロロロ」
空に飛びだした俺は朝日を眺めつつ緑のカーペットを下にしてどんどん高度を上げていく。
すると見えている範囲が広まったことによってやはりと言うべきか特徴的なものがいくつも見えてくる。
で、飛び上がってしばらくした所で感覚的にこれ以上は飛び上がれないと感じた部分が来たためにそこで俺は止まって周囲を見渡す。
「おおぉ……」
朝日の差している方向を東とした場合の話になるが、まず西の方に俺が最初に目覚めたと思しき農村が有り、それからはいくつか沢の様な物が見える隙間があるが、基本的には緑のカーペットが続いている。で、その中で遠方の方に微かに山か地平線または街の様な物が見えている。
ただ俺の目を引いたのはそんな所では無くて、緑色のカーペットの中にあってもその存在が一目で分かる二つの物。
一つは北の方に見える大きな湖で、沢の流れから察するに水源の一つと見てもいいだろう。
もう一つは南東の方に見える巨大な樹で、こちらは他の樹の数倍は明らかに大きく、その周囲にはその木に栄養を取られてしまうからなのか、日陰になってしまうからなのかは分からないがが緑のカーペットが綺麗に途切れていた。
この二つの特徴的な物が目立っているのはその大きさも有るが、それ以上にそこから発せられている燐光の量が周囲に比べて明らかに多いと言う事もある。
恐らくだが地球で言う所のパワースポットと呼ばれるような場所なのかもしれない。
「ただ、行く気にはならないな」
俺はあふれ出てくる燐光を眺めながら思わずそう呟く。
と言うのも大きな湖からは水色の燐光が、巨大な樹からは薄緑色の燐光が漏れ出ているのだが、それに混じって動物と思しき別の色の燐光が相当な量混じっているのである。
うん。間違いなくなんかヤバいのが居る。絶対に会ったら人生終了になりそうな奴がいる。
と言うわけで触らぬ神に祟りなしという事であの二ヶ所には近づかないでおこう。
「そうなると……おっ」
俺は徐々に高度を下げつつ周囲を観察する。
すると高い場所では一様にしか感じなかった森の木々でもこうして低い所で見れば意外と高さに差がある事が分かる。
その中で俺は周囲に比べると微妙に高台になっている感じの場所を見つけたため、道中で鳥を一羽ほど仕留めて血を啜りつつその場所へと向かう。
「ちゅー……おおぉ……なんか面白いな」
そこにあったのは巨大な岩だった。
その岩は卵の様な形をしていて、大きさとしては高さ10m程あり、表面は苔と蔦植物がびっしりと覆っている。
だが最も面白いのはそんな所では無く、この岩の部分だけ周囲の地面から突出している点だろう。まるで後から誰かが置いたような光景だった。
「ふむふむ」
俺は岩の周囲をぐるりと一周してみる。
するとこの岩の周囲はまるでそこで巨大な刃か何かで切り取ったかのように木々が途切れていてちょっとした広場の様になっていた。
岩の形と岩から微かに漏れている燐光のためにまるで何かの儀式場の様な雰囲気である。
「うん。面白いしここに拠点を置くか」
周囲を一通り回って沢の位置や例の二ヶ所のパワースポットとの距離を確かめた上で俺はそう結論付ける。
この岩の形と開き方なら森の上を高速で飛行していれば森の中で迷っても帰って来られるだろうし、開けた場所と言うのは奇襲を受けづらいと言う利点もあるだろう。
「それじゃあ早速……ん?」
で、早速拠点づくりをしようと思ったのだが……考えてみれば拠点作りって何をすればいいんだろうな?
と言うわけでとりあえず拠点と呼ぶのに相応しい条件を指折り数えてみる。
1、安全な寝床である。
2、外敵がやって来ても大丈夫。
3、ある程度狩りに出かけなくても問題が無い。
4、風呂
5、排泄関連の諸々が整っている。
6、倉庫がある。
うーん。大体こんなところか。
とりあえず1、2に関しては早急にどうにかするべき点だよな。これをどうにかしないと拠点とはとてもじゃないけど言えない。
3、6に関してはまあ追々。
4、5は植物の身体だから要らないと言えば要らないんだけど出来れば欲しいものではある。
あー、でもトイレは要らないか。そもそもこの身体はそう言う機能が付いていないみたいだし、身体に有毒な物はマングローブよろしく一枚の葉に凝集して放出する機構になっているようだし。
「ま、その辺は深く気にする事でも無いし、必要なものが決まったところで早速拠点づくりと行きますか。」
そうして俺は気合を入れて蔓の手を硬くすると一本の木の幹に狙いを付ける。
まず作るべきなのは簡易の物でもいいから家だ。そして家を建てるためには材料が必要で、ここなら木が格好の材料となる。と言うわけでまずはこの木をへし折って材料とするのである。
「おりゃあ!」
そんなわけで俺は全力のパンチを木の幹に当てる……が、木は多少揺れただけでまるで傷ついていない。
それどころか……
「痛ったぁ!?」
殴りつけた俺の手の方が痛くなった。
どうやらまずは修行が必要なようである。
くっそう……
拠点建築開始です