第49話「竜と南瓜-5」
「グルアァ!」
「ヒュロロロォォ!【共鳴魔法・木の枝】」
エントドラゴンの右前足の爪による横薙ぎを俺はギリギリのラインで回避すると共に、すれ違いざまに腕を構成する蔦に絡ませる形で仕込んだ様々な種別の木の枝に魔力を流し込んで【共鳴魔法・木の枝】を発動。
「グッ!?」
「ゼロ距離なら流石にぶっ刺さるみたいだなぁ!」
俺の腕から硬度が強化された木の枝がエントドラゴンの鱗に向かって発射され、突き刺さり、一瞬だがエントドラゴンの動きが止まる。
「グラアァ!」
「っと!?だがほぼ効果は無しっと」
が、すぐさまエントドラゴンはもう一度爪を振るって俺に攻撃を仕掛けてきたため、俺は慌てて距離を取る事で回避する。
やはりと言うべきか、どの種類の木の枝でも使える代わりに効果そのものが落ちている【共鳴魔法・木の枝】では鱗のすぐ下の肉を多少傷つけた程度で足止めにもほぼならないらしい。
まあ、【共鳴魔法・木の枝】は言ってしまえば汎用魔法だしな。元々数で押すタイプの魔法だからこれはしょうがない。
「貫け!」
「グッ!?」
「ちっ……デカい図体の癖にちょこまかと……」
と、ここで不意打ち気味にミズキが水で作った馬上槍の様な物をエントドラゴンに向かって撃ち込むが、エントドラゴンはその巨体に見合わないスピードで横に転がってこれを避ける。
それにしてもミズキの奴微妙に性格変わってないか?まあ、頭に血が上るのは困るが、興奮しているだけのようだし注意はしないが。
「それにしても、二人と一匹の戦いだってのにまるで戦争だな」
俺は周囲を一度見渡してそう言う。
戦闘開始から既に1時間ほどが経過しているが未だに敵味方共に明確な有効打は無く、代わりに周囲の森は多くの木々が倒され、クレーターもいくつか出来ている。
最初の方でエントドラゴンを村から離すように誘導しておいたからいいものを、もしも村の近くで戦ってたら大惨事確定である。
「グルアアアァァ!!」
「あーもう!このブレスがうっとおしいわね!」
「ヒュロロロォォ!ちょ!?俺が居る場所を考えて避けてくれ!」
「そんな余裕は無いわよ!」
と、ここでエントドラゴンがサンダーブレスを撃ってきたために慌てて俺とミズキは高速飛行してそれを回避する。
この一時間の戦いの中で分かったがやはりエントドラゴン最大の脅威はこのブレスだ。いやまあ、爪も尻尾も牙も体当たりも直撃すれば致命傷という事には変わりないがスピードの関係でブレスが特にヤバい。
「だが好機でもある。合せろミズキ!【共鳴魔法・蝸牛網】!」
「言われなくても!撃ち抜け!」
「グルッ!?ガアッ!?」
俺は地上付近で何匹かの蝸牛を拾うと本体はすぐに始末して殻だけにし、そこに青系を基本とした魔力を注入してエントドラゴンに投げつける。するとエントドラゴンに触れた蝸牛の殻からネバネバとした液体が網の様に溢れ出してエントドラゴンの動きを阻害する。
そしてそこにミズキの水弾が直撃してエントドラゴンを大きく仰け反らせる。
「さあ真打だ……」
だが、まだまだ致命傷にはほど遠い。
だから俺はエントドラゴンの首に狙いを付けると、居合の様なポーズを起点として腰に吊ったそれに規定順序でかつ【オーバーバースト】を起こさないギリギリのレベルで魔力を込め始める。
「グウ!ガァ!」
「逃がさないわよ!」
エントドラゴンは俺のやろうとしている事に気づいたのか蝸牛網を力で無理やり引き千切ろうとしており、対してミズキはエントドラゴンが逃げるのを阻止しようと無数の水弾を当てて動きを鈍らせている。
蝸牛網の強度からして間に合うかどうかはギリギリのラインだが焦ってもこの魔法は上手くいかない。だから焦らず、正しい属性の魔力を正しい順番かつ飽和しないギリギリのラインを見極めて装填していく。
「ガアッ!」
「パンプキン!」
エントドラゴンが蝸牛網を突き破る。
だが、まだ大丈夫だ。
「グルアアアァァァ!」
「くっ!?」
エントドラゴンの口からサンダーブレスが放たれ、ミズキが水の障壁を残して退散してくれるが、エントドラゴンのブレスは難なくミズキの障壁を打ち破ってその先に居る俺に向かってくる。
当たれば致命傷のブレスが迫っている。だが、後少しで魔法が完成する。
「【共鳴魔法……」
そして目の前にブレスがやって来た瞬間俺の姿勢は再び最初の居合の体勢に戻り、それを抜き放つ。
「【胡瓜刀】!」
「!?グルアアアァァァ!!?」
俺の腰から抜き放たれたそれはエントドラゴンのブレスを切り裂き、咄嗟に避けたエントドラゴンの翼をまるで豆腐でも切るかのように容易く切り飛ばすどころか、遥か空の彼方にあるはずの雷雲すら断ち切って俺たちに夜空を見せる。
今俺が使った魔法の名は【共鳴魔法・胡瓜刀】と言い、現状俺が所有する共鳴魔法では二番目の威力と最大の射程を誇る魔法だ。最も準備に時間がかかり過ぎると言う難点も有るし、
「グルルルル……」
「はぁはぁ……戦意は衰えずか。全く持って面倒だな……」
エントドラゴンが俺の方を恨みがましい目で睨み付けてくる。
水属性を主体とする上に必要な魔力量も多い事から当然俺の消耗も桁違いの物になる。
本音を言えば今の一撃で首を刎ねてお終いにしたかったのだがしょうがない。こうなれば実験もまだだが、もう一つのとっておきを出すとしよう。
「パンプキン大丈夫!?」
「大丈夫だ!ただ時間稼ぎを頼む!すまないが1分は保たせてくれ!!」
「1分……分かったわ!」
俺は心配してくれたミズキに頼みごとをするとすぐさま準備に取り掛かる。
「グラアァァ!!」
「此処は通さないわよ!」
ミズキは自分を維持するために必要な魔力だけを残して全てを攻撃に回してくれているらしく、無数の水弾によってエントドラゴンは嫌が応でもその場に留まる事となっている。
そしてその中で俺は自らの蔓の先に出来ているそれに全身の魔力を【レゾナンス】で増幅しつつ送り込んでいく。
「くっ……」
だが、根本的な魔力量が足りない。
やはりと言うべきか【共鳴魔法・胡瓜刀】で相当量の魔力を消耗してしまっているのが痛い。
しかし今周囲には早急に魔力を補給できるような物は……
「はっ!?」
ここで俺は以前ハンティングビーから貰った蜜入りの小瓶の事を思い出し、そこに込められていた魔力を利用するために根を小瓶に突き刺して蜂蜜ごと魔力を吸収。
吸収した魔力をすぐさまそれに送り込んでいく。
「よしっ!ミズキ!逃げろ!!」
「遅いわよ!!」
目論み通りの反応をそれがし始めた所で俺は口元に笑みを浮かべつつミズキを俺の後方に逃がす。
「グラアアァァ!!」
ミズキが逃げ出したのに合わせてエントドラゴンもその大きな口を開けた状態でこちらに向かってくる。
「おらぁ!!」
「ングッ!?」
そしてそこでエントドラゴンの口に放り込まれるそれ……俺の体の一部であるカボチャに全魔力を込めて【オーバーバースト】を起こす直前にしたもの。
それをエントドラゴンは気づかずに飲み込む。
「ミズキ!」
「言われなくても!」
「!?」
で、エントドラゴンの纏う魔力に微妙な変化が現れた瞬間に俺とミズキは全力で上空に退避する。
理由?それは勿論……
「ガッ!?」
そして俺たちが上空に逃げた瞬間。
エントドラゴンの腹が一気に膨れ上がり、口から僅かに光が漏れたと思ったところで……
「「!!?」」
膨大な量の光にもはや衝撃波と化した音、そして熱が周囲に撒き散らされて俺とミズキは大きく吹き飛ばされていった。
何が起きたのかは次回にて
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