第47話「竜と南瓜-3」
「……」
遠くで雷が鳴り響き、雨粒が拠点の屋根や畑の地面を叩く音がする。
そんな中俺は春になってから新たに伸びてきた蔓の先に魔力を込めて膨らませると同時に膨らんだその部分に対していくつかの処理をしておく。
また、畑に植えてある作物についても魔力を与えることで成長を促進して収穫しておく、時期の関係で夏野菜でも一部の物しか回収できなかったがしょうがないだろう。
「準備の方はどう?」
「ミズキか」
と、ここでミズキが拠点の中に入って来て俺に竜殺しの準備が整っているかを問いかけてくる。
「いつでもいいぞ」
俺は自分の周囲に整理して置かれている様々な触媒を紐で吊り上げ、体に結び付ける。
これで必要になった時にはすぐさま共鳴魔法の触媒として使えるだろう。
「それでミズキの方は?」
「私の方はいつでも問題ないわ。出来る事なら今日みたいに雨の日の方が調子がいいんだけどね」
「俺としては晴れの方が光合成による自動回復があるから楽なんだけどな。まあ、曇りや夜よりはいいか」
なお、ミズキが雨の方が楽と言うのはミズキが水を扱う精霊だからであり、雨が降っている状態ならミズキは常時魔力が回復していく上に魔法を使う際に消費する魔力量も減るそうだ。
逆に俺の場合は晴れだと光合成によってほぼ無尽蔵のスタミナを得ることが出来、ゆっくりとだが傷を治すことも出来る。
本音を言えば雨や日光で共鳴魔法を使えれば便利なわけだが……まあ、それはまだまだ出来そうにないので諦めておく。
「さて、そう言う事なら情報の確認と作戦の組み立てが終わり次第向かうのも有りだな」
「そうね。それじゃあ確認と行きましょうか」
ま、無い物ねだりをしてもしょうがないので今ある手札で何とかするとしよう。
と言うわけで改めてミズキから竜についての話を聞く。
「まず、あの竜の名はエントドラゴン。本来なら普段は植物と一体化して眠りつづけ、有事の時だけ目覚めて森全体の秩序と安寧を守る心優しき竜ね。尤もあの樹に住み付いたエントドラゴンは真逆の性質だけど」
「突然変異って事か?」
「どうかしら?私の知識は先輩精霊たちの受け売りだけど、実際には最初からそう言う面もある種族なのかも。まあ、こればかりは知ろうと思ってもしょうがないし。どちらにしてもあのエントドラゴンは倒すしかないわ」
「ま、それもそうか」
ミズキの言葉に俺は同意を示し、魔力の色を切り替える練習をしてみる。
うん。問題なくいつも通りの調子で出来るな。
「で、戦闘になればエントドラゴンはどういう動きをしてくるんだ?」
「うーん。私が知っているのは毎年梅雨明けに暴れる姿ぐらいだけど……あれを見る限りだとまず一番の脅威になるのは……」
「ほうほう。それなら……」
「うーん、それだったら……」
そして俺はミズキからエントドラゴンの持つ攻撃方法を聞き取り、それぞれの攻撃に対する対策を考えると共に対エントドラゴン戦における基本的な戦術や連携の仕方などを打ち合せておく。
「大体こんなところか。つーか、日が暮れてもまだ雨が降ってんのか」
俺はミズキとの打ち合わせが終わった時点で外を見た。
すると予想外に打ち合せが長引いていたのか日はすっかり落ちていた。だが雨は依然として振り続けており、時折だが雷鳴のような物が聞こえてくる。
「この時期は大体いつもこんな感じよ。それでどうする?私も貴方もエントドラゴン程の相手なら昼も夜も関係ないわよ?」
「そうだなぁ……」
ミズキの言葉の裏にはエントドラゴンは大量の魔力を保有しているが俺の様に放出量を抑え込んだりしてはおらず、魔力を直接見れる俺や魔力が意思を持った存在であるミズキにとっては昼夜関係なくその気配を正確に察知できる事実が隠されている。
で、エントドラゴンは植物と一体化しているため、その生活リズムも植物のそれに準じており、夜は睡眠状態に近い状態になっていると考えていいだろう。
「兵は拙速を尊ぶ。兵法は詭道なり。誰の言葉かは忘れたが、相手が予期せぬタイミングで襲い掛かるのは戦いの基本ではあるな」
「それじゃあ……」
「ああ、行こう」
俺とミズキは準備が整ったならば早いうちに仕掛けるべきだと考えて拠点に外に出る。
そして拠点の外に出た所で……
『グルアアアアアアアァァァァァァ!!』
「「!?」」
森全体に魔力を含ませることによって精神的威圧効果と物理的破壊力を持たせた巨大な獣の咆哮が響き渡り、俺とミズキは慌ててそれで吹き飛ばされないように全身に力を込める。
「ミズキ……今のは?」
「エントドラゴンの声よ。毎年聞いているのだから間違えようが無いわ」
ミズキは若干慌てつつも俺の言葉にそう返してくれる。
そしてそんな話をしている間にも咆哮の発生源と思しき場所から何かの破砕音がするとともに、時折だが黄色い稲妻の様な物が地面から上空の黒雲に向かって立ち昇るのが見えている。
どうやら五行思想の木気に属するという事で雷も使えると見て良いようだな。
「さて……どこかの馬鹿に先を越されちまったみたいだがどうする?」
「行くしかないわ。このまま暴れさせていたらどうなるか分かったものじゃないもの」
「ま、そうだよ……な!ヒュロロロォォ!!」
そうして俺とミズキは一度肯き合うと同時にエントドラゴンが居ると思しき方向に向かって飛び始めた。
開戦
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