第43話「帰って来た南瓜-6」
「「「ええじゃないか♪ええじゃないか♪酒を呑んだってええじゃないか♪」」」
俺の目の前でクロイングボアが三頭ほど丸焼きにされており、その周囲ではマウンピール村の男たちとクヌキハッピィの冒険者たちが肩を組み、酒が注がれたコップを片手に持って踊りながら歌っている。
「「「ええじゃないか♪ええじゃないか♪歌を歌ってもええじゃないか♪」」」
ちなみに今丸焼きにされているクロイングボアたちはリーンの森の中からマウンピール村へと向かう際に俺が匂いで呼び寄せ、【ガストブロー】で打ち上げてから魔力で強化した蔓を使って首を刎ねて仕留めた物である。
「「「ええじゃないか♪ええじゃないか♪踊り笑ってもええじゃないか♪」」」
勿論その場で吸血することによって血抜きは完了済みであるし、この村に住む狩人であるヨサックさんやクレイヴの様な熟練冒険者が解体を行ったので毛皮なども非常に綺麗に取れている。
まあ、何と言うかその辺は流石だな。
「「「呑めや♪騒げや♪宴は楽しんでナンボのもんじゃい♪」」」
で、実を言えばそんな事はどうでもよくてだ。
はっきり言って今俺が問題にするべきはこっちの話だろう。
「…………」
「…………」
少し離れた場所に座っている農夫のおっちゃんと……タンゴサックと目が合う。
そして漂い始める剣呑で険悪な空気。
今一番の問題。それはタンゴサックとのこの非常に気まずい空気である。
「ふん……」
「ちっ……」
いやさ、俺としても仲が悪いよりは良い方がよっぽど良いんだけどな。
ただ向こうに歩み寄る気が無いから何ともねぇ……それに話題も無いしさ。一応この身体を育ててくれた育ての親ではあるけど。
「一つ良いだか?」
「あん?」
と、ここでタンゴサックがこちらに近づき、俺の近くで座って話しかけてきたため、俺は多少喧嘩腰ではあるがそれに応じる。
「お前はどうしてオラの育てたカボチャに憑いただ?」
「俺が知るか。そう言う事は神様にでも聞いてくれ。創造神様や破壊神様だと管轄外だろうけどな」
「まるでそれ以外の神様を知っているような話しぶりだべな……」
「どうだかね……」
「「「ええじゃないか♪ええじゃないか♪泣いても笑ってもええじゃないか♪」」」
俺とタンゴサックの目が合う。
その目には様々な思惑が入り混じっている。
ああ何て言うかね……
「はぁ。悩んでいてもしょうがないっぺな」
「全く持ってそう思うよ」
俺とタンゴサックは同時に立ち上がる。
そしてタンゴサックは軽く肩を回してから首をコキコキと鳴らし始め、俺は人型に纏めている蔓を何度か緩めては引き締める。
「農作業で鍛えたこの身体の力を見せてやるだっぺよ」
「ふん。手加減はしてやるよ」
俺とタンゴサックは同時にファイティングポーズを取る。
「「「おっ!おおぉ!!おおおぉぉぉ!!」」」
「ガハハハハ、良いぜぇ。審判は受け持ってやる!」
俺たちが構えを取ると同時に周囲で歌っていた連中が俺たちを囲むようにし、酒に酔って顔を赤くしたクレイヴが囲いの中から出て来て両手を挙げる。
「いい感じの舞台が整ったぺなぁ……」
「だなぁ……」
「おっしゃあ!どっちも準備は良いな!それじゃあ……」
「ファイ!!」
「「おらぁ!!……!?」」
そしてクレイヴが戦いのゴングを鳴らした瞬間に俺とタンゴサックは互いに右ストレートを放ち、お互いの右ストレートがクロスカウンターの形で決まりあった。
「この!」
「舐めるなっぺ!」
お互いの右ストレートが決まったところで俺とタンゴサックは一度距離を取ると、どちらが先に動いたかは分からないが、とにかく動き出してお互い魔力による強化を無くした拳でお互いの腹や顔を殴りまくる。
そこにあるのは下らない見栄や建前などではなく、男同士の意地と根性。そしてこんな形でしかお互いの気持ちを表せない親子関係の様な物。
いやまあ、血も繋がっていないし、俺視点では育ててもらった覚えすらないんだけど、俺とタンゴサックの関係性を表すならやっぱりどうしたって親子になってしまうのだよ。
「おんらああぁぁ!!」
「こなくそがああぁぁ!!」
そして戦いと言うよりは喧嘩と言うべきそれに終わりが見えて来た頃、俺とタンゴサックは同時に頭突きのモーションに入り、大きな衝突音を辺りに響かせ……
「ぐっ……」
「がっ……」
「これはー!!」
同時に地面に倒れた。
「両者ノックダウウウウウゥゥゥゥン!!」
「「「ーーーーーーーーーーーーー!!」」」
周囲から村の人間たちの怒声だか歓声だかよく分からない物が響いてくる。
まったく人の気も知らないで……好き勝手に騒ぎやがって……
「さあさあ次はだれがやる!?」
クレイヴが周囲を煽り立てる中、俺とタンゴサックは村人たちに引きずられて民家の壁に立てかけられる。
そして立てかけれたところでタンゴサックが口を開く。
「そう言えばあと一月もすればオラに新しい子供が生まれるだよ……」
「それがどうした…?」
「男か女かは分からねえだけど。おめえの目から見れば兄弟みてえなもんだべさ。だから……」
「……」
俺はタンゴサックの顔を見る。
そこには前世の父親の顔を覚えていない俺でも父親とはかくあるべきものだと思わせる顔があった。
こんな顔をされたならばだ……
「時々でいいから兄として顔を見せに来いっぺ」
「分かったよクソ親父」
会いに行くしかないだろう。
「誰がクソ親父だ。このカボチャ息子」
「あいた!?」
まあ、また殴られたけどな!
ま、こんなのもまたいいだろう。
仲直りしました




