第4話「森の中の南瓜-3」
「ヒュロロロォォォ」
俺は森の中を柔軟な体を生かす様に木々の合間を縫って高速で飛んでいく。
奇声に関しては俺が高速で飛ぶ時に自然に漏れてしまうようなので気にするのはもう止めている。
「ヒュロ」
と、ここで俺は視界の端に燐光の様な物を捉えたためスピードを落とすと、ゆっくりと燐光を放っていた主の方に近づいていく。
「ふむ。今回は石か」
そこにあったのは5cmほどの小さな石で、中心部からほんの僅かではあるが白色系の燐光が漏れている。
俺はその石を拾うと、普通の石とはどこが違うのかをつぶさに観察する。
「うーん。何となくだけど何かの結晶が混じってる感じか?」
するとどうやらこの石には極々僅かではあるが光に反射する何かが含まれているようで、それから燐光が放たれているようだ。
「とりあえず持っておくか」
俺は小石を蔓で作ったポケットの様な所に猪の牙などと一緒に入れると探索を再開する。
さて、実を言えばこの小石の様に燐光を放つ物体と言うのは森の中をよく観察すれば至る所に存在しており、探索を始めてから半日ほどではあるが既にそれ相応の数が集まっていた。
と言うのもこの燐光を放つ物体と言うのは、昨日の猪の牙やネズミの前歯の様に動物だけでなく植物や鉱物にも有るのである。
で、燐光を放っている部位としては動物なら頻繁に使う部位……猪なら牙で鳥なら翼、カブトムシなら角と言ったところで、植物なら葉っぱ。鉱物ならどちらかと言えば光物な部分から燐光が発せられていることが多かった。
と言うわけで、何かの役に立つのかもしれないと思って探索の邪魔にならない程度にこれらの物体を集めているのだが、現状ではやはり用途不明である。
ついでに言うとこの光は普通の動物たちには見えていないようで、暗闇の中で気づかれていないと思って牙と目から燐光丸出しの状態で待ち伏せしている動物が居たりしたので、俺はそう言う奴に対して逆に奇襲を仕掛けたりもしている。
いやー、本当に血が美味しいね!
「あー、日が暮れてきたな。そろそろとりあえずの寝床を探すか」
と、ここで俺が空を見上げると何時の間にやらだいぶ日が落ちて来ていた。
ちなみに言うなら植生や昆虫の類を見る限りでは今の季節は夏っぽいので、こちらの一日が地球の一日と同じ長さは不明だがそれなりの時間を探索していたと考えてもいいだろう。
何にせよ夜の間は今日一日それなりの量の血を吸って強くなったとは言え今の俺ではまだまだ敵わないであろう動物たちが徘徊していることは予想に難くないので、とっとと安全な寝床を確保しておくに越したことは無い。
「ヒュロロロロロォォ!」
と言うわけでとりあえず俺は奇声を上げながらの高速飛行を再開した。
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「寝床確保っと」
「ギ……ガ……」
寝床を探し始めてしばらくした所で俺は俺が寝るのにちょうど良さそうな樹を見つけたため、そこに潜んでいた巨大な蛇を吸い殺すとまとめていた蔓と根を広げ始めた。
なお、蛇に関しては牙の部分が赤紫色の燐光を放っていたため、そこを剥いだら遠くに向かって投げ捨てておいた。
こうしておけば後は美味しい乾燥肉として他の動物たちが美味しく頂いておいてくれるだろう。
俺としては美味しい血と燐光を放っている部位だけ剥ぎ取れれば十分だしな。
「さて、今日の成果はっと」
で、俺は今日一日回収した物を目の前に広げてみる。
やはりと言うべきか動物系の素材が一番多く、次に多いのは植物系の素材だが、今もなお燐光を発し続けているのは鉱物系の素材だけで、後の物は既に燐光を発さないようになっている。
確か植物系の素材は採取してからしばらくは燐光を発し続けていたと思うので、今燐光を発さなくなっているのはやはり生きていないからという事になるのだろう。
なお、燐光の色としては動物だと赤が多くて植物だと緑が多かったが、結構それ以外の色を放っているものも多かったので傾向と呼んでいいのか微妙な所である。
「うーん。そう言えばこの光って身体から離したり出来んのかな?」
俺はふと疑問を感じたため、蔦を纏めて手にするとその手に思いっきり気合を込めてやる。
すると手の硬度が大きく上がると共に緑色の燐光が僅かずつだが手全体から漏れ出てくる。
後はこの光を体から離すわけだが……うん。気合で出て来るって事は俺の意思に応じて動いていると判断してもいいだろうし、とりあえず目を瞑って手の平の中央に意識を集める感じで……
集める!
「おっ……ぶへら!?」
俺が目を開けるとそこには緑色の光が集まって球体を形成していた。
が、集めることに成功して気を緩めたのが良くなかったのか、一瞬で球体は拡散してしまい、その際に生じた突風を俺は真正面から受けてしまって思わず怯む。
「まあでもアレだ。とりあえず集められることは分かった。なら次は……っと」
俺は再び光を集めようとする。
が、球体が出来上がる前に軽い眩暈を覚えたために集中が乱れて球体は拡散してしまう。今度は風すら起きなかった。
「むう……」
どうやら単純に体を強化したりするのと違って意識的に光を集めて体外へと出そうとするのはそれ相応に体力を消耗する行為らしい。
出来る事なら今後の修練や慣れ次第でこの消耗が抑えられることを期待しつつも、寝ている時に周囲を警戒する体力を残すためにも今日はこれ以上気張ったりはしない方が良いだろう。
「寝るか」
と言うわけで俺はある程度の注意を周囲に向けつつ、疲れを取るために今日の所は眠る事とした。
明日こそは拠点が見つかるといいんだがなぁ。
01/29誤字訂正