第37話「街に来た南瓜-11」
「じゃ、リオも元気でな」
「はい。パンプキンさんもお元気で」
リオの家で軽いお祝いをやった翌朝。
俺とリオ、それに他数名はクヌキハッピィの東門前に集まっていた。
そして俺の背中には昨日購入した筆記用具の他、ミズキへのお土産も括り付けられている。
「パンプキンさんの魔法。いつか一般化させていただきますので」
「また来たら一緒に依頼でも受けようや」
「街に来た時は必ず顔を出すようにするんじゃぞ」
「おう。また今度来た時は楽しみにさせてもらうよ」
で、プレインさん、クレイヴ、コウゾー爺さんの三人もそれぞれに見送りの言葉を言ってくれる。
正直な話。プレインさん以外は割と明日もどうなるか分からない身の上だからな。出来る事なら次街に来た時にも会いたいが、期待をし過ぎるような真似はしないでおく。
それでも無事を祈るぐらいはさせてもらうけどな。
「では、朝の開門と行きますかね。開門!」
ゴヘイさんの言葉と共にクヌキハッピィを守る重厚な門がゆっくりと開いていく。
そして俺は門の外に出て、
「じゃ、縁が有ったらまた会おうや!」
「はい!お元気でー!」
「ヒュロロロォォ!!」
最後に一声かけてから勢いよくリーンの森に向かって飛び立っていった。
さて、次に会う時はリオも街も皆も一体どうなっているだろうな……楽しみだ。
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「以上が報告となります」
「うむ。ご苦労じゃった」
パンプキンがこのクヌキハッピィから去った日の午後。
クヌキハッピィ冒険者協会の一室にて協会長であるコウゾー・アンジンと一組の冒険者たちが話をしていた。
話の内容は冒険者たちが受けていた依頼について。
その依頼内容はリーンの森に出現したと言う空を飛ぶカボチャの魔獣と思しき存在について調査を行い、仮に敵対的な存在であった場合は排除を行うと言うもの。
「しかしこれは依頼失敗……という事になるのでしょうか?」
「いや、この資料を見れば誰でも納得するじゃろうが、お主らは十分な仕事をしたし、パンプキンがあの森に居なかったのは偶然間が悪かったからにすぎん。依頼は成功じゃよ」
冒険者の一人……まるで騎士の様な風体の男がコウゾーに依頼の成否について問いかけるが、コウゾーは彼の問いかけに対して笑みを見せてから問題ないと告げたため、冒険者たちは一様に安心した様子を見せる。
実際の所、彼らが提出した書類には誰が見ても十分仕事をしたと評せるだけの情報が記されていた。
「では我々はこれにて失礼させていただきます」
「うむ。カウンターの方で報酬を受け取ってくれい」
冒険者たちが騎士風の男を先頭にして部屋の外に出ていったところで改めてコウゾーは彼らが残していった資料に目を通し始める。
「しかし向かわせたのがあやつらで良かったわい。下手な者を向かわせておったらこの街にとって致命傷じゃったわ」
コウゾーは資料に目を通しながら自分自身のパンプキンと会った際に感じた事と資料の内容を擦り合せていく。
資料曰く当該生物(以下、甲と称する)はリーンの森の麓にあるマウンピール村の畑にてカボチャに擬態していたところに遭遇したのが初。
その後リーンの森内にて度々目撃され、狩人が弓を射かけるなどの攻撃を行うが一切の効果無し。
また、甲が目撃されるようになってから時折リーンの森内にて時折全身の血を吸い尽くされた魔獣の死体が確認されるようになったとのことで恐らくは甲の仕業と考えられる。
次いで、リーンの森内に存在する卵型の岩の前にて今まで存在しなかった木造の小屋が出現していたが、内部に甲の物と思しき葉が落ちていた事からこちらも甲が何かしらの方法で建てた物だと考えられる。
なお、転生者のよく使う文字で書かれた木簡(内容については別の資料に転写)が小屋内部に置かれていた事から甲は一定以上の知性と知識を有すると同時に転生者である可能性が挙げられる。
そのことから我々は甲がリーンの森に居なかった。また、今まで積極的に人を襲っていないと言う事実から、小屋の中の物には一切手を出さずにマウンピールの住民にはそこまで心配しなくても早々に問題は起きないだろうと告げてからクヌキハッピィに帰還した。
「それでこれが木簡の内容じゃな」
コウゾーは木簡の内容を転写したと言う資料を見る。
「どうやら日本語のようじゃな。ふむ……詳しい内容は分からぬがこの表などを見る限りでは魔導書と言うよりは研究内容について纏めた資料と言った感じじゃな」
コウゾーは転写された資料を一通り見た所でそう言う。
実際の所日本語と言うのはこの国に存在する大抵の転生者がある程度は扱える言語体系ではある。
「しかし、こちら側が一切混じっていないのは初めてじゃな」
が、パンプキンが書いたと思われる木簡には他の転生者と違ってこの世界の文字が一切含まれていなかった。
それが指すのはつまりパンプキンは他の転生者と違って日本語と言う言語体系を完全に扱えるという事。
これは転生者が生前の記憶や経験の全てではなく一部分だけ持って転生すると言う事実を考えれば非常に珍しい状況である。
なお、ここで欠けてしまった単語についてはどうするのかと言う疑問を持つかもしれないが、普通の転生者はそもそも前世の記憶を思い出すのがそれなりに成長してからであるため、足りない部分の知識については普通にこちらの知識で穴埋めされるだけで特に問題は起きなかったりする。
いずれにしてもここで重要なのはパンプキンが前世の記憶をどこまで持っているのかは分からないが、転生者としての価値は非常に高い可能性が大きいと言う事実である。
「加えてあの魔力に魔法、そして技術か」
コウゾーはこの数日の間にパンプキンが起こした数々の事件に、パンプキンが見せた突拍子もない諸々の行為を思い出して苦笑する。
ここまでの事を考えればパンプキンを仮にこちら側に引き込めればそれだけでかなりの利益を上げるのは間違いないだろう。
だが、ここで問題になるのはパンプキンの性格。
僅か数日ではあるが、それでも直接的な手だろうが搦め手だろうが本人が納得しない形では一筋縄では引きこめないのは間違いないと判断できる程度にはコウゾーはパンプキンと付き合いが有った。
「クヌキ伯爵とその周りの数人には知らせるべきじゃが、さてどう伝えた物かのう……」
そして最終的な結論としてパンプキンはこちらから危害を加えようとしなければまず問題ないと判断した。
ただその上で、コウゾーはこの話を伝えるべき最低限の相手の顔を思い出しつつ悩み始めるのであるが。
遂に帰ります
03/03誤字訂正




