第35話「街に来た南瓜-9」
「本当に人が多いな……」
「朝一番ですからね。当然と言えば当然ですけど凄いですよねぇ」
ハンティングビーとの交流再開交渉が一通り終わった翌日。
俺はリーンの森を出た時点で買うつもりだった物を購入するためにリオと一緒にクヌキハッピィの大通りに来ていた。
なお、まだ体調のすぐれないリオの母親の為にリオ自身の買い物ももちろんするつもりである。
「……(チラッ」
「なんか最近の俺、良いように使われて無いか?」
「男なんだからこれぐらいいいじゃない」
ちなみに、恐らくは俺の監視目的で来たのだろうが、荷物持ちとして都合が良かったという事でクレイヴを荷物持ちにしつつ、俺には分からない女同士のアレコレをお願いするためにアイリスさんに一緒に来てもらっている。
まあ、本人にも自覚があるようなので言ってしまうがぶっちゃけクレイヴは便利屋扱いである。
「それでパンプキンさんはどういう物を買うつもりなんですか?」
「うーん。羊皮紙とインク……と言うか適当な筆記用具だな。後は百科事典の様な物があればいいんだけど……」
ここで俺はリオとアイリスさん二人の方を向く。
「筆記用具については知ってますけど……」
「百科事典は個人で購入するには高いわよ。協会にも百科辞典はあるけれど専門書レベルのなんてわざわざ有料にしているぐらいだし。そもそもこんな地方都市で買えるような代物でもないしね」
「だよなぁ」
俺の視線から意図を察して答えてくれた二人の言葉に俺はため息交じりで返す。
実際の所、筆記用具についてはともかく百科事典に関しては元々買えると思っていなかったので別になんてことは無いのだが。
「まっ、そう言う事なら別に構わねえわ」
「じゃあ、適当に物を買いながら筆記用具を買いに行くって事でいいか」
「そこで何でアンタが仕切るのよ……」
「まあまあ」
そしてクレイヴの言葉にアイリスさんがツッコみつつ俺たち四人は大通りで食料品を買いながら筆記用具を売っている店に向かうのだった。
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「ここがそうなのか?」
主にクレイヴが荷物を抱える中で俺たちは大通りから少し外れた場所にある一軒の店の前に来ていた。
「はい。クヌキハッピィ唯一の一般向けにも売っている筆記用具店です」
「?」
「羊皮紙にインクなんて恒常的に必要とするのは協会以外だと商人か貴族ぐらいだもの」
「俺らが日常的に使うとしたら日記や手記、それに依頼書ぐらいだがそれにしたって使う量は微々たる量だからなぁ……」
俺以外のメンバーの言葉に俺はなるほどと納得する。
確かにこの文明レベルだと日常的に使う人間は限られるし、遊びとかに使おうとは考えないよな。
「まあ、とにかくいつまでも店先で話してるのも邪魔だし早い所店の中に入りましょうか」
「だな」
「そうしましょうか」
「ん」
そして俺たちは『ウミツキ文房具店』と書かれた店の中に入って行った。
それにしても何で看板の横にクラゲの絵が描かれているんだ?謎すぎる。
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「いらっしゃい」
「お邪魔するわ」
店の中に入ると独特の匂いと共に店主と思しき水色の髪に鮮やかな紫色の瞳をしたヒューマンの見た目をした女性が出迎えてくれた。
「これは……」
「へぇ……」
ただ、その特徴的な髪の色や瞳の色以上に俺の目を惹いたのはその魔力の色と量。
と言うのも女性の魔力の色は鮮やかな紫色をしており、その量は誤魔化している可能性は高いがそれでもかなり多く見えたのだ。
それにしても紫色……色相環に当てはめるなら赤と青の中間……つまりは水属性と火属性の混合という事になるわけだが一見するとどう言う属性なのかよく分からない色でもある。
まあどういう属性にしろ一つだけ確かな事があるな。
この女性が俺に対して外見以外の点から何かしらの違和感の様な物を抱いている事から考えてもそうだが、少なくともこの女性はヒューマン、エルフ、ドワーフ、リザードマン、バードマンの五大種族以外の種族なのは間違いなさそうである。
「ん?」
「へ?」
「ううん?」
「ま、いいわ。今日は何の用かしら?」
「筆記用具一式を買いに来たんだが、何かいいのはあるか?」
で、俺と店主さんが纏う空気の変化に微妙に違和感を感じた他の三人をスルーして俺と店主さんは交渉を始める。
まあ、相手が何モノであろうとも友好的な相手なら何かを言う必要は無いな。
普通に交渉を進めるだけの話だ。
「うーん。どういう用途で使うのかに依るかな?素材によって魔導書に向く物、保存に向く物と色々あるから。ああ、インクの方も一緒ね。ついでに言うと予算についても教えて欲しいかな」
店主が纏っている空気を元に戻してからそう言う。
まあ、それなら俺も魔力を抑えるべきだな。
「ふむ。用途は研究成果を書くだけだから出来れば保存が利く物が良いな。予算は……出来れば控えめで」
「了解。それならこの辺がいいかな。お値段としては銀貨でこのぐらい」
俺の言葉を受けて店主が何かしらの魔法……恐らくは保存系の魔法が掛けられていると思しき数枚の羊皮紙とインク、それから羽ペンをカウンターの上に出すと共に指で値段を示してくる。
うーむ。銀貨2枚か……高いけどそれだけの価値はあるっぽいなぁ。
「買った」
「まいどありー」
と言うわけで素直に購入した。
保存魔法付きで羊皮紙十数枚にインク一瓶なら安いぐらいだろう。
「えーと、止めなくて良いんですか?」
「うーん。魔法がかかっていることを考えたら安いぐらいだと思うけど?」
「本人が納得してるならいいんじゃないか?」
周りがごちゃごちゃ言っているが、ぶっちゃけ保存環境の悪い森の中で使う事を考えたら安いものです。
と言うか本当に安いです。
「それでは今後ともご贔屓に」
「勿論そうさせてもらうとも」
そんなわけで俺は羊皮紙とインクを買って『ウミツキ文房具店』を後にするのであった。
うーん。何となくだが彼女とは長い付き合いになりそうだ。
『ウミツキ文房具店』は今後も出てくる予定




