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第3話「森の中の南瓜-2」

「ぶふぅ……さてどうするか」

 俺はちょっとゲップの様な物をしつつ血と体液を吸い尽くされて干乾びた猪の死体を前に少し考える。

 まず、今の俺の身体の状態だが暴れまわる猪を抑え込んだことにより節々……と言っていいのかは分からないが蔓の一部がだいぶ痛んでいる。

 だが、時間経過によるものなのか、猪の血を吸ったためなのか、それとも光合成によって回復したのかは定かではないが既に痛みは取れ始めている。

 なので、こちらについては問題ないだろう。


「とりあえず牙ぐらいはもぎ取っておくか」

 猪の死体に関しては肉や皮に関しては有ってもしょうがないので放置するとして、猪が生きていた時は赤系の燐光を放っていた牙を根元からもぎ取って適当な蔓に絡ませて持っておく。

 そして徐々にだが周囲に他の生物の気配がしてきたため、俺は再び空を飛んでその場から離れることにした。



-----------



「ふうむ。あの時感じたほどの脅威は感じないな……」

 俺は木の梢の上で猪の牙を眺める。

 だが、今の牙からは猪が生きていた時に比べると一目で分かるぐらい強度や切れ味が劣っているのを感じる。

 あの燐光も無くなっていることから察するに猪が生きていた時限定の現象という事なのだろう。


「それにだ……むん!」

 俺は気合を込めるような感じで蔓の一本に力を込める。

 すると猪と戦っていた時よりも明らかに蔓が硬くなり、猪の牙ほどではないが蔓から緑色の燐光が漏れ出てくる。


「光が出て来たのは予想外だけど、明らかに強くなってるな」

 俺は蔓の具合を確かめてそう呟く。

 さて、何故強くなったのか、この光がなんなのかを考える必要があるな。

 加えて、どうして俺が猪を殺しても罪悪感を覚えないのかとか、人の頃とは大きく違う体を何の違和感も無く操れるのかも考えないといけないかもしれないが。

 名前は……そういえば思い出せないけどまあいいか。後々必要になったら適当に名乗ろう。


「うーん」

 まず強くなった理由は異世界の定番である猪を倒したとかそう言う理由だと思う。

 もしかしたら猪を倒したじゃなくて血を吸ったからかもしれないけど。

 で、この光がなんなのかは……分からないな。定番で言えば魔力とかマナとかその辺の物なのかもしれないが、断定するには情報が少なすぎる。

 とりあえずこの光について分かっているのは力を込めるイメージで集められて、集めるとその部分が強化される事と条件を満たせば強化されるって事ぐらいか。


「ふん」

「キュ!?」

 ここで俺は木の陰に潜んでこちらの隙を窺っていた前歯から燐光を放つネズミに根っこを突き刺して血を吸い尽くしてやる。

 血を吸うたびに美味しいと言う感情が俺の頭の中で湧き上がってくるので、どうやらこの身体はまるで吸血鬼の様に血が好物らしい。


「で、問題なのはどうして難なくこの身体を動かせて、こうやって動物を殺しても何の罪悪感を抱かない事だよなぁ」

 俺は自分の精神状態の変化について何が起こったのかを考える。

 身体を問題なく動かせるのにしても、罪悪感無く動物を殺せるのもこの身体で生きていく分には困ったことではなくむしろありがたい事ではあるが、どうしてこうなったかが分からないと言うのはやはり恐ろしいものがある。

 と言うのも俺が意識しない内にそんな事が起きているという事は、この先俺が気づかない内に頭の中をまた弄られる可能性もあるという事である。

 自分でも気づかない内に自分が自分で無くなる。それは本当に怖い事だ。

 だからこの件については早いうちに原因を探っておくべきだとは思う。


「まあ、現状ではどうしようもないけどな」

 俺はネズミから前歯をもぎ取ると出来るだけ遠くに向かってネズミの死体を投げ捨てる。

 実際の所今の俺はこの世界の事を何も知らない。だから何処から調べていけばいいかもわからない。

 故にまず知るべきは自分自身の事。そしてこの森の事だろう。


 俺はそう結論付けると日が沈んで暗くなった空に満月が浮かぶのを眺めつつ眠りに就いた。



---------------------



「むにゃ」

 そして翌日。

 俺は目を覚ますととりあえず昨日の沢に行って水分を補給し、光合成を行ってとりあえずのエネルギーを確保する。

 うーん。こういう事が難なく出来る辺りにやはり自分がこの身体に適応しているのだなと思わされるな。


「まあそれはさておいてだ」

 俺は無駄に広がってしまっている蔓や根を束ねて纏め上げていく。

 昨日の猪との戦いで分かったが、どうやらこうして蔓を纏めることによって俺の身体は強度を増すだけでなく、締め上げたりする力も強くなるようで、攻撃が当たる部分を少なくする意味でも有用なようである。

 で、ある程度纏め上げた所で俺は蔓を上手く編みこんだり絡ませたりすることで手の様な物を作り上げる。俺の蔓を操る精度を考えればこうする事で本当の手のように扱えるだろう。

 それに形状を複雑にしたり、束ね過ぎたりすると若干柔軟性が失われるようだがこの程度なら問題ないと判断。

 脚は空を飛べるので不要と考えて作らない。


「まずは拠点探しだな」

 そして最終的にカボチャの果実部分から背骨の様になった軸が生え、その途中から二本の手を生やしたような姿になったところで俺はまず安全に雨露を凌げる場所を探して森の中を飛び回り始めた。

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