第27話「街に来た南瓜-4」
「妙な踊りをしておるのう」
「ん?爺さんか」
翌朝。宿の庭に出た俺はいつも通りに魔力による身体強化を施した状態でラジオ体操を行っていたのだが、そこにコウゾー爺さんがやってきた。
「妙に魔力が漲っておるの。その踊りの効果かの?」
「いや、魔力の漲りについては普段の修行の成果だな。踊りの方はラジオ体操って言う俺の地元であった準備運動だ」
「ふうむ。世の中には奇妙な準備運動も有るものなんじゃな」
コウゾー爺さんはそんな事を言いつつも時折「しかしその見た目にしては効率がいい」とか「ふうむ。実に理論的じゃ」とか呟いている。
実際、前にも言ったけどラジオ体操は修行とかに使うには本当に便利な物なんだよな。と言うわけで出来れば広まればいいと思うよ!
「うし。終わりっと。で、爺さんは何の用だ?」
「うむ。お前さんの今日の予定を聞いておこうと思っての」
「今日の予定か?生活必需品を多少買う予定だが……ああ、後リオにお金を返さないといけないな」
俺の予定を聞いたコウゾー爺さんは笑みを深める。
悪い人じゃないのは分かっているがその笑みは不安にさせるなぁ……
「ふむ。そう言う事ならリオの家を教えようかのー。用事があると言うのならそのついでに街を案内してもらうといいのー。フォフォフォ」
おい。コウゾー爺さんよ。個人情報をこんな怪しい奴に対して気軽に教えんなよ。と言うかあからさま過ぎるだろうがその笑い方。
いやまあ、コウゾー爺さんの周囲から漏れ出ているコウゾー爺さん以外の魔力から察する限りリオに案内をさせている傍らで俺の素行を調査するとかそう言う目的があるんだろうけどな。
「まあ、教えてもらえるなら教えてもらうけどな」
「よいよい。素直が一番じゃ」
と言うわけで俺はコウゾー爺さんにリオの家を教えてもらい、リオの家に向かうのだった。
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で、教えてもらったリオの家に到着。
リオの家はクヌキハッピィの住宅街でも外れの方……言い方は悪いがスラムと正規の街の境界に位置しており、暮らしている人々の服装は中心街に住んでいる人たちに比べると多少みすぼらしい感じである。
ただみすぼらしいと言ってもそれは服装だけの話で、表情とかまで見るとこの人たち全員いい人なんだなぁ……と思う。
だってこんな怪しい奴に対して普通に近づいてきて普通に喋りかけて来るんだぜ。
しかも、事情を話したら普通に心配とかされたし。子どもたちは俺の蔓とか頭で遊んでるし。
「パンプキンさん」
「おいーっす。金返しに来た。ついでに街の案内とかしてもらいたいかも」
「「「あっ、リオ姉ちゃんだー」」」
と、ここでリオが家から出てくる。
「あ、あの……」
「どうした?」
ただリオの表情は何と言うか……非常に切羽詰ってる感じである。
と言うか普通に顔色が悪いな。
「お、お母さんが……」
……。リオの言葉に俺はリオの家の方を目を凝らして見る。
するとリオの家の中に向かって何か黒い線のようなものが何処からか伸びているのが見えた。
その黒い線は恐らくは闇属性の魔力で作られており、見ているだけでも気分が悪くなってくるような念が込められている。
「リオ。家に入っていいか?それと俺の後を付いて来てるエルフとリザードマンのコンビ。お前らも出来れば見てもらいたい。」
「は、はい!?」
「「!?」」
俺の発言にリオは了承の意を返し、バレていると思っていなかったのだろうか。建物の陰に隠れて俺の様子を窺っていたエルフとリザードマンの二人は驚いた様子でこちらに向かってゆっくりと出てくる。
ちなみにこの二人に関してはコウゾー爺さんの周りに居た時から気づいてた。
だって魔力の放出を多少は抑えているけど、俺みたいに完全に抑えられているわけじゃないし。加えて言うと普通の人間たちに比べると明らかに持っている魔力の量が多いしな。
ま、そんな事よりも今大切なのはリオの母親だな。
「こっちです」
「分かった」
「「……」」
と言うわけでリオの案内で家の中に俺たち3人は家に入る。
「はぁはぁ……」
「これは……」
「病気……じゃねえな」
「リオ。何時からだ?」
「昨日急に倒れて……それから突然……誰に相談すればいいかもわからなくて……」
そしてリオの母親の様子を見て俺たち三人は絶句する。
何故ならばリオの母親の顔は頬がこけ、目がくぼみ、肌からはあらゆる艶が失われていたからだ。端的に言えば明らかな死相が浮かんでいた。
だが、俺の目がそれに加えて健常な人間には無いであろう異変を捉えていた。
「呪い……か」
それはリオの母親の臍の少し下……つまりは丹田の部分に集まっている無色の魔力に対して黒い魔力がシミの様にこびり付いている事。
魔力と言うのは普通の人間ならば多少の種族差は存在しているが、基本的に丹田、心臓、頭の三ヶ所に集まっている。何故そこに集まっているのかは分からないが、とにかくそこに集まってる。
だが、リオの母親はその内丹田の魔力に対して何処からか闇の魔力が流れ込んで丹田部分にある魔力本来の働きを阻害されているようだった。
その結果がこの状態なのだろう。
「ううっ……」
「お願いします!お母さんを助けてください!」
リオの母親の呻き声とリオの悲痛な叫びが家の中に響き渡る。
さて、どうした物だろうな……




