第25話「街に来た南瓜-2」
「さて、先程はすまんかったの」
「こんな見た目の奴が現れたら当然の反応だと思うから別に構わないさ」
「そう言ってもらえるとありがたいの」
協会の奥の部屋に移動して、机を挟む形で座った俺と爺さんが最初に交わした言葉がそれだった。
なお、爺さんはしっかりと柔らかそうな椅子に座っているが、俺はちょっと飛ぶことによって座っているように見えて座っていない状態である。
この辺はまあ一応の警戒だな。爺さんは大丈夫でも他の人間がどう動くかは分からないし。
「一先ず自己紹介といこうかの。儂はコウゾー・アンジン。ここクヌキハッピィの冒険者協会の会長をやっておる。まあ、もっと上も有るし実質的には支部長の様な物じゃな」
「俺はパンプキン。見習い魔法使いだが妙な魔法の効果でこんな姿になってる……という事にしておいてくれ」
「まあ、そう言う事にしておこうかの」
で、自己紹介としてリオやゴヘイさんに言ったのと同じような経歴を語ろうとしたが、コウゾー爺さんの目から察するに嘘だという事は既にバレていそうなので流しておく。
俺の身の上とかマントの中身とかは深く突っ込まれたらきちんと話す気はあるが、基本的に他人に話す事でも無いしな。
それに代わりとしてどうやって俺の嘘を見破ったのかとかについても聞かないんだからお相子でもある。
「それで要件としては表で言った通りという事でいいんじゃな」
「ああ、素材の買い取りと協会への登録を頼む」
「分かった。では書類と見積もり人を呼ぶとするかの」
コウゾー爺さんが机の上に置かれたベルを鳴らして職員を呼び寄せ、やってきた職員は持ってきた書類の代わりに俺から毛皮を受け取るとその場で鑑定を始める。
ふむ。きちんと客の前で鑑定をするのは好感が持てるな。
で、俺は書類の方に目を通そうと思ったのだが……
「どうしたんじゃ?」
「あー、代読とかお願いできますか?」
「ああ、そう言う事じゃったか」
うん。異世界の文字が読めるわけ無かったね。
と言うか今まで疑問に思わなかったけど異世界の言葉が難なく話せるのだっておかしいと言えばおかしいんだし。今まで学ぶ機会も無かったんだからこれはもうしょうがないね。
と言うわけでコウゾー爺さんに代読を頼んでもらい、本当にただの身分証明書みたいなものだと分かったところで登録をお願いし、いくつかの質問に答えた所で受諾してもらう。
「さて、出来上がるまでの待ち時間にお前さんが疑問に思っていそうな事に答えておこうかの」
「ん?いいのか?」
「信頼関係を築くための第一歩じゃし、機密事項は喋らんから問題ないわい」
で、素材の査定と登録書の発行が完了するまで俺はコウゾー爺さんと色々と話す事になった。
「まず、儂がお前さんの正体について探らないのはとある筋から情報を得ているからじゃ?」
「?」
「曰く、リーンの森にカボチャの化け物が出た。退治するかそうでなくとも住処を探るなどして欲しい。とのことじゃ。心当たりは有るじゃろ?」
「…………」
コウゾー爺さんの言葉に俺は思わず目を逸らす。
心当たり?ええ、腐るほど有りますとも。絶対にあの村から協会に出た依頼だよ。これ。
「ただまあ、それだけならよく似た別の存在かもしれないだろ?どこで確信したんだ?」
「クロイングボアにストライクベアの毛皮を持ってきた時点で確定したの。あの二種はリーンの森の固有種じゃからな」
「なるほどねぇ」
うーむ。この辺りは完璧に俺の知識不足が露呈した感じだな。リーンの森の固有種である動物の毛皮を持ち込んだならそりゃあ繋がるか。
ただまあ、それでもいきなり攻撃したりはしないんだな。こんな見た目なのに。
で、それをコウゾー爺さんに聞いたらだ。
「それはここクヌキハッピィの土地柄の様な物じゃな。ここクヌキハッピィはまあ色んな事情はあるがとにかく見た目が奇異だからと言ってそれだけで排斥したりするような街ではないのじゃよ。流石にお前さん程の姿だと注目は集めるがの」
との答えが返ってきた。
ふむ。どういう事情でそうなったかは分からないが、俺みたいな奴にとっては随分とありがたい話ではあるな。つまりこの街の中限定なら妙な動きをしたりしなければ俺でも動けると言うわけだし。
逆説、他の街だといきなり攻撃を受ける可能性もあるんだろうなー。まあそれはしょうがないか。カボチャだし。
「失礼します」
「と、査定と発行が終わったようじゃの」
それからしばらく話をしていたら職員さんが入ってきて書類と何かが入った袋をコウゾー爺さんの前に置いていった。
さて、どういう物になっているんだろうな。
「さて、まずはこっちがお前さんの協会登録証じゃな」
「どうもっす」
俺はコウゾー爺さんから一枚のカードを受け取るとその内容を読んでみる。
△△△△△
Name:パンプキン
Class:魔法使い
Rank:E
依頼受諾数:0
依頼成功数:0
クヌキハッピィ冒険者協会発行
▽▽▽▽▽
ふむ。本当にちょっとした身分証明書って感じだな。
てっきり異世界物によくある各種情報が漏れなく記載されているようなオーバーテクノロジーなカードを想像していたんだが、正直このぐらいの方が余計な情報が漏れたりする心配も無くて色々と便利かもしれない。
なお、ランクについては上から順にS,A,B,C,D,Eの六段階で存在しているが、所有者の実力を示すものでは無くて協会の信頼度を表すものだとか。
まあ、結局のところランクが高い=協会の信頼がある=仕事を確実にこなすことが出来る=それに見合うだけの実力(戦闘能力以外の諸々も含めてである)があると言う図式が成り立つわけだけからランクが高いなら実力も高いと考えても問題ないだろうけど。
ちなみに、文盲の方にも発行される関係でこのカードには誰にでも読めるようにする魔法が掛けられているとか。誰が考えついた魔法なのかは分からないがありがたい話である。
「では、査定結果の公表になるんじゃが……各貨幣の価値から言った方が良いかの?」
「是非是非」
そして一通り見たところでコウゾー爺さんが査定の結果を貨幣の価値を教えつつ発表してくれるそうなので、俺はそちらに耳を傾けることにした。
カードの機能は最低限です
02/19少し改稿
02/20誤字訂正




