第24話「街に来た南瓜-1」
「おおっ、こりゃあ凄いな……」
「領主様のお屋敷があるぐらいですからねーこれでももう夕方なので多少少ないぐらいですよ」
クヌキハッピィの中に入った俺はまず最初に大通りにひしめく大量の人間とその人間たちが出す様々な音を感じて圧倒された。
しかもリオの言い方から察するに朝や昼ごろならばもっと人が多いようなので森と街の差はやはりでかいのだなぁ……と、思う。
「それにしても……」
「どうしました?」
俺は大量の人間を見て気づいたことがある。
どうやらこの世界には前世で俺が認識していた人間以外にも人間として扱われる種族が他にも居るようだ。
と言うのも先程から俺が認識する所の人間に加えて時折だが妙に耳が長くて色白な人間、少し背が低くて色黒な人間、体の所々に鱗の様な物が見て取れる上に尻尾が生えている人間、背中から小さいが翼を生やした人間が居るからだ。
アレだな。流石は異世界だ。とりあえず普通の人間をヒューマン、耳長をエルフ、色黒をドワーフ、鱗をリザードマン、翼をバードマンと呼んでおこう。たぶん、大きくは間違ってない。
ちなみに俺の目には外見的な特徴を抜きにしてもはっきりとそれぞれの種族が見て取れている。
と言うのもヒューマンは別の色が僅かに混じってはいるが基本的には無色透明な魔力であるのに対してエルフは緑、ドワーフは赤、リザードマンは青、バードマンは黄色の魔力をはっきりと分かるレベルで纏っているからだ。
ついでに言うとヒューマン以外の種族の方が基本的に纏っている魔力の量が多い気もするな。
まあ、ある意味ファンタジーの定番か。人間は個の力が劣る分集団の力で勝るって言う奴だろう。多分だけど。
「パンプキンさん?」
「ん?ああすまない。久しぶりにこれだけの人間を見たんでついな」
「本当に大変だったんですねぇ……」
いかんいかん。つい考察に耽っていたらリオに心配されてしまった。
それにしてももう一つのファンタジーの定番、異種族嫌いってのはこの街の様子を見る限りでは縁遠いみたいだな。
まあ、もしかしたら目に見えない所で色々ある可能性はあるが、その辺については追々調べればいいか。
「リオ。とりあえず毛皮とか換金できる場所はあるか?あるならまずはそこに案内してもらいたいんだが」
「分かりました。そう言う事なら協会に案内しますね。こっちです」
と言うわけでとりあえずリオにお金を返したり各種物資の購入費を捻出する為に換金場所へと案内してもらう。
道を歩いていたら時折何だあれ?と言った感じの視線をぶつけられたりもしたがそれはスルーしておく。
どうせこの頭が目立つだけだろ!
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「ここが協会です」
「へー」
さて、リオに案内してもらう形で歩くこと数十分。
俺たちは弓と剣を組み合わせた看板が掛けられている一軒の大きな建物の前に来ていた。
建物には如何にも冒険者ですと言った風体の人間から、見るからに戦う力など無さそうな子供や老人、女性まで様々な人間が出入りを繰り返している。空気としては全体的に落ち着きつつも慌ただしい、されど物騒ではないと言った感じか。
ふうむ。てっきり荒くれ共の集う場と言ったイメージを持っていたが、考えてみれば一般人からの依頼とかも受けるのにそんな雰囲気じゃ商売あがったりだもんな。なら、こういう雰囲気にもなるか。
「協会なら依頼と言う形で大抵の物は買い取ってもらえますから、ここならきっと大丈夫です」
「買取には登録とか必要になるんじゃないのか?」
「確かに登録の必要はありますけど登録だけなら無料です。それに協会の登録書って簡単に言っちゃえば身分証明書の様な物でしかありませんので、犯罪歴とか何度も依頼をすっぽかすような真似をしなければ誰でも登録できますし」
「なるほどなー」
つまり俺がイメージしているようなギルドとかそう言った物と言うよりは凄く温い基準さえ満たせば誰でも利用できる相互互助組合ってところなのか、この協会って言うのは。
なるほど確かにここなら南瓜の俺でも問題なさそうだ。
「それじゃあ入りましょうか」
「お……むん!」
そして俺とリオは協会の中に入って行き、そして入った瞬間に何処からか殺気の様な物をぶつけられたのでとりあえずリオが気絶しない程度に魔力で周囲を威圧してやる。
「パ、パンプキンさん!?」
「心配すんな。出力は抑えてるし、方向も絞ってる」
「そ、そう言う問題じゃありませんって!?ほら職員の皆さんが怯えてるじゃないですか!!?」
「ふっふっふ。文句なら俺に殺気を向けている奴に言うがいい」
そう言いながら俺は殺気の出元であろう複数の人間に目線を向ける。
言っておくが先に殺気をぶつけてきたのは向こうだからな。ここで退く気は無いぞ。
で、しばらくそうやっていたら殆どの殺気は俺の魔力に呑まれる形で収まっていき、呑まれた奴は微妙に腰砕けになる。
ふん。だらしない。
そして残ったのは……
「ふむ。ゴヘイから南瓜頭の人間(?)がこちらに来ると聞いていたのだが予想以上の化け物の様じゃな」
お偉いさんっぽい爺さんと、何人かの周囲よりも明らかに大量の魔力を保有している人間だった。
魔力の総量は……表面を見た限りでは俺よりは少ない感じか。
まあ、表面上の魔力量なんていくらでも誤魔化せるから当てにはならんけど。
「お前さん用件は?」
爺さんが殺気を抑えながらこっちに近づいてきたので、俺も魔力の放出を止めてから背中の荷物を出す。
と言うか爺さん殺気を抑えたら途端にすげえ落ち着く感じの魔力を出し始めたな。いや、魔力じゃなくて空気と言うべきか。
「素材の買い取りだな。後は協会への登録とかも出来れば頼みたい」
「ふむ。そう言う事なら奥で話をしようかの」
「了解した」
爺さんが協会の奥の方を指差しながらそんな事を言ったため、俺は頷く事で了承の意を返す。
「あっ、はい。私も……」
「リオ。お主は依頼を済ませて早くおっかさんの所に行ってやれ」
「え?でも……」
「心配しなくてもこの爺さんなら信用できるから安心しろ。後、金は後で返す」
「そ、それじゃあ失礼します」
リオが何人もの人間が並んでいるカウンターの方に走っていく。
「さて、それじゃあじっくり語り合うとするかの」
「ですかね」
そして俺は周囲の視線を一身に集めつつ爺さんに促されるがままに奥の部屋へと向かった。
しばらくはクヌキハッピィに滞在します




