表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南瓜の魔法使い  作者: 栗木下


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/163

第21話「春の南瓜-2」

 俺の眼下では巨大な蜂の群れに少女が追われている。

 少女の装備は……革製と思しき軽鎧に多少刃が長めな剣か。

 対する蜂の方は数こそ多いが纏っている魔力の量から察するにリーンの森なら熊どころか猪にも蹂躙される……と言うか一対一ならネズミに負けるレベルだな。こりゃあ。


「誰かあぁ!?」

 助けるメリットは……まあ色々あるし。助けるか。あの程度なら何千匹居ても相手にならん。


「ヒュロロロォォ!」

 と言うわけで俺は蜂の群れのど真ん中に急降下して何匹か叩き潰しつつ着地。


「「「ブンッ!?」」」

「えっ!?」

「ヒュラホオォ!!」

 続けて魔力で硬度と蔓に生えている棘の鋭さを強化した両腕を振り回して当たるを幸いに片っ端から蜂を粉砕していく。

 そして蜂たちの注目を集めた所で……


「ふん!」

「「「!?」」」

「はうっ……」

 魔力を少しだけ開放して少女ごと威圧する。

 ふふふ、さあどうするよ蜂共、貴様等の攻撃は間違っても俺には通用せんぞ。

 そして、貴様らの獲物である少女は気絶したが俺がどういう意思の元に来たかは分かるな。


「「「ブブッ……」」」

 俺の魔力に恐れをなしたのか蜂たちがゆっくりと後退していく。

 うん。良い判断だ。流石は野生動物。その判断に敬意を評してこれをやろう。詳しい経緯も知らずに割り込んだ詫び賃も兼ねておくが。


「ほれ」

「ブッ?ブブブー」

 俺は手の中に魔力を集めて甘露の様に甘くした露を出し、それを一番手近に居た蜂にやる。

 蜂はそれを受け取ると感謝の意を表すように一定の軌道を描いて俺の周囲を飛び回ると、一回大きく羽音を立てた後に群れごと近くの森の中へと去って行った。

 どうやら喜んでもらえたらしい。


「さて、とりあえず安全そうな場所まで運びますかね」

 そして俺は気絶した少女を肩に担ぐと一応蜂の針を回収してからその場を飛び去った。



--------------



「あの木でいいか」

 しばらく飛んだところで俺は街道沿いに植えられた桜の木を発見したため、その周りに着地してから桜の木の幹に身を預ける様に少女を下ろす。


「んー……」

「ふむ」

 で、改めて俺は多少寝苦しそうにしている少女の身体を見回す。

 遠目に見て少女が革製の軽鎧に剣を持っているのは分かっていたが、どうやらそれに加えてちょっとした道具類を入れておくためのポーチやそこに金属板が仕込まれた靴なども身に着けているようだ。

 少女自身の方は少し黄緑寄りの金髪に、多少擦り傷も有ったりするが全体的に整ったと言える顔をしている。それからボディラインは……まあ戦いを生業にするものとしてはそれなりか。ちょっと緑っぽい魔力もあの村の住人並だし、まだまだ鍛えが足りない感じではあるが。


「なんて言うか初心者冒険者ですって感じ丸出しだな」

 と言うわけで少女に関する総合評価としてはこんな所である。

 身に付けている物から察するに全くの素人ってわけでもないみたいだけどな。ただ、見た限りの評価としては初心者と言うしかない。


「とりあえず目に見えない所で大きな怪我をしてても困るし回復してやるか。【共鳴(レゾナンス)魔法(スペル)薬草(ヒール)】」

 俺はマントの中から一枚の葉っぱを取り出すと一定パターンの魔力を込めてから少女に投げてやる。

 すると少女に触れた時点で葉っぱが砕け散って光に変化し、光に包まれた少女の顔から擦り傷が跡形も無く消えてなくなる。


「これでよしっと」

 【共鳴魔法・薬草】。これは冬の間に俺が新たに習得した【共鳴魔法】の一つであり、効果は見てのとおりの回復効果である。

 いやー、最初に発動した時は何が起きているか分からなかったから具体的な効果を理解するまでが長かった。研究全体で一体何匹のアンレギラットが犠牲になった事やら。

 ま、おかげで手足の骨が折れている程度なら葉一枚で治せることが判明したし、彼らの尊い犠牲には本当に感謝です。


「それにしてもいい桜だな……」

 俺は少女を寝かしている桜の木を見上げる。

 桜の木は見事に薄桃色の花を咲かしており、周囲には薄緑色の魔力を含んだ花弁がゆっくりと舞い散っている。これだけの魔力を持っているなら樹齢もそれなりにいってそうだ。

 何と言うかお酒があるなら是非ともこういう桜の下で一杯飲みたいものである。非常に美味しそうだ。

 まあ、この身体では酒を呑んでも酔える気がしないが。


「と言うかこの桜の魔力だけ周囲に比べて不自然に強いな」

 俺は周囲に生えている他の草木や石が纏っている魔力を見てそう言う。

 よくよく周囲の気配を探ればこの桜の周囲だけ妙に空気が綺麗な気もするし、もしかしたらこの桜は結界か何かを張る性質を持っているのかもしれない。

 となれば街道沿いにあるのもそう言った理由からなのかも。

 うーむ。色々と調べてみたい。が、調べる過程でこの桜を傷つけて碌でもないことになっても嫌だし、何より今は連れもいるから控えるしかないか。

 でも、その内調べるのは確定だな。うん。とりあえず花びらだけでも回収しておこう。


「んんっ……」

「おっ」

 と、ここで呻き声を漏らしながらゆっくりと少女が瞼を上げ、緑色の目でこちらを見る。


「起きたか」

「…………キュウ…………」

「!?」

 そして何度か瞬きをした後に再び気絶して倒れた。

 あるえぇ!?怪我とかはきちんと治したはずなんですけど!?何でまた気絶してんのこの娘は!!?

そりゃあ気絶もします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ