第18話「冬の南瓜-1」
時が過ぎるのは……ああうん。これ前にもやったな。
とりあえず【共鳴魔法】の考え方を確立し、研究を始めてから数週間が経過した。
で、【共鳴魔法・ネムリ草】に関する研究が一段落したところで元々落葉し始めていた木々は完全に葉を落とし、少しずつだが空気が冷たくなり始めていた。
まあ、ここまでは別に問題ない。
ああそれと、俺の熟成度は完熟だが腐敗はダメージと見られるようで、魔力による身体強化で問題なく防げるようである。
なのでこちらも問題ない。
「ふう。一先ずこれでいいか」
俺は拠点の屋根の上で蔓を使って雪をすくい上げると地面に向かって落とす。
問題は雪が降ってきて拠点の上に降り積もっていると言うこの状況である。
「と、雪下ろしだけで満足してたら駄目だな」
だが、こうして雪を下ろしても現在進行形で雪が降っているため、少しずつ屋根の上にはまた雪が積もり始めている。
いやうん。きちんと屋根に斜面を付けていればこんなに頑張る必要は無いんだけどね。
ただ、以前拠点の説明をしたときに俺はこう言ったはずだ。“箱”の様な形だと。
ええそうですよ。箱の様なと言うか本当に箱型だったので屋根の上にヤバい量の雪が降り積もっているんですよ。このままだと雪の重みで拠点が潰れかねなかったんですよ。
と言うわけで雪を下ろすのと同時に適当な木材を使って拠点に雪が自重である程度落ちる様にするための屋根を付ける。
「それにしてもこんなに降り積もるとはなー」
俺は新たに積もった雪を払い落としつつ、拠点を立てた時と同じ方法で屋根を取り付けていく。
そしてそんな俺の前では森の木々と地面が次々と雪に覆われていく。
この様子だと今日一日で軽く20~30cm程度は降り積もるだろう。
「何にしてもこれだけ降り積もるとなると魔力による自己強化に防寒も入っているのが本当に救いだな……寒っ」
俺は数ある葉から一枚の葉を選び、その葉が纏っている魔力を抑える。
すると魔力を抑えた分だけ強化が弱まり、身体を芯から凍えさせるような外気の冷たさが俺の身体に対して直に伝わってくる。仮に全身がこの寒さに襲われていたら凍死間違いなしだろう。
うん。本当に魔力による強化で寒さによるダメージが防げてよかった。一応熊とか猪の毛皮を纏って寒さの伝達を緩やかにする方法も有るけど、自力ではほぼ熱を発生させない俺の身体とこの寒さの前では焼け石に水だっただろう。
どうでもいいが、寒さを感じたのに焼け石に水というどちらかと言えば熱そうな言葉を使うのは意味的には問題無くても違和感があるな。
本当にどうでもいい話だな。
「ふう。何とか設営完了」
で、雪が降りしきる中、俺は何とか作業をし続けて屋根を完成させる。
急造なので多少ボロっちいが、まあそれはしょうがない。
この後雪が止んだところでしっかりした物に取り替えればいいだろう。
「さて、それじゃあ次はこっちだな」
俺は蔓を束ねて6本の手を作り出す。
うん。多少だけど成長して蔓が伸びたおかげで手が6本まで作り出せるようになった。
で、6本の手を全部扱えるのか疑問に思われそうなので結論から言おう。
「ザックザクっと」
何の問題も無い。
俺は4本の手を器用に使って拠点隣の地面を掘り進めつつ、残った2本の手で土を除けていく。
なぜ、前世では有り得ない6本の手を難なく操れるのか。
実を言えばそこに別段大した理由はない。ただ単に俺は蔓を手の形にはしていてもメインの2本以外は手としては扱わず、蔓として認識して操っているだけなのである。そして蔓の扱いならばこの約半年間の間にだいぶ慣れて来ている。
と言うわけでその結果が6本の手による掘削作業である。いやー、本当に楽でいいわ。
「フンフフーン」
なお、地面と言うのは表層部分は柔らかったりするが、ある程度掘り進むと一気に堅くなる性質を持っている。
なのである程度掘り進んだところからは結構な量の魔力を手に集めて強化する必要があったりするため、意外と修行には向いていたりする。
と言うわけで何日かかけて穴を掘り進める。
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「ここに柱を立てて……こっちに岩を積んで……ここらに藁を敷き詰めてっと」
さて、そうやって深さ2mちょっとで、底の部分にて横に広げた穴を掘ったところで次の作業に移行する。
いやー、途中地下水があふれ出てきたりとか、迷い込んできた猪が落ちてきたりとかしてここまで掘るのは大変だったわ。
ま、そんな事はさておいて次の作業について具体的に語ろう。
1.雪が穴の中に入って来ても困るので簡易だけど屋根を付ける。
2.適当に柱を立てたり、岩を積んだり、木の板を張って穴が崩れないようにする。
3.穴の底に藁を敷き詰める。
4.適当な量の雪を穴の中に放り込む。
でまあ、ここらで俺が何を作っているかのネタばらしといこう。
俺が作っている物。それは……
氷室である!
え?俺の生活に氷室が必要なのかって?食料的な意味では要らないけど、素材的な意味では必要です。
と言うのもこの前の【共鳴魔法】の実験の一環で分かった事実として、触媒が腐敗してしまうと今の俺ではどうやっても魔法を発動できなくなってしまうのだ。
どうにもこのあたりの理由としては触媒が腐敗することによってその性質が大きく変異し、今の俺では作り出せない属性の魔力が発動するのに必要になってしまうのが原因っぽいけどな。
なお、【共鳴魔法】の特性上、腐敗した触媒は恐らくだが元の触媒とはまた別の魔法が発動すると思うが、その辺の検証が出来るのは多分何年も先だろう。
と言うわけでとりあえず腐ると困る物を氷室の中に入れた所で俺は今日の活動を終えることにした。
冬になりました