第163話「エピローグ-2」
「それで結局、リーン様を狙う彼女ってのは何者なんですか?」
俺はあの時は結局聞くことが出来なかった事についてまずは聞く。
「彼女は……そうですね。分かりやすく言うならば私の双子の“妹”と称すのが近い気がします」
「妹?」
「ええ。そして今回の件はかつての私と彼女の目的が相反するものであったが故に起きた事だったようです。幸いと言っていいかは分かりませんが、あの娘のおかげで今後このような事が起きることは無さそうですが」
そう言うリーン様は何処かツラそうにしている。
リーン様の性格からして妹に命を狙われたと言うよりは自分が原因でこの世界の人たちに迷惑をかけた事の方がツラいのかもな。
しかしだ。この話の流れだとあの娘ってのは……たぶん、そうだよな。
「あの娘……あの時のロウィッチはやっぱり本物じゃなくてその妹さんの身内だったわけですか」
「気づいていましたか。その通りです。彼女は今の私の在り方を聞き、その上で両者の願いを両立できるように取り計らう様に動いてくれるそうです。信頼できるかどうかが五分五分と言った娘なので多少不安ですが、こういう時には上手くやってくれるでしょう。新しい月も残してくれたようですし」
リーン様はまるで苦虫を噛み潰すような顔でそう言う。
なんだかとても不安になるな……まあ、信用するしかないか。
「それにしてもよく気づきましたね。あの娘の変装は完璧だったと思いましたが?」
「あのロウィッチは会社を辞めたと言ってましたけど、そう簡単に辞められるならあんな顔をしないと思いますから」
俺が思い出すのはこの世界から撤退する時にロウィッチがしていた本気で悔しそうな顔。
簡単に辞められて自由に動けるようになるならあんな顔はしないだろう。
「一応聞いておきますがロウィッチは?」
「いずれ帰って来るとは聞いています。あの娘の話ですけど……」
リーン様はまた微妙な表情をしている。
あの偽ロウィッチの中身さんは本当に信頼できるかどうかわからないのな……。
「まあ、今までの話についてはこれぐらいにしておきますか」
「そうですね。これぐらいにしておきましょうか」
俺とリーン様は一度息を吐くと話を切り上げる。
そして俺は『霊槍・黒貫丸』を床に置くと、その横に座ってリーン様の顔をしっかりと見つめる。
「では、改めてお聞きします。リーン様、今の俺は何モノですか?」
俺は……今の俺はルナシェイドと戦う前の俺とは明らかに何かが違っていた。
力の多寡では無い。それよりももっと根源に近い部分で俺の何かが変わっていた。
だからその答えを知っているであろうリーン様に問いかける。
俺が何モノであるかを。
「……。今の貴方は人間ではありません。力の量故にその枠からは完全に外れています」
「それは分かっています」
「精霊でもありません。今の貴方は自然の理ではなく己の望む理で動いています」
「……」
「勿論、植物でも動物でも鉱物でも魔獣でもありません」
人でも精霊でもその他諸々でもない……か。
「今の貴方は私に近い。けれど私とはまた違う理に生きています」
「つまりそれは……」
「人の仔が今の貴方を正しく知ればこう言うでしょう」
そこまで言ってリーン様が一度口を閉ざし、呼吸を整えてから告げる。
「“神”と」
「……」
何処かでそんな気はしていた。
ただリーン様に言われて初めて明確に実感を持ち、俺の中の何が変わったのかを理解した気がする。
「この先俺はどうなりますか?」
「貴方にはまだ人間としての寿命が残っています。その寿命が尽きるまでは肉体は人間のままです。ただ、寿命が尽きた後は他の魂たちと違って輪廻の輪に加わる事は出来ず、世界を問わず貴方自身の理に従って在り続ける事になるでしょう。それを良い事と捉えるか悪い事と捉えるのかは貴方次第ですが」
「なるほど……」
俺はリーン様から話を聞いてしばしの間考える。
そして思う。確かに俺は変わった。それは間違いない。けれどその本質まで変わっただろうか?答えは否。それならば……
「俺が俺であることには変わりはない。それは間違いないわけですよね」
「ええ」
「なら、別に構いません」
俺は立ち上がるとリーン様に背を向け、祭りが行われている方を向く。
そして俺が向いたところで、慌てた様子のミズキが駈け込んでくる。
その顔は仮面で隠されていて分からないが、身体から放っている魔力には焦りの色が見える。
「パンプキン!なんか変な奴らが祭りに混ざって来ていて……」
「分かった。今行く」
「うん。お願い!こっちよ!」
どうやら宴に望まれぬ乱入者が現れたらしく、ミズキがその闖入者が居ると思しき方向に向かって再び走り出す。
俺は黒貫丸を拾い上げると、肩に担ぐ。
そしてリーン様に告げる。
「人であろうと神であろうと俺のやる事に変わりはありません。俺は【天地に根差す南瓜の霊王】の魂を継いだ魔法使いとして救いたい相手を救うだけです」
傲慢極まりない在り方であることは分かっているが、それでも俺を俺たらしめるその言葉を。
そして自分がどういう存在であるかを。
「それが『南瓜の魔法使い』パンプキンと言う存在です」
やがて俺はミズキの後を追う様に駆け出した。
これにて『南瓜の魔法使い』終了でございます。
ご愛読ありがとうございました。
なお、サンサーラエッグ村では後に、梅雨明けの頃に男は南瓜の被り物を被り、女は仮面を付けて一緒に踊る事で豊穣を願う祭りが出来たとか出来なかったとか。
あ、ロウィッチは微妙にやつれつつも数年後にはひょっこり帰ってきます。
07/06誤字訂正