第16話「秋の南瓜-9」
えー、俺が謎の空間で聞いた声が神様の声だと判明しました。
ただ、神様の言っている事の大半は訳が分からない。という事でミズキ先生の授業2回目でございます。
「それじゃあ一つ目の質問。まずリーン様って何者?」
「リーン様は生命の循環を司る神様だって言われているわね。ただ、この世界を生み出したとか嘯く創造神だの、この世に終わりをもたらそうとするキチガイ破壊神だのと違って本当に力を持っていて、しかも眠りながらも仕事をしている神様よ」
「ふうん」
生命の循環を司るね。もしかしなくても輪廻とか転生とかを司っている神様なのかな?
となれば、俺がこの世界に来ることになった原因はリーン様にあるのかもなぁ。
ところで創造神が嘘吐き扱いされてたり、破壊神がキチガイ扱いされていたりすることに対しては突っ込むべきなのか?いや、何となくだが突っ込まない方が良い気がする。その辺ってすげえ人間のドロドロとした汚い部分に触れそうな部分だし。たぶん、どこぞの王家が自分の血筋に箔を付けたりするために生み出した存在とかだろうし。
「ま、有象無象の偽神なんてどうでもいいわ。今パンプキンが覚えておくべきなのはリーン様は自然の権化である私たち精霊ですら崇め奉るほどこの世界にとって大切なお方ってことだけよ」
で、その辺の事について俺が考えているのをどこからか察したのかミズキがそう言う。
まあ、実際問題自然を司る精霊からしてみれば生命の循環を司るリーン様は崇拝の対象になるよな。
自然てのは何処かに偏らずに流れ続けていることこそが自然なわけだし。
「ふむ。リーン様についてはよく分かった。でも何でこの森にリーン様が眠っていることになってるんだ?」
「それについては私も分からないわ」
「分からない?」
「だって私が産まれるよりも遥か以前の話だもの。時折アキューム湖の上を通る先輩の風精霊とかに話を訊いても、細かい事には拘らない風精霊だからなのかいまいち要領を得ない返答しか返ってこないし」
ああ、そりゃあしょうがないわ。
誰も教えてくれないなら知りようがない。
さっきの創造神の話から考えると人間経由の話は色々と歪められていそうだし、そもそもこの森にほぼ人間来ないし。
「まあ、リーン様に付いて私が知っているのはこれぐらい。それで問題になるのがリーン様のお言葉である『姿は見せられない。声も本当なら聞かせる訳にはいかない。けれど貴方は繰り返しを終わらせてくれるかもしれない。だから今は一つだけ私の力を伝えておく』よね」
「うーんそれなぁ……」
俺はリーン様の言葉の内容についてゆっくりと考えてみる。
「まず力については【レゾナンス】の事だよな」
「ええ、普通の転生者の枠を明らかに超えた力だし、突然使えるようになった点から見てもリーン様から授かったと見るべきね」
俺は魔力の球体をいくつか生み出すと【レゾナンス】の効果で強力な突風を生み出して湖畔に生えている木を大きく揺らす。
うん。明らかに今までの【ガストブロー】とは大きく違うな。
知識一つで突然これだけ強くなるならそれはやっぱりリーン様の力と見るべきだろう。
「姿を隠しているのは……」
「眠っている。と言うのは実は方便なのかもしれないわね。ただ、リーン様程のお力があれば隠れて何かをする必要なんて無いと思うのだけど」
「まあ、そこら辺は調べる手がかりも無いし今は気にしないでおくか」
「そうね。それ調べるならこの森の中だけじゃなくて外に出る必要もあると思うし、今は気にしなくていいと思うわ」
実際の所リーン様の力ってどれぐらい凄いんだろうな?
ミズキの言葉と【レゾナンス】の力から考える限り、相当に力も有るみたいだし、そんな神様が隠れる相手ってうーん……知ったらSAN値が下がるような方々とか?
居てもおかしくないよなー、異世界だって転生だって本当にあったんだから。
「となるとあと残っているのは『繰り返しを終わらせてくれるかもしれない』って言う所か。何か心当たりは?」
「うーん。リーン様ご自身が輪廻とか循環とか、とにかく繰り返しに関わるような物を司る神様なのよね。それなのにリーン様が止められなくて、しかも止めて欲しいと願う繰り返し……一つだけ思いつかないことは無いけど、私も実際に経験したことがあるわけじゃないから詳しくは無いわよ?」
「それでも構わないから教えてくれ」
俺はミズキに話の続きを促す。
リーン様が俺に力を授けたのは繰り返しを終わらせるためだろうし、もしかしたらそもそも俺が前世の記憶の一部を持って転生したのもリーン様が俺にその繰り返しをどうにかさせるためだったのかもしれない。
それにだ。神様から使命を授かって何かをするって凄く英雄っぽくてかっこよくね?憧れね?それを抜きにしても俺にとっては魔法を使うにあたって重要な知識を授けてもらった恩ぐらいは返したい所だったりもするし。
と言うわけでとりあえずはミズキが知っている問題を聞いてみよう。
「現象の名は『陰落ち』。自然に起きている事なら何でも分かるはずの私たち精霊ですら起きている原因が分からないこの世界すべてを巻き込む大災害よ」
「陰落ち……」
「私は年若い精霊だから実際に遭遇したことは無い。けれど数百年に一度の頻度で発生して、その時に隆盛を極めていた生物の文明を悉く滅ぼす。とだけは聞いているわ」
「……」
ミズキの言葉に思わず俺は黙り込む。
リーン様。もしかしたら俺にとんでもない重荷を背負わせてませんか?ミズキの言葉から察するに本気で世界の危機っぽいのですが。
「具体的に何が起きるとかは分からないのか?」
「私には分からないわ。千年以上生きている精霊……大精霊様たちなら何かを知っているかもしれないけどね」
「むう」
大精霊か……やっぱりその内森を出ないといけなさそうだな。
この森の中に籠っているとどうしても手に入る情報に偏りが出来そうだし。
ただなぁ。実力が無い状態で森の外に出ても殺されるだけだと思うんだよなぁ……俺カボチャだし。
「ま、心配しなくても起きるのはまだまだ当分先の話よ。だって、この話を聞いたのは30年ちょっと前だけど、その時に教えてくれた風精霊の話では後二、三百年は起きないって聞いたし、予兆もあるそうだから」
「あ、そうなんだ」
俺はミズキの言葉に少し安堵をするが、直後にちょっと嫌な事実に気づいて固まる。
今ミズキはこう言った。二、三百年と。それはつまり……俺の寿命ももしかしてそれに合わせて長くなっているって事なんじゃ……。
「ま、とりあえずは何十年かかかってもいいから授かった力をきちんと扱えるようになるべきなんじゃない?」
ああうん。凄く長い人生改めカボチャ生になりそうだ……。
まあ、目標が出来たのは良い事だけどさ。
リーン様について色々




