第147話「サンタック島-4」
「くくく、それにしても面白い素材を持って来たものであるな」
ガントは俺から受け取った二つの素材を宙に浮かべつつ、火山全体の活力のようなものを高めていく。
「そうなのか?」
「このブラックミスティウムと言う金属はつい『不滅滅ぼし』と言うその特殊な力に目が行きがちであるが、それ以前にその重量や魔法強化の性質が面白い物である。他の金属との混ぜ合わせ方次第では複数の属性を強化することも可能になるである。そしてもう一つの素材である宝玉。これは間違いなくあの御方と同等かそれ以上の存在が作り上げた宝物であるな。だいぶ力は失われているであるが、それでも『歪んだ者を正す。おかしくなった物を元に戻す。変じた存在をあるべき姿に戻す』と言う力は健在である」
顔をキラキラと輝かせながらガントは俺の持ち込んだ二つの素材について語る。
と言うか宝玉付きの針に関しては宝玉の方が大切なのであって、針の方は割とどうでもいいのかもな。ガントの反応からして。
「むっ……コホン。何れにしてでもある。お主の要望である力を強化する杖となれば、この二つに加えてこの金属を混ぜ合わせるのが最適であるな」
そう言ってガントがマグマの中から紅く輝く鉱石を取り出す。
「それは?」
「赤熱鉱石と言うである。常に膨大な熱を放ち続ける炎そのものと言ってもいい鉱石である。ああ、あの小娘の枝はこの鉱石が放つ熱程度では燃えないであるから安心するである」
「炎って……俺は炎に関係するような魔法は不得手だから使う予定は無いんだが……」
ガントの言葉に俺は素直な感想を口にするが、俺の言葉を聞いたガントはやれやれと言った感じに首を横に振る。
「分かっていないであるな。ブラックミスティウムには闇と水の力が、宝玉には変化の力に関連して風の力が、小娘の枝には土の力が含まれているである。そして魔法の威力を一定レベル以上に引き上げるのなら複数の属性を利用した循環はかなり重要なファクターであるからして、残る光と火の属性を何処からか持ってくるのは当然の話なのである」
「むう……」
いやまあ、確かに循環が重要なのは分かるが、複数の属性を経由した循環って威力が上がり過ぎないか?
要するに一つの属性に関連した部分から力を持ってくるだけじゃなくて、他の属性部分からも力を引きずり出してくるわけだし。
ああいや、考えてみれば相手が相手なのだからどれだけ出力が上がっても足りない事は無いのか。それに御せるかどうかは俺の今後行う修行次第なわけだし。
「ついでに言えばブラックミスティウムとこの宝玉は元々敵の使っていた物である。それを自らの物にする事を考えた場合、お主自身の力と小娘の枝だけでは釣り合いが取れていないであるから、幾らか此方側に属するものを加えて釣り合いが取れるようにする必要が有るのである」
「あー、それは確かに……」
言われてみれば確かにブラックミスティウムもその宝玉も例の兵器から取れたものだからな。何か俺には分からない部分で妙な仕掛けが加えられている可能性を考えると当然の話かもしれない。
「と言っても、扱い易さや得意属性の優先強化をする関係である程度の不均衡も必要であるから、その辺りは吾輩が作った物を元にお主が契約している精霊と調節をするであるよ」
「ん?のわっ!?」
ガントはそう言いながらマグマを吹き上げさせ、マグマの中で俺が持ってきた二つの素材と赤熱鉱石を混ぜ合わせていく。
だが、今のガントの言葉には聞き捨てならない部分があった気がする。
俺が契約している精霊って誰の事だ?
えーと、俺が今までに会った精霊と言うとミズキ、三つ子の風精霊、大地の精霊王、風の精霊王、炎の精霊王ことガントぐらいだよなぁ。
で、契約と言う事はガントとアンマの様にそれ相応に関わりが深い相手と考えるべきだろう。
となると……三つ子の風精霊はちょっと話をしただけなので無し。大地の精霊王は同族嫌悪みたいなものが有ってどうにも合わない感じがするからこれも無し。風の精霊王は会った時間が三つ子よりも更に短い上に契約云々について言うならその相手は賢鳥だろう。
つまり……うん。何となく最後に回してしまったがミズキと俺が契約していると考えるのが適当だろう。なんだかんだで付き合いもかなり長いし。
でもなぁ……
「なあ、ガント?」
「何であるか?」
「確かに特定の精霊と深い付き合いがあるのは認めるけど、その精霊と契約をした覚えは無いんだが……」
「ん?そうなのであるか?しかし、吾輩の目にはしっかりとお主とその精霊の間に繋がりが出来ているのが見えているであるが……」
「んー?どういう事だ?」
俺は作業を進めつつも律儀に答えてくれたガントの言葉に首をかしげる。
ガント曰く俺とミズキの間には契約によるものと思しき繋がりが有るらしい。
でも、俺には本当に契約何て言う大層な物を交わした覚えは無いんだけどなぁ……細かい約束事なら色々と覚えはあるけど。
で、その事をガントに言ったら……
「その細かい約束で既成事実が積み上がったのが原因であるなー、まあ、精霊との契約は世界が認めなければ成立しないであるし、はっきり言って結婚とほぼ同義であるから大人しく一緒の墓に入るである」
と、笑いながら言われてしまい、その言葉に俺は思わず石化する。
えーと……つまりはこういう事か。
いつの間にか俺とミズキが夫婦であることが世界規模で認識されている。
何だこの公開処刑は!?
と言うか世界が認めるって要するにリーン様が認可を出すって事だよな!?
俺が良くてもミズキが良いと言うとは限らないんですけど!?
こんな話ミズキにどう伝えりゃあいいんだよ!?
んで、どう責任を取りゃあいいんだよ!?
「とりあえず要求された物は出来上がったであるから、持ち帰って最終調整をするといいである」
と、俺がまさかの事態に全身をうねらせて悶々としている内にガントの作業が終わったのか、槍の穂先のようになっている金属を俺に向かって差し出してくる。
そして俺は悩んでいてもしょうがないと多少の諦観を込めつつも頭を切り替えてガントから金属を受け取ろうとし……
「あ、どうも……熱っちゃあぁ!?」
「あっ、ついアンマに渡すのと同じ感覚だったである」
手にしている葉と蔓が焼ける音と感覚で思わず飛び上がった。
考えてみればガント(炎の精霊王)にアンマ(マグマを司るドラゴン)が大丈夫な温度と俺(南瓜)が大丈夫な温度が一緒なはずはないよなー。
リーン様「あれで夫婦じゃないと言うのは無理があると思います」