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第14話「秋の南瓜-7」

「ひぃひぃ……何とか辿り着いた」

「あら、パンプキ……後ろが酷い事になってるわね」

 大量の動物たちから必死に逃げていた俺は、その猛攻を何とか凌いでミズキの居るアキューム湖に到達した。

 いやー、ここに向かって逃げている間にも追いかけてくる動物の数がどんどん増えていくんだもんな。一度全方位から猪が突撃してきた時は本当に死ぬかと思った。

 ただ、アキューム湖に到達した時点でミズキがいるためなのか、それとも主を恐れているためなのか湖の湖畔に近づいて来ようとはしない。

 尤も逃げようともしてくれないが。全く本当に何でこんなに執拗なんだ?


「で、どうしてこっちに逃げてきたの?確かにここなら私が居るから迂闊な真似をしようとする輩は少ないけれど」

「ひふー、それに加えてどうしてこうなっているかを教えてもらえると思って来た」

「ああなるほど」

 俺は呼吸を整えながらミズキにどうして俺が追いかけられているかを聞く。

 この森と森に住む動物について俺よりも遥かに詳しいミズキなら何かしらは分かるだろう。


「何で襲われるか……ね」

 ミズキが俺の全身をジロジロと見まわす。そして一言。


「パンプキンが美味そうな匂いを出しているせいじゃないの?」

「えっ……」

 予想外のミズキの言葉に俺は思わず固まる。

 てか美味しそうな匂いって何……?甘い匂いって事か?

 ああ、そう言えばカボチャって夏に収穫する割には冬にも普通に食べるよな。それってカボチャ自体が保存のきく食べ物だって事も有るけどそれ以上に時間経過とともに熟成が進むからなわけで……つまり食べごろだから狙われていたと。


「ちなみにだけど具体的にはどういう匂いを出してる?」

「凄く甘そうな匂い。蜂蜜よりも甘いかも」

「オウフ……」

 ああうん。確定だ。そりゃあ襲われる。

 そもそもカボチャって栄養満点だしなー


「どうすれば追い払える?」

「うーん。そうねぇ」

 ミズキが俺と動物たちと主が居ると思しき方向を何度も見つつ考え込む。


「今のパンプキンってかなり魔力を抑えてる?」

「あー、だいぶ抑えてるな」

 俺はミズキに指摘されて自分の身体を見回す。

 すると俺の表皮から極々微量ではあるが魔力が漏れ出ているのが分かる。

 その量は猪が牙から出している魔力よりも少ない。

 が、実際には肉体強化の常時展開、気配の隠蔽、魔力操作技術の向上の為に表皮からの魔力放出を極端に抑え込んでいるだけなので、日々の修行の成果として薄皮一枚下は相当な量の魔力が貯まっているはずである。


「じゃあ、それを開放してみて。動物って言うのは彼我の実力差には敏感だから、明らかに自分よりも相手の方が格上だって分かるように示せば退くはずよ」

「ああなるほど」

 つまり、俺が襲われていた原因には匂いだけじゃなくて一見すると弱いとしか思えない魔力量も原因の一つにあったわけか。

 うーん。それは盲点だったな。

 とりあえず、ミズキの言うとおりに全力で魔力を開放してみますか。考えてみればここ一月二月ぐらいは全力で魔力を放出することも無かったしな。


「じゃ、やってみて」

「了解」

 ミズキが俺から多少離れた所で俺は普段体内に貯め込むように方向性を向けていた魔力の流れを改めて意識する。



■■■■■



 さて、どうなるかしらね?

 私はパンプキンから少し離れた所でその様子を窺う。

 私の見立てではパンプキンの魔力量はこの森に住む普通の動物と比較した場合、決して劣ってはいない。

 それどころか人間相手ならどこまでも追いかけていくクロイングボアでも間違っても手を出そうとはしない程度には魔力はあるはずで、この森で積極的に襲ってくる可能性があるとしたらストライクベアぐらいだろう。


「と、始まったわね」

 パンプキンの魔力の流れが変わる。

 どうやらより相手を威圧するために最初は体表から僅かに漏れ出ていた魔力も含めて体内の一点に集めるつもりらしい。

 まあそれでも私やアキューム湖に住む魚たちのトップであるアキューを威圧するほどにはならないだろうけど。

 そしてパンプキンの体内の一点、人で言うなら丹田にあたりそうな場所に魔力が集めた所でパンプキンは奇妙な動作を開始する。


「すっ……はっ!」

「!!?」

 その瞬間世界が揺れたと思った。

 パンプキンを追いかけていた動物たちは勿論、アキューも思わず湖底に向かって泳ぎだしているし、本音を言えば私も逃げ出したい気分だった。

 いや、そもそもこれで逃げないとしたらそれは本能ではなく理性で動いている者たちぐらいだと思う。それだけの魔力をパンプキンは発していた。


「って、こんなふざけた量の魔力を一体どこに……っつ!」

 私の横を暴風が突き抜けていく。そんな中で私はパンプキンの様子を窺う。

 恐らくだけどこの暴風もパンプキンの魔力が無秩序に魔法として現象化しているためだろう。

 はっきり言ってこの魔力量なら……下位の竜ぐらいなら正面から競り合えるかもしれない。

 ただこのまま放置していたら森にも被害が出るかもしれないし、当初の予定はもう達している。となればすぐにでも止めるべきだ。


「くっ、パンプキン!もう十分よ!魔力を抑えて!」

「ん?ああすまん」

 私の叫び声にパンプキンはやっと周囲の惨状を理解して魔力の量を抑えていく。

 と、同時に風も止んでいく。やはり、あの風はパンプキンの魔力が起こしていた物らしい。


「うん。逃げたな」

「逃げたなじゃないわよ……」

 私はパンプキンの言葉に呆れた様子を見せる。

 それにしてもあの魔力量。いくら転生者だからって異常よね。ちょっとその辺りを聞いておくべきかもしれないわね。

ちょっとミズキ視点も入れてみました。

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