第129話「情報集めの南瓜-1」
大地の精霊王に会ってからおおよそ半年後。
俺は年末年始の挨拶をするためにクヌキ伯爵と一緒にセンコノトへやって来ていた。
いやまあ、普段なら年末年始の挨拶とか名ばかり男爵である俺は頼まれても行く気は無いんだけどな。だけど今回はちょっと調べたい事が有ったからクヌキ伯爵に付いていく事にした。
「で、どうしてお前が居るんだ?」
「王城に用があるのは一緒」
で、センコノト城に向かう馬車の中で俺は向かいの座席に座っている艶の有る美しい黒髪に黒を主体としたドレスを身に付けた妖艶な見た目と雰囲気の女性が座っている。
勿論俺の知り合いにこんな見た目の女性は居ない。
では、この女性は誰なのか。
「わざわざ変身魔法を使ってまでする事か……イズミ」
「イズミだって好きでしているわけじゃない。けどセンコノト城にしかない資料が有るって言うんだからしょうがない」
俺が女性の名を告げると億劫そうにイズミは答える。
そう。この女性の正体はあのイズミである。
確かに顔立ちや髪の毛には面影が有る。が、俺の知るイズミは外見年齢が十歳程度であり、間違ってもこんな妖艶な雰囲気を漂わせているような女性では無かった。
だが、例の兵器とやらについて調べる中でマドサ学院にある資料だけでは足りず、センコノト城に有ると言う古い資料を求めて舞踏会における俺のパートナーとして紛れ込んだらしい。
まあ、俺としても見知らぬ相手や変な女がパートナーになるよりかは知り合いであるイズミを連れて行った方が遥かにマシだからありがたいと言えばありがたいのだが。
「一応聞くが、正体とかはバレないようにしているんだよな」
「それは勿論。今のイズミの姿は最後に見てから一定時間経つと見た人間の記憶から忘れられるようになっている」
「なら、基本的には問題は無いか」
俺はイズミから誰かに見られることに関する対策を聞き、その内容からして何の問題は無いと判断する。
と言うか一定時間経てば記憶に残らなくなるとは諜報活動をするには随分と便利な魔法だな。
記録には残るっぽいから油断は禁物そうだが。
「着きました」
「分かった」
「エスコートお願いしますね」
「はいはい」
と、ここで馬車がセンコノト城に着いたらしく、外の騎士から声が掛けられる。
そして俺は猫を被っているイズミを連れて馬車を降りる。
さて、お互い何事も無く目的を達せるといいんだがな。
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「ふう。とりあえずはこれで良しっと」
「お疲れ様」
俺とイズミは舞踏会で一曲だけ踊ってとりあえず申し訳が立つようにだけしておくと、俺もイズミもその場を辞してそれぞれの行動を開始することにする。
具体的には俺はサク皇太子殿下にサンホロとサンタック島の事について聞くことにし、イズミは過去の資料探しである。
尤もその前に折角時間が取れたと言う事で、現時点でお互いに分かっていることについても喋れることは喋っておくが。
と言うわけで、
「俺が調べた限りだとリーンの森の方に前時代以前の遺物が有ったぞ。尤も状態が良い物は稀だから現物が手に入るかは怪しいけど」
「イズミの方は進展無し。ただ、例の兵器がこの世界にあるってイズミの依頼主に伝えたら来るとか言ってたから、もしかしたらその内そっちの方から情報を得られるかも」
「ふうん」
こんな感じにお互いこれからやる事の準備をしつつなので多少適当になっているが情報を交換しておく。
それにしてもイズミの依頼主がこの世界に来るって言うのは……。
「なあ、イズミの依頼主ってのは信頼できる……いや、信頼云々じゃないな。兵器を見つけた際にどうするつもりなんだ?仮に見つけたその場で兵器を使い始めたりしたら俺は本気で止めに入るぞ」
「そこは分からない……かな。幾つかの条件を満たせば使う可能性もあるけど、もしこの場で使おうとしたなら、その場合はイズミも兵器を止めに入るつもり。タイガの居るこの世界であんなものを使わせるわけにはいかないから」
「その言葉は信頼しておく」
「うん。ありがとう」
うーん。うっかりイズミの口から色々と情報が漏れるかと思ったけど、流石に長生きしているだけあって漏らさない……
「あたっ!いきなり何を!?」
「なんかすごく失礼な事を考えていた気がしたから」
「ぐぬっ……」
と、そんな事を考えていたのがバレたのか、俺の後頭部をイズミがはたく。
と言うか俺が今展開してる防御魔法をギリギリ突破するレベルで殴るってどんだけ器用な真似をしてるんだよ。その無駄に高い技術力には畏怖すら覚えるわ。
「さて、それじゃあそろそろ行くか」
「夜明け前にこの部屋に戻って来れば問題ない?」
「ああ、問題ない」
「じゃ、お互いに」
「頑張ろうか」
俺とイズミは言葉と共に一度拳を突き合わせる。
そして俺は部屋の外に正面から堂々と出てから近衛騎士の案内でサク皇太子殿下の元へと向かい、イズミは元の姿に戻ると誰にも気づかれないよう窓から外に出ると自身が目指す場所……つまりは宝物庫へと向かった。
さて、実を言えばサンホロとサンタック島についてはクヌキハッピィではまるで情報が入らなかったから、王子様が何か知っているといいんだかなぁ。
イズミ「胸が重くて邪魔……」