第120話「日常の南瓜-1」
「終らねぇ~終わらねえよぉ~」
「自業自得よ」
さて、クルイカからクヌキハッピィ、マウンピール村を経由してサンサーラエッグ村に帰って来た俺だが、ウリコに付き添ってだいぶ長い間村を空けていた為に村長である俺のやるべき事がだいぶ溜まっていた。
と言うわけでミズキになじられつつ俺は書類作業を進めていく。
なお、何故これだけ多くの書類が溜まっているかと言えば、近頃はリーンの森にある上質な素材を求めて村の外から大量の冒険者や商人がやってくるからであり、最近は交渉専門の子が居るので大抵の場合はその子に任せてはいるが、それでも俺でなければ判断できない様な話が存在するために書類が溜まってしまうのである。
尤も本当に緊急の案件なら通信魔法を使うので、今溜まっているのは緊急の案件では無い事になるのだが。
「で、わざわざクルイカなんて言う遠い場所にまで行った意味はあったの?」
「それは十分にあったぞ。色々と情報は手に入ったし、今後の方針も決められたからな」
と言うわけで俺はクルイカで会ったイズミの事も含めて、手に入れた情報について話しても問題ないものに関してはミズキに包み隠さず話しておく。
「とんだ迷惑ものの神様も居た者ね。自分で作った物ぐらいきちんと自分で管理して欲しいわ」
「その気持ちは……まあ分からないでもないが。今更そこを嘆いてもしょうがないだろ、もし会えたら文句の一つぐらいは言ってやりたいけどな」
「本当にそうね」
ミズキは憮然とした表情でそう言うが、正直に言って『陰落ち』を起こすような兵器を作れるような神様と言うか化け物に対して迂闊に文句を言ったら一撃で消し飛ばされそうな気もするので、実際にどう対応するかは出会ってから考えるとしよう。
そもそも会えるとも限らないわけだし。
「それで事情は分かったけどこれからどうするの?そのイズミって子曰く時間はあまり残ってないかもしれないんでしょ?」
「それなぁ……とりあえず俺がやるべき事は三つだな」
「三つ?」
「ああ」
疑問符を浮かべているミズキに対して俺は自身が今後やるべき事を大まかにだが伝えていく。
「まず一つは日常を円滑に過ごすための村長業」
「要は今やっていることよね」
「そうだな。けれど重要だろう?」
「そうね。日常も満足に過ごせない様な奴に万が一の事態をどうにか出来るとは思えないわ」
「ま、そう言う事だ」
実際日常生活をまともに送れないってことは力を蓄える余裕も無いって事になるからなぁ。そう考えると平穏な日常ってのは何事においても大切だ。
ついでに言えば火事場の馬鹿力とは多少違うかもしれないが、そう言った平穏な日常と言うものを知っているからこそ、その日常を守らんがために力を発揮できると言う面もある。
「二つ目は『陰落ち』に関する調査だな」
「イズミって子がやってくれるんじゃないの?」
「自分で調べても損は無いだろ?一応、イズミとは『陰落ち』に関して協定のような物を結ぶことも出来ているが、俺はそれが絶対だと思うような甘い頭はしていないし、俺が背負っているものを考えたら誰かを盲信する事なんてできねえよ」
ついでに言えばイズミの能力が高いのはマジクが攫われた件や、世界の外側からやって来た事からも分かっているが、それでもイズミは個人であり、マドサ学院全体の力を利用するにしてもそれは所詮一つの組織でしかなく、調べられる限界と言うものが絶対に存在している。
それにだ。三年前に調べて分かっている事だが、ブラックミスティウムを回収した建物の様な古い建物がリーンの森の中には幾つも点在していることが分かっている。
なのでそう言った建物を調べれば『陰落ち』に関する資料が出てくる可能性は十分に存在していると言える。
本音を言えばリーン様に直接話を聞ければ早いんだけどな。ただ、この件に関しては話をするだけでもヤバいのかリーン様からの連絡は無い。
つくづく俺からリーン様に呼びかける手段が無いと言うのが悔やまれる。
だからと言ってウリコに交信してもらうのは論外だが。リーン様以外とも繋がりそうになるという事で凄く危ないらしいし、兄として妹にそんな事をさせる訳にはいかない。
「それで三つ目は?」
「俺自身を含めた戦力全般の強化だな。実際、イズミから話を聞いた感じだと戦う事になったら相当の能力が必要になるようだからな。これは必須事項だ」
なお、戦力の強化とは言ったが具体的にはまず俺自身の魔力保有量を増やす事。
続けて新しい共鳴魔法の開発に既存の共鳴魔法の強化。
それにイズミ曰く俺の名前は偽名に近いものだそうなので、本来……と言うか前世の名前を知る事。
加えて言うなら現在の共鳴魔法は一般的に使われている魔法と違って杖を始めとした各種補助用の道具を用いていないが、以前の破壊神の腕との戦いの時にリーン様から受け賜った杖がそうであったように共鳴魔法を強化する道具が有るのは確かなので、そう言った道具を作る事によって能力をブーストすると言うのは十分に有りな選択肢だろう。
「なるほどね。ちなみにその道具とやらの当てはあるの?」
「現状だとブラックミスティウムを核とした杖を作ろうかなとは思っているが……」
ここで俺は思わず続きについて言い淀む。
なぜなら……
「ああ、そう言えば結局三年前から今に至るまで釣り合う素材が見つかってないんだっけ」
「そう言う事だ」
ミズキの言う様にブラックミスティウムに吊り合うような素材を手に入れることが出来ていないからである。
はぁ……本当にこの素材は難儀すぎる。
とりあえずの方針と事情説明
05/23誤字訂正