第1話「プロローグ」
新作始めました。
これからもよろしくお願いいたします。
「え?」
「んだ?」
目を開いたら目の前に見るからに切れ味の良さそうな鋏を片手に持った農夫のおっちゃんがもう片方の手で俺の頭を持っていた。
「……」
「……」
で、俺も農夫のおっちゃんもどうすればいいのか分からなくて沈黙。
しかしゆっくりとおっちゃんが持った鋏を俺の首に近づけてくる。
「のわああぁぁ!!」
「んべらぁ!?」
「「「タンゴサック!?」」」
その光景に俺は思わず農夫のおっちゃんの顔に右ストレートを叩き込んで吹き飛ばし、農夫のおっちゃんの手から俺の頭と鋏が投げ出される。
「おぶっ」
「な、殴ったべ!?」
「んだこのカボチャは!?」
「ま、魔のもんだぁ!?」
俺の頭が地面に転がると同時に周囲に居る農夫のおっちゃんたちが騒ぎ出す。
その手には鋏以外にも何処から持ってきたのか鋤や鍬、それに鉈なんかを持っているおっちゃんも居る。
このおっちゃんたちの狙いは間違いなく俺の頭だろう。
状況すら分からない中ではあるが、頭を潰されるのは確実に拙いだろう。
「ふんがああぁぁ!!」
「「「なっ!?」」」
そんなわけで叫び声を上げつつ、手足に何かが引っ掛かるような感覚や、地面から何かが抜け出る様な感覚を覚えつつ一気に駆けだす。
「オラのカボチャだあ!逃がさんどぉ!!」
と、ここで最初に殴り飛ばしたおっちゃんが鉈を片手に迫ってくる。
また、周囲では他のおっちゃんたちが俺を取り囲むように動いている。
「ぬん!」
「喰らうかぁ!」
「ぬぐわあぁ!?」
「「「タンゴサックウウウゥゥゥ!!」」」
おっちゃんが俺の頭に向かって鉈を振り下ろす。
だが俺は身を捻ってそれを避けると、おっちゃんの腹を殴りつけつつ一気に他のおっちゃんたちによる包囲網を抜けるために地面を大きく蹴り上げ……
「「「なっ!?」」」
「へっ?」
空を飛んだ。
「ヒュロロロォォ!?」
訳が分からない。本当に訳が分からない。この上なく訳が分からない
なぜ自分がカボチャと呼ばれるのかもわからないし、鋏などを向けられるのかもわからない。加えて何で空を飛べているのかもわからない。
「化け物だああぁぁ!カボチャの化け物んだああぁぁ!!」
「恐ろしや!祟りじゃあ!これは祟りじゃあ!」
「領主様に伝えるんじゃあ!!」
そもそもどうして大学の構内で居眠りしていたのに目を覚ましたらこんな農村に居るのかも分からない。
分からない分からない分からない事しか分からない。
「ヒュロロオオォォ!!」
そして俺は空を飛び続けて農村の外に出て森の中に入り、途中からは森の木々の上を奇声を上げながら半日ほど飛び続けた。
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「ヒュロオォ……と、川か」
やがて、森の中を流れる川……と言うよりは沢っぽいものを見つけたため、俺は比較的開けた空間を狙って降下して沢の傍に着地する。
周囲には生物の気配は無いが、木々の隙間を縫って風が吹く音に沢を水が流れる音に混ざって小鳥の囀りや小動物の鳴き声が聞こえてくる。
どうやら目に見えないだけでこの森はだいぶ動物が豊かな森のようだ。
「まあ、それよりもまずは喉を潤す事がまずは優先だな」
俺は周囲の気配に気を配りながら沢に近づいて片足を沢の中に突っ込む。
すると足から新鮮で味わい豊かな水が身体の中に取り込まれていくのが分かる。
「ん?」
そしてこの時点で俺は疑問を覚えた。
何故足から水を体内に吸い上げることが出来るのかと。
「なっ……」
そこで俺は水面を見て今の自分の姿を認識し、何故農夫のおっちゃんたちにカボチャ呼ばわりされていたかを理解する。
「何だこれはああぁぁ!!?」
水面に映っていた俺の姿。
それはカボチャに三つの穴を開けて顔の様にした物だった。
01/26 少し改稿