まーちゃん と しーくんの一日
初短編小説の初童話です。
こんな感じで童話で良いのかわからないですが、挑戦してみました。
楽しんで貰えたら幸いです。
みらいみらい。世界は終わる先の見えない雪に覆われた氷河期という時代を迎えていました。
100億を超えた人の数は、その1%にまで減少し、コロナホームと呼ばれるドーム都市の中に引きこもって、寒い時代が通り過ぎるのを待っていました。
昔は日本と呼ばれていた細長い島国の真ん中辺りに、一つのコロナホームがあります。
コロナホームにはダンジョンと呼ばれる迷宮があり、ダンジョンに潜る事で様々な恩恵を得ることが出来るので、人々は今日もダンジョンに潜って生活しています。
そんなコロナホームの端っこにある小さな村。3個の小さなダンジョンから恩恵を受けている三野宮村に、まーちゃんと呼ばれる子がいます。
まーちゃんは6歳の女の子。お気に入りの青いワンピースと薄い桃色のカーディガンを着て、三つ編みにした黒髪を揺らし今日も元気にご挨拶。
「おっはよ~♪」
まーちゃんにはお父さんもお母さんもいません。でも家族はいます。
「るっるる~♪」
喉を鳴らして返事をしたのはしーくん。ゴールデンレトリバーな犬顔に、耳の内側から後ろに流れた角が2本。蛇の様な長い胴には鱗はないけれど、真っ白なふっわふわの毛が生えています。軽自動車くらいの頭と大型バス1台分の胴に同じ長さの尻尾。食肉目幻獣科龍属に分類されるホワイトドランと呼ばれる動物がしーくん。
とっても大っきなしーくんは、お家の中には入れません。だからまーちゃんのお家のお空がしーくんのお休みの場所です。
ドームのスクリーンに、お日様が顔を出す前のちょっとだけ赤味が差したお空を映す頃が、まーちゃんの起きる時間。まーちゃんが元気に挨拶すれば、しーくんも元気に挨拶する。いつもと変わらない朝がやってきました。
「顔洗いに行くよー」
「るるー」
まーちゃんは元気に返事をしたしーくんを連れてお家の裏へと向かいます。
等間隔に綺麗に植えられた木々とその間の細い道。土の様な地面をトットコトットコ。リズムよく歩くまーちゃんと木々の上を飛ぶしーくん。
100も数える頃に見える小川には、循環システムによって上流で湧き出たお水が流れています。お魚さんはいないけど、とっても綺麗なお水です。
まーちゃんは両手で掬ってバシャバシャバシャ。タオルで拭ってゴシゴシゴシ。
しーくんは小川に顔を突っ込んでジャバジャバジャバ。お顔を振り振りブルブルブル。
「むふー♪ スッキリー!」
「るるー♪ るっるるー!」
顔を洗い終わったまーちゃんとしーくんはお家に戻ります。
トットコトットコ歩いてお家に帰ると、キュイーンと音を鳴らして真っ赤な自動三輪車がやってきました。自動三輪車から出てきたのは、真ん丸お顔のはーさん。
「あ! はーさん。おはよーです♪」
「ルルルールル♪」
「オハヨウゴザイマス。マガリサントシンサンハ、キョウモゲンキデスネ。デハ、キョウノハイキュウデス。オウケトリクダサイ」
はーさんがコーンポタージュの入った水筒と水の入った水筒、それとサンドイッチボックスをまーちゃんに渡しました。どれも白色のプラスチックの様な容器に入っています。
「ありがとーです♪」
「るるるるーるる♪」
「イエイエ、シゴトデスカラ。マタヨヒルニキマス」
満面の笑顔のまーちゃんに、顔のない無表情のはーさんがそう言葉を返し、キュイーンと音を鳴らして自動三輪車で帰っていきました。
まーちゃんは手を振ってそれを見送ると、切り株のようなオブジェの椅子に座ります。
「いただきまーす!」
ムシャムシャフーフーズズズズ。ムシャムシャズズズズ。アチチチ。ムシャムシャ――プハー。
「ごちそーさまでした!」
あっという間に食べ終わったまーちゃんは、最後に水筒に入っているお水でクチュクチュペックチュクチュペッ。
歯磨きいらずの洗浄水でお口の中をスッキリさせて、水筒とボックスを家の横にある黒い土の上にポイッ。
バクテリアさんが3時間で食べちゃってくれるので、これでゴミも出なくて安心です。
「しーくん、お待たせ。お仕事行こー!」
「るー!」
まーちゃんが拳を握って上に挙げると、しーくんもマネするように短い腕を頑張って上に挙げます。それからまーちゃんの元へと降りてきて、横にゴロンと寝転がりました。
まーちゃんはしーくんの角と毛にしがみつくと、ロープのような長い毛がまーちゃんの腰の辺りに巻き付きます。そしてしーくんはゆっくりとゴロン。これでしーくんの頭の後ろにまーちゃんが乗りました。
「しゅっぱーつ!」
「るるー!」
元気に返事をしたしーくんは空へ向かって飛び立ちます。
朝日に背を向けて、目指す場所は山の麓の洞窟。歩くと遠いその場所もしーくんが飛べば400と数えず到着です。
ゴツゴツとした岩肌に、ぽっかりと大きく口を開けている場所があります。しーくんも余裕で入れるこの洞窟は、ミノマダンジョンと名付けられたダンジョン。入り口近くには幾つかのログハウスが並んでいますが、これはダンジョン探索生活者、通称モグラが利用できる寝座です。朝もまだ早いので、モグラもまだ就寝中。
「うっほほ~い♪」
「るっるる~る♪」
モグラの寝座を飛び越えて、まーちゃんとしーくんはそのままダンジョンの入り口へと入っていきました。
ミノマダンジョン①階
人工ヒカリゴケが照らす洞窟の中は、奥まで見える程明るさもあります。ちょっとだけジメジメしているけど、空調システムによって空気に淀みもないので快適です。
そんな洞窟の中を飛んで進むしーくん。角に掴まってニコニコ笑顔のまーちゃんは洞窟の奥を眺めて何かを探しています。
大人が走る位のスピードで飛ぶしーくんが角を曲がると、まーちゃんの視線の先に何体かの人影が見えました。
「ゴブゴブ発見! しーくんドーン!!」
「るー!」
まーちゃんがゴブゴブと呼んだ人影は、緑色の蛙の頭を持つ蛙頭人身。下枯柔術という技を使うモンスターで、掴まれると厄介だけど、武器を持って戦えば問題ない初級者向けのモンスターです。
まーちゃんの号令にスピードを上げたしーくんは、ゴブゴブ3体に向かいます。しーくんの姿に気付いたゴブゴブ達は一目で敵わないと気付いて慌ててバタバタ。
そんなゴブゴブにしーくんの下顎がドーン!! 吹っ飛ぶゴブゴブ達は横の壁にグチャッと青いお花を咲かせました。
その後も何回か青いお花を咲かせると、上の階へと続く階段へと到着。飛んだまままーちゃんとしーくんは階段の先へと昇っていきました。
ミノマダンジョン②階
②階も変わらないダンジョンを進むまーちゃんとしーくん。
「コボット発見! しーくんドーン!!」
「るー!」
コボットは柴犬のような犬の頭を持つ犬頭人身。腕腕空手という技を使います。素早い動きで翻弄する初中級者向けのモンスターです。
だけどしーくんには関係ありません。ドーンで今度は真っ赤なお花を咲かせました。幾つか真っ赤なお花を咲かせて次の階へ向かいます。
ミノマダンジョン③階
③階へと来たまーちゃんとしーくん。まーちゃんは変わらずニコニコしていますが、しーくんは大きなお鼻をヒクヒクさせて、お口の端から涎がちょっとだけ漏れています。
「しーくん。そろそろご飯だねー♪ 早く見つけよー」
「るっるるー♪」
「おおーっと、早くも見つけちゃいましたぁ♪ おーくん発見です!! しーくんボボボー!!」
「るー!」
オーくんはピンクの豚の頭を持つ豚頭人身。舞皮舞肥相撲という技を使います。その突進力とパワーは中級者向けのモンスターです。
そんなオーくんに対して、しーくんは大きくお口を開けると、ボボボボボっと赤い炎の息を吐き出しました。
突進してきたオーくんを炎が飲み込むと、後に残るのは豚の丸焼きです。しーくんはパクリと一口でお口の中へ。モグモグボリボリモグモグボリボリ。先へと進みながら1品目が終了しました。
2品目、3品目とお食事は進み、6品目が終わった後に次の階へと進みました。
ミノマダンジョン④階
④階へ来ると洞窟の通路が広がって、しーくんが3頭いても問題なく通れそうなほどになりました。やっぱり広い方が良いのか、しーくんもご機嫌の様で尻尾が横にフリフリしてます。
「ミノミー発見! しーくんヒュゴー!」
「るー!」
ミノミーは牛の頭の牛頭人身。武猛剣術という技を使います。大きな刀を使うパワーとスピードを兼ね備えた中上級者向けのモンスターです。
ミノミーが刀を上段に上げ近づいてきました。それに対してしーくんは息を思いっきり吸い込み、ヒュゴーっと吐き出します。
強烈な風がミノミーを襲い、その巨体を数歩下がらせました。
「しーくんドーン!」
まーちゃんの指示に従ってしーくんは返事する間もなくドーンっとミノミーのお腹に衝突。
ミノミーは吹っ飛びはしなかったけど、地面に背中を強打してバウンド、半回転して俯せになって止まります。
「しーくんボボボー!」
地面に接吻のミノミーをしーくんの炎の息吹が包んだあと、そこにあるのは牛の丸焼きでした。
流石にしーくんでも一口で頬張れない牛の丸焼きは2回に分けてモグモグボリボリモグモグボリボリ。今日の7品目が終わりました。
④階では10品目で階段に到着。次の階へはすぐに行かず、準備を始めます。
「しーくん。びーさまの準備」
「るーるー」
まーちゃんの腰に巻かれた長い毛と別の長い毛が、首の辺りから刀を持って現れました。
まーちゃんと変わらない長さのその刀の柄を持ち、スラーッと抜き放つまーちゃん。
不動明王の持つ倶利伽羅剣に龍が巻き付き剣先から飲み込もうとする絵図。倶利伽羅龍が掘られた刀身が現れました。
びーさまとは、備前国住長船次郎左衛門尉勝光子次郎兵衛尉治光一期一腰作之佐々木伊予守という銘を持つ刀。室町という時代に打たれた大昔の刀です。
「むふー♪ 準備オーケーだねー」
「るるー♪」
「しーくん、お仕事へゴー!」
「るー!」
まーちゃんとしーくんは次の階へと飛んで行きました。
ミノマダンジョン⑤階
⑤階に来るとそこはもう洞窟ではなく、しーくんも踊れそうな大きなドーム状の部屋でした。
そのドームの中心に仁王立ちする大きな姿。
ミノタウロスの1.5倍はありそうな巨体、同じ牛の顔を持ちながら胸に大きな乳房を持つ牛頭人身母です。武猛薙刀術という技を使う上級者向けのダンジョンのボスモンスター。ミノタウロス以上の身体と能力を持ちながら、薙刀を使うことで攻撃範囲がめちゃくちゃ広いのが特徴です。
「ミノママは今日も迫力一杯だね!」
「る-! るるるるーるーるるるるー!」
「うん! お仕事だもんねーがんばろー!」
「るるるるー!」
まーちゃんとしーくんはそう声を掛け合って、ミノママへ向けて飛んで行きました。
ミノママが飛んできたしーくんに向けて大きく一歩踏み込み、横凪に薙刀を振るいます。
しーくんは上へと回避すると、周りの空気を巻き込みながら薙刀がしーくんの下を通過していきました。
「しーくんヒュゴー!足バシンッ!」
しーくんは暴風とも呼べる息吹をミノママに吐くと、ミノママの動きが一瞬止まりました。その隙に尻尾でミノママの足をバシンッ!
足を払われたミノママがバランスを崩して倒れそうになります。でも薙刀を地面に立てて倒れずに済みました。
「右手にガブリ!」
しーくんはミノママの右腕にかぶりつくと、それを引き離そうとミノママが薙刀を抱く様に引きました。
「今だしーくん! クリカラ!!」
薙刀ごとミノママに巻き付いていくしーくんは最後にミノママの頭をガブリ。
「ふどーみょーおーの名のもとにー」
まーちゃんがびーさまの刀身を上へと掲げるとしーくんが淡く光りました。
「しーくんの炎をここにー」
しーくんの淡い光がびーさまへと吸い込まれ、白い小さな龍が刀身へと巻き付く様に現れます。
「いくよぉぉ!」
まーちゃんがピョンっとしーくんから飛び降りながら、
「くーりーかーらーけーんー!!」
しーくんによって開けられた首筋へと、白い龍の炎を巻いたびーさまを斬り込ませました。
何の音も抵抗もなく刃が通過すると、落ちるまーちゃんの腰に巻かれたしーくんの毛が収縮、まーちゃんは定位置に戻ります。
ミノママの首筋には白い龍の炎が絡みつき、斬った周囲を瞬間的に燃え上がらせ、消えていきました。
残ったのはしーくんがかぶりついたままの頭と、分離した胴体以下です。しーくんが離れるとそのまま崩れ落ちました。
「しーくん。袋のよーい」
「るるー」
しーくんの首筋から大きなビニールの袋を持った長い毛が現れ、その袋を前足で持ちます。
「降りたら、いつものようにお願いね」
「るー」
まーちゃんがミノママの胴体へと降り立つと、
「んしょ、んしょ」
と声を出しながらミノママの乳房を切り取ります。それを袋に詰めるしーくん。
計4つの乳房を袋に詰めると、残りはしーくんの11品目になりました。
「今日のお仕事しゅーりょー♪」
「るーるー♪」
「かえるぞー!」
「るるるるー!」
元来た道を引き返すように帰るまーちゃんとしーくん。途中で9品食べてしーくんもお腹一杯の大満足でダンジョンを後にしました。
お家に帰ってくる頃には、もうすでにドームの真上にお日様を映しています。
はーさんがお昼ご飯の配給を持って自動三輪車で来ました。まーちゃんはお昼ご飯をもらい、ミノママの乳の入った袋を渡します。
また夜にと行って去っていくはーさんを笑顔で見送って、お昼ご飯を食べたまーちゃん。
午後はしーくんとのお遊びタイムです。
「じゃんけんぽん!」「るーるーる!」
「パー! むふー♪ ぱーいーなーつーぷーる!」
「じゃんけんぽん!」「るーるーる!」
「グー! むふー♪ またまーちゃんの勝ち―♪ ぐーりーこ!」
「じゃんけんぽん」「るーるーる」
「パー! 負けた―」
「るるー♪ るーるーるーるーるーる!」
「じゃんけん――」
そうしてまーちゃんとしーくんは日が沈むまで遊んで、はーさんが届けてくれた夕ご飯を食べて、お休みの時間になりました。
まーちゃんはしーくんと同じ色の白のパジャマに着替えるとベッドに横になりました。
大きな天窓からはドームに映した満天の星空と星の光に照らされたしーくんの姿が見えます。
「おやすみ~♪」
「るるるる~♪」
いつもの挨拶でまーちゃんとしーくんの一日は終わりを迎えました。
また明日も楽しい一日が待っています。
Fin
コロナホームの中心には、コロナホーム最大のダンジョンがある迷宮都市があり、その一角に『竜宮の宝箱』というお店があります。
『竜宮の宝箱』はダンジョン探索生活者モグラのためのダンジョン商品がメインのお店です。
【ベスポジクラシックパンツ】というズレない下着から【乾燥小人魚】という出汁が回復材になるような食品まで、さまざまな物が売られています。
「千代!」
「なーにー?」
「これ伊藤さんにお願い!」
「はーい!」
千代と呼ばれる女性が受け取ったのはドリンクの入った紙パック。
伊藤さんというのは少し前から商品が届くのを待っている常連のモグラです。
毎日これぐらいの時間に届く商品はモグラである伊藤さんの必須品。
これから手に入る商品の生産者シリーズは高い効果を得られる事で評判だからなのです。
「伊藤さーん。お待たせしましたー。今日の効果は攻撃力アップですよー」
「それはー、助かるべぇ。是非是非」
商品を受け取った伊藤さんは料金を払って紙パックを見ます。
『曲と
辰が
協力して獲ってきた
牛頭人身母の
乳です』
「さっ、今日は【農協牛乳】飲んで頑張るべぇ!」
そう言いながら店を後にする伊藤さん。
都市で人気の【農協シリーズ】が一人の幼女と一頭の龍によって供給されている事を知るのは、はーさんだけかもしれない。
「チョコレート」を「ちよこれいと」としてだけど含めました。
農を分解すると曲と辰にできて、辰=龍でいけるんじゃね? と昨晩寝る前に気付いて童話で行っちゃえーっとこんな形になりました。
展開も文章もグダグダで申し訳ないです。
ちなみにあの長い名前の刀、実在します。
よーわからんと言う人がいたので、
これ以下ネタバレになります。
『チョコレート』
しーくんの「るーるーるーるーるーる!」は、「ちよこれいと」と言わせておりません。
後の「千代!」「これ伊藤さんにお願い!」が「ちよこれいと」のキーワードとなります。
『ふんどし』
【ベスポジクラシックパンツ】のクラシックパンツがふんどしの意味となります。
『煮干し』
【乾燥小人魚】が一応煮干しっぽくしてみました。
どちらも2月14日のふんどしの日と煮干しの日がスレにて出ていたので匂わせてました。