第八話 前途多難
アレンとリリィは森の中を歩いていた。
「はぁ・・・」
アレンは溜め息をついた。
「今さら終わった事をグチグチ言わない!」
「そんなこと言ったって・・・」
それは20分前の事、
-20分前-
「なあ、そろそろじゃないか?」
「そうね、もうすぐ森を抜けるはずよ。」
-ガサガサ-
「!」
現れたのは一人の男だった。
-ドサッ-
「お、おい!」
男は二人の目の前で倒れた。18歳位に見える。青みがかった黒髪で茶色の眼をしていた。顔はイケメンの部類に入るであろう。
「大丈夫か?」
アレンはすぐに駆け寄った。
「あぁ、ひ、人か、助かった。」
「どうした?何かあったのか?」
「実は、悪魔に襲われて・・・」
「悪魔がいたのか!?」
「はい・・・」
男は弱々しく答えた。
アレンは立ち上がり辺りを見回した。
「ルナ!どう思う?まだ近くにいると思うか?」
ルナも緊張して答えた。
「わからないわ!気を付けたほうがいいわね・・・!?アレン後ろ!」
「!?」
急いで振り返ったアレンの目に写ったのは・・・
「ありがとよ少年!じゃあな!」
走っていく男の姿。
「なんだ?もう元気になったのか?」
「馬鹿アレン!荷物盗られてるわよ!」
ルナは呆れながら叫んだ。
「えっ?あっ!」
アレンもようやく男が自分の荷物を抱えているのに気付いた。
「テメー!待ちやがれ!」
「追うわよ!」
二人は後を追った。しかし、追い付けずに今に至る。
「それにしても、あの野郎足速すぎだろ!追い付けるか!」
「あんたが盗られるからでしょ!」
「ご、ごめんなさい・・・」
アレンは冷静なルナの指摘に謝ることしか出来なかった。
「はぁ、もういいわよ。」
ルナは溜め息を漏らしながら答えた。しばらく二人の間に無言の時間が流れた。
†††††
「抜けた〜!」
二人はようやく森を抜けた。辺りはすでに真っ暗である。
「そんなにはしゃがないでよ!みっともない!」
ルナの言いように少しムッとしながら言った。
「しょうがないだろ!俺、森を抜けたの初めてなんだ。今まで村から出たことなかったんだから。」
「そうなの?」
「あぁ、そう言えば、勢いで着いて来ちゃったけど、俺達どこに向かって旅してるんだ?」
「最終目標はアルテスタよ。」
「えっ、なんで?悪魔王を倒すんじゃないの?」
「・・・悪魔王を倒しても世界は荒れたままでしょ?」
「まあ、確かに悪魔王を倒したからってこの世界が平和になるわけでも無いな。」
アレンが頷いた。
「だからアルテスタに行って、私が王になって、この国を導くの!」
「へぇー。」
アレンは関心した。
(そこまで考えてたのか。確に、ただ悪魔王を倒せば終わるってもんでもないよな)
「最終目標はわかったよ。で、まずどこに行くんだ?」
「聖地に行きたいの。」
「リベリアに?」
「そうよ。リベリアは二人が誓いをたてた所だから・・・」
「剣聖と大魔導士の誓いか・・・」
「アレン、あなたが剣聖であるように、大魔導士の生まれ変わりもいると思うの。」
「いるな。確実に。」
アレンはなぜか大魔導士の生まれ変わりはいると確信した。
「聖地は約束の場所だから、なにか手掛りがあるかもしれない。」
「なるほどね、もう一人の生まれ変わりを探すのが第一目標って事か。」
「そういう事!」
「よっしゃ!それじゃ、急いで聖地リベリアに行こうぜ!」
「今日はここで休みましょう。」
アレンは思わずズッコケた。
「こんだけ盛り上げといて今日はここまで?」
「そうよ。」
「ここ、なんもないけど?」
「じゃあ野宿ね。」
ルナはさらりと言った。アレンの高ぶった感情はすぐに戻された。
†††††
二人は夕食の準備をしていた。近くに大きな木が生えていたのでその下で野宿をする事になった。
「しかし、便利だよな〜、それ。」
「なに?」
「いや、魔法って便利そうだなって。」
魔法で火を起こしているルナを見ながらアレンは言った。
「魔法ね〜。そんなに便利なもんでもないわよ?」
「えっ、なんで?」
ルナは鍋を火にかけると説明し始めた。
「まず、魔法っていつでもどこでも使えるみたいに思ってるでしょ?」
「違うの?」
「違うわ、魔法には元となる魔元素と呼ばれるものがあるの。例えば、火の魔法を使うには、火の魔元素が無いといけない。」
「どこにでもあるんじゃないの?」
「その場所によってある元素は濃いけど、他の元素は薄かったり、無かったりするの。」
「へぇー。じゃあ魔元素があれば魔法は使えるのか?」
「後は、魔力ね。魔力っていうのは魔元素を集めて形作る力の事なの。」
「じゃあ呪文は?何で呪文がいるんだ?」
「呪文はね、その詠唱に乗せて魔力を放出する事で、その魔法の属性と形を決めているの。」
「へぇー、色々あるんだな魔法にも。・・・なぁ
「アレンには無理よ。」
俺にも魔法って使えるかな?そう言おうとしたアレンの言葉を遮ってルナが言った。
「な、なんでだよ!」
ルナの次の一言でアレンの淡い希望は粉ごなに吹き飛ばされた。
「だってあなたには魔力が無いもの。」
「・・・」
アレンは反撃も出来なかった。
†††††
翌朝、アレンは一人早起きし、剣を握っていた。
(早く自由自在に扱えるようにならないとな・・・)
アレンには確に剣の握りかたから敵の斬りかた、足の運びかたまでわかっている。しかしわかっているだけだ。わかっているからその通りに動けるわけでもない。頭ではわかっていてもなかなか体が動いてくれないのも事実である。そんなわけでアレンは毎日剣を握って、動きを確認することにした。
「ふぅ〜、いい汗かいた!」
アレンが戻って来てもルナは起きていた。
「どこ行ってたのよ!」
帰ってくるなりルナが文句をいった。
「いや、ちょっと体を動かしに・・・」
「まったく!」
(うるさくないのは寝てる時だけだな・・・ι)
アレンはそう思ったが心の中に留めた。
†††††
「近くにアイフリードって町があるから、そこに寄りましょう。食糧も買わないといけないから。」
ルナは溜め息をつきながら言った。
「そうだな。」
アレンが呑気に答えた。
「あんたが荷物盗られるからでしょうが!」
「ご、ごめんってば!」
怒ったルナにアレンはとりあえず謝った。
(まだ根にもってるι)
アレンはそう思ったが言わずに、あることを聞いた。
「あの〜、ルナさん?」
「なによ?」
「お金もあの荷物の中にあったんですけど?」
「町に着いたらあなたが働いてお金を稼ぐのよ。」
「・・・はい?」
アレンは耳を疑った。
†††††
「私はホテルにいるから。後よろしく〜!」
アイフリードに着き、ホテルにチェックインすると、ルナは冷たく言い放った。
(冷て〜!そりゃあ荷物を盗られたのはおれですよ!だけどあの態度!ちきしょ〜)
悪いのは自分なので何も言わずに仕事を探しに出た。
しばらく町をうろうろして適当な店に雇ってくれるよう頼んでみたが見事に玉砕した。
「くそ〜、子供だと思って馬鹿にしやがって。」
愚痴をこぼしながらアレンは広場に向かっていた。と言うのも、最後に頼んだ店で広場に依頼掲示板があると教えてもらったからだ。
「えーと、あった!あれだ。」
アレンは掲示板に近付いた。
適当に貼り紙を見ていると、一枚の依頼が眼についた。
(悪魔退治の依頼か)
依頼の内容はこうだった。
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=悪魔退治の依頼=
村外れに悪魔が住み着いて困っています。
悪魔はオーガ型で、3体います。
誰か悪魔を退治してくれませんか?
腕に自信のある方ならどなたでも構いません。
悪魔を退治して下さった方にはお礼として100万A差し上げます。
この依頼を受けてくれる方は15日のPM10:00 に地図の場所まで来てください。
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「ひゃ、100万A」
お礼の金額を見たアレンは飛び付いた。Aはこの国の通貨である。
(オーガ型ってライラ村を襲って来たやつだよな?しかも3体って、ヨユーじゃん!)
アレンはもう一度依頼を見た。
(15日って今日だ!まさかこんなに早くお金が手に入るとは・・・)
アレンは浮かれながらホテルに帰った。
どうもぺたです。今回アレンはちょいとドジってしまいましたね。あの泥棒、あれだけ詳しく特徴を説明したので気付いた人もいると思いますが、また登場させるつもりです。一体いつになることやら(汗)次回は悪魔とのバトルの予定です。果たしてそう簡単にお金が手に入るのでしょうか?それでは次回も付き合っていただけると幸いです。