第七話 旅立ち
次の朝、アレンとルナは旅の準備をするため、村の中心部に来ていた。ライラ村は緑豊かで森に囲まれているが、中心部はそこそこに賑わっている。
「これ下さい。」
ルナは保存のきく食品を買いあさっていた。
(こんなに食うのか?)
アレンはその様子をみて思った。
「どうしたの?」
アレンの様子を不思議に思ったルナが聞いた。
「あっ、いやなんでもない。」
「?まあいいけど。」
食品を買い終わると、次の店へと向かった。
「この村の武器屋はどこにあるの?」
「ああ、こっち。」
そう言うとアレンは武器屋に向かって歩き出した。
「・・・この村の人達はたくましいわね。もう元気に働いてる。」
「そうだな。まあ、そこがこの村のいい所さ。」
「そうね。」
二人は歩いて行く。
†††††
「ここだ。」
二人は武器屋に着いた。武器屋は商店街の端にある。
「いらっしやい!ん?アレンじゃねえか!」
「おじさん、久しぶり。」
「おう、まったくだ。5年前にセイルに連れられて来たとき以来だな。」
「ああ、そうだね。」
「それで、今日は何しに来たんだ?」
「剣を買いに来たんだ。」
「剣を?」
「うん、軽くて扱いやすいヤツがいいんだけど・・・」
「いいのがあるぜ!ところで、なんで剣がいるんだ?おめえも親父みたいに傭兵になんのか?」
「違うよ。ちょっと旅に出るんだ。それに俺の剣じゃなくて彼女の剣なんだけど・・・」
店の親父はようやくルナに気付いた。
「なんだ、アレン。おめえのガールフレンドか?」
「違う!」
「な〜に、そんなに照れることねえだろ!」
「・・・」
アレンはもう何も言わなかった。
「さて、お嬢ちゃん、どれくらい剣を扱えるんだい?」
「剣術を学んで10年ぐらいですけど・・・」
(きっと王族だから英才教育を受けたんだろうな、剣聖の一族とも繋がりがあるみたいだし)
アレンは思った。
「ほう、そいつはすげえ。じゃあちょっとこいつを斬ってみてくれ。」
そう言うと親父は太い丸太と一般的な剣を取り出した。
「これを斬ればいいんですか?」
ルナは平然と言った。
「ああ、やってみてくれ。」
そう言われたルナは剣を手に取り鞘から引き抜いた。そして、丸太に向かって振った。刃先は綺麗に弧を描き、再び鞘に納められた。
「こいつは見事な腕前だ!」
丸太は斜めに斬られていた。
「これなら、ちっとばかしクセのあるこいつも扱えるだろ。」
親父は店の奥から剣を一振り持ってきた。
「どうだ?」
「凄く扱いやすいです!」
「そりゃよかった。」
その剣は刀身が短めで細く、無駄な装飾がほとんど無かった。
「お嬢ちゃんは魔剣士だろ?」
「!なんでわかったんですか?」
「この商売長いからな。」
親父は自慢げに言った。
「そいつは魔力で鍛えられている。持ち主が魔力を注げば、なんか変化があるはずた。」
「なんかって・・・ι」
親父のいいようにアレンは思わず呟いた。
「しょうがねえだろ!俺は魔力ねえんだから!」
「いいんです。これから自分で調べますから。」
「お嬢ちゃんは優しいねぇ〜。」
そんなこんなで二人は店をでようとした。
「まちな!」
それを親父が引き止めた。
「アレン、選別だこいつを持ってけ!」
そう言うと親父は剣を一振り投げ渡した。
「うわっと!あぶねえな・・・これって!」
アレンは驚いた。
「そうだ。そいつはおめえの父親の剣だ。」
それは細身で白銀の長剣だった。刀身に文字がほってあった。
-セイル=リーヴェルト-
「・・・おじさん、サンキュー!」
「おう、気い付けていけよ。」
二人は店を後にした。
†††††
「もう買い物はすんだよな?」
「そうね。食べ物も買った、服も買った、武器も買ったし。」
「それにしてもあの剣高かったなι」
「ふふっ、ありがとっ!」
ルナは満面の笑みを浮かべている。
(ちくしょう、なんでルナのやつ金持ってねえんだよ)
ルナが買った物は全てアレンがお金を払っていた。
「これからどうすんだ?」
「私には用事は無いわ。あなた次第よ。」
「・・・じゃあ、明日の朝出発でいいかな?」
「なにするの?」
「皆にお別れを言ってこようかと思って・・・」
「そう・・・じゃあ私は家にいるわ。お別れを言ってらっしゃい。」
「うん、そうするよ。」
アレンはルナと別れて、一人村を歩いた。
†††††
アレンは学校に向かっていた。カイルに旅立つ事を話すと、学校に皆を集めてお別れ会をしよう、ということになった。
(しばらくはクラスの皆とも会えないのか・・・)
アレンはカイルに感謝していた。お別れ会をしようなんて自分からは言いにくかったからである。
「今日の主役が遅えぞ!」
学校につくとカイルが叫んだ。既に全員集まっていた。
「ごめん!」
アレンは走った。
「これで全員揃ったわね。じゃあお別れ会を始めましょう!」
担任のアリア先生が言った。
†††††
この時間だけ、アレンは旅立つ事や、自分の事を忘れて楽しんだ。
「もう日が暮れるな・・・」
カイルがそう言うと、皆静かになった。
「そろそろお開きだな。」
アレンの言葉に一気に場の空気が重くなった。
「・・・じゃあ、アレン。皆に一言、言ってちょうだい・・・」
アリア先生が言った。
「・・・みんな、」
この場にいる誰もが別れの空気を感じただろう。
「俺、ちょっとわけありで旅に出る事になったんだ。」
アレンは旅立つ理由を詳しくは言わなかった。
「この旅で、死ぬかもしれない。でも、ちゃんと帰ってくるから!」
そう言うとアレンは後ろを向いて歩き出した。
「ちゃんと帰ってこいよ!」
「待ってますよ。」
皆の声が聞こえた。アレンは振り返らずに左手を上げて歩いて行く。振り返ることが出来なかった。アレンの顔は涙でクシャクシャだったから。
†††††
「ただいま。」
「おかえり。」
家に帰るとリリィではなく、ルナが迎えた。
「ちゃんとお別れしてきた?」
「あぁ、ところで姉さんは?」
「それが、自分の部屋で何かやってるみたいで・・・」
「?何してんだろ?」
「あっ、夕食は?リリィさんが作ってくれてるけど・・・」
「食うよ。」
アレンは食卓に向かった。
†††††
その日リリィは結局部屋から出てこなかった。
「もう出発の時間なんだけどな・・・」
リリィはまだ出てこない。
「もうちょっと待つ?」
「・・・いや、いいよ。この気持ちが揺らぐ前に出発しよう。」
二人は玄関を出た。
「アレン!」
リリィの声が聞こえた。振り向くと、二階の窓からリリィが手を振っている。
「姉さん!」
「これ!」
そう言うとリリィは手に持っていた何かを投げた。
「うわっ!」
アレンはそれをキャッチした。それは手作りのブレスレットだった。
「姉さん、これ・・・」
「御守りよ!アレンがちゃんと帰ってこれるように!ルナちゃんにも!」
そう言うとリリィはもう一つ投げた。ルナはそれをキャッチした。
「・・・ペンダント?かわいい・・・」
ルナが受け取ったのは手作りのペンダントだった。リリィは大きく息を吸い込むと言った。
「いってらっしゃい!」
それを聞いたアレンは涙を溜めながら言った。
「行ってくる!」
アレンは旅立った。
今回は旅立ちでした。次回からは冒険が始まります。仲間だったり敵だったり、いろんなキャラを構想中です。次回も付き合っていただければ幸いです。