第六話 真実 3
ウェルテスがリーヴェルト家に滞在してから一週間が過ぎた。
「ただいま〜ウェルお姉ちゃん!遊ぼう!」
「あら、リリィちゃんおかえり。」
リリィはすっかりウェルテスになついている。
「こら、リリィ!ウェルは怪我してるのよ!それに帰ってきたら手を洗う!」
「はぁ〜い。」
リリィは渋々洗面所に向かった。
「まったく!ごめんなさいねぇ、毎日毎日。」
「いえ、いいんですよ。子供は好きなんです。」
ウェルテスは微笑んでいる。
(よく笑うようになったわ〜リリィのおかげかしら)
ジュリアも思わず微笑んだ。
†††††
「ウェル!買い物に付き合ってくれないかしら。」
ジュリアはウェルテスを買い物に誘った。
「いいですよ。あっ、でもアレンが・・・」
「行ってきていいよ〜。」
リリィが言った。
「私がアレンを見てるから。」
リリィはアレンをすっかり気に入り、弟のように思っていた。アレンもリリィになついているようで今やウェルテスよりもリリィが世話しているほうが機嫌がいいほどだった。
「それじゃあ・・・お願いしようかしら。」
「うん。リリィはアレンのお姉ちゃんだから!行ってらっしゃい。」
ジュリアとウェルテスは微笑んだ。
†††††
「リリィちゃんは本当にいい子ですね。」
買い物の帰り道、ウェルテスは言った。
「そんなことないわよ。ああなったのはあなた達が来てからよ。」
ジュリアは答えた。
「ねぇ、ウェル。良かったら、ずっとここにいない?」
「・・・ありがとうございます。でも・・・」
「やっぱり、行っちゃうのよね・・・」
「・・・はい。」
「そうだと思ったわ。・・・あなたは変わったわね。」
「えっ?」
「会った頃は、って言っても一週間しかたってないけど、なにも話したがらなかったわ。」「そうですね・・・でも、それはきっと・・・」
「?」
「あなた達が変えてくれたんですよ!ジュリアさんとセイルさん、そしてリリィちゃんが変えてくれたんです。」
「て、照れるじゃない!」
「ふふっ、照れて下さい。」
ジュリアとウェルテスは夕焼けの中を歩いていった。
†††††
その夜、ウェルテスはみんなを集めた。
「さて、話って何だい?」
セイルが聞いた。
「はい、実は・・・明日ここを出ていこうと思います。」
「ダメ!」
リリィが叫んだ。
「嫌だ!お姉ちゃん達はずっとずっとず〜っと、ここにいるの!」
「・・・リリィ、ウェルの話を聞いてあげなさい。」
ジュリアが言った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ〜!」
「リリィ!」
「うっ、お母さんのバカ〜!」
リリィは二階に走っていった。
「ごめんなさいね・・・」
「いえ・・・」
「それで、怪我のほうはどうなんだい?」
セイルが話を戻した。
「おかげ様で傷はほとんどなくなりました。もう動けます。これもジュリアさんのおかげです。」
「そう・・・よかったわ。」
「それで・・・」
ウェルテスは言いにくそうな顔をしたが、すぐに切り出した。
「アレンを預かってもらえないでしょうか?」
「えっ!」
ジュリアは思わず声をもらした。
「一体なぜ?」
セイルも不思議そうに聞いた。
「それには私達の事を話さないといけませんね・・・私の名はウェルテス=リンドバーグ。」
「リンドバーグだと!?それはまさか・・・」
セイルは驚いた。
「そう、剣聖の・・・アラン=リンドバーグの血を引く一族です。」
「・・・」
ウェルテスは驚いて声も出ない二人をよそに話を続けた。
「・・・アルテスタが悪魔に狙われているのは、王族がいるからだけではありません。私達が、剣聖の血を引く一族がいるからです。」
ウェルテスはそこまで話すと、一旦話を切った。
「そうだったのか・・・」
やっと頭が追い付いてきたセイルが言った。
「でもそれがアレンを預かる事とどう関係があるんだ?」
「・・・この子は、大変な運命を背負っています。この子は・・・剣聖の生まれ変わりなんです。」
「そんな馬鹿な!生まれ変わりだと?大体生まれ変わるなんてことが出来るのか?」
「・・・魔法です。」
「魔法!?」
「はい。剣聖と共に戦った大魔導士ユアンが死後の世界の王と契約し、1000年後に二人の記憶を引き継いだんです。」
セイルはアレンを見ながら言った。
「じゃあ、この子は剣聖アランなのか?」
「いいえ、違います。」
「どういうことだ?この子は生まれ変わりなんだろ?」
「記憶を引き継いだといっても、戦闘に関する記憶だけです。あの大魔導士ユアンでも、自分達の魂をそのまま後世に移すことは出来なかったんです。」
「なるほど・・・」
ジュリアはある事に気付いた。
「でも、どうしてアレンを預かるの?」
そう聞かれると、ウェルテスは母親の顔をして答えた。
「この子は時が来れば、戦いに身を投じるでしょう。でも、せめてそれまでは、普通の暮らしをさせてあげたい。私は悪魔に狙われている、だからこの子と一緒にはいられない。」
「そんな・・・」
「あなた達ならアレンを安心して任せられる、そう思ったんです。」
「・・・」
「アレンをお願いします。」
二人はしばらく黙っていたが、セイルが口を開いた。
「わかった。アレンは責任を持って預かろう。」
「あなた!」
「ジュリア、ウェルテスは私達を信じてくれたんだ。私達はそれに答えなければならないよ。」
「・・・そうね。わかったわ。アレンは家で預かる。」
「ありがとうございます!」
ウェルテスは二人にお礼を言った。
†††††
「リリィちゃんにお別れを言ってきます。」
翌朝、目覚めたウェルテスはアレンを抱いて二階にあがった。
「リリィちゃん。」
「・・・」
呼び掛けたが返事はない。
(寝てるのかしら)
「リリィちゃん、入るね。」
ウェルテスはドアを開けた。
「リリィちゃん・・・」
リリィは起きていた。一晩中泣いていたのか、眼は真っ赤に充血していた。
「・・・やっぱり行っちゃうの?」
「・・・うん。だからね、リリィちゃんが私を忘れないように、リリィちゃんに頼みたい事があるの。」
「頼みたい事?」
「うん、あのね・・・アレンをリリィちゃんの弟にしてほしいの。」
「えっ?」
「この子が自分でここを出ていくまで、リリィちゃんがお姉ちゃんとしてこの子を叱ったり、褒めたりしてほしいの。そして、この子が自分の事を知りたいと思った時に本当の事を教えてあげて。」
「・・・」
「なってくれる?アレンのお姉ちゃんに・・・」
「・・・うん。リリィがアレンのお姉ちゃんになる!アレンが幸せに暮らせるように頑張る。だからね、だから・・・」
「?」
「絶対にまたここに帰って来て!」
「!・・・うん!帰って来るね・・・」
リリィはアレンを受け取って抱いた。
「泣かないよ!わ、私、アレンのお姉ちゃん、だから。」
リリィは涙を堪えながら言った。
「じゃあ私も泣くわけにはいかないね。私はリリィちゃんのお姉ちゃんだからね!」
「!お姉ちゃん・・・」
リリィは今にも泣き出しそうだ。
「それじゃ、そろそろ行かなきゃ・・・」
「約束だからね!絶対戻って来てね!」
「うん!また会いに来るね!」
そういうとウェルテスさリリィの部屋を出ていった。
†††††
-現在-
「これが私の知る限りのあなたについての話よ」
話終えたリリィはうっすらと涙を浮かべていた。
「この後は、わかるでしょ?」
「ああ。」
アレンは頷いた。
「父さんも母さんも、本当の親みたいだった。5年前に父さんと母さんが事故で死んでから、姉さんが働いて俺を育ててくれた・・・」
「約束したからね。あなたを幸せにするって!」
リリィは微笑んだ。
「姉さん・・・」
「あの〜・・・」
しんみりした所にルナが声を掛けた。
「それでアレンが持ってる剣の事は・・・」
「あら、いけない。忘れるところだった!」
そういうとリリィは自分の部屋から手紙を取ってきた。
「これは?」
手紙を渡されたアレンは尋ねた。
「その剣に添えてあったのよ。中は私も読んでないわ。」
アレンは手紙を読んだ。
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アレンへ
アレン、あなたがこの手紙を読んでいるということは、リリィちゃんから自分の事を聞いたのでしょう。
この剣は剣聖が使っていた剣です。
1000年後の自分へ、つまりあなたに残すためにリンドバーグ家で保管されていた物です。
あなたの運命はとても重い。
だけど、負けないで。
あなたは剣聖の生まれ変わりだけど、アランではなくアレンです。
私の息子で、リリィちゃんの弟、あなたはアレンです。
それを忘れないで。
母より
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「母さん・・・」
「これは、やっぱり剣聖の剣だったのね。そしてやっぱりあなたが剣聖の血を引く者だった。それも生まれ変わり・・・」
「なあ、なんだよやっぱりって・・・」
「・・・私は剣聖の血を引く者がこの地にいるということを聞いてこの村に来たの。アレンという名前だということまで調べたわ。そしてあなたと会った・・・」
「・・・なあ、俺達会った事あるか?」
「?ないわよ。なんで?」
「いや、初めて会った時、なんか見たことあるような気がしたから・・・」
「・・・それは、多分、そっくりだからよ。ウェルテスさんに・・・初めて見た時は驚いたわ。」
「!?」
「似ていてもおかしくはないわ。」
「どういう・・・」
「リリィちゃん、あなたは何者なの?どうやってアレンの事を調べたの?」
ルナは一呼吸置いてから話し始めた。
「私の名はルナ=アルテミス=ヴァーミスト。このアルテミス王国の王位正当後継者よ。」
アレンとリリィは驚いて固まった。
「今、王位を継承出来るのは私だけ・・・王族は滅んだわ。」
「なんで!?」
アレンの問にルナは呆れながら答えた。
「あなたには言ったじゃない!王都は悪魔に襲撃されたって!」
「あっ・・・」
「もう!ちゃんと覚えてなさいよ!」
「それで、アレンの事は・・・」
真剣なリリィの問にルナは真剣に答えた。
「アルテスタ城の図書館に剣聖と大魔導士の事を詳しく調べて記録してある本があったわ。もちろん禁書の棚にね。その本に剣聖の一族について詳しく載っていたわ。それによるとウェルテス=リンドバーグは旧姓ウェルテス=アルテミス=ヴァーミスト・・・つまり、王族だったの。私にとって叔母の関係に当たるわ。似ていたとしてもおかしくはない。その本にはアレン、あなたの事も記してあったわ、事細かに。」
「何でそんな本があるんだよ。」
「わからないわ。」
「ルナちゃん、大体の事はわかったわ。でもなぜアレンに会いに来たの?」
そう聞かれたルナは真剣な眼をして言った。
「この世界を救うためです。」
「?」
「この荒れた世界を再び平和にするために、剣聖の力が必要なの。」
「どういうことだよ!」
自分の事になったのでアレンも真剣になった。
「1000年前、悪魔王は死んだわけではないの。二人の力を持ってしても封印することで精一杯だったのよ。」
「まさか、悪魔が増え始めたのは・・・」
「そう、悪魔王の封印が解けかかっているのよ。剣聖と大魔導士は誓いをたてたわ。封印が解かれる時に生まれ変わり、もう一度出会い、今度こそ悪魔王を倒すと。」
話に着いていけなくなったアレンとリリィは呆然としていた。しかし、ルナの次の一言で正気に戻された。
「だから、アレンには一緒に来てほしい。」
「!」
「あなたの力が必要なの。」
「話はわかった。けど心が着いてこないよ!なんで俺なんだよ!なんでルナは世界を救いたいんだよ!」
アレンは突然、自分にのしかかってきた運命に押し潰されそうだった。
「・・・私はこの世界が、人間が好きなの。いい人もわるい人も。今、世界が荒れて沢山の人が困っているわ。私は困っている人を、世界を助けてあげたい。だれもが笑える国を造りたい。」
「・・・」
「・・・だって、私は王だから!」
「!」
アレンは関心した。
(なんて強くて優しい想いだろう)
ルナは照れたのか頬を赤くしている。
(王、か・・・こいつも辛い運命を背負ってるのに・・・それに負けないで戦ってる。それに比べて俺は・・・)
少しの間、沈黙が流れた。
「・・・俺は甘えてたよ。自分の運命を知りながらまだ関係ないと思ってた。でも決めた!俺はルナに着いて行くよ。必ずルナをこの世界の王にする!・・・こんな俺だけど、連れてってくれるかい?」
「アレン!」
「ごめん、姉さん。俺、もう決めたんだ。この世界を救う!」
「・・・私には、止める権利は無いわ。ウェルテスさんも言ってたもの、この子がここを出ていくまで、ってね。」
「リリィさん・・・」
「いいのよルナちゃん。アレンを連れていってあげて!」
「・・・はい!」
「だけど、二人とも、約束してね。必ずここに戻って来て!世界が平和になるまで、ずっと待ってるから。」
リリィは眼に涙を溜めている。
「当たり前だろ!例え血が繋がってなくたって、姉さんは俺の姉さんだよ!俺の帰る場所はここにしか無いから、必ず戻ってくる!」
アレンは血は繋がらなくとも、本物の姉に誓った。
‐必ず戻ってくる‐
と。
今回でアレンとルナの事がわかりました。次回は旅立ちです。このあとどうなるんだろ(予定無し)まあなるようになります!次回も付き合っていただければ幸いです。