第十二話 黒髪の少女
「・・・ん。」
アレンは朝の光で眼が覚めた。
「・・・あれ?ここどこだ?」
気が付けばそこは知らない部屋だった。
(・・・あれからどうなったんだ?俺、トジって蹴り飛ばされた所までは思い出せるけど・・・)
思い出そうとするが思い出せない。
(あ〜ダメだ。まだ頭がボーッとする・・・)
「アレン!」
ルナの声がした。
「眼が覚めたのね!」
ルナが駆け寄った。
「そんなに叫ぶなよ。まだボーッとするんだから・・・」
「なに言ってんのよ!丸一日寝ておきながら!」
「えっ?」
「えっ?じゃないわよ!あなたはあの時倒れてから、今までずっと寝てたの!」
アレンは気になっていた事を聞いた。
「なあ、あれからあのオーガをどうやって倒したんだ!?」
「?なに言ってんのよ、作戦通りだったじゃない。」
「!そ、そうだったよな!」
「?」
不思議がるルナをよそにアレンは考え込んでいた。
(作戦通り?)
アレンにはあのオーガを倒した記憶がない。
(どうなってんだ?)
アレンは気になったが深く考えない事にした。
「所でここどこ?」
「病院よ。」
ルナの話によると、アレンはオーガを倒した後、倒れてそのまま寝ていたらしい。傷だらけだったのでとりあえず病院に運んできたのだそうだ。
「そうか・・・ありがとう。ルナも怪我してたのに・・・」
「大丈夫よ。あなたこそ傷だらけじゃない。」
アレンは自分が包帯だらけである事に気付いた。
「ははっ!そりゃそうだ!」
「本当にもう!」
ルナはそう言いながら笑顔だった。
†††††
とある城、そこに広がる綺麗な部屋。その部屋で椅子に少年が持たれかかっている。16歳程で黒髪である。
「・・・!寝てたのか・・・」
少年の前にある机には書類が山積みになっている。
「相変わらずめんどくさい事やってんな。」
その部屋にもう一人18歳ほどの少年が入ってきた。鮮やかな金髪である。
「オウガ・・・」
オウガと呼ばれた少年はツカツカと黒髪の少年に近付いた。
「ヒリュウは仕事好きだね〜。」
オウガはそう言って書類の山を見た。黒髪の少年はヒリュウと言うらしい。二人とも紅い眼をしている。
「お前も長なら少しは仕事をしろ・・・」
「へいへい。・・・そういやな、昨日仕事をしに行ったら、誰かが先にやってた。話によると黒髪で金色の剣を持ってたらしい。あともう一人女がいたらしいが。」
「・・・王の力を継ぐ者か!?」
「さあな。詳しくはわからん。だがおかげで仕事が楽になれば言うこと無しだ。」
「まったくお前は・・・」
それからヒリュウの愚痴は延々と続いた。
†††††
翌朝
「・・・ん。」
アレンは朝早くに眼が覚めた。時刻はAM3:24。
「・・・よし。体を動かしに行くか。」
アレンは病院を抜け出し、中庭に立った。この病院は中庭を囲むように建っており、中庭はかなり広い。剣を二本抜いて構える。そして記憶のままに剣を振った。
(やっぱりまだまだだな・・・)
記憶と自分の動きのズレを感じて思う。
「ふぅ・・・」
溜め息をつきながら剣を鞘に納めた。
「すご〜い!」
アレンは声がした方を見た。そこには黒髪でショートカットの黒い眼をした14歳ぐらいの女の子が立っていた。女の子はパチパチと拍手をしながらアレンに近付いてきた。
「凄い剣技ですね〜。剣を振った時の風圧がこっちまで届きましたよ〜。」
「それはどうも・・・」
「私はハルナって言います。」
その女の子、ハルナはドンドン話を進めていった。
「お兄さんの名前聞いてもイイですか?」
「あぁ、俺はアレン。」
「あれ?アレンさん怪我してるんですか?」
「えっ?」
アレンの肩の包帯から血が滲んでいた。
「ちょっと見せて下さい。」
「いたっ!」
ハルナはアレンの肩に手を当てた。
「はっ!」
次の瞬間、ハルナの手が光った。
「おい!いきなりなにするんだよ!」
アレンは突然傷に手を当てられたので怒った。
「ごめんなさい。まだ痛みますか?」
「・・・あれ?」
アレンの肩の痛みが消えた。包帯を取ってみると傷が消えていた。
「いったいどうなって・・・」
アレンは驚いてハルナの顔を見た。
「魔法?」
「違います。氣です。」
「き?」
ハルナは説明し始めた。
「えっとですね、人も動物も植物も、生きているものは全て氣がかよっているんです。さっきはアレンさんの氣を肩に集めて傷の細胞の再生速度を早めて・・・」
「と、とにかく俺の傷は治ったって事だよね?」
(全然わからんι)
「はい。そういうことです。」
ハルナはにっこり微笑んだ。
†††††
なんだかんだで仲良くなったアレンとハルナは二人で病室までの道を歩いていた。
「それでですね〜・・・」
「あはは・・・」
他愛もない話をしながら歩いていると、
「アレン!!!」
後ろからルナの声が聞こえた。
「・・・あんた、何してんの?」
「えっ・・・?ちょっと体を動かしに・・・」
「へ〜・・・女の子と一緒にね〜・・・」
ルナはアレンとハルナが一緒に歩いているのを見てなぜかイライラした。
「な、なに怒ってんだよ!」
なぜかアレンも焦った。
「アレンさんの彼女さんですか〜?」
「「違います!」」
声がそろう。
「ヒトが心配してるのに自分は女の子とデート?」
「デートじゃないって!ハルナとはさっきあったばっかりで・・・」
「問答無用!」
色とりどりの魔法が飛ぶ。
「ぎゃぁあぁぁぁ!」
アレンはもう一度ハルナの氣による治療を受けた。
†††††
「凄い・・・」
ルナもハルナに治療を受けた。
「いったいどうなってるの?」
「生きているものには全て氣がかよっているんです。その氣を集めて傷の細胞の再生速度を・・・」
「そ、そう・・・」
(全然わかんないι)
ルナを遠くから見ていたアレンは思った。
(ルナのやつ絶対わかってないな)
ルナとハルナはすぐに仲良くなった。
(なんか俺やられ損じゃね?)
そんなことを考えながらアレンは二人のやりとりを見ていた。
「へ〜、ルナさんはアルテスタ出身なんですか。」
「そうよ。」
「でも、アルテスタは身分が高いヒトしか住めませんよね?ルナさんは貴族なんですか?」
「えっと・・・私は、王族なの。」
「えっ?王族?」
「そうだよ。ルナは正統王位継承者なんだ。」
アレンが口をはさんだ。
「ご、ごめんなさい!なれなれしく話かけてしまって・・・!」
「いいのよ!もうアルテミス王国は無いんだから王族なんて関係無いのよ!」
「で、でも・・・」
「俺たち庶民にはやっぱりね〜。」
「ですよね〜。」
(こいつら・・・)
ルナはイライラを抑えながら言った。
「なに言ってんのよ!アレンだってアルテスタ出身のくせに!」
「そ〜なんですか?」
「そ〜なのよ!しかも王族の血と剣聖の血を引いてるのよ!」
「え〜それは庶民には近寄りがたいです〜。」
(あっさり寝返った!)
「でしょ〜!」
「お二人はどうしてこの町にきたんですか?」
「それはね〜・・・」
「おい!そんな簡単にばらしてイイの?」
「別に構わないんじゃない?」
「そういうもんか?」
「そういうものよ。」
そういうとルナはハルナに自分達の事情を話した。
「そうなんですか〜。大変ですね。」
「そうだ、そういえばハルナはこの町に住んでるのか?」
「違います。私はとある理由で旅してるんですけど・・・」
「理由?」
「もう!デリカシー無いわね!」
「いいんですよ。・・・兄を、探してるんです。」
「お兄さんを?」
「はい。私の産まれた村はもう地図にはありません。」
「それって・・・!」
「はい、悪魔に襲われて・・・私が三歳のときでした。村は全壊、生き残ったのは私と母だけでした。」
「・・・」
「全壊した村から出てきた遺体の中に兄の遺体だけが無かったんです。」
「・・・」
「普通に考えて生きているはずありません。でも、兄は今でもどこかで生きている、そんな気がするんです。私、おかしいですよね。」
「そんなことない。きっと生きてるよ。ハルナがそれを信じるかぎり。」
「アレンさん・・・ありがとうございます。」
ハルナはわずかに微笑んだ。
†††††
「お二人はこれからどこに行くんですか?」
ハルナが聞いた。さっきまでのしんみりした空気はもうない。
「えっと、とりあえずリベリアに行くんだけど・・・」
「そんなに遠くまで!じゃあ、途中でいろんな町に行きますよね?」
「多分・・・」
「じゃあ私もついていきます!」
「・・・えっ!?」
「いいですよね!」
「危ないからダ・・・」
「いいわよ。」
ダメと言おうとしたアレンの言葉を遮ってルナが答えた。
「やった〜!いつ出発するんですか?」
「明日の朝よ。」
「じゃあ私準備してきます!」
ハルナは帰っていった。
「遅れちゃダメよ〜!」
「はぁ〜い!」
アレンはルナに言った。
「おい!」
「いいじゃない別に。ハルナちゃんはお兄さんを探してるんだからいろんな場所に連れてってあげれば。」
「そりゃそうだけど、危ないだろ!」
「・・・あんたが守ってあげればいいじゃない。もしかして、自信ないの?」
「そんな事ないけど・・・」
「じゃあいいじゃない!それに・・・」
ルナはニヤリとしながら言った。
「ハルナちゃんがいれば治療費がかからないじゃない!」
「・・・」
(それが目的か!)
ルナの眼を見たアレンは、もう何を言っても無駄だと悟った。
どうもぺたです。今回突然出てきたヒリュウとオウガは何者なのか?それはまた後々にでも。今回旅のお供に加わったハルナですが、今だ詳しい設定は無しです。ハルナの兄ちゃんどうしようかな〜ιというわけで、次回に続きます。