第三話
はい、皆さんお待ちかね、三度目のここはどこ?わたしは誰?シチュです。やっぱり三度目ともなると元凶に対する怒りがより深まりますね。マンネリとか皆さん大丈夫でしょうか。一度目は暗い路地、二度目は白い空間、そして三度目は視界一杯に広がる槍を持った人々でした。やっぱり一度は元凶を殴っておくべきでしたかね。
はい、じゃあ現実逃避は一旦ここまでにしておきます。なぜなら急に現れたわたしに対する周りの視線と槍が鋭すぎて、行動を誤ると即座に……って感じなので。
「…美帆」
シンと静まり返った広間に一人の男の声が響く。そう、どう見ても中華風な皇帝にしか見えない上座に座っている威圧感あふれるあなたですね。もしかしてここは謁見室ですか?古代中国ですか?メイファンちゃんとは誰ですか?もしかしてわたしですか?勘弁してください。
正直、また気を失ってやろうかと思った。
男のセリフを聞いた瞬間から、また周りが騒がしくなる。どうやら、メイファンちゃんが彼女らしい。やっぱりわたしはそっくりか。メイファン様だ、生き返ったのか、物の怪かとか、いろいろ聞こえてくる。本当に勘弁してほしい。
しかし、それらも、立ち上がった男、推定皇帝の「黙れ」という一言で消えていく。再び静寂が訪れた。
皇帝はそのままわたしのほうに歩いてくる。たくさんの槍を持った人達、おそらく警備兵がすかさず傍に寄るため、モーゼかと思うほど綺麗な一本道ができた。
目の前まで来た彼は、わたしをじっと見つめた。黒髪に鋭い目、スッと通った鼻筋に見上げるほどの身長、がっしりとした肩幅を持ち、見た目からは30代前半と思われる彼は、道を歩けば100人中100人が二度見するほどのイケメンだった。色んな意味でドキドキするぜ。
「………美帆か?」
不意に薄い唇が開いた。眉間はグッと皺が寄っている。なるほど、どうやら彼が彼らしい。なぜか、すぐにわかった。
わたしは少し逡巡したあと、
「いいえ、違います」
そう答えた。
わたしは別に神の言うとおりにする必要もない。彼の新しい恋人にならなくていいのだ。
「美帆じゃない?いや、そんなはずはない。どこから見ても美帆だ。…李家か?おい、美帆じゃないなら間者か?」
混乱しているらしい彼はそう言ってわたしの肩をぐっと掴んだ。
「いたっ」
思わずそう言うと、慌てたように手を離し、視線を逸らした。そして、ようやく周りに気がついたようで、固まったままの周囲の人々に向かって下がるように言った。
「しかし、危険では…」
「私がひ弱な女にやられると思うか?いいからさっさと出ていけ、今すぐだ」
眼光鋭く睨みつけられると、人々はすぐさま出て行った。置いてかないで、と思ってしまった。
「…お前は、なんだ」
残ったのは当然わたしと彼のみで、まあつまり二人きりなわけで、逃げ出してしまいたいわけで、たがしかし、どうやら逃がしてくれそうもないわけで。
「なんだ、と言われましても。ただの一般市民です。無害です」
間者扱いは勘弁してほしい。まあ確かに神からの間者だとも言えるかもしれんが、不可抗力である。
「突然謁見室に現れたお前が一般市民なわけないだろう。ふざけるのも大概にしろ。しかも美帆と同じ顔だなんて、黒魔術で顔を変えたのか?」
「…違います、生まれたときからこの顔です。信じてもらえないかもしれませんが、わたしは誓ってここにくるつもりはありませんでした」
おおよそ全て神のせいだ。呪われろクソ神め。
「……」
そんな目で見ないでほしい。わたしが一番この状況を理解してないのだ。
「…すぐ出て行きますので、すみませんでした」
なにに謝ってるんだろうわたし。謝るべきはクソ神である。
「それでは」
そのまま勢いで頭を下げて踵を返そうとした。
その瞬間ぐっと肩を抑えられた。
「いたっ」
「動くな」
今度は痛いと言っても離してくれない。
「…どうせこれが狙いだったんだろう、汚い奴め。望み通りにしてやる」
何を言ってるんだこの人は。わたしの望みは君が肩から手を離してくれることだよ。
「嘉豪!」
「はっ」
扉が開いて男が一人入ってきた。そして素早く扉を閉めその場に跪く。
「…後宮に入れておけ」
そう言ってわたしの肩をパッと離した。そして勢い余って、たたらを踏むわたしを気にかけもせず、踵を返して部屋から出て行ってしまう。
殺意だけが湧いた。
なんだ、話を聞かないという点でクソ神と同じじゃないか。同族だからクソ神のお気に入りなのか?
「…こちらへ」
皇帝が去っていった方向を呆然と見ていると、声をかけられた。ジャーハオと言ったか、彼はスタスタ歩いて、扉に手をかけた。どうやらついてこいと言っているらしい。まさかとは思うが、アレか?皇帝が言ってたアレか?後宮か?!
わたしは心の中で、ジャーハオ、というか皇帝の言うとおりにするか、間者と疑われたまま即刻クビを……の二択のうちどちらにするか考えた。まあ、正直どちらもお断りな三つ目の選択肢はどこだ?と言いたいが、この状況を突破できるほどのチート能力はわたしにはない。
なんかこう、指パッチンで瞬間移動とか、望んだ相手に雷が落ちるとか、望んだ相手が毎日足の小指をタンスの角にぶつける呪いをかけられるとか、神を小指一本で投げ飛ばせるとか、神の顔面に往復ビンタとか……。違う、間違えた。神への報復を考えている場合ではないのだ。
「……はぁー」
そうなると結局、わたしに選択肢はないも同然だ。やっぱり死にたくないのだ。どうせなら120歳まで生きていたいタイプだわたしは。プライドと引き換えに死なんて到底選べない。
扉に向かって歩き出す。
この先に何があるかなんて考えたくない。
これも全て奴のせいだ。
ちなみにここまでの思考にかかった時間は0.05秒としておこう。言ってみたかったんだコレ。




