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第十二話

「……」

「……」

「……」

もう言葉が出ないか、軟弱者め。

見渡す限りの雑草に、ボロボロの家。雨漏りなんて日常茶飯事ですがなにか?と言った様相の屋敷を前にして皇帝たちは黙り込んでしまった。ちなみにオババは帰らされた。さよならオババ。

「…やはり、家だけでも変え」

「よーし、では中へどうぞ」

皇帝が言い切る前に強引に引いた玄関の扉はギギギギッと立て付けの悪さを披露して場を更に暗くした。

「…あー、中は結構住み心地がいいんですよ」

無理やり全員を屋敷に押し込み、中のボロボロ加減に全員分の唖然顔を受け取る。

うーん、困ったなあ。どこに行ってもマイナス要素しかないぞ?

その後も部屋を案内するたびに皇帝の顔が曇っていく。書斎まで辿り着き、扉を開けると、

「コケー!」

「あっ、コケちゃん」

止める間もなくコケちゃんが皇帝に飛びかかった。

「な、なんだこの鶏は!」

驚いた様子で少し下がった皇帝の前にジャーハオが出る。刀に手をかけたのを見て、慌ててコケちゃんを抱き抱えた。

「コケちゃん、落ち着いて」

コケちゃんは怪訝そうな顔でわたしを見上げて小首を傾げた。

か、かわいい…!

「…その、コケちゃんというのは何だ?それは、食用の鶏ではなかったのか?」

こちらは怪訝そうに首を傾げた全然かわいくない皇帝だ。

「コケちゃんっていうのはこの子名前です。コケちゃんはこんなにかわいいのに食べるなんて…」

「珍妙な名だな」

失礼な、かわいいと言え。

「コケレオイマス2世が正式な名前です」

ぐっとコケちゃんを皇帝に近づけると、嫌そうな顔をして半歩下がった。

「余計に変だ。1世もいるのか?…いや、それよりこの家はやはり人が住むところではない」

「1世は前に飼っていた猫です〜」

不都合な言葉は無視して、書斎に入る。机には書きかけのコケちゃん。棚にはこれまで書いてきた大量の絵が積まれている。

そういえば、この時代に絵画ってどのくらい進歩してるんだろう。まだ筆で描いてるよね。

「!?なんだ、この絵は?」

皇帝は入ってきた途端に驚いた様子で机の上のコケちゃん画を手に取った。

まだ描きかけの絵だから恥ずかしいな。

ジャーハオも驚いたように棚の絵を眺めている。

「どういう魔術を使えばここまで本物に瓜二つで美しい絵が描けるのだ?これはまさかお前が…?」

美しいって、照れるなぁ。

「そうですね、まあ。全然下手ですけど」

なんて、心にもないことを言うが、

「これが下手なわけなかろう。これまでになかった画期的な絵ではあるが、本物をそのまま閉じ込めたかのような素晴らしい絵ではないか」

皇帝のベタ褒めで形ばかりの謙遜も吹き飛ぶ。

自己肯定感爆上がりだ。

「これは、何を使って描いているのだ?筆ではないな」

「あ、はい。このボールペンというのを使って描いてます」

「ぼーるぺん?…これか、不思議な形をしておるな」

「そうですね、本当は鉛筆とかのがいいんですけど」

「鉛筆ならある。最近異国から輸入されたばかりではあるが、何故知っているのだ?」

「え、それは、まあ…。あ、こちらにも絵があって、見てもらえます?鉛筆はください」

「おお…、素晴らしい絵ばかりだな。このような見事な絵は異国の絵も含めてこれまで見たことがない」

などと絵の話で盛り上がりつつ、わたしの自尊心も盛り上げてくれた皇帝はしばらくわたしの描いた絵を真剣な顔で一枚一枚眺めていた。ジャーハオも今日は随分唖然とした顔を見せてくれたが、それに劣らないほど驚嘆の顔で絵を眺めているので、気を良くして話しかけると「…実に秀でた絵の才能をお持ちですね」と感想をくれた。満足である。

「…ここまで卓越した絵の才能を持ちながら、何故これまで一度も名を聞かなかったのだ?お前は絵師ではなかったのか?」

……なんですか、今日はナゼナゼ期なんですか?2歳児なんですか?

「あー…、まあそうですね、絵師ではなかったですけど」

「何故だ、世界から見ても非凡な才能を持っているのにも関わらず」

皇帝はわたしの目をまっすぐに見つめて聞いてくる。さりげなく視線を外しながら、

「……いやー、まあ、このくらいじゃまだ世界には通用しないです」

はは、なんて乾いた笑いを披露しつつ皇帝の手から絵をそっと抜き取った。

「それよりもう日も暮れますし、わたしも夜ご飯の準備をしなきゃいけないので、そろそろ…」

はよ帰ってくれ。最後の言葉は心に秘めつつ、皇帝ーーの後ろにいるジャーハオを見ると、軽く頷いた彼は皇帝に帰宅を促してくれた。

「うむ、そうだな。そろそろ戻らなければいけないが……これらの絵を一枚だけでも貰えないだろうか?」

伺うようにこちらを見る皇帝に軽く頷く。

「コケちゃんの絵で良ければ、ですけど」

「!ああ、構わない。ありがとう」

ボールペンで描かれた、作品とも言い難いそれを皇帝は大事そうに抱えて部屋を出た。

「…正直なところ、ここに住むのはやめておいてほしいのだが…」

最後に門の前で皇帝が口を開いた。

「…しかし、芸術家は奇妙なものを好むと聞く。お前もそうなのだろう。創作の邪魔をするつもりはない、好きにするがいい」

そう言って踵を返し、去っていく。

…最後にとんでもない誤解をしていったなアイツ。

とはいえ、訂正する気もないので何も言わずに、深く頭を下げて帰っていくジャーハオに軽く手を振った。

「………」

………絵師ねえ。

軽く俯くわたしの脳裏に記憶が蘇ってくる。

『ーー君の絵は非常に美しく写実的だが、何も訴えてこない。そっくりなだけなら写真でも良い。そこを改善しなければいくら才能があっても画家にはなれないだろう』

……全く、嫌なことを思い出しちゃったなあ。

「さて、コケちゃんにご飯あげなきゃ」

わたしは、ブルブルと頭を振って嫌な記憶を振り払い屋敷に入った。

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