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第十話

翌日には皇帝から大量の燭台と蜜蝋セット、鰹節、昆布、塩、胡椒、味噌、醤油、麹、砂糖、米が届いた。

後藤美帆は、調味料を手に入れた!

ティロティロティーン、という効果音が頭のなかで流れる。

まあ相変わらず二十メートル手前くらいに置いてあったけど。

学ばん奴らやのぉ。皇帝にバレても知らんぞ、ちなみにわたしは積極的にチクるぞ。

すまんな、食べ物の恨みは深いんだと思ってくれ。

それにしても、米も入れてくれたのは嬉しい誤算だ。お鍋なら米も食べたくなるもんな。

ふひひひひ、と止まらない不気味な笑い声を上げながら意気揚々と台所へ向かう。

さて、それでは始まりました、後藤美帆の古代中国クッキングー!パフパフー。

まず初めに米を研ぎます。それから水につけて火をつけられるコンロと思しきところにおき、火打石を叩いて火をつけます。

それから、鍋に水をいれ、昆布をつけておきます。

30分ほど待ったあと、弱火で沸騰直前まで煮るーーーのだが、弱火の調整がわたしにはできないので3分ぐらいで沸騰させてしまった。まあ、しょうがない。

火を止めて、ナイフで少しずつ鰹節を削り入れ、再沸騰を待つ。アクを気長に取っていると、台所中に充満するいい匂いにお腹が空いてきた。まだまだ先は長いが、期待だけは大きく膨らんでいく。

鰹節を入れて煮ている間に、朝収穫した野菜を全て洗い、ナイフで皮を剥き、一口台に切っていく。

鍋に味噌を入れたあと、切った野菜を投入。ぐつぐつ煮ながら、ふと鶏の存在を思い出し、庭に出た。

鶏は逃げることなく、草の間で日向ぼっこをしていた。

「……」

「……」

しゃがみ込んで見つめ合うわたしと鶏。

うるうるした瞳でこっちを見ている。

「……」

うるうるした瞳でこっちを見ている。

「……」

うるうるした瞳でこっちを見ている。

うるうるした瞳でこっちを見ている。

「…ああ〜、だめだ殺せない!」

こんな可愛らしい鶏を殺すなんてわたしには無理!全てあのうるうるした瞳が悪い!

というか、そもそも鶏一匹丸々捌くとか、多分わたしにはできない。

「はぁ〜、しょうがない、肉はまた今度にしよう」

今日からお前はコケレオイマス2世だ。一世は以前飼っていた猫。

諦めて立ち上がると、鶏もといコケレオイマス2世が感謝を伝えてくるように足に頭を擦り付けてくる。なんだ愛い奴じゃのぉ。

ニマニマしながら台所へ戻った。




丁寧に準備した鍋はいい匂いを発してわたしの食欲をひどく刺激した。

塩と胡椒で味を整え、ずっと調理に使っていた木のスプーンのようなもので少しずつ皿によそる。ちなみにスプーンや箸、茶碗みたいな深さの木の皿はあったが、お玉とかフライ返しとかそういうのはなかった。

ドキドキしてくる気持ちを抑え、目の前に並んだ即席鍋とツヤツヤしている米を前に手を合わせる。

「…いただきます」

箸を手に取り、まずは鍋を一口。

「…っ〜〜」

ゆっくり煮込んだ野菜たちの旨みが一斉に口の中に広がる。なんだこれ、異様に美味しい。

久しぶりに食べた鰹出汁や味噌の味に涙が出てきた。日本にいた頃は当たり前だった彼らの恩恵を今、最大限に享受している。

ツヤツヤ輝いているご飯を一口、口に入れ、ほかほかのご飯を噛み締めるだけで優しい甘みがわたしの心までもを満たしていく。

長年日本人の主食であっただけあるなあ、と胸がいっぱいだ。

やっぱりパンなんで目じゃないですぜ、米パイセン!

初めてこれまでの怒涛の暮らしが報われた気がした。

今までの色々が蘇ってきて、まったく涙が止まらない。

結局色々な意味の涙を流しながらわたしは米と鍋を堪能した。


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