表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/8

Gemini版「ソラを喰らうもの」

それは、顕微鏡の向こう側に揺らめく、名もなき「失敗作」に過ぎなかった。

アメーバ状の突然変異体。その生物には「満腹」という概念が欠落していた。最初の一口は、実験室の培養液。次は研究員の手首。そして、建物、都市、国……。

島喰しまぐい」と呼ばれた頃には、人類はまだ抗えるはずだと信じていた。だが、ミサイルも、レーザーも、化学兵器も、その全てがカレにとっては豊かな「栄養」に過ぎなかった。

攻撃を受ければ受けるほど、カレは強固に、巨大に、そして凶悪に変質していった。

海を飲み込み、大陸を削り取り、最後には惑星の核まで食い尽くした。

命からがら脱出した数隻の移民船。その窓から人類が見たのは、かつての母星があった場所に鎮座する、星の質量をそのまま肉体へと変えた「星喰ほしぐい」の姿だった。


新天地のコロニーで、人々は怯えながら暮らしていた。

「いつか、あの怪物がソラを渡って来るのではないか」

そんな根源的な恐怖が、人々の精神を蝕んでいく。

その中で、一人の科学者がいた。かつて母星で、最初の「島喰」の培養に立ち会ってしまった男、カインだ。

彼の瞳には、希望など一欠片もなかった。あるのは、自分たちが創り出した怪物に対する、底なしの憎悪と、歪んだ責任感だけである。

「毒を消すには、より強い毒が必要だ」

カインは研究を重ねた。星喰の細胞サンプルを、禁忌の手法で改造し、改良し、洗練させた。

彼が創り出したのは、**「共食いに特化した星喰」**の種子だ。

だが、その新種を孵化させるには、莫大なエネルギーと、複雑な有機情報のテンプレートが必要だった。

カインは管理局から高速宇宙船を強奪すると、未開の惑星へと向かった。

船内。彼は自らの腹部に、その「種」を埋め込んだ。

「さあ、私の肉を、記憶を、憎しみを喰らえ」

カインの体は内側から作り替えられていく。絶叫はすぐに肉の塊に飲み込まれ、宇宙船の隔壁さえも彼の「皮膚」へと変わっていった。


それから数年後。

宇宙の暗闇を、巨大な「影」が彷徨っていた。

カインであったはずのその生物は、オリジナルの星喰を遥かに凌ぐ、禍々しい赤黒い輝きを放っている。

それは、特定の波長だけを追い求めていた。

自分と同じ、忌まわしい「ソラを喰らうもの」の匂いを。

遠い銀河の果て。

かつて地球を喰らった「先代」は、すでに数多の星を飲み込み、静かに次の獲物を探していた。

そこへ、彗星のような速度で「二体目」が肉薄する。

星と星が衝突するような物理現象ではない。

それは、存在と存在が互いを否定し合う、宇宙規模の咀嚼そしゃくの始まりだった。


逃げ延びた人々は、遠い宇宙の彼方で、見たこともない色の超新星爆発を観測した。

一つは、全てを無に帰す「黒」。

もう一つは、執念が燃え盛るような「赤」。

二つの絶望が噛み合い、互いの質量を削り、貪り合う。

一人の男の狂気が生んだ「二体目」が、オリジナルの喉元に喰らいつく。

その戦いが終わる時、そこには何も残らないだろう。

宇宙そのものが食い尽くされるのが先か、あるいは二つの怪物が共倒れになるのが先か。

人々はただ、祈ることも忘れ、ソラを見上げている。

二つの「ソラを喰らうもの」が、いつか互いを消し去ってくれることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ