そのままの君
カオルとエマの思いはしがみつかない性で触
れ合う。初めて女性を抱くカオル。
その後エマはツアー中に熱狂的なファンに刺殺
されてしまう。
= そのままの君 =
僕は四十を過ぎて、自分を見つめ直す事にし
た。 恋人も作らず、仕事も増やさず、たまに
母親に会ったりして本当に自分が好きな絵を描
く事との向き合い方も難しく考えずに、ゆっく
りと時間に身を任せてみる事にした。
土砂降りの午後にアトリエに来たのは、タケ
キでもリンジーでもなく、エマだった。
音楽で成功しても、気取らずに変わらないエマ
の姿に僕はどことなくホッとした。
僕はエマの記事の事は触れなかった。
本当は少し気になる気持ちを抑えた僕がいた。
エマはどこか痩せたように見えた。
その夜、久しぶりにリンジーとエマでお酒を
飲んだ、エマはいつものミルクティで乾杯。
ミルクティを見たリンジーは何とも言えないふ
くみ笑いをした。
近々、僕のアトリエでトワイライトの写真の展
示会を開く事になった。
なんと写真家はタケキだった。
でも、ドロドロなんかしてないさっぱりとし
た関係。どうしてだろう、エマは僕の周りの
人までも幸せにしているように思えた。
展示会当日、沢山のお客さんの中にタケキの
姿があった。タケキは相変わらず、屈託のな
い笑顔でいる。その笑顔をエマに向けられて
いるのを見て僕は嫌な気持ちになった自分が
いた。エマへの嫉妬ではなく、タケキがエマ
に好意を寄せているのではないかと察した。
タケキがエマの髪を触るのを僕は見れなかっ
た。
この時、僕はエマが好きだと気がついた。
そんな僕にリンジーが近寄る
「タケキってキモいよなー。」
「ハハハ…うん。」
リンジーのガムの匂いはレモンの香りがした。
「タケキはさ、自分に利用価値がある人間に、
あぁやって性欲が湧く人種なんだと思うよ。医
者の元カレの時は金、カオルの時は展示会の場
所、エマには写真のネタ。アイツの写真が愛さ
れるのはさ、写真しかないんだわ、アイツに。
人を利用しても自分の写真に魂込めて売り出す。
やり方は嫌いだけど、アイツの顔はもう元がど
んなんだったか分からない程にタトゥーで埋め
つくされてる、相手を傷つけた分入れ続けるし
成功した分だけ体に刻むんだろうね、キラーイ」
リンジーの棒読みの言葉が妙に心に響いた僕はリ
ンジーに共感してしまった。
「僕もキラーイ。」
「ねぇ、カオル?エマさ、あんたの前でミルクティ
飲んだだろ、あれエマがやりたい相手の時に飲む
んだよ。知らなかったでしょ。」
「えっ…」
僕はエマとの夜を思い出していた。あの時も確か
にエマはミルクティを飲んでいた。
「まぁ、カオルは男好きだからエマより私の方が
まだいけるっしょ。お断りだけど。」
リンジーが話す度にガムがクチャクチャ音を立て
てリズムを刻む
「リンジーさんはちょっと…」
リンジーは僕に肘打ちすると、鼻で笑ってエマに
何やら耳打ちをした。
エマが僕の所に来ると、ミルクティ片手に
僕に乾杯を促した。
この時、僕は今夜誘われた事に気がついた
「乾杯」
「乾杯」
その夜、僕のベッドには裸のエマと僕がいた
エマの青い瞳と白い肌、僕よりも小さな体で
そっと激しくキスをする
正しくて正しくないマイノリティー。
僕たちは両性愛者か…ゲイなのか、レズなの
か…虹色みたいに広がる感情に虹の端っこが
どこにあるのか分からない。ただ、僕たちは
確かに求め合っていた。
桜の花を見て足を止めるのは、きっとまた、
すぐには会えない事を知っているから。
美しく咲いて散ってしまう瞬間を僕たちは今
生きている。
「痛いっ」
僕がエマの体に挿れようとした時、エマは痛
がった、確かに濡れているのに…
「ごめん…私、したこと無いの。」
「へっ?」
僕はエマの言葉を理解できなかった。思わ
ず正座をしてしまった。
「男の人とした事なくて…」
「でも、でもさ、おもちゃ的なものもないの
?」
「ラテックスアレルギーで…」
エマの表情に嘘がなく、僕が初めての男にな
ってもいいのかしばらく目を瞑って考えてい
るうちに陰部は力なくフニャフニャになった。
僕たちは肩を寄せ合い話しあった。
「そもそもどうして僕なの?」
「…カオルと初めて出会った時は救えなか
った人と重なっただけだった。理解したく
てカオルの事ばかり考えるようになった。
女の子の姿のカオルを見た時、少し気が楽
になった。 …あの子も本当はこんな事し
たかっただろうって、綺麗で可愛くて、こ
んなキスしたかったかもしれないって、カ
オルと死んだ弟の姿を重ねたの…私。」
記事を読んでいた僕は、エマの言ってる事を
理解したと同時に言葉に詰まってしまった。
「…あと、タイプだった。」
エマが冗談ぽく笑いながらいうと僕は嬉しく
てエマにキスをした。
「しようか…」
僕たちは長めのキスをして、エマが初めて
僕にしてくれたみたいに、首筋からキスを
して、エマの胸を優しく揉んで少しずつ舐
めた。
僕が初めてされた時とは真逆にして、彼女
の初めてを丁寧にした。エマが僕にしてく
れたみたいに。
僕は人生で初めて女性の陰部を見た。
まじまじと見ながら触るよりも先に舐めたい
衝動にかられた。僕は舐め方がわらずに夢中
で舐めてしまった。エマは僕の髪を掴み痙攣
すると足を閉じて僕の頭を太ももで挟む、僕
は優しくしたいのに、妙に興奮して閉じよう
とするエマの太ももをガバッと開き胸を鷲掴
みにしながらエマの陰部を舐め続けた。エマ
の喘ぐ声が、もっと乱暴にしたいと思わせた。
この時、僕は少しだけタケキを理解した。
エマの中に指を入れて激しくすると、エマの
陰部から大量の潮が溢れ出て僕の腹にかかる
僕はその汁が滴る陰部をすすった。
そして、エマが起き上がり、僕を押し倒すと
僕の陰部にヨダレを垂らしてねっとりと吸い
付く、ちゅぱちゅぱと淫乱な音がしてエマは
僕の肛門に指を入れえる。僕はすごい反応を
してしまった。
陰部を吸われながらエマの右手は僕の奥まで
入り刺激すると同時に左手乳首を引っ張る。
「ハァン…」
僕は幸せに思った。こんなに互いを思いやる
セックスができる事に満たされた。
僕がエマの顔をゆっくり持ち上げ、僕の陰部
がエマの口から離れると〝チュパ〟っと離れ
た音がした。
僕はエマを仰向けにさせると、硬い僕の陰部
をエマの陰部にあてる
「挿れるよ…」
グググッ。エマの表情を見て痛そうで妖艶で
堪らなくなった。僕は知ってるこの痛みを。
半分まで挿れると少しずつ出し入れしてエマ
の体に馴染ませた。柔らかくて気持ちい感触と
エマの陰部からの血液が僕を興奮させた。
僕はエマのどの表情も見逃したくはなかった
一気に奥まで挿れる瞬間のエマの歪んだ表情
は世界で僕、一人だけのものだ。と思い満た
されて嬉しくて、僕は気がつくとは激しく腰
を振っていた。
「イっちゃうぅっ」
僕はタケキみたいに乱暴だ、エマが声を上げ
る度に興奮してる、ゆっくり動かして体をくっ
つけてキスをするエマは何度も絶頂した。
「自分で触りなよ」
僕はエマに指示していた。エマは指を僕の
口元に置くと唾をつけるように要求する。
エマの指先にたっぷりと僕の唾液をつけると
エマは自分のをコリコリといじりだす、左手
で陰部を開き右手は激しく動く、エマの息使
いが今までで一番荒くなると両腕に挟まれたエ
マの胸の乳首がピンっとなり僕の陰部をきゅう
きゅうと締め付けた。僕の中の怪物は形を変え
た。果てるエマの顔を見て片手でエマの足を持
ち激しく腰をふる、エマは初めて痛いだろうに
僕はエマの中で激しくイッってしまった。
エマの上に倒れた僕の息は獣でそんな僕の背
中を優しくさするエマを心から愛してると思っ
た。
そして僕たちは、まるで若者みたいに朝まで
愛し合った。
血に染まるびしょ濡れのシーツさえ愛おしく
本気で愛した人が女性である事が不思議な気
持ちでいっぱいだった。
しばらくしてエマ率いるトワイライトは長期
間の国内ツアーと海外ツアーが決まっていた。
桜の咲く時みたく次に会えるのが楽しみだっ
だが、その桜は二度と咲くことはなかった。
海外ツアー中にエマは熱狂的なファンに刺され
てこの世からいなくなってしまった。
僕は土砂降りの日にわざとエマの墓参りに
いった。
たくさんの花は雨に濡れて、僕の顔も土砂
降りになった。初めて会ったあの日、君は
僕の顔を見て〝雨降りなの?〟と聞いた。
それは外の雨じゃなくて僕の感情の事だっ
たんだと今更気がついて、真っ赤な傘をそ
っとエマのお墓にかけてきた。
花の間にいたレモンはたった一つだけ。
花に包まれて一人ぼっちで置かれていた。
= 贈り物 =
僕はエマの死に関するニュースや記事
を読む事を徹底的に避けた。
〝彼女の周りはいつも不幸と死が付きま
とう〟
あの記事を書いた奴が今頃、笑っている
かと思うととても許せそうにないからだ。
元気がない僕を心配してか、絵画教室の
生徒たちは僕に男を紹介してくれたり、
赤マムシドリンクをくれたりした。
みんなは僕とエマとの関係を知らない。た
だのトワイライトのファンだと思っている。
それでいい。
ある朝早くに家のチャイムが鳴った。
インターフォンに映るのはガムをかじりなが
ら中指を立てるリンジーの姿だった。
僕は急いでドアを開けると、リンジーは僕の
髪を思いっきり掴むと、トワイライの未発表
音源と書かれたディスクを僕に投げつけて去っ
ていった。
僕は何故だかリンジーを追いかける事ができ
なかった。あの墓の前のレモンがよぎって涙
が溢れそうになった。
僕はパソコンでディスクを再生して、気がつ
いた時には外は夕方になっていた。
確かにエマは生きて、今でもこうやって生きて
るみたいで、また会えるんじゃないかって叶わ
ぬ願いに希望して絶望する
「ねぇ、今どこにいるの?」
エマの笑顔が頭の中に現れて僕に傘をさした
「雨降りなの」って。囁いた。
数ヶ月経った朝、またインターフォンが鳴ると、
リンジーが中指を立てて立っていた。
僕は反射的に頭を押さえながらそっとドアを
開けた
「うん、」
「えっ、」
リンジーは「うん、うん、」とガムを噛みな
がら茶封筒を差し出した。タケキが撮ったト
ワイライトの写真展の依頼だろうか。
「早く開けろよ」
リンジーは少し不機嫌そうにあくびをしなが
ら言う
「寝不足ですか?顔色が悪いですよ…」
「誰かのせいで寝不足なんだよ、私も人間な
んでね。」
僕はリンジーに言われるまま茶封筒を開けて
書類を 読む。
〝父権肯定確率99・999…%生物学的な
判断……………〟
「これなんですか?」
リンジーは思いっきり僕の頭を叩く
「エマはお前の子供産んでるんだよ!馬鹿た
れが!」
「えっ?」
僕は人生で一番の衝撃を受けた、エマが死ん
だ事実より衝撃な事があるとは微塵も感じな
かった。
「驚く気持ちはわかるが、カオルさエマの
ニュースや記事読んでないだろ、まぁ葬式
も内輪で済ませたし、チッ。まぁいいわ。
会う?会わない?」
「だだだ、誰にですか?」
リンジーはもう一発、僕頭を叩いた
「カオル、お前にの子供だよ!」
「えっ…へっ…」
リンジーの苛立つ貧乏ゆすりと僕の鼓動が
同化していく
「あ、あ、会います!」
耳をほじり、ほじりカスを僕に吹きかける
リンジーに僕はついていく。
リンジーの高級車の後部座席で僕は蚕みた
いに丸くなった。
バックミラーに映るリンジーの顔が酸っぱ
いレモンに見えた。
綺麗なタワマンの駐車場に入ると、車のド
アが閉まる音が駐車場にこだまする。
足音が薄暗い風と共に響き、僕は足を止め
てしまった。僕はどんな顔して今更、子供
に会えば良いか怖くて堪らなくなった。
リンジーはそんな僕の姿を見て、煙草に火
をつけようか迷っていた。
「クソだ…」
リンジーが手を膝におき顔を下にして泣き
出した。一番苦しいのはこの人なのかもし
れない。
泣くリンジーに近寄ると「行きましょう」と
喉から、情けない声で言った。
エレベーターの静かな音とリンジーの鼻を
啜る音だけ責任と罪悪感という空気を僕に
吸わせた。
エレベーターの扉が開き、リンジーがスタスタ
歩きだすと、僕の鼓動は信じられないほど早く
なり逃げ出しそうになる。でも、心の端っこで
はエマと僕の子供が、どんな子かドキドキして
会いたい気持ちと不雑な気持ちで僕は大きなた
め息が出た。
リンジーが扉を開けると、リンジーの彼女が、
穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「怖かったでしょ。」
そう僕に声をかけてくれた。
「上がって?」
レモンの香りが広がる玄関で僕はそっと靴を
脱ぐと、元気な赤ちゃんの声が響いた。
リンジーは走って中に入り、赤ちゃん言葉で
赤ちゃんをあやした。
リンジーのあやす声がすると、泣き声は聞こ
えなくなった。僕は玄関で固まってしまった。
「リンジーね、変わったのよ。煙草も辞めて
お酒も辞めて。命って凄いわね。私がいくら
言っても煙草もお酒も辞めれなかったのに、
簡単に人を変えてしまうのよ、だから大丈夫
貴方も変われると思うわ。」
リンジーの彼女はずっと、赤子の面倒を代わ
りに見れてくれてたのだろう。優しい言葉と
疲れた表情は母性で溢れていた。
一歩、一歩とリビングへ足を進める僕はリン
ジーが抱く白いおくるみに包まれた、とても
小さな命の塊を直視して顔を覗かせた。
信じられないほど小さな手と信じられないほ
ど小さい足で小さな小さな口を開けあくびを
する。
リンジーがそっと、僕に抱くように、この子
差し出した。僕は震える手でゆっくりとしっ
かりと、まるで壊れ物を持つように抱いた。
黒い瞳は真っ直ぐに僕を見て逸らさない。
「ごめんな…ごめん…僕は土砂降りだ…」
ボロボロと泣く僕は命の重みを抱き立ち尽く
した。
「カオルさん、話があるの。」
リンジーの彼女は僕に強い目を向けた。
その時僕は、リンジーの彼女が言う台詞を察して
しまった。
「もし、カオルさんが…」
「いや、僕が育てます。」
僕はリンジーの彼女の話を遮るように言ってし
まった。
「でも、カオルさん本当に育てられるの?」
僕は今さっき自分が育てると啖呵を切った
ばかりなのに不安な気持ちが押し寄せた。
〝僕はこの子を幸せにできるのか…〟
「エマが死ぬ間際にこの子をカオルに会わ
せてやって欲しいと言ってさ。でも正直、
カオルにこの子は育てられないと思う。」
リンジーの心の芯の奥深い感情が声になっ
て僕は、この子がいつ生まれたかも、名前
すら知らない。
「名前は?」鼻水を啜りながら僕は名前を
聞いた。
「サクラ」
リンジーが名前を言うと僕の腕の中で小さ
くしっかりと反応したように動いた。
「まだね、サクラは三ヶ月なのよ。カオルさ
ん何も知らないみたいだから、リンジーと話
をするといいわ。」
リンジーの彼女さんがそっと手を差し出し、
僕はサクラを手渡した。
ソファに座り、リンジーは首を鳴らしながら
話てくれた。
北米ツアー中にエマはサクラを出産した、かな
りゆとりのある服を着てライブをこなし、日本
ではエマ激太りと記事になっていた。
日本に帰国した時には痩せていて、エマが妊娠
していたのではないかと話題になったが、妊娠
しながらあのパフォーマンスは不可能という憶
測の記事で、エマは記者からの質問に黙秘を続
けたらしい。
またすぐに、アジアツアーに出た矢先に、エマ
の熱烈なファンがエマの背中目掛けてナイフを
刺した。傷は内臓にまで達していた。
ファンが刺した理由は、エマの妊娠疑惑の記事
を読んで、男に取られるくらいなら私と一緒に
死んで欲しかった。裏切られた気持ちになった。
エマはリベルタスの象徴。私たち性的マイノリ
ティの希望であり、レズビアンの女王。女王を
汚い男から守ってやった!と叫んだ後に、後追
い自殺をしたと言う。
「僕のせいだ…」
僕がエマを妊娠させなければ、僕なんかがエマ
と寝たから…こんな事に。
「それは違うよ、エマは妊娠してる時が一番、
幸せそうだった。女としての幸せを手にしたん
だよ。やっと。」
この時のリンジーの顔は、バーでリサが死んだ
時の事を話てくれた時と同じ顔をしてた。
「私たちにサクラを養子として育てさせてくれ
ないか?彼女と話て決めたんだ。」
リンジーが僕に頭を下げてサクラを育てたいと
言った。
僕はなんて言えば良いのだろう。手にした瞬間
に永遠に失うような事気持ちに、僕はすぐに返
事ができなかった。
「少し時間を下さい。サクラを母に会わせても
良いですか?」
リンジーと彼女は小さく頷いて僕を理解してく
れた。
= 夕暮れに約束を =
抱っこ紐の中のサクラは僕に抱かれ、電車
に揺れる。
ぐずる事もなく、おしゃぶりをして真っ直ぐ
に僕を見て手足をバタつかせる。
僕は体を揺らし、電車に揺られサクラをあや
した。
小さな駅に降りると秋だと言うのに暖かな空
気が僕とサクラの頬を撫でた。
駅前通りのブティックの扉を開ける、扉に付
けられた鐘の音が綺麗に音を立てた。
僕の母はここで小さな店を経営をしていた。
「誰かと思えば、カオルじゃないか。久しぶ
りすぎて忘れたわ」
母はリンジーと同じ台詞をいつも言う。二人
は会った事などないのに。
店がレモンの香りがしてないか鼻をひくつかせる
自分がいた。
「なぁに、子守?誰に頼まれたのよ。お母さん
あてにしないでよ?これから店の準備なんだか
ら」
抱っこ紐に抱かれたサクラを自分の孫だとは全
く思いもしていないだろう。母は僕が男性を好
きな事を一番に気がついてくれた人だから。
「あの、お母さん…この子…僕の子なんだ」
母は一瞬、ポカンとした顔をした後に大笑いを
した。
「親孝行のつもり?友達の子、連れてきて私に
赤ちゃんを抱かせてあげようなんて思ったの?
敬老の日でもないじゃない。 もう、孫なんて
とっくに期待もしてないし、私には縁のない人
生だって早くに諦めてます。 それにそんなに
早く私をお婆ちゃんにしないでよね」
「いや、母さん今年で六十八歳だろ、もう十
分お婆ちゃんだよ…」
「失礼しちゃうわぁ、これでも今私、一番の
モテ期なの」
「母さん、僕が男の子を好きで女の子の心を
持ってる事気がついてくれた時、デパートに
連れ行ってくれたよね。ワンピース買ってく
れて帰りにアイスも食べさせてくれた。ワンピ
ース姿で踊る僕の写真も沢山撮ってくれた。凄
い嬉しかったよ。僕はお母さんが大好きだった。
夜中にこっそりとワンピースを抱えて泣く母さ
んを見て僕は凄く申し訳ない気持ちになって…」
母の鼻笑いが何処か懐かしげだった。
「アンタ、よくそんな事覚えてるわねぇ」
「僕は母さんの子供に生まれて幸せだった、あ
りがとう」
「どういたしまして。こちらこそ、私の子供
に生まれてくれてありがとうね。」
僕は自分の子供ができて初めて母さんの気持
ちに寄り添えた気がして泣いていた。
「もう、どうしたのよ?赤ちゃんに触れて親
の気持ちでもわかったつもりなの?」
「この子サクラって言うんだ。僕が初めて好きに
なった女の子が産んでくれたんだけど、その子
が死んじゃって…」
泣きながら話す僕の姿に母は、淡々とグラスを
棚にしまっていく
「本当にカオルの子なの?」
「ちゃんと検査もした。本当に僕の子」
その時、サクラがぐずり出し大きな声で泣き
出した。
母はそっとサクラに近づきサクラの顔を見た。
「カオルにそっくり…」
母は大粒の涙を浮かべてサクラの名前を読んだ
「サクラ、生まれてくれてありがとう。」
母は抱っこ紐からサクラを出すと、少し若返っ
て見えた。
あの頃、僕はこの人に同じ眼差しを向けられて
愛されていたんだ。と全てが何一つ間違いなん
てなくて、そこには確かな愛があったと思った。
そして、僕はリンジーとリンジーの彼女にサクラ
を育ててもらう事を決めた。
リンジーとリンジーの彼女は、僕の母と同じ眼
差しでサクラを見ていた事に気がついた。
僕は誰もいない夕暮れどきの浜辺で、トワイライ
トをききながら家族三人の最後の時を過ごした。
昼と夜の間のトワイライトの光の中で。
〝人は心が暗闇の中にいるから天国に憧れてし
まう。でも、天国からだって涙が降るよ。君の
頭を濡らしてしまう。
そんな時は、私が傘をさしてあげるから待って
て。〟
エマの歌声にサクラは眠った。
秋に桜の木はたまに勘違いして花を咲かせる事
があると言う。
「カオル…」
僕の名前を呼ぶ君の声が聞こえた気がした。
僕はサクラの花を抱きしめて匂いをかいで、
桜が咲いたと勘違いしたままで生きていようと
決めたんだ。
どうか生きてください。
永遠にトワイライト。
= 完 =




