人間臭くて泥臭い
正しい性と正しくない思いに揺れ、カオル
の人生が変わり始める
= 人間臭くて泥臭い =
トワイライトのライブで知り合った人と僕は、付
き合い出した。
名前はサトシ、歳は僕より五つ若く職業は医者だ。
タケキとの痛々しいセックスがトラウマになって
いた僕はサトシとの夜の営みは、もっぱらオーラ
ルセックスだった。
サトシはそれで満足してくれた。
三十四歳で職業が医者と言うだけでモテない訳が
ないサトシは見た目は真面目そうな気難しい空気
感を漂わせている人だった。
「今日も誘われちゃったよ、看護師の飲み会に」
サトシは不安を煽らせようとする発言が多い。
「どうして行かなかったの?」
「カオルのをこうやって気持ち良くする為だよ」
僕たちは互いに向かい合い、足を広げ絡ませて
互いの陰部にたっぷりのローションを塗り扱き
合う。
キスをしながら、会話をする
「もっと早く!強く握って!」
僕が息を悶えさせながら指示するとサトシ
は激しく興奮する
「ねぇ、この事、誰にも言わないで…」
サトシはいつもこの台詞を言うと射精する
そして、僕の陰部の先にサトシの尖らせた
舌先が尿道を塞ぐ
「出して、出して!!たっぷり口に出して!」
僕が射精すると暖かい珈琲を啜るように
僕の精液を吸い取ると〝ゴクッ〟と飲む
「ねぇ、誰としたの?」
「サトシとしか、してないよ?」
「嘘だよ、精子の量も味も全然濃くない」
サトシは毎度性行為が終わると僕の精子
の量や味で僕が浮気をしていないかを確認
する。
最初は冗談で言っていると思ったが、サトシ
が納得いく理由を言うまで納得してくれない
のだ。
「一人でしたの?」
「してないよ…」
そして泣き出すサトシを見て僕は頭を抱えた
「もしかしたら、僕ももう四十だし精子の質
が日々落ちてるんだと思う…」
「…そっか。それならいいよ。いい薬がある
から」
僕はこの時、サトシの抱える闇みたいな物を
感じ怖くなったのだ。
そしてサトシは日々僕を束縛した。
水彩画教室の生徒に同性愛者がいないか、
Kaeruに飲みに行く事も制限された。
何がここまでにサトシをそうさせるのか分か
らず僕は彼が勤める精神科の病院の外から少
し様子を見に行った。
外からは何も見えてこない事は分かってはい
たが、この病院に出入りする人の表情が普通で
は無い人が多いのだけはわかった。
その日の夜、僕はサトシに呼ばれて彼の家へ
行くと明らかに不機嫌な態度のサトシがいた
「今日、病院に来たでしょ。」
「えっ…」
「GPS気づいてないの?」
僕は背筋の毛が鳥肌と一緒に逆だった
「はーい、馬鹿。みーんな馬鹿ばっか。」
サトシがウィスキーを溢しながら飲むと
僕のカバンのを指差した
「ど・こ・で・しょう?」
僕は自分のカバンをひっくり返しGPS
を探した。その光景が滑稽だったのかサ
トシが大声で笑いだす
「あははははははははははは」
この男は薬でもやっているのではないだ
ろうか、僕はカバンの中を全て見てもGP
Sは見つからない
「うっそでーす!」
「…どうしたの?おかしいよ…」
ウィスキーグラスをテーブルに叩きつける
サトシは僕を睨みつけると急に肩を振るわ
せ泣きじゃくる
「しようよ。」と声をひくつかせて言う
「えっ…」
「セックスしよ。」
僕はとてもじゃないが、そんな気持ちにな
れずサトシの背中を摩った
「いいもの見せて、あ・げ・る」
僕は心底ゾッとした。
サトシの目は病院に出入りする人と同じ目を
していた。
サトシは、てくてく歩くと鍵のかかった部屋
を開けた。
扉の向こうは、拷問器具のようなSMプレイ
のような部屋だった
「今夜はとにかく虐めて欲しい」
僕は薄々は気がついていたがサトシは…
ドMだった。しかもヘビー級だ。
「タァタ、イテ?」
言ってることは破茶滅茶であるが、サトシは
こういうプレーが本来好きであり興奮する
事を理解した。
「ごめん、僕は人を叩いたりはできない」
サトシは僕の腕を持つと自分の頭めがけて
振り下ろす、だが僕も体が反応して手を止め
ると地団駄を踏み怒り出すサトシ。
「何で、何でだよ!!!お前の元カレはちゃ
んと喜んでしてくれたのに!!!!」
「え???」
僕はこの時、頭の中で耳鳴りのような音がした
「ホンジョウタケキ君でしょ。」
僕は驚き過ぎて声が出なかった
「ほーんと馬鹿。私の職業さ医者だよ?金さえ
あればどんな情報だって手に入るのっ」
こいつは完全に狂ってる。
「タケキってね、凄いんだから。凄く痛くする
のアイスキャンディーみたいに舐めわ…」
「やめてくれ!!」
僕は大声で叫んだ
「カオルさぁ、何か勘違いしてない?」
もう僕はこの場から去るタイミングを図
った。
「逃げないで聞いてくれる?タケキはね
私の元・カ・レ。展示会場があるのを教え
たもワ・タ・シ。まさかゲイがアトリエの
オーナーとはねぇ。カオルに出会ってから
タケキは私の所に来なくなって精子の量も
明らかに減ったから浮気してるなぁとは思っ
てたけど…」
僕はこのカオスな展開に頭が追いつかいが
つまりはタケキと出会った時には、タケキ
とサトシは付き合っていて、僕が浮気相手
だったて事か…もう気持ちが悪くて吐き気
がしてきた。
「なーんにも知らないのね? ばーか。」
そうか、そういう事か、サトシとkaer
uで出会ったのは偶然じゃなく、浮気相手
の僕に復讐する為か…僕の絶望のような顔
を見て満足気な顔でサトシは陰部を出し一
人で自慰行為をしだす。もう完全について
いけない僕は口にしてはいけない言葉を言
ってしまう。
「本当に気持ち悪いよ。」
怒りと呆れと哀れが混じった口調で口走って
しまった。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ、イッく。」
僕のこの言葉で絶頂を迎えたサトシを見て
僕は酷く冷静だった。
「GPSどこ?」
「靴の中じきの下、バイバイ。復讐完了」
左右の靴の中じきの下に小さなGPSを
見つけて僕は靴を脱いで裸足で家まで帰っ
た。
僕はトワイライトの曲を聴きながら、気持ち
を落ち着かせた。
僕の中の怪物がまともに思えた。
僕たちは、きっとどこかで狂ってる。
その事を上手く隠しながら本当の事を言えな
いでもがいてる
本当に馬鹿みたいだ。
= 彼女たちの事情 =
サトシと別れてからしばらくして僕は久しぶ
りにkaeruに足を運んだ。
カウンターでリンジーが相変わらずレモンを
かじり煙草をふかす
「えー久しぶり過ぎて忘れたわ、カオルの事」
「いや、ちゃんと覚えてくれてるじゃないです
か…」
「あぁ、別れたか。」
リンジーの鋭い察し能力に頷く事しかできない
僕を見て、ウォッカを差し出すリンジー
「奢りね、一杯だけ。また死のうとかすんなよ」
そこへ、エマが僕の隣に座る
「久々じゃん、恋人とはどうなの?」
僕は彼女たちのガサツで優しい雰囲気に気持ち
がホッとして今までの一連の話を打ち明けた。
「マジガチのホラーじゃん。」
一連の話を聞いたリンジーはレモンを持ったま
ま固まっていた。
「あぁ、でもさ、そのタケキって人が全ての発
端じゃん?」
エマが真っ直ぐ僕を見て、少しドキドキした。
「私とリンジーさ、ホストの経験あるんだけど
結構さ、そんな子いるよ。狂っちゃう子。」
「へぇー。」
僕はサトシみたいな子がいる事より、エマとリン
ジーがホストをやっていた事に驚いた。
「問題なのはさ、そのタケキって奴じゃん。」
芯をついたエマの言葉に胸がギュッとなる僕がい
た。初めての人は忘れられないと言うが、こうい
う事なのだろうか…。
「タケキって奴、かなりタトゥー入ってるだろ?」
「うん…何で?」
「タトゥーを山ほど入れる男はたくさん傷つい
てきた優しい心を持ってた少年。コンプレック
スを隠すためだったり、強く見せたかったり…
本当は弱いのかもね。ほら、樹勢の為にわざと
傷つける林檎の木、あるじゃん。」
「…ふーん。」
「今、絶対適当に相槌打っただろ、まぁ林檎
と一緒かも。実をつけたいのさ。」
エマの言葉はいつも不思議だ。どこか伝わっ
てくる表現をしてくる。
「優しくする優しさは時に暴力に似てる
裏切られた時に生皮剥がされたみたいに
心がえぐられる。自分が本当に人に最後
まで優しくできる自信がないなら、冷た
い奴でいたほうが楽だからね。」
僕はエマの横顔から目を離せなかった。
「エマはどんな恋をしてきたの?」
僕は子供みたいに聞いてしまった。
リンジーがレモンを吹き出すと、レモン
の種が僕の髪の毛に引っ付いてリンジー
が指をさして笑い出すと、エマも大笑い
して、サトシとの一連の出来事が大した
事なく感じた。
不思議な子達だ。
「次のライブはいつですか?」
「しばらくしないよ。」
エマは煙草片手にスマホの着信音が聞こえて
席を離れた。
エマを見たリンジーの目が少しだけ寂し気に
見えた。
僕はこの時、リンジーはエマの事を好きなの
かな…と微かに思った。
「カオル、私はエマの事好きでも何でもない
からな?」
リンジーは僕の心を読む能力があるらしい。
「いや、何というか…」
僕は彼女たちの曲を聴き、こうやって会話して
いるが彼女たちのプライベートな事はもちろん
どのくらい前から活動しているのかも知らなか
った。
「リンジーさんはおいくつなんですか?」
「えぇっと…三十一…二…一…ぐらい」
自分の歳を把握してないあたりが実にリン
ジーらしい。
「エマと私は同じ歳なんだ」
正直な事を言えば、音楽をやっている人は
年齢不詳な人が多いが、彼女たちの話し方
や、佇まいは二十代ではない事は感じ取っ
ていた。
「ふとした疑問なんですけど…トワイライ
トはこんなに人気のバンドなのにどうして、
kaeruのような規模のライブハウスで
しか活動してないんですか?」
リンジーはカウンターのグラスを険しい
顔をしながら洗う。泡の気泡が薄暗いカ
ウンターのライトに反射して綺麗だった。
「私たちみたいのが世に出ると、宗教的
な理由や、特殊な活動家が出てきて徹底
的に叩くのさ、エマはね、本当はボーカ
ルじゃなくてギターだった。レーベルか
らも話はくるが、テレビに出るには、お
偉いさんと寝ろと言われた事もあったし
対バンするバンドは圧倒的に男の率も高い
私たちが男に興味無いってわかってても平
気でヤろうと誘ってくる、まぁそんな事は
よくある話なんだけど…」
グラスの泡を流すのに蛇口から出てきた水
は水圧がなくリンジーは泡を適当に流して
はグラスを淡々と水切り場に置いていく。
「トワイライトの前のボーカルがさ。リサ
って言うんだけど、あまりいい死に方してな
くてね…バンドに誘ったのがエマだったから
責任とか感じてたと思う。ファン中では…
有名な話だけど、カオルは、にわか雨だな」
濡れた手をタオルで拭くとリンジーはすぐに
煙草に火を付ける
「…あまりいい死に方じゃないって事故とか
ですか?」
出来た人ならこんな質問しないだろうに。僕
は子供みたいだ。興味が湧いたのだ。
本当の大人なら聞かないはずだ、後で調べれ
ば分かる事だから。
でも僕はネットの記事じゃなくて、トワイラ
イのメンバーであるリンジーに聞きたかった
のかもしれない。
リンジーは嫌な顔せずに微風みたいな口調
で教えてくれた。
「リサはライブ帰りに同性愛者反対の組織に
殺されたよ。川に上がったリサの姿は身体中
がアザだらけで、服は下着一枚もなく裸だっ
た。死体からは複数人の男の体液が出てきた
と警察から言われて最後に〝明日は我が身と
思って下さい。〟と言われて五人いたメンバ
ーのうち二人はバンドを脱退した、エマはね
本当はストレートなの。でも、この一件から
男っていう人種が嫌いになったんだろうね。
沢山の女の子たちと寝てレズを肯定したの。
きっと自分の中で。」
想像よりもリサの死に方が可哀想で僕は、
聞いた事を後悔したよりも、リンジーに
話させてしまった事を後悔した。
「だからさ、エマがどんな恋をして来たか
なんて質問に私は驚いてレモン吹き出した」
リンジーの笑顔はページのよれた本みたいだっ
た。その物語のページだけ、何度も泣きながら
読まれたみたいに感じた。
「今は、命を狙われる心配とかは無いんですか?」
僕は早口で口走っていた。
「時代が変わって、多様性とかいう都合の良い
言葉も生まれて今は、もう誰も何もしないだろ
うねぇ。分からないけどね。」
時間の流れと時代の情勢にいつの時も
僕たちは翻弄されるのかもしれない。
僕は久しぶりに絵を本気で描きたくなっ
た。
= あの男がやってくる =
僕が久しぶりに描いた絵は大きな賞を貰い
絵画教室の生徒も増えた。人は仕事が忙しく
なり金が入り日々充実すると、時計を見る度
に「こんな時間か…」って言葉が口癖になる
仕事がなければ、働きたいと言い、働けば休
みたい。と言う。夏が来たら暑いと文句を言
い秋を恋しがり、 冬が来たら寒いと文句を
言い、春を恋しがる。
恋人がいない時は人肌を求め、恋人ができる
と鬱陶しくなる。
〝人間は我儘だ。〟
生徒が帰り、夜が深まるアトリエで僕は一
人、溜まりに溜まった絵を整理していた。
〝ドンドンドンドンドンッ〟
どこかで聞いたこ事がある音に胸騒ぎがした
が扉を開けた。
「久しぶり。」
タケキはあの時と同じ屈託のない笑顔でやっ
て来た。
僕は反射的に扉を閉めてしまった。
でも、本当は少し嬉しくれドキドキした自分
がいた。
「カオル?」
あの声でまた僕を呼ぶ。ドアノブにかけた僕の
手は迷いながらこの男を求めているのだろうか…
タケキの足音が遠のき始めた時、僕は扉を開け
て彼の名前を叫んでいた。
「タケキ!」
これが一番の間違い。一度体を重ねた事がある
者同士はすぐにこうなる…
「あ、あ、あ、ああぁ」
月明かりだけのアトリエの壁に手をついて、
タケキのよだれでいっぱいの指が僕の肛門の
奥まで入ってまた髪を引っ張られて、激しく
舌を絡ませると、タケキは僕を机に乗せて、
しつこく指で穴を刺激する
「挿れて!」
僕は、あんなに傷つたのに、雨の中ナイフを
胸に突き刺そうと泣いてたのに。
タケキは焦らしながらゆっくり挿れてきた。
反りたつ僕の陰部の先の割れ目を指で刺激し
ながら乳首を吸ってくる
「奥まで、おくまで…」
グググッ、グッと突き挿されて僕はもうイっ
てしまいそうだった。
僕の耳を舐め、荒い息使いで「イキそ、」
とわざと僕の耳に囁く。だから僕は大声で
「イクっ!!」と叫ぶと、自分の精液が顔に
かかると同時にタケキの陰部が痙攣するのが
僕の体の中でわかった。
アトリエの鏡に映った僕は、淫乱で汚れてた。
そして、タケキは煙草を吸いに外へ行く。
何も変わってない。
煙草の匂いを纏いアトリエに戻るタケキは
何も言わずにヨーロッパへ行ったのは、サ
トシから逃げるためだったと話てくれたが、
僕にはもう、前にタケキに抱いていたよう
な執着は無くなっていた。
「展示会の会場、探してるんでしょ?」
僕は何処か冷たく言いながら服を着て、ため
息を出すのをやめた。
「帰って。ここで展示会なんてしたら、サト
シに見つかるよ。」
「知らなの? サトシは精神科に入院してる」
「…あの人医者だよ?」
タケキとまともに話をした事などあっただろ
うか…タケキの顔を見てもときめかない自分に
少し驚いた。
「親族から俺に連絡があって、毎日俺に会いた
いと言ってると…でも、もうこのまま二度と会
わないでくれって言われた。」
「…そう。」
僕はタケキの煙草を一つ手に取り、生まれて
初めて煙草を吸った
「美味しいね」
僕とタケキは気の向くままにセックスをし
互いに依存する事はなく、タケキの展示会が
終わるとタケキはまた、姿を消した。
= 桜みたいな恋 =
朝日に起こされた僕は、スマホのニュー
スを見て声を出して驚いた。
〝トワイライトが悲惨な事件を乗り越えて、
海外で爆発的に人気を出す〟
トワイライトってあの、トワイライト?
「すごー。」
歯磨きをしながら、記事に貼り付けてある
動画を開いた
画面に映る彼女たちは、間違いなくどん底
だった僕を助けてくれた彼女たちだった。
僕の体は勝手にあの場所へ向かっていた。
kaeruの前は報道陣や新しいファンの
子たちであろう人で溢れていた。
〝トワイライト聖地発祥の地〟などとアナ
ウンサーがカメラ越しに熱烈に話すが、リ
サが亡くなった時にこの人たちは、たくさ
んの憶測し歪んだ報道もした。
ネットで当時の記事や動画を見ても、彼女
たちの素晴らしい楽曲やこの社会に訴える
歌詞すらも伝えず、レズビアンの集団とい
う言い方をしていた。
彼女たちは今、どうしているのだろうか。
タケキとのセックスと仕事の忙しさで僕は
Kaeruに行ってなかった。
僕はこの薄暗い蛍光灯が光るこの場所に来る
とあの時、僕に真っ赤な傘をさしてくれたエ
マを思い出す。
リンジーのレモンをかじる姿はもうしばらく
は見えそうにないが、ライブは見れるだろう。
楽しみだ。
彼女たちが成功して、少し遠い存在に感じて
寂しい気持ちだが、僕は心のどこかでまるで
自分の事のように誇らしく思った。
不思議だ。僕は彼女たちの友達でもなければ
熱烈なファンでもない。
でも、僕はあの時の涙で濡れたページみたいな
リンジーの顔とエマとのキスが忘れられない。
綺麗な思い出なんだ。
「ありがとう。」
僕はkaeruに背を向けて家へ帰る事にし
た。
「カオル!!」
特徴のある声に僕はその声がエマだとすぐに気
がついた。振り向く僕の顔を見てエマは安堵し
た顔をした。
「kaeruは入れなかっただろ?こんな事に
なるって思ってなくてさ、動画がバズっただけ
の今私は、時の人!!」
エマは笑いながら言うと僕の手を取った。
「ねぇ、散歩しない?」
僕よりも小さな手は、あの土砂降りの中で僕
の手を引いた時よりも小さく感じた。
人がまばらな通りのベンチに腰掛けて、散歩
途中コンビニで買った発泡酒とミルクティで
乾杯をした。
「エマは飲まないの?」
「ただ、ミルクティが好きなだけ。」
あぁ。この子と会話すると不思議な気持ちにな
ってエマと話してる。と沁みてくる。
「リンジーは元気?」
「家で、レモンでもかじってるさ。」
「そうだね。」
二人で小さく笑いながら夜空の星が綺麗で、こ
のまま時が止まれば良いと思った。
「カオル、絵で賞をとったでしょ?」
「何で、知ってるの?」
「ファンの子が私の顔に似た絵が大きな賞に入
って話題になってるよ。って教えてくれて」
僕はエマからこの言葉を聞くまで、絵のモデル
はいない。と答えていたが無意識に僕はエマを
描いていた事に気がつかされた。
「おめでとう。生きててよかったじゃん。」
「ありがとう。」
そうだ、僕はこの言葉をこの子に言いたかっ
たんだ。
「ねぇ、絵見せてよ?」
「もちろん。」
この何気ない会話は綿飴みたいだ。すぐに溶
けて柔らかい。
アトリエに着くと、エマは一例した。
「お邪魔すまーす。」
見た目に似合わず、その妙に礼儀良い態度に
僕は思わず笑ってしまった。
〝エマが男の子なら良かったのに…〟
僕はいつにも増してそう思った。
「へぇ、綺麗なアトリエだね。」
「親から継いだだけだよ。」
僕はエマがストレートだとリンジーから聞
いて知ってる事をエマには言わず少し男の
子っぽく話す自分がいた。
「ほら、こっちだよ。」
エマの小さな手を引いて賞をとった絵を見
せた。絵を見たエマの表情は初めてライト
アップされた街並みを見た時の子供みたい
だった。
「タイトル…永遠に光…」
「トワイライト」
僕たちは見つめ合うと、何かを察して目を逸
らした。
「凄いね、カオルは。凄いよ!」
僕はもう我慢できずにエマにキスをした。
自分は確かに男性が好きで、女性には興味は
ないし興奮もしない。
なのに……
僕はエマにキスしたくてたまらなかった。
キスで唾液を吸い合う音だけがしばらく続い
た時、エマが急に体から離れた。
だが僕はもう止まらなかった。
エマの腕を引き寄せてエマの頬に手を当てて、
キスをした。
エマはソファに僕を座らせると、服を脱いで
僕に目隠しをした。ベルトで僕の両腕を縛っ
て耳元で囁いた。
「したいの?」
僕は初めて女の子に興奮をしている。
「したい…」
僕はわざと男みたいな声を出した。ずるい。
だってエマは知らない。
君が本当は男の子が好きだって事、僕が知っ
てる事。
エマは僕にまたがると、僕のシャツのボタン
を一つずつ外して、優しく指で僕の乳首をな
ぞる…首筋からゆっくりとキスをして、柔ら
かで穏やかで…何も言わず吐息だけが微かに
聞こえて、こんなにも静かな交わりを僕は、
知らなかった。
エマが僕のズボンを下ろすと、僕の内腿に音
をたてながらキスをする、エマの手が僕の陰
部を掴むと、ゆっくりと強く扱いていく、そ
して花にキスするみたいにそっと、何度も陰
部にエマの唇があたると僕はカウパー液が溢
れてた。目隠し越しでも分かってしまう。
エマの舌先が僕の陰部の先を小さくペロペロ
と焦らす、エマの温かい唾液が陰部にかかる
のが分かる、エマはなかなか口に僕のを含ん
でくれない…もう早く舐めて欲しくて欲しくて
たまらない僕は、腰を上に上げてしまった。
「な、舐めて…」
「聞こえない…」
僕は少し遠慮して、腰を下ろすと同時にエマは
一気に僕の陰部を含んだ。
「うぅぅっ…」
ダメだ…出ちゃう…僕は腕のベルトを取ろうと
もがくと、エマは僕にまたがりエマのベチャベチ
ャに濡れた陰部が僕の陰部に触れる
「待って、ゴムしなきゃ。」
エマは僕の良い事を聞いてくれない、入ったらど
うしよう…すぐにきっとイクと心の中で言い聞か
せながらも、早くこの子と繋りたい気持ちと興奮
と安らぎで、僕はおかしくなりそうになった。
「安心して挿れないから」
そういうとエマの腰の動きは激しくなり、濡れた
二人の陰部が擦れあい、グチョグチョでエマの可
愛い声が聞こえてくると、囁くように小さな声で
「イク…」というと僕の上で彼女は痙攣して僕に
寄りかかった。
挿れてないのに彼女の陰部の引くつきが僕に
伝わるとエマは静かに僕のを舐める
「一緒にイケなかったね。」
エマは手を使いながら僕のを吸うとすぐにイ
キそうになる
「イッても良いの?」
僕はエマの口の中に出すのを少し申し訳なく
感じた。でも、もう…
「イック。」
僕はビクビク体を震わせながらイってしまっ
た。イッた後もエマは舐めるのをやめない。
「もう、イッたよ…」
「知ってるよ…」
僕は体の力が抜けて、動けなくなるような
何とも言えない気持ちになり
「あぁあああ…」と唸った
そんな僕を見たエマは、最後にチュッと僕
の陰部にキスをしてくれた。
こんな優しい交わりかたを知らなった僕は
何もかも満たされた気持ちになった。
僕の手首のベルトを優しく外してくれて、そっ
と目隠しをとってくれたエマは静かに服をかけ
てくれて、煙草も吸いに行かない。
僕の頭を撫でて、抱きしめてくれて、寄り添っ
てくれた。僕のして欲しかった全ての事をして
くれた初めての人は、男ではなく、女だった。
でもこの時、初めて人に愛されたような交わり
方をして心から「ありがとう。」という気持ち
になった。
僕の中の怪物の皮が剥がれたような気がした。
でも、僕は……。
初めて男の子として自信をもらえたような気が
した夜はあの時と同じに雨が降っていた。
朝、目が覚めるとエマの姿はなく彼女の香りが
ほのかに香る僕の肌に幸せな気持ちになれた。
僕は彼女を…どう思っているのか正直わからな
い。でも僕のマイノリティは変わってはいない
彼女が男の子っぽい人だから興奮したのか、僕
の命の恩人だからか、好きな歌を歌う人だから
か。答えは出なかった。
また、会いたいな。
この気持ちが恋ならば、僕は何から否定して、
何を求めたら良いのかな。
エマ、君ならなんて言うこの気持ち。
エマにとって、僕は数あるファンの中の通りす
がりの人なのだけは理解しているつもり、でも
君といると僕は特別なんだって勇気が湧く。
「いい絵が描けそう」
僕はアトリエに朝日いっぱいの絵を見て微笑ん
だ。
鏡に映る自分がこんな笑いかたをするなんて知
らなかった。
= 過去 =
エマとの交わりから僕は変わった。なぜだ
ろう強くなった。
丁寧に扱われた事によって愛された。と感じ
たからか、僕は人生で一番のモテ期を迎えた。
僕は時々、女性のような服装もするし、化粧
もしてみた、絵画教室の生徒は初めは驚いて
いたものの、女性の生徒は友達のように接し
てくれてご年配の生徒さんとも不思議と距離
が近くなり、〝楽しい〟と思う日々と、男性
からのお誘いも多くなり、全てが循環して周
りの人に感謝する気持ちが芽生えるようにな
っていた。
エマは魔法使いだったのか。エマにはあの日以
来会ってない。
彼女たちは今、ヨーロッパツアーに行っている
僕の好きな人はいつもヨーロッパへ行く。
同じ空の下で昼と夜とが逆転してまるで、僕た
ちみたいだ。
隣合わせで交わることができない。カフェラ
テみたく美味しくなれたら良いのにと入れた
てのカップに口をつける。
僕は生徒が忘れた雑誌をペラペラとめくる
〝トワイライト、エマの壮絶な過去〟と題さ
れた記事だった。
本当と嘘が混じり合う週刊誌はきっと、いつ
も本人の気持ちも言葉も全部無視して面白可
笑しく書きなぐる。
痛いと分かって傷を見てみないふりして、嘘
の共感と確信のない批判をして薄っぺらい同
情をする。誰に向けてのメッセージなのかも
分からない。
僕は雑誌を強く握り怒りに震えた。
誰にだって過去はある。過去が延々に追いかけ
てきて未来の自分を責めるなら、許す事さえで
きなくなって、ずっと頭を下げる。
エマが直接、誰かを殺した訳でも誰かを騙した
訳でも虐めた訳でもない
記事はエマの生い立ちの事から始まる。エマは
〝不幸の象徴〟とも取れる内容だった。
長野県の田舎に生まれたエマは酒乱の父親と、
子育てを放棄した母親、歳の離れた弟との四
人家族。毎日酔っては暴力を振るう父親は刺青
だらけの腕を自慢気に出しパチンコやギャンブ
ルをしてるような人と書かれていた。
母親は家計を支えるために朝から夜まで働き、
顔や腕はいつもアザがついていたという。
エマが9歳の時に父親が心筋梗塞で倒れ命は
取り止めたが障害が残り、母親は生まれたばが
りの弟だけを連れて姿を消したと言う。
エマは今でいうヤングケアラーになり、エマは
友だちの家に入り食料品などを盗むようになっ
たと言う。見兼ねた親戚がエマを引き取り、父
親は施設に入り間も無く死んだという。
中学を卒業したエマは親戚の家を出て、飲食店
に就職した、その職場で三つ年上のリサと出会
った。リサは当時では珍しい、自分の性的マイ
ノリティを隠さずにいた女性であった。
リサの家に遊びに行った時に部屋のギターを触
った事をきっかけにエマはギターに夢中になる。
エマがギターを弾くとリサが歌う。
二人は自然にバンドを組む。
リサの彼女の友達だったリンジーとライブハ
ウスで出会いリンジーの当時のバンドメンバーが
妊娠しボーカルに穴が空いた、そこへリサとエマ
が加入してトワイライトが結成された。
瞬く間に有名になると、エマの元に母親と弟が現
れる、母親は生活費をエマにせびりにきたのだ。
そして、リサが同性愛者反対勢力に殺されると、
母親と弟はまた姿を消したと言う。
しばらくして母親が亡くなりエマと弟が再開する
も弟はゲイだったと言う。
エマは全てを含めて弟と幸せな暮らしを始めた矢
先に弟は自ら命を絶ってしまった。
原因は不明とされる。
そんなエマはただ、静かに音楽活動をしたいと
小さなライブハウスで時々歌い、性的マイノリ
ティに苦しむ人が集う場所、kaeruと言う
ライビハウス兼、バーを開く。
時代が流れ、彼女たちの活動が動画などで海外に
知られると爆発的に支持された。
遂に時代が彼女たちに追いついた。だがしかし彼
女の周りにはいつも不幸と死が付きまとう。
これからも、彼女たちの活躍に注目したい。
と言う内容だった。
この記事がどこまで本当かは分からない、で
も〝彼女の周りにはいつも不幸と死が付きま
とう。〟ってどういう事だろう、全く理解で
きない。
これじゃまるで、エマが死神みたいだ。
本当に優しい人は沢山傷ついた事がある人。
本当に強い人は自分がされて嫌だった事を
決して人にしない人。
エマはこんなに僕や沢山の人に勇気をくれて
いるのに。
最終話 そのままの君




